153 飛行訓練
体の中には魔物が住んでいる
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よければどうぞ
「ふにゃん(さてお前らに空の飛び方を教える)」
「「ぐるる(はい)」」
俺が真面目に話をすると二匹が神妙に聞いてくれる。この前のことがあってから、真面目になってくれたようだ。特に問題を起こすことはなくなった。俺も安心して昼寝に徹することが出来る。こちらが来てからと言うもの、昼寝時間激減は、俺にとって問題になっている。
「にゃ~ん(取り敢えず外に行くからついてこい)」
俺は二匹を引き連れて、外に出た。外といっても窓から外に飛び出しただけだが、そこには俺がいつも昼寝スポットにしている木がある。
「にゃあん(まずはここから翼を広げて、滑空することから始める)」
俺はそう言うと木の上まで軽々と上がった。俺と同じように二人共上がろうとするが、大きい体のせいか上がりにくそうだった。俺は二匹が上がると翼を広げてここから飛び降りるように指示をだした。
「グルル(じゃあ、あたいから行くね)」
フィーユがお姉さん風をふかせて、翼を意気揚々に広げて木から飛び出しー
ドンッ!
地面に落下していった。翼を広げて飛んだ所まで良かったのだが、上に向かって飛び上がった後、翼を滅茶苦茶に羽ばたかせたのだ。そんなことをしても飛べるわけが無く。無慈悲に地面に落下した。フィーユを見ると大した怪我もしてない様なので、上に来るように指示を出してマールクスを見る。マールクスは翼を動かすことが下手なようで、まごついていた。俺はマールクスの翼を咥えると、翼を広げてやった。
「にゃん(このままで飛び降りてみろ)」
「グ、ルル(う、うん)」
マールクスは不安そうに声を上げるが、木から飛び出す。フィーユみたいに無理に翼を動かさなかったお陰で、特に問題なく滑空していた。翼を無理に動かさなければ、滑空ぐらいは余裕で出来るみたいだった。
「ガルルル!(出来た!)」
嬉しそうに鳴き声をあげて、マールクスがはしゃぐ。すでにフィーユは木の上に上がってきていて、マールクスが成功したのを見て、すぐにでも飛び出そうとする。俺はそれを前足で止めた。
「ガアア!?(何シロウおじさん?)」
「ニャオン(無理に翼を動かすな、翼を広げて飛び降りるだけでいい。やってみろ)」
「ガオン(分かった)」
そう言ってフィーユが木を飛び出した。今度はしっかりと翼を広げて動かさなかったことで、滑空が出来ていた。ここまでは成功だ。ここからが問題だ。どうやって羽ばたくタイミングを教えるのが一番難しいだろう。何せ、俺には翼がついていない。
「ニャンニャン(何回して滑空になれたら、羽ばたいてみろ)」
俺に言えるのはこれだけだった、タイミングなどは自分たちで掴んで貰うしかない。二匹を頷くと、何回も滑空を繰り返す。始めて空を飛ぶと言う行為に魅了されているようだった。まるで滑り台に夢中になる子供様だった。フィーユは最初落ちたせいか中々羽ばたき方がぎこちなかったが、慣れると思いっきり羽ばたいて、滞空時間を伸ばしていった。一方マールクスは翼を上手く動かせず翼を羽ばたかせた途端地面に落ちていった。二人共対した怪我は無かったが、空を飛ぶのには相当な時間が掛かりそうだそうだと思った。日が落ちることには、二匹とも土で泥だらけだった。
「そろそろ帰るぞ」
俺が掛け声を掛けると名残惜しそうに鳴くが、もう晩ご飯時間だ。俺のお腹の虫もそろそろ鳴き始める。俺が二人を無視して家の方に歩くと、二匹とも渋々俺についてくる。窓から飛んで部屋に入ると、窓の横にマリアとクミンとアリサが待ち構えていた。俺はすんなりと部屋の中に入ることが出来たが、後ろのフィーユとマールクスは捕獲されていた。
「ほら、こんな泥だらけで部屋の中に入らないで!」
「捕獲」
「お風呂入りましょうね~」
「「ガウウウ?!」
二匹は驚きの声をあげ、お風呂という言葉で体を無理やり動かして、腕から抜け出そうとするが、レベル100オーバーの三人の腕から抜け出せるはずもなく。そのまま風呂場まで連行されていく。遠くで二匹が俺に助けを求めて、俺の名前を呼んでいるが無視して食堂に向かった。フィーユとマールクスは俺と違って風呂嫌いなのだ。まあ、風呂好きのネコ科動物の方が少ないが、猫が水を苦手としているのは、体が濡れて体温が下がることを避けるためだと言われている。まあ、そこら辺は本能なのだろう。俺は本能より理性が優先されるが、あの二匹は理性より本能が優先されるらしくて、風呂を嫌がるのだ。たぶんクミン達は三人で、この部屋にいるのは宿題でもしていたのだろう。そして窓からたまたま泥だらけになる二匹を見て、風呂場に連行するために待ち構えていたのだろう。
