104 登場
少し遅くなりました
「ハァハァ、しつこいね」
「うん」
私はクシア君の告白に答えるために森の中に入ったのだが、そこで出くわすとは思っていなかったものに出くわしたのでした、それは二メートルはある鶏。私はクシア君の手を引いて逃げているのだが、森の奥に追い込まれるかのように追い立てられていたのだった。
このままじゃ、不味い。
私たちは木の隙間を縫いながら森の中を全力で走って鶏から逃げている。今、鶏に追いつかれていないのは、この木が鶏の動きを阻害しているから。でも追いつかれるのも時間の問題、私たちの体力がもたない、今のうちに何としても打開策を考え付かなきゃ死ぬことになる。
それに……
「気温が大分下がって来てる、こんな薄着だと……」
クシア君が落ち着きを取り戻して私に手を引かれなくても足を動かせるまでなった。
「うん」
確かにクシア君の言う通り気温が下がってきている。今はまだ肌寒い程度だが、もう少し太陽が傾いたら
この薄着じゃ寒くて体の動きが鈍ることになる。時間も体力も無い、一体どうすれば……。
「エリカさん」
こんな時に声を掛けて来て、思考を中断するクシア君に若干の苛立ちを覚えてしまう。
「なに?」
「僕が囮になります」
「え?」
「このままだと二人とも死ぬことになる、だから僕が囮になってエリカさんはその間に里に戻って助けを呼んでください」
「でもそれじゃクシア君は?」
「このままじゃ二人とも死ぬしかないんですよ!!」
「あっ!!」
私はクシア君が怒鳴ったことに驚いてしまって、足が空回りこけてしまった。
しまった!!こんな時に。
私が背後に目を向けるとすぐそこまで鶏が迫って来ていた。私の体を爪で切り裂こうと足が近づいてくるのが分かった。これじゃ、精霊魔法を唱えるのも間に合わない。
「アイスシールド!!」
私と鶏の間にクシア君が入って精霊魔法で作った氷の盾を出現させた。クシア君は私に話を提案した時点で精霊魔法を使う準備をしていたのでしょう。
「エリカさんは僕が守る!!」
クシア君はそう言うと氷の盾を掲げて爪の攻撃を受け止めたが、勢いよく後ろに吹っ飛ばされる。私はそれを受け止めようと手を広げた。クシア君を受け止めて鶏の方を見ると、鶏は攻撃を防がれたことに怒りを覚えたのかこちらをにらんで、今度は確実に殺せるように足に力を籠めている。
「エリカさんは僕が……僕がっ」
クシア君はそう言って立ち上がるが、クシア君の右腕はありえない方向に曲がっていた。鶏はそれを見て笑ったかのように見えた。そしてこちにら飛び掛かって来るように見えた。
私は自分の体が爪でバラバラにされることを覚悟した。
「守るんだーーー!!」
クシア君が絶叫と共に立ち上がった。その瞬間、誰かが鶏の爪を私たちの目の前で止めた。それに遅れて後ろから物凄い風が吹き抜ける。
「良く逃げ切ったな、ここからは俺がやるよ」
背後からの声に私は勢いよく振り返った。そこには銀髪をなびかせて、執事服に身を包み、ミスリルで出来た籠手を装備したあるアルビオンだった。
アルビオン視点
「良く逃げ切ったな、ここからは俺がやるよ」
俺はそんな風にかっこつけて言ったが、内心冷や汗をかいていた。俺の目に入った時にエリカが何かに驚いたようでこけてしまったのだ。いくら早くてもこの距離を一瞬で縮めることは出来なかったが、少年が氷の障壁を出したことで時間が出来た。ナイスだ、少年!!よくやった。俺は心の中で少年に拍手を送った。
鶏は攻撃を邪魔した俺をにらみつけて、バックステップして体制を整える。
正直長々と戦いたくはない。
あたりは気温が下がってきていて、俺が吐く息が白くなる。寒くなれば寒くなるほど俺の機動力はかなり落ちる事になる、それは出来るだけ避けたいところだ。それとおれの体力は持久力は無いからな。
「さっさと終わらせてももらうぞ」
俺は踏み込んだ足に力を入れて、拳に体重を乗せて鶏の胴体に思いっきりパンチを叩きこんだ。鶏は面白いほど、後ろの木をなぎ倒しながら飛んで行った。
背後で二人の驚愕の声が上がるがったのだが。
この感触は……
鶏は足を振り子のように振って立ち上がった。
「うそ、あんなに吹っ飛んだのに?」
パンチの威力が殺されているのだ、あのモフモフの毛に。拳を包み込むかのような羽毛で威力が殺されてしまうだ。
「なら羽毛が無い所を狙うか」
俺はそう呟くと軽く拳を握って魔力を纏わせると、一気に羽毛が無い頭まで一直線に飛び出していった。このまま鶏が動かなければ俺の拳は鶏の頭を直撃していただろう、しかし鶏は軽く頭をそらして、俺の拳をかわした。
「な?!ゴッフ!!」
俺の拳は空を切り、鶏の足が俺の腹に直撃した。俺が飛んだ勢いがそのまま俺へのダメージになった。そして足の指で胴体を掴まれそうになったので咄嗟に俺は無理やり体を捻り抜け出した。
ビリビリ
爪にひかかった衣服が破れる音がする。それと同時に俺の腹を冷たい風が通り抜ける。
「寒っ!!」
風の余りの冷たさに俺は悲鳴を上げてしまった。風邪ひきそう、さっさと決着つけなくちゃ。
「くっそ、最後の服が!!」
俺は悪態をつくと体にくっ付いていた服の切れ端をかなぐり捨てた。秋に裸でいるとこれぐらい寒いのかな……。
体にはとくに傷はついていなかったが、俺にとってそれは特に驚くべきことでは無かった。別の事で驚いている事はこの鶏にパンチをかわされたことだ。俺の速度を見切ったのか?だけど最初の攻撃はかわされなかった。一体何があの鶏に俺の攻撃をかわさせる要因になったんだ?まいいや、拳がダメなら……。
「精霊よ、土柱を!!」
地面から土柱が勢いよく伸び、鶏の頭を撃ち抜いたように見えたが、見事に紙一重でかわされてしまう。俺は悔しげ紛れに足元に石ころを思いっきり蹴り飛ばした。石ころは少し速いスピードで鶏に向かって、思いっきり飛んで行った。石ころは鶏の頭をかすめて、鶏の頭から血を流させる。
「何?」
確かに俺が蹴った石ころは早かったが、俺のスピードよりは遅かった……なのに何で鶏は石ころに当たった?なんでだ?なんであいつはかわせなかった……。最初の拳は当たった、その次の拳はかわされた、その後の精霊魔法もそして俺が蹴った石ころはかわされなかった。その違いはなんだ……。
俺がそんな風に悩んでいると鶏が石が飛んできたことからの驚きから呆けていたが、我に返ったようで俺に向かって突っ込んできた。
試してみるかな。
俺は右手に魔力を纏わせて、
右足で鶏に向かって蹴りを放った。鶏は慌てて勢いを殺そうとするが、そのまま俺の足が鶏の首にジャストミートする。
やっぱり。
俺はそれで確信した。
こいつ魔力が見えてる、どう言う原理かは分からないけど。俺は蹴りが入って動けなくなっている鶏に向かって、魔力を纏わせないで拳を振るった。その拳は鶏の頭に訳も無く直撃する。
その一撃だけで鶏は絶命した。呆気なく終わった。




