158 薬ができるまで
シロウに鎮静剤を打ち込んで、一時間しない内に騒ぎが起きたのだった。
「シロウ殿正気に!」
アアアアアア!
正気を失ったシロウがマールに襲いかかってきた。いくらか魔法陣で拘束しようと鎖を出現させたが、それで拘束することが出来ず。マールは床に押し倒され、シロウに服をむしり取られ、肌がはだける。マール咄嗟のことで隠すこともその拘束から逃れること事も出来ない。
「シロウ殿!」
マリアはシロウに必死に声をかけて、正気に戻そうとする。その時シロウの頭に鉄拳が飛んでくる。シロウの体が壁に叩きつけられる。
「ザイード殿?!」
「大丈夫か、マール!」
騒ぎを聞きつけたザイードがマールの部屋に無理やり入ってきたのだった。ザイードはシロウに起きた異変を知らなくて混乱していた。シロウがマールを襲っている事態に戸惑った。だから直ぐにシロウに追撃はしなかった。
「私は一応大丈夫だ」
マールは直ぐに立ち上がり、ザイードの背中に隠れる。ザイードはマールの前に一歩出て、腕を構える。シロウは未だに壁に叩きつけられたダメージから立ち直ってはいなかった。
「シロウに一体何があったんだ?」
「それを詳しく調べている所なんだけど……」
シロウがうめき声を上げて起き上がる、二人は会話をやめて、シロウの様子を注意深く見る。また襲って来るようなら直ぐに対応できるようにだ。だが先ほどのザイードの鉄拳でシロウは正気に戻ったようで、痛みに耐えるような声を上げる。それは良く耳を傾けなければただのうめき声にしか聞こえないものだった。
「ま、マール」
「は、はい」
「俺は少しの間森の方に身を置く、薬が出来たら……来てくれ。どうもこの衝動抑えるのは難しそうだ。ニャオオオオオ(猫の咆哮)」
シロウは天井に向けて放ち、直径一メートルほどの穴を作った。シロウはそこから出て行った。
「い、一体何があったんだ?」
「と、取り敢えず、ザイード殿はクミン嬢にこのことを伝えて」
「わ、分かった」
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「で何があったんだ?」
ザイードに呼ばれて魔王とクミン、マリアとアリサ、そしてマールとザイードこの六人がマールの研究所に集まった。マールは薬品を混ぜて実験しながら、シロウに起こった事を説明しだす。
「シロウ殿が発情期に入って、少し気性が荒くなった」
「あれで少しか……」
魔王は天井の穴を見ながら呟く。天井に向けられた攻撃をほかの場所に向けられたと考えると鳥肌しか立たなかった。
「しかし、猫と言う生き物は、あそこまで気性が荒くなるものなのか? あれでは交尾どころではないだろう。寄ってきたメス猫も殺してしまうのでは無いのか?」
「確かにザイード殿の言う通りなのだが、たぶんマリア嬢が飲ませたドリンクなどが原因かと思う」
マリアはそれを聞いて顔を真っ青にする。正直自分が飲ませた物がこんな事を引き起こすとは思っていなかったのだ。
「マリアは一体何を飲ませたんだ?」
「これ」
マールは瓶を出して見せた。書いてあったのは『マムシドリンク』。精力剤として有名な飲み物だった。これも勇者が作った飲み物で、英雄色を好むと言うことで、色々と重宝したようだったと言われている。
「マリアちゃん……こんなの飲んでるの……」
「どう言う飲み物なんです?」
アリアは若干マリアから引いて、クミンはこの飲み物が何なのか分からなくて周りに聞く。ザイードが面白おかしく伝えようとすると、魔王が笑顔でゼノンにアイアンクローを使って、その口を封じる。その様子を他の物は苦笑しながら、それを眺めている。
「これを飲むと元気が出る」
マリアは鼻息荒く主張する。マリアのその主張を聞いてマールがため息混じりに解説してくれる。
「それはマリア嬢が半分吸血鬼だから、君のたまに気だるいのは生理と一緒に来るだろう。その時に血が不足する。普通は血を飲めば良いのだけど……。毎回誰かの血を貰うのも一つの手だが、迷惑が掛かる。だけどマムシドリンクなら、血を飲まなくても体調を元通りにしてくれるのだろう」
「……ん?」
マリアがよく分かっていないようなので、マールが付け加えて説明を追加する。
「マリア嬢、君はそのドリンクを飲むと元気になるかもしれないが、ほかの人にそれを飲ませても、元気にはならないのだよ、無闇に他人に飲ませてはいけない。分かったかい」
「うん」
マール一応無闇に飲ませてはいけないと言うことは分かったようで返事をする。
「まあ、別のところが元気にはなるがな」
魔王のアイアンクローから開放されていたザイードが余計な言葉をいれるとー
「フンッ!」
「セクハラです」
「グハッ!」
魔王の物理の攻撃とアリアの軽蔑した視線のダブル攻撃を受けて、撃沈する。魔王様も側近とは言え、娘を汚すような事をする人には容赦なく、攻撃を加える。二度目と言う事もあり、当分起き上がれないように、念入りに攻撃をする魔王。
「この薬が出来るのは夜になりますね」
マールは本を見ながら薬品をかき混ぜる。初めてつくる薬品なのだ、マールと言えど殆ど一日かがりで作る必要がある。
「鎮静剤の量を増やすではダメだったんです?」
クミンが質問をしてくる。クミンの言う通り鎮静剤の薬を多くすればそれだけ効くのだがー。
「薬の適切な量が分からないんだ。あの大きさの生き物ならあの程度の鎮静剤で良いはずなんだけどね」
マールはフラスコを目線の高さまで持ち上げて色を確かめる。本を見て書いてある色と違うと分かるとその薬品を破棄する。そして初めから初めから作り始める。
「下手に量を増やすと死んでしまう可能性があるから、鎮静剤の量を増やすことも出来ない」
「量が多いとどうなるんですか?」
「そうだね……アリサ嬢、まあ、簡単に言うと心臓が止まってしまうかな」
「そうなんですか……」
「ああ、だから鎮静剤の量は増やすことは出来ない。それとそろそろ私は薬品作りに専念するから出て行ってもらっても構わないかい」
マールはそう言うと本格的に集中しだす。魔王は頷く全員外に出るように促して、マリア、クミン、アリサ、魔王そして魔王に引きずられるバレルの順番に部屋の外に出ていく。最後に魔王とバレルが出る所で、マールが出る直前に出来たら連絡することを伝える。部屋がマールだけになると、黙々と薬品の調合を始めた。
「と言うと薬品が出来るまでは暇ですね」
「流石にシロウちゃんの後を追いかけるわけにも行きませんからね」
「ごめんなさい」
マリアは自分が不用意に飲ませてしまったことで、このような自体が起こるとは思っていなかった。正直謝るしか出来ないが、謝るしかないと思ってマリアは頭を下げた。
「まあ、今回は仕方ないよ、まさかこんなことになるとは思わないからね」
「仕方がありませんよ、まあ今度から不用意に飲み物を飲ませるのは気をつけてください」
マリアの謝罪にアリサとクミンは慰めた。実際マリアも元気になるドリンクとしてしか認識していなかったのだ。
「それにしてもシロウって、こんなに強かったんだけね」
側近の中で戦闘能力は低いとは言え、それでもレベル100オーバーなのだ。一般の魔族よりもはるかに強いのだ。そのマールを倒したと言う事はかなり強いのだ。そんなに強いとアリサやマリアやクミンでは、下手をしたら、殺されかねない。
「まあ、本当に薬が出来るまですることはありませんね」




