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今年最後の更新です。それと感想なんですが、更新を再開してから一度も見れてなくて申し訳ありません ((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
感想をくれてくれている皆様申し訳ありません。久しぶりに感想を見るのに、なぜだか勇気がいります。
「勇者から連絡が来たぞ」
魔王は魔王補佐官に通信機を渡すと、装備を着る。装備と言っても接近戦を主にする魔王は鎧などを着込むようなことはしていない。ただ手甲を装備するだけで終わっている。
「斥候を放って海を見張らせましょう」
「人選はエリックお前に任せるよ」
「かしこまりました、魔王様」
既に勇者から連絡が入り、島全体にシールドが三重に敷かれている。このシールドは幾度も人間の進行を防いだ。破られたのも最初のシールドだけなのだ。今回もそれだけだと誰もが思っていた。この前線にいるのは魔王軍の戦士だけでなく、成績優秀で実戦経験を積んでいる学生も立っている。魔王軍も今までの魔王軍とは変わっていた。今まで個人プレーの戦闘が目立ったが、現在はしっかりと訓練され、集団での戦闘が出来るレベルになった。だがその結果フットワークの軽さが無くなったのだった。そこで考えられたのが、学生の参戦だった。魔族の国に新たに学校と言うシステムものが加わったため、下手な兵士よりレベルが高い学生が増えたのだった。これを遊ばせておくことは無く、色々と制約があるがそれをクリアすれば前線で戦うことが出来る。その中にはクミン達の姿もあるのだった。
「私たちの任務は斥候です。敵を見つけても決して戦おうと思わないように、分かりましたね?」
若き魔族の女性、サラサ・ヴィネが部下たち強く言い聞かせる。彼らは影魔法によって、動物・魔族に意識を移して斥候するのが役割だ。これが彼女らの初任務なのだ。斥候部の隊長である彼女も神経質になっていた。それを分かっているので部下も黙って、了解の意を示す。
「では作戦開始、部隊を十人ずつに分けて、八時間交代で海を見張る。敵船を見つけたら知らせなさい」
それぞれ脇に抱えている動物に意識を移すと広大な海へと飛ばしたのだった。目である鳥を一時間近く飛ばすと十隻の船がこちらに接近しているのが目に入る。
「見つけました!」
「距離は?」
「100キロ程度です」
「……到着まで二日程度ですかね……船に対して風は?」
「若干追い風です。船の速度にそこまで影響するほどの風ではありません」
「船の数?」
「13隻です」
「13隻ですか? ……ふむ」
「少ないですね」
前回この国に攻め込んだ時は100隻近くの船が用意された。それの十分の一程度の船で攻め込んでくるとは到底考えられない。サラサが思ったと同じように、副官である魔族の男ガルル・ヴァプラも思ったようである。
「13隻の船の戦力でこの国に攻め込む気ですかね」
ガルルが面白そうに呟くと、サラサが冷たい目で睨む。
「どこかに船が隠れているかもしれな。探索範囲を伸ばしましょう。お互いに十キロずつ離れて、穴が無いように捜しなさい」
「了解」
だがそうやって探しても船が一隻も見つかることは無かった。
「見つかりませんね」
「……そうね、取り敢えずその13隻の船を監視して、何か動きがあったら教えなさい。それと魔王様への船の数、到着予測時間、あたりに船影がほかに無いことを伝えなさい」
手が空いている部下にそう言うと、サラサは机に地図を広げて島一体の海域を見つめる。
「あなたはどう思う?」
「そうですね、船がどこかに隠れていることを考えますね。流石に13隻だけの船攻め込んでくるほど人間が馬鹿では無いことは確かだと思います」
ガルルはサラサの向かいの席に座り、地図を見つめる。この海域で船が隠れる場所があるかどうかを探す。