俺が食堂に来るとすでに食事が用意されていた。今日の食事は鳥のササミだ。あいつらは鳥がまるごと用意されている。育ち切った俺とは違い、あの二匹はよく食べる。これくらいは軽く平らげるだろう。俺が鳥のササミを半分ほど平らげると、あの三人と二匹が戻ってきた。三人は先程の服を着替えて、疲れた顔をしている。二匹は涙目になっている。
「ねえ、シロウちゃんからもこの二匹に大人しくお風呂に入るように言ってよ~。お風呂入れるので一苦労だよ」
アリサがそんな風に言うが、知ったことではない。そもそもこの二匹はこの三人が持ち帰ってきたのだ。俺が面倒見ている方がおかしいのだ。そんなこと言われる筋合いはない。そんな風に思っている俺は、黙々と鳥のササミを腹に入れていく。さっきまで涙目の二匹は鶏肉にかぶりついて、すでに笑顔を浮かべて食べている。よほど腹が減っていたのだろう。正直こいつらの体が俺より大きくなってきている。あと数日もすれば俺が持ち上げるのが難しくなってくるだろう、体格的な意味で。
食事を終えると、すぐに二匹はその場で寝てしまった。いつもなら食事を終えた上でさらに暴れまわるのだが、今日はよほど疲れたのだろう。
「仕方ないな~」
アリサとクミンがそんなことを言いながら、フィーユとマールクスの体を持ち上げて、寝室へ持っていく。そんなことをされても二匹は起きなかった。俺はアリサ達の後ろからついて行こうとしたら、手持ち無沙汰になったからだろうか、マリアが俺のことを抱き上げる。
「抱っこさせて」
楽が出来るのは大歓迎なので、俺はそのままマリアの腕の中でもぞもぞと動き回る。人の腕の中とは中々曲者で、上手く丸くならないと、楽が出来ないのだ。下手な体勢でいると体に負担が掛かって逆に疲れる。だがぴったりの場所で丸まれるとゆり籠のように心地よい感じになるのだ。だがそんなことをやっている内に部屋についてしまう。部屋には夕食前にやっていただろう宿題の紙が、乱雑に散らばっていた。
「ふう~、重かった」
アリサとクミンはフィーユとマールクスを床に下ろすが、普通なら重かった程度で済まないと思うと、この二人の強さを実感する。二匹を床に下ろすと二人共座って宿題を始める。俺はと言うと……
「にゃ~おん」
マリアの膝の上に設置され、勉強の合間にもふられたり、もふたれたり、もふられたり、もふられたり、肉球ニギニギされたりと、色々と感触を楽しまれている。別段嫌ではないのだが、触って欲しい場所とは違うってムズムズする。マリアは撫でるのが下手だな。俺のあってきた中で撫でるのが一番上手かったのは……やはり
クリス・ミーンだったな。あの手は神の手と言っていい程撫でる場所を心得ていた。また、撫でて貰いたいものだ。俺はそんな叶わぬ事を考えながら、マリアの手が撫でて欲しい所に来るように、もぞもぞと移動するのであった。
このあとマリアは、膝が痺れて非常に苦しむことになるのだが、それはまた俺には関係の話だった。
「そろそろだな……」
魔王は悲しそうに呟く。ここにいるのは、魔王ことエリック・ルシファー、それと側近の六人の内の三人がこの場に揃っている。ザイード・アスモデウス、マール・レヴィアタン、バレル・アズマ・マーモン、そしてエリック・ルシファーが滅多に使われることのない魔王の間に揃うのは、片手で数える程度でしか無い。魔王は椅子に重々しく座っている。
「はい、心の準備は出来ています」
バレルは膝を折り、頭を垂れて返事をする。マールは何か言いたそうな顔をしている。いや、ここにいるバレル以外の全員が、言いたそうな顔をしている。そしてマールが、代表するように口を開く。
「バレル殿は、まだ若い。考え直してみてはどうだ?」
「そうだ、俺たちの方が年を取っている。俺達がー」
「ですが、私の寿命は魔族より短いです。それにこれはそう言う問題ではありません」
「そうか……」
マールとザイードは口を噤む。
「もう本人は決めたと言っているのだ。その決意を我らに変えることは出来ないだろう」
「……魔王様、ご命令を」
深々と頭を下げて、バレルが魔王の命令を待つ。
「……では、バレル・アズマ・マーモン。そなたにー」
暗い魔王の間で今ー
「勇者討伐を命ずる」
魔王から勇者への討伐命令が出されたのだった。




