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「慣れれば大したことはないわね」


クミンはそう言うと近づいてくるラビットドラゴンに一撃与えようと剣を振る。その大剣は当たることはないものの、十分牽制になっていた。


「まあ、攻撃を仕掛けてくる奴が分かればそこまで問題は無いね」


アリサの矢が言葉と共に番えられる。アリサの矢は段々とラビットドラゴンの動きを捉えて、既に2匹のラビットドラゴンが地面に落とされていた。


「うん」


既にマリアの助言はなくなっていた。ラビットドラゴンは攻撃を仕掛けてくる以外が周りを飛び回り、それに気を取られたところに攻撃を仕掛けてくるのだ。それが分かればあとは楽だ。気を取られたふりをして、攻撃を誘い、それに乗って攻撃をしてきた所を返り討ちにする。それだけなのだが。言うだけなら簡単である。現に今攻撃してきたラビットドラゴンを退けただけで、倒してはいないのだから。


「そろそろ私は魔力が貯まりますわね」

「私はまだかな」

「マリアもまだ」


ラビットドラゴンを三人で一掃出来るだけの魔力が溜まったのはマリアだけだった。またマリアの魔力を使い切ればラビットドラゴンは一掃できるであろうが、それは危険なので三人の魔力が貯まるまで待っていた。


その時、爆音と共に魔王城の屋根が吹き飛ぶ音が耳に届く。別に戦闘音が聞こえることには同様はしなかっただろう。屋根と一緒に魔王の武器である杖が飛んでいる所を見なかったら。


「嘘でしょう……」

「お父様!?」

「危ない!!」


屋根が吹き飛んだ爆音、魔王が持っていた武器に目を取られていたクミンに向かってラビットドラゴンが襲いかかってきたのだった。マリアは無理やり体をクミンにぶつけて、クミンをラビットからの攻撃から救った。クミンはその衝撃でラビットドラゴンの包囲網から抜け出たのだった。


「行ってクミンちゃん! 」

「分かったわ」


クミンが一瞬迷って動けないでいるのを見て、アリサは叫び声と共に包囲網を破ったクミンに襲いかかるラビットドラゴンを弓矢で射抜いた。クミンはアリサの顔を見て頷くと、そのまま魔王城まで飛んでいってしまった。それを見て顔を真っ青にしたのが……


(まずい! まずい! まずいぃ~~~~!)


心の中で叫んでいるシロウだった。この場でクミンが釘付けになっていれば問題ないと考えて、手を出さないでいたのだが、一番行ってはいけないクミンが魔王城に向かって行ってしまった。


(俺だけでも先に行くかな……)


そう思ってマールクスから飛び出した。


『ガシッ!!』

「ニャァ?!(え?!)」


飛び出している空中でシロウの動きが止まった。ラビットドラゴンの包囲網を抜ける途中でラビットドラゴンの足に捕まえられていた。手足をばたつかせても、掴まれている場所が胴体のためいくら動かせても逃げられない。猫の咆哮を食らわせようとしても、首を真後ろまでは向けられないで攻撃を当てられない。そんなことをしている間に俺は、その場からどんどん遠ざかっていく。


「ニャアアア!!(うそだろう、おい!)」


他の人間はシロウがいなくなったことに気が付いてはいなかった。数匹のラビットドラゴンはシロウを取り合うようにしながら離れていく。シロウの鳴き声も戦闘の音で掻き消えてしまった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ハァハァ」

「これで最後だ、魔王」


魔王城の中で激しい戦闘が行われていた。既にこの勇者パーティーの主力である元盗賊であるサムイ、貴族の回復剣士クリス・ミーン、貴族の護衛をしていたナック、エルフの魔法剣士クシア・クルジスは既に魔王とまともに戦う力は残っていなかった。立っているのは勇者のクラフトと回復役のアクア・トレント、パーティーのバフを掛けるアリストラ・グランだけである。その中の二人も既に魔力がほとんど尽きている。

魔王も無傷ではない、持っていた武器は腕と共に斬り飛ばされ、既に片手だけでの戦闘になっていた。徒手空拳と魔法を駆使して、戦ってはいたが武器と攻撃の手数が減ったことで追い詰められていた。


(これで我の役割も終わりか……)


魔王は、壊れた背もたれだけになっているなっている椅子に背中を預ける。


「何してんのよ、あんたー!」


そんな大音量の声と共に天井に空いた穴から魔王と勇者の間に一つの影が降り立った。勇者に向けては大剣が振り下ろされ、勇者は咄嗟に後ろに下がる。


「あんた勇者ね!」


クミンはそう叫ぶと体ごと大剣をぶつけて鍔迫り合いに移行する。咄嗟の攻撃とは言え勇者と呼ばれるだけあって、攻撃を受け流していく。しかし、魔王との戦闘で体がボロボロだった。だがそれはクミンにも言えたことだった。ここまで来るのに魔物と戦闘をしてきたのだが、急ぐ余りオーバーキルをしすぎて魔力がほとんどなくなっていた。