「しかし、ここら辺で隠れられる小島などがあるとは思えないです。あるとすれば島の裏から侵入ですかね?」
「でも魔族の私たちですら命の危険が伴う魔物がいるような所です。そんなことをすれば部隊は壊滅して、まともに戦闘出来るわけがないと思います」
ガルルが指先で、『コンコン』と島の裏側叩く。
(ここから侵入されたとは考えたくはないが、待機している斥候を出してみるか。時間にして30分程度だ。それと魔王様にも連絡をすれば良いか……)
「待機している斥候を出しましょう。時間は30分程度、それと魔王様にも伝えていきましょう」
「そうね、人選はあなたに任せるわ」
「隊長は?」
「影回線を作るわ、万一島の裏の地面の中に潜まれたら、見つけることなんて出来ないだろうしね」
そう言うとサラサは地面に直接座り、地面に手のひらを付ける。するとサラサの影が手のひらから地面に染み込み、地面にいる生物から生物へと意識を移動させる。その意識が島の裏側に届くと、そこから意識を分割し、意識を残したまま島の裏側まで一気に広がる。その時間わずか五分程度。何千何百の生き物と感覚を共有する地面内部に妙な空洞や、地上にいつもと違う生き物がいると言う情報は得られなかった。影回線とは多数の生物と感覚を共有することが出来る。他の魔族が使っている意識を飛ばす影魔法と違って、意識を飛ばしていないので、生き物を操ることが出来ないが、広範囲で捜索することができる。これによって、隠れているものなどをすぐに見つけることが出来る。感覚は共有出来るが、情報量の問題で視界を共有することが出来ない。生物が得られる情報のほとんどが視覚であり、一度に視覚を得ると脳がパンクしてしまうのだった。そのため基本的にこの魔法は地面に潜んでいる生き物を使っている。この魔法でカバー出来るのは地下と地上だけなので、空中に浮かれていたりすると発見することが出来ないのが欠点だ。
「潜んでいる人間はいなかったよ」
深い溜息と共に額の汗を拭う部隊長。彼女の脳はゆでダコ寸前だった。
「お疲れ様です、これ」
ガルルが渡したのは冷たく冷えたおしぼりだった。部下への指示を出し、魔王様への報告も終えて帰りに魔法でタオルを濡らし、冷やして持ってきてくれたのだった。
「ああ、ありがとう」
サラサが頭にタオルを当てると、シュ~と言う水が蒸発する音がする。一通り額に乗せたタオルを広げて両目に当てて、顔を一通り拭く。
「魔王様から何か指示はあった?」
「いえ、警戒することと以外、特に支持はありませんでした」
ガルルはそう言うと自らも椅子に座る。ガルルは再び見落としがないか考えるが、特に思いつかず、結局部下の様子を見て回ることにしたのだった。
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「遅かったな」
勇者が部屋で寝ている窓から影から入ってきたのが分かった。
「首尾はどうでござる?」
「上手く出来たよ、教会の頭が逃げたが、それ以外は基本的に確保出来た。聖騎士団が見当たらないのが問題になっている」
「そうか……向こうはどうなっているでござる?」
勇者からの情報からララノアは、聖騎士団がやはり所在が掴めないことが非常に気になっていた。魔族の国にもこちらで調べた通り、船は十隻しか無かった。それではいくら何でも戦争するには戦力が足りないと考える。隠れた戦力をどこかに隠していると考えていた。
「そっちはどうなんだ?」
「聖騎士団の行方は掴めていないでござる」
「特に目新し情報は無かったな。……漁師の間で怪談話が増えたぐらいだな。何でも深夜に海岸から集団で海に飛び込み、その姿を他の物に話すと呪い殺されるらしい」
「くだらないでござる」
勇者の発言を一蹴すると、そのまま勇者の影の中に身を潜めた。一日中動き回っていたので、ララノアの体は休息を必要としていた。ララノアはしばらくの間勇者の影で眠りにつくことにした、ここで無理をしても意味がないと考えたのだった。




