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「でそろそろ私に返して欲しいんですけど」

「いつからオズワルドがあなたの飼い猫になったの?」

「それは私から食べ物を食べるようになってから……と言うか、オズワルドなんてダサい名前」

「シロウなんて安直な名前を付けないだけましよ」

「何よ、居候の癖に」


クリスとクミンがシロウを取り合っているのを尻目に、ご本人はその場から逃げ出していた。シロウとしてはこの後の展開として、シロウ自身に決めさせるとか言い出しかねないからだ。勇者は女神に会えるようになってから数日間、ずっと女神の所に篭りっぱなしだった。アクアは図書館にこもって情報を色々と集めている。今後自分がどのように行動すれば良いか、考えるために。クシアはエルフの村にシロウの無事と現状を伝え、今後のことを相談したいことを村長に手紙を送ったそうだ。サムイとナックは毎日組手をして己のレベルを上げる事に専念している。人類の敵になるとしても魔王の敵になるとしても戦闘は避けられない。一方魔王はー


「ズズズ」


優雅にお茶を飲んでいる。服装もいつもよりラフな格好で休日のお父さんのような格好をしている。魔王は魔王を引退して、ザイード・アスモデウスが魔王の座を引き継いだのだった。魔王の引退の決め手になったのが、戦闘能力の欠落。今でも魔王の腕にはステータスを下げる腕輪がついている。それを外そうとマールが方法を探しているが、今のところ見つかる様子はなかった。世界始まって以来の引退した魔王が生まれた。今のエリック・ルシファーの肩書きは一応魔王補佐官となっている。初めての引退した魔王なので、前例がなくて扱いに困っているのだ。エリックは一週間ほど休暇をとって戦いで疲労した精神を癒している所だ。シロウのこれからどうするのかと聞くとー


「僕も久しぶりの休日だ。ゆっくりと家で過ごすことにするよ。肩の荷も降りたことだしね」

「そうか……と言うか口調変わりすぎだろ……」

「今までは魔王だったからね、威厳がある喋る方が必要だったから」


その時シロウが魔王の変貌っぷりに驚きを禁じ得なかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「このままじゃまずいでござる」


月明かりもない人間の街を一人魔族が屋根と屋根の間を飛んでいる。彼の名はララノア・ベルフェゴール。人間の町での諜報活動の頭と共に魔王の国の側近をやっている魔族だ。彼の活動は主に情報収集だ。人間などの弱みや人間に化けて情報を集めている。彼は今さっきまで教会の本部に入り込ませていた諜報員と接触をしていたのだが、その諜報員が尾行されていたのだった。そこを教会の人間に襲撃された。当初聖騎士相手なら適当な幻術を見せて、その場から離脱すればいいとララノアは考えていたのだが、どうやら聖騎士とか格が違うらしく、ララノアが作り出した幻術を消し飛ばし、すぐそこまで迫ってきていた。すでに教会に潜ませていた諜報員はすでに殺されていた。いくつか幻術を見せて自分を斬らせたのだが、手応えが無いと分かるとすぐにララノアを見つけて追いかけてくる。


「それに段々と道がない所に追い詰められているでござる」


ララノアは自分が街の端、逃げ道を無くされ追い詰められていることに気がついていた。一応ここの街の構造を暗記しているが、裏道すべてを暗記している訳ではなかった。だが今戦っている聖騎士はナイフを投げて、逃げ道を塞いでくる。このままじゃ近いうちに袋小路に追い詰められるだろう。


「くっでござる」


ララノアが予想した通り、袋小路に追い詰められ、真正面からの戦闘になる。ララノアとしては出来るだけ避けたかった。ここで戦闘をしている間に次々と敵に来られるのを避けたかったからだ。