「アリス!」

「追加行きます!」


だが勇者は別に一人で戦っている訳でいなかった。アリストラの掛け声と共に身体能力が上がるバフが追加で掛けられた。いままで拮抗していた力が崩れて、クミンの体が吹っ飛ばされた。


「クミンちゃん!」

「まずい」


そこに到着したのはアリサとマリア、それとフィーユとマールクスだった。


「あのクソ猫何をやっているんだっ」


「追いついたぁーー!」


それに答えるように服がボロボロの人型のシロウが到着したのだった。


「グアッ!」


だが登場した時魔王城の壁をぶち破ったのだが、その壁の一部が魔王へと向かって飛んで行き、魔王の頭に直撃したのだった。魔王は背中を床につけたのだった。


「ま、魔王、既に手遅ー」

「いまお前が俺にトドメを差しかけたんだよ!」

「何だ、生きてんじゃん」


魔王は起き上がると頭を抑えながら起き上がる。


「貴様、オズワルドか!」


シロウの姿を初めて見て、反応したのは勇者だった。勇者はオズワルドとの出会いを思い出し剣を向ける。


「オズワルド!?」


オズワルドと言う名前に反応して、クリスが喜びに満ちた顔をシロウに向ける。クリスの旅の目的が目の前に現れたのだった。


「オズ、え? えっと、アルさん?」


クシアは生死不明になっていた恩人である。その恩人を探すために勇者パーティーに参加していた。その声には喜びよりも戸惑いが多く含まれていた。


その他の人間はそれぞれの反応に戸惑い困惑していた。


「えっと、お知り合いですか?」


それぞれの困惑によって止まった時間を再開させるように、アクアが尋ねた。


「敵だ」

「私の飼い猫」

「恩人です」


敵意1に好意2の返事に周りは更に混乱するのだった。


「魔族の味方をしているなら敵だ!」


その混乱に決着をつけるように勇者は剣を突き刺そうとするが、その剣はクリスの剣が受け止める。


「邪魔だ、クリスそいつは魔族の味方だぞ!」

「例えそうだとしても私はオズワルドを守るわ、クラフト」

「ちょっと待って、僕たちの目的は魔王を倒すことですよ、内輪揉めしている場合じゃないんですよ! クラフトさん、クミンさん。他の人も止めてください」


二人の敵意と決意がぶつかり合う中、クシアが仲裁に入り、ほかの人間にも助けを求めた。


「あ、ああ。勇者のダンナ少し落ち着いてください!」

「クラフト様、落ち着いてください、ここで争うなんて自殺行為です!」


サムイとナックが止めに入るが……


「おお、そうだぞ。俺と戦おうなんて自殺行為だぞ」

「何だと、クソ野郎!?」

「煽らないでください、アルさん! 二人共剣を収めてください!」


シロウが余計な茶々を入れたせいで、勇者の頭に血が上り、口汚くシロウを罵る。クシアはクラフトとクミンの二人に剣を収めるように必死に説得する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「二人共、落ち着きましたか?」

「ああ」

「うん」


クラフトとクミンは取り敢えず鍔迫り合いをやめたが、剣は鞘に収めることはしなかった。クラフトはシロウ以外にも魔王がいるのだ、剣を収めることをしなかった。クミンはそんなクラフトを見て、シロウを守るために剣を構えている。


「俺達の目的は魔王を殺すことだぞ」

「別に私もそれに異存はないけど、オズワルドを殺すなら話は別」

「魔王の味方をするなら敵だ」

「オズワルドを傷つけようとするなら、私は敵になる」


結局また剣をぶつけ合いそうになっているのをクシアが宥めていた。一方魔王サイドはー


「クソ猫、どうしてクミンがここにいる!」

「俺だって別に連れてきたかった訳じゃない!」

「頼んだだろ!」

「仕方ないだろう、こっちはこっちでラビットドラゴンに連れ攫われそうになっていたんだよ!」


こちらもことらで人型のシロウと魔王が口論をしていたが、途中でシロウは何か思い出したような顔をして、アイテムボックスに手を突っ込み一冊の本を取り出すと勇者の方に放り投げた。勇者は常に攻撃されてもいいように、こちらの様子を伺っていたので本を難なくキャッチした。


「何だこれは?」

「魔王を倒した時に貰えるボーナス商品だ。今読め」


勇者はシロウの言葉を訝しみながらも、本を開いて文字に目を走らせた。シロウが渡したのはかつて教会の禁書庫で眠っていた本だった。



「これは……おい、ちょっとみんなこれを見てくれ!」


勇者の危機迫った声で勇者パーティー全員が集まった。勇者は本の重要な所を見せていく。









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