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(勇者は出て行ったのか……)


シロウは大木から勇者たちが船に乗って出航していくのを眺めていた。クリスとクミンの戦いはクミンの勝利で終わったようだが、クリスの顔は思っていたより、曇ってはいなかった。帰り際に『オズワルド、あなたを必ず迎えに行きますから、それまで待っていてください』と言っていた。クリスはまだシロウを連れ帰ることを諦めていなかった。


(当分の間は静かに過ごせるだろう)


勇者がきてからと言うものシロウは昼寝をしているところをたたき起こされたり、クリスとクミンの決闘の立会を求められたりと、色々と忙しくて夜しか寝れなかった。大木の上で丸くなるとシロウは久しぶりに昼寝を満喫したのだった。





「アリストラ・グラウンとの連絡が途絶えたか」

「はい……すでに一ヶ月以上連絡が届いておりません」


薄暗い部屋に二人の男性が会話をしていた。片方の男性は暗がりで顔が見えないが、片方の男の顔は月光によって、照らされていた。その男の名はグリード・ソルジュ。かつてエルフの国を襲い、シロウに返り討ちにされた男だった。竜の血によって髪は真っ黒になっていたが、確かにグリード・ソルジュだった。


「ならば勇者の暗殺が露見した可能性があるな」


男は唸るような声を出す。正直それで暴露されれば教会は大きな痛手を負う。


「可能性があるなら、計画を早めてはいかかでしょうか? 」


グリードがそう提案する。自分たちの計画が成功すれば、少なくても魔王が収めている国、シャルド国の領土が手に入る。それだけでなく、魔王の首まで手に入るかも知れない。そうすれば魔王の首を取ったと言う功績を盾に、勇者の暗殺を誤魔化すことにも出来るだろう。最悪湯者は裏切って魔王に加担していることにすることも出来る。なにせ魔王の首を取っていないのだから。


「そうなると時間の問題になる……」


勇者が戻ってくる前に計画を始めてしまえば、どうとでもなるだろう。


「うむ……では計画を始めてくれ、聖剣部隊の連絡は君に任せるよ」

「了解しました」


短く返事をするとグリードは早々に部屋を出た。魔族の国・シャルド国には船で行くのだが、船の準備には一週間ほどかかる。今は時間との勝負なので早く行動したほうが良い。


「ガドルにも連絡しなければいけないな」


グリードは聖剣部隊の隊長の名前を呟きながら、廊下を早足で歩くのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふん!」


そんな掛け声と共に重りをつけた剣を振るう男がいる。男が振っている剣は訓練用に重くしてある剣に更に重りを追加した剣だ。それを軽々と振り回している。額の汗と顔には軽く運動をしているようにしか見えない。


「ガドル!」

「おお、グリードじゃないか!」


久々に友人にあえてガドルは嬉しそうに声を上げる。ガドルは剣を肩に担ぐとグリードに近づいてくる。


「相変わらず訓練か……」

「ああ、どうだ、この筋肉」


ガドルがそう言うと腕の筋肉を見せる。その筋肉は今までの鍛錬の過酷さを表すように太かった。


「筋肉は素晴らしいと思うんだが……」

「だが?」

「君の過酷な訓練に部下を付き合わせのは、どうかと思うぞ」


ガドルの周りにはガドルと同じように訓練をして地面に座り込んでいる人間が大勢いた。ガドルの訓練に付き合っているのだが、ガドルが行っていた訓練は普通の兵士に付き合えるほど化物じみた兵士はいないのだった。


「これでも俺より重りを軽くしているんだがな~」


ガドルは頭をかきながら軽く持っている剣を振る。この男なまじ部下から人気があり、慕われていることもあって、部下が訓練に付き合う部下が多いのだ。ガドルが訓練を続けているので部下も訓練をやめられずに、そのまま倒れるまで訓練を続けてしまうのだった。そこまで部下に好かれるのだが、女に好かれたことがないのが、この教会の七不思議の一つとして語られている。


「それより準備しろ、出陣だ」

「分かった。聖剣部隊の準備をしてくる」


グリードの言葉に表情を引き締める。この男にとってこれほど待ちわびた言葉は無いだろう。この男は魔族との戦いをこの上なく所望していたのだから。


「私は船の準備をします。船の準備が一週間ほどかかります。その間に兵糧の準備を」

「おう!」


お互いに必要なことだけ話すと行動に移したのだった。グリードは時間が無いこと、ガドルは魔族と戦いたためにすぐに行動したのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やっとついたな」


勇者は感慨深そうに呟く。船に揺られることに二ヶ月、ここまで来るのは長かった。船が陸地についてから、勇者が王に伝えたいことがあると連絡すると、王との謁見はすぐに認められた。


「良いか、いざとなったら……」


勇者はそう言って隠し持っているナイフに触れる。魔族の話だと教会と結託はしてないとは言え、魔族の報告をそのまま信じるのは危険と言う話になったのだ。王城に入ると武器を回収された。敵の中枢に入ると思うと隠し持っているナイフだけでは非常に心細かった。だが心細かろうが、王城に入るとすぐに謁見の間に案内された。


「勇者様のご帰還!」


その声と共に謁見の間の扉が開かれる。扉が開いて王と貴族たちが出迎えてくれた。


「よくぞ、無事に帰った勇者たち。して勇者よ、聞かせたい話があると聞いたがどのような話だ」


(ここで話すのか………人目を避けたほうが良い)


「陛下すいませんが、人払いをお願いします」

「……皆の者下がれ」


王様の言葉にその場にいた全員が謁見の間から退出し、謁見の間に残ったのは王と勇者たちだけになった。

勇者はこれまでの経緯を全て話した。魔王の城に行き、そこで教会の巫女に裏切られ、殺されそうになったことを伝えた。流石に本の内容を伝えるのは流石にやめた。下手に伝えると厄介なことになるのは避けられない。今ここでゴタゴタするのは避けたい。


「ふむ……」


王様はそれだけ言うとしばらくの間静寂が訪れる。勇者たちにはその沈黙が恐ろしく重くのしかかっていた。勇者たちはいつでも逃げ出せるように、隠し持っているナイフを服の上から撫でた。


「勇者よ、そなたが言っていることを信用しよう」

「それでは!」

「しかしな、そのような行動にも準備が必要だ。ひと晩待ってくれ」

「陛下一晩ですか……」

「そうだ、そなたらには長い一晩になるのは分かっているが、堪えてくれ」

「……そうですね、急いては事を仕損ずるとも言います。一晩待ちましょう。ですが必ず」

「わかっておる」


勇者達が謁見の間に出ると、王様はクツクツと小さく笑い声が響く。


「教会め、ついに尻尾を見せたな」


今まで教会が裏でこそこそとやっていることは周知の事実だ。しかし、教会はなかなか尻尾を掴ませない。最近になって行動が慌ただしくなったが、だからといって決定的な証拠があるわけでは無かった。しかし、勇者暗殺指令と言う尻尾を掴んだ。これを機に教会が隠していることを全部暴いてやろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「でお前はどうするんだ?」


謁見の間から出ると勇者が自分の影に話しかける。


「拙者は内通者とあってくるでござる」


勇者の影から漏れ出た声は、ララノアだ。ララノアは影魔法によって、勇者の影に身を隠していたのだった。勇者の影をよく見れば、他の人の影より勇者の影は濃いのだが、誰も気がつかないだろう。


「そうか、俺たちは一晩ここで過ごすことになるだろう」

「分かったでござる、こちらは夜に報告に来るでござる」


そう言うとララノアは勇者の影から出て、影から影へと移動し姿を消していった。


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