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「これはどういう事でござる?」
ララノアは生き残っていた諜報員の情報をかき集めた。生き残っていた諜報員のほとんどは教会の中枢から離れた人間だった。そのため碌な情報が手に入らなかったが、教会が連日港で作業をしていたと言うことだった。その中には食料から武器まで積み込んでいたと言う。そしてその船はつい先日出航したと言うらしい。らしいと言うのも船を出航したのを見たと言う話が無かったのだ。船は夜中のうちに出航したのだろうとララノアは結論づけたのだが、それにしてもあった船は十隻だと聞かされている。十隻程度の戦力で魔王の国が負けるとは思えない。
「何か胸騒ぎがするでござる」
ララノアは自分が何かを見落としているのではないかと、必死に情報を頭の中でこねくり回した。
(教会が魔族の国に攻め込もうとしているのは確かでござる。その準備もしていたのは確かなのでござる。しかし、船には食料と武器しか積まれていなかったでござる。では兵士はどこにいったのでござる)
他の場所から船を出すことが可能性は確かにある。だがララノアはすぐにその考えを消した。そんなことをすれば目立つ。ララノアのような情報網が無くても、すぐに気づくだろう。
「情報が足らないでござる」
ララノアはこれほど情報を求めたことはなかった。大抵ララノアが欲しい情報は大抵入手することが出来たが、大半の内通者が殺されたため、情報が入ってこない。入ってこないのであれば自分で探すしかない。ララノアは知っている人間を探して街を飛び回った。
(ダメでござる、ロクな情報は無かったでござる)
ララノアは教会内部に入り情報を収集したが、特に目立った情報を仕入れることが出来なかった。だが教会内部の人間が減っていることは確かだった。それは教会の人間が戦争に出て行っていることを意味している。
だが出ている人間がどこに行ったのかの情報が無かった。
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「今日、余がそなたたちを呼んだのは他でもない」
謁見の間で王が玉座に座り、教会の人間を二人呼び出していた。ここに姿を出しているのは教会の中でも、地位が高くない人間だった。王としてはこの二人が、質問を返せる権限を持っているは到底思えなかった。たぶん質問を持ち帰り、後日返答することを考えているのだろう。
「勇者から面白い情報を聞いたがな」
「何でしょう?」
「教会から暗殺されそうになったと言う話だ」
謁見の間に動揺の波が広がる。王が根回しをしていた人間以外だ。王としてはこの話が教会に漏れるのを恐れて、信用できる人間にだけ話しておいたのだった。
「わ、我々はそのような命令について知りません」
「ほお、なら俺が嘘をついていると言うのか?」
教会の使者として思わず否定しまった。そこに出てきたのが勇者だった。ここで出てくるのは王との打ち合わせで決まっていた。勇者は意気揚々出ていき再度尋ねた。
「それは……」
これが平民なら『そうだ、貴様が嘘をついている』と言って自分たちは悪くないと言うスタンスを取れただろう。しかし、相手は勇者そう軽々しくそう言うことを言える訳もなく。
「それは何かの勘違いであります」
誤魔化すことしか出来なかった。王様はその言葉を聞いて、心の中で笑みを浮かべた。思い通りの言葉を吐いてくれたのだがら。
「なので一度教会にー「なら、その勘違いを正さなければならないな」え?」
王は教会の使者の言葉を遮ると、近くにいた兵士になにか告げた。告げられた兵士は駆け足で謁見の間を出て行った。
「そうです、勘違いなのです。今すぐ誤解を解かなければー」
教会の人間は愛想笑いを浮かべながら、誤解を解こうと口を開いたが、王は右手を上げて口を閉ざさした。
「良い、心配するな。誤解は直ぐにでも解けるだろう」
「それは……」
「今、教会に人を遣わした」
王様の言葉の意味に気づくと教会の人間は顔を青くした。
「何心配するな、そなたらにやましいことながなければ問題なく終わるだろう。それともなにかやましいことでも?」
「それは……」
この世の中やましいことをしていない団体の方が少ないだろう。教会は勇者の暗殺が表に出なくても、教会は大打撃を受けるだろう。しかし、今ここで弁明してもすでに王族の手のものが教会で証拠を探しているだろう。教会の人間はすでに手遅れだということに気がついた。いつもなら教会も騎士がいるので、強攻策を使えないのだが、生憎今は出払っている。協会にとって最悪のタイミングだ。
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「これで全部か?」
「はい、隊長」
部下を総動員して、教会内を走らせて書類という書類を回収させた。王族は年々教会の権威が強まっているので、それを削ぎたいと思っているのは知っていた。どう言った理由か分からないが、教会を調査する名目が出来たようだった。その理由は自分の上司部隊長クラスが知っていることなのだが、隊長としてはそれに対して興味も沸かなかった。部下が持ってきた書類に目を通すと、寄付と言う名目で教会に入ったお金を司祭が横領している証拠だ。真面目に仕事をしている司祭もいるが、基本的そう言った司祭は田舎や小さな街にいることが多い。この王都にくるような司祭は賄賂によって、来ている司祭がほとんどなのだ。賄賂なしで実力で上がってくることの方が珍しい。騎士団の中でも賄賂で入ってくる人間もいるが、兵隊なら実力ななければ訓練についていけず、すぐにいなくなる。部隊長クラスなら基本的指揮をするので、いなくなることは少ないが、大きな失敗をすれば追求は免れない。
「伝令であります! 隊長をお願いします」
馬に乗った兵士が叫びながら近づいてきた。隊長は持っていた書類を部下に渡して、早足で近づく。
「何かあったのか? 」
「部隊長からの伝令です。現在調査している教会が終了したら帰還するようにとのことです」
「了解、確かに伝令は受け取った」
「では私は次の場所がありますので」
伝令係はそう言うと馬を転進させて、次の場所へと馬を走らせていった。隊長は伝令係が過ぎ去ると、教会の中に向かって大声で叫んだ。
「ここが終わったら帰るぞ!」
「了解!」
叫んだ後、部下が新たに見つけた資料を隊長に渡した。
「どう言うことでしょうね?」
「お目当ての不正の証拠を見つけたのだろう。俺たちもさっさと調べて帰るぞ。余り遅いと部隊長にどやされそうだ」
「それもそうですね」
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「余は訪ねておるのだ、これは何だ? 貴様達の買った食料、これはまるで戦争に行くようではないか?」
王の問いかけに司祭は全員口をつぐんで下を向いている。すでに全員手を縛られ拘束されている。王の手には書類の一部、王の横には今までの教会の不正の証拠である書類がビルの用に並べ立てられている。今までの教会の醜悪の一部。
「まあ、良い。今は話さなくても良い。すぐに話したくなるようにしてやる」
王がそう言うと兵士が司祭たちを地下の牢屋へと連れて行った。一晩牢屋で過ごさせ、その後拷問によって口を割らすことになるだろう。
「クラフト様、連絡は?」
「もう既に分かったことは魔王に伝えた。ララノアとは連絡がつかない」
勇者は小声でナックの質問に答える。魔王には既に船が出ていることを連絡した。だがララノアとの連絡手段を持っていなかった。ララノアは戻ってくるとは言っていたが、全然戻ってくる気配が無かった。魔王に連絡した結果国として戦闘体制になったと言っていた。