「追い詰めた」


ララノアの背中に壁を付けることになった。正面には鎧で身を包んだ人間だ。右肩にはアーマープレートがあるが、左肩にはアーマープレートをついていない。顔は鎧で見えなかったが、声の調子からそこまで疲れてはいないようだった。ララノアが鎧の隙間を狙ってナイフを投げるが、事も無げにナイフを剣で弾く。ララノアはそれと同時に炎の魔法と水の魔法を複合させて、水蒸気であたりを真っ白に染めた。ララノアは幻術をつくり、聖騎士へと突っ込ませた。聖騎士は幻術を切り裂いて手応えがないとすぐに気配を頼りにララノアを探した。それが悪かった。ララノアは幻影を突っ込ませると同時にナイフを投げて、聖騎士の鎧がついていない左肩に刺さった。聖騎士は一緒苦悶の声を上げたが、自分の横を影が横切ろうとしたので、剣を振るった。聖騎士は自分の剣に肉を切った感触が伝わると同時に赤い血が、自分の鎧と辺りを真っ赤に染めたのが分かった。影は切られてもそのまま袋小路を抜けて、聖騎士の横を抜けていった。


「逃げられたか?」


聖騎士はあたりの水蒸気を風で飛ばすと、地面を真っ赤に染めている血に触れて、指先についた血の匂いを嗅ぐ。


「幻術では無いな」


聖騎士は切った幻術を見せられたのではないかと疑い、血の匂いを嗅いだのだった。聖騎士の鼻には血液独特の鉄臭い匂いが刺さった。聖騎士は自分の横を通った影が本物だと考え、その場を後にして、影が走っていった方向に向けて走っていった。


「危なかったでござる」


ララノア幻術によって血に濡れた壁から姿を現しながら、その場に座り込んだ。ララノアの肩には切り傷があり、そこから血が流れ出していた。ララノアは横を通り過ぎるとき自分が作った幻術と一緒に飛び込んで、別々に逃げようと考えたが、そこを切られてしまい。ララノアは逃げることをやめ、幻術だけ行かせてララノアは隠れていたのだった。ララノアは応急手当をすると、その場からすぐに移動したのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ただいま」

「あ、勇者が帰ってきた」


クミンとマリアでシロウのお腹をブラッシングして、クリスが頭を撫でている時に魔王に連れられて勇者が帰ってきたのだった。勇者はシロウを軽く睨むように見るが、シロウがそれに対して、気にせず無邪気にニャーと鳴いて挨拶を返した。


「いい身分だな、お前」

「にゃぁ?」

「本来ならお前がなるべきものだったらしな、勇者」

「え、どういう事?」


クリスがシロウの頭を撫でながら声を上げた。シロウは勇者の言葉を気にせず、お腹まで向けてブラッシングをしてもらう。


「こいつが元々勇者になる予定だっただけど、猫になったから、俺がこの世界に呼ばれたんだとさ」

「ふ~ん、すごいんだ、オズワルド」

「流石魔王の娘のペット」


クリスとクミンが無言でにらみ合う。シロウはその瞬間その場から脱兎のごとく逃げ出し、すでに窓から外に飛び出していた。


「……喧嘩売ってんの?」

「怖かったら買わなくて良いわよ」


クミンの言葉が引き金になって、二人は窓から飛び出し、そのまま外で戦いを始めた。外では金属と金属がぶつかり合う音が外で響く。


「動じないんだな……」

「なれた、あの二人は水と油」


マリアは何事もないように言うと、シロウをブラッシングしていたブラシを洗い始めた。


「それにあの二人は本気で殺し合ってるわけじゃないし」

「そうなのか?」

「本気で殺し合ってたら、この家が無くなっている」


マリアはブラシがしっかり洗えたかを確認すると、棚に置いた。


「他のやつらがどこにいるか知ってるか?」

「エルフの男の子はショッピング、人間の男二人は鍛錬」

「ショッピング……?」


勇者はこの島に栄えている街があることを知らないので、ショッピングなんて言う言葉が出てくることに戸惑いを隠せなかった。


「あなたたちが見たのは表側の魔王の国、本当はもっとおしゃれな街」

「そうか……」

「あなたも出かけてみたら、他の人は出かけたみたいだったからだ」

「魔王補佐官は?」

「仕事、マリアは帰る」


マリアはそれだけ言うと家に勇者を残して、家と帰っていった。そこに魔王補佐官と魔王が現れたのだった。


「勇者戻ってきたのか」

「勇者、他の人間を集めてくれ。話がある」

「何かあったのか?」

「あった、話があるから全員集めてくれ」


この話が更なる波乱を呼ぶことになるのだった



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