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144 宿題と試験

「おお、ついに活性拳・三式まで行ったのか」

ザイードが嬉しそうな声をあげる。あれから一ヶ月、活性拳の熟練度は上がって、活性拳・一式は二時間半、活性拳・二式は四十分、活性拳・三式は五分と言ったところだ。一ヶ月でこのレベルまで上がったのは、スキルポイントを振った時に、体力に大量に振ったことも関係していると思う。この技は俺に最も合っている技と言えるかも知れない。まあ、ザイードには遠く及ばないがな。後、精霊魔法のレベルが上がった。ザイードの組手の中でレベルが上がったのだ。威力と細かい作業が出来る様になった。

そして、バレルとの修行でも活性拳・三式を使えば、刀だけで戦う限定の戦いなら、本気のバレルとやりあえるレベルになった。と言っても、俺はバレルのフェイントに引っかかり、その後の攻撃に全て対応しているだけだけど。これは俺の元々のスピードと活性拳・三式によって上がったスピードだから出来る荒技だけどな。俺の技術が高いから出来る訳ではない。バレルに言わせると、『身体能力の無駄使い』だそうだ。確かにその通りなんだけど……俺にはこれしかないのだ。



休憩中、バレルと会話する機会が多々あった。バレルはそこまで喋る奴だった訳じゃ無かったけど、色々な会話が出来た。バレルが質問をして、俺がそれに答える、その後に俺が質問をして、バレルがそれに答える。交互に質問をするのが約束事みたいになっていた。バレルが聞いてきたことは、基本的に俺たちの世界、基本的にバレルの父親の世界について聞いてきた。日本の普通の学生生活や仕事などを聞かせた。バレルは父親がどんなことをしていたか知りたいと思っていたからだ。俺が質問したのは、人間のことをどう思っているかだ。

「父と母を死に追いやった類の人間達が憎い。だけどそれじゃダメだから」

バレルは寂しそうな顔で言う。バレルは自分の目で親を見たことが無いと言う。と言うか両親の話を他人からしか聞けないと言うのも悲しいことだ。自分が両親のことを何一つ知らないと言うのはどんな気持ちなんだろう











「と言うか本当に軽い筋肉痛ぐらいで済むようになっちまったな」

ザイードとの修行の後に体をほぐすストレッチをほぐしながら言う。

「俺としては一ヶ月程度の修行で、そのレベルに達したお前に俺は戦慄だよ」

ザイードは呆れた声で言ってくる。

「そりゃ、元々の肉体スペックは高いからな。それでもザイードに勝てないけどな」

「ふざけんな。一ヶ月程度の修行で俺に勝てるようになったら、本気で泣くぞ」

「まあ、確かに」

ザイードには魔力が無い。己の肉体を鍛え上げるしかなかった。魔族の世界は実力主義だ。何らかの方法で力を示さなければ馬鹿にされることは多い。

「まあ、そろそろこの修行も終わりだな」

「え?マジで?」

少なくてもあと半年は続くと思っていた、修行が一ヶ月で終わりか。早々に昼寝生活に戻れそうで、俺の声は弾んでいた。

「まあ、後は最終試験だけだな」

「し、試験?」

「まあ、大した事はやらないさ。魔王の目の前で戦うだけだよ」

「へえ~」

まあ、それだけなら別に特に問題ないだろう。



その日、俺が昼寝をしていると、いつものようにクミン、アリサ、マリアが帰ってくる。

「そう言えばね、近いうちに勇者襲来訓練が行われるらしいよ」

「勇者襲来訓練?」

「あ、マリアちゃんは知らなかったよね。勇者が来た時には民間人は避難するんだよ。近々その避難訓練が行われるんだって。と言うかどうしてクミンちゃん、何でそんな事を知っているの?」

勇者が災害扱いで思わず吹き出しそうになってしまった。俺は昼寝をしながら笑うと言う奇妙な状態だ

「お父様の机の上に置きっ放しだった書類を見ちゃったのよ。文官にその影響で経済的損失がどれくらい起こるとか、その訓練の怪我人のなどの予想数字を出してもらっていた」

「……クミンちゃん、それって見ちゃっていいの?」

「普通なら極秘情報よ」

確かにその情報を聞かれたら、それに乗じて敵国が攻撃されかねない。……だけどこの島は周りを海で、攻めてくる国は海の向こうだ。正直心配しなくてもいいだろう。

「ふ~ん」

「それで?」

「近々あるから、心構えだけしておいてね。まあ、どこに避難場所があるか把握しておくぐらいだけど」

俺には関係の無い話だな。当日は長い時間自由だと思うと、これは昼寝だな。全員避難するなら、誰も俺のお昼寝は邪魔させないぜ。


「で現実逃避はここまでにして、宿題片付けちゃいない?」

「わたくしはもう少し、現実逃避していたいんだけど」

「諦めが肝心」

机の上には今日学校で提出された宿題の山があるのだろう。

「はぁ~どうして先生はこんなに宿題出すのかな?」

「燃やしたい」

「はあ~明日から連休だからでしょう。それぞれの教科で宿題出したからでしょう。どの教科の先生も自分が出した宿題しか考えてないから、大した量じゃないと思っているよ」

「本当それだよ、クミンちゃん! 先生には他の教科でも宿題を出していることも考慮して欲しいよ」

「同意」

「でも明日遊びに出かけるために全部終わらせたい」

「そうだね、久しぶりにシロウちゃんも連れて行きたいしね」

「同意」



分かるよ、分かるよ、三人とも。しかし、それが世の学校の常なのだ。頑張れ、少女たち。


本当に人型やめておいて良かった。でなければ今頃宿題の山に埋もれていただろう。本当に異世界に来てまで、学校に通うことにならなくて良かった。



俺は体を丸めてさらに眠りに入る。



え?明日から連休?遊びに出かけるのに俺を連れてく? 嘘でしょう? 



異計 8,626,507アクセス ユニーク1,224,940人 行きました

気づいたら、これだけの人は見てくれているのですね。感謝雨あられです (*()<)感謝(>(エ)人*)感謝


次回はお昼寝回ではないですけど、日常パートになります

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