魔王城
「転移開始!」
魔王が魔術を発動させた。
すると、頭上に昏い穴・・・恐らくホールだろう。そんな感じの物が出来上がり、彼らはその中に吸い込まれた。
中は一寸先も見えないような闇だった。
その闇の中を彼らは移動していった。
入ってから五秒ぐらいたった時、それは始まった。
最初はただの違和感だった。
それは徐々に大きくなっていった。
不思議に思ったフウトはこの感覚は何なのかしばし思考した。
そして、気づいた。
体を襲う微弱な圧迫感に。
その事に気づいたのは入ってから十秒が経過した時。
転移が第二段階に移行する直前だった。
そして、第二段階に移行した。
今まで水平に動いていたのが、同じスピードで垂直に下降し始めたのだ。
唐突に襲ってくる強烈な浮遊感と気持ち悪さ。
これが約10秒ほど続いた。
だが、彼らは知らなかった。
さらなる地獄が待ち受けていることに。
ここで、転移魔術について簡単に解説しよう。
まず、転移魔術はいわゆる瞬間移動とは違うのだ。
転移魔術は、瞬間移動よりも高速道路に近い。
絶対に周りに迷惑を掛けない空間を超高速で飛んでいるのだ。
だが、それだと時間がかかりすぎる。
そのため、一定以上の距離を転移する場合は空間を捻じ曲げて移動するのだ。
結果。
ジェットコースターの何倍も速いスピードでぐねぐねした移動をする鬼畜仕様になってしまっているのだ。
その空間が捻られたところを通過する時間は約五秒。
気分を悪くするのには十分すぎる時間だ。
そして、最後の五秒で速度を落として終了となる。
*
ゲートから放りだされた俺たちは大広間のようなところにいた。
「転移終了っと。・・・大丈夫か?」
魔王は転移終了をつげると、心配そうに俺とリオを覗いてきた。
・・・え?フィーはどうしているのかって?ピンピンしてるぞ?猫だからだろうか。
取り敢えず、俺は魔王にある物のありかを尋ねた。
それは・・・
「ぅえっぷ・・・。魔、王。トイ、レはどこだ・・・?」
リバースするためのトイレだ。
「お・・・おう。それなら、客用のが手前の通路をたどっていったところに男女別に設置してある」
「わ・・・わかった」
俺は指示された方向に脱兎の如く駆け出した。
すぐさま個室に入り、トイレの中にぶちまける。
ひとしきり俺はリバースした後、どうやってトイレを流すのかを聞きそびれたことを気がついた。
王都の屋敷では蓋の下は巨大な空間でそこを地下水脈が流れていた。
そのため流す必要は無かったのだが・・・
魔界のトイレは水洗トイレのようなものだった。
だが、肝心のレバーが見つからない。
困っていると、ボタンのようなものを側面に発見した。
取り敢えず押してみた。
ポチッとな。
すると、トイレの蓋の裏に光る文字列つまりは呪文が現れて水が流れた。
・・・ビックリである。
どうも現代の技術より少し低いくらいの技術水準のようだ。
明かりは屋敷と同じように電球のようなものだ。
だが、あっちは白熱電球のようなものなのに対して、こっちのは蛍光灯のようなものだ。
それに、あっちの一般家庭ではそもそも電球のようなもの自体がない。
デカイ屋敷だからこそのことなのだ。
ここは魔王城だから、他よりも技術水準が高いのは当たり前だが・・・。
取り敢えず、元の所に戻って魔王に聞いてみよう。
話しはそれからだ。
*
「ああ、あれな。あれは魔力タンクに入った魔力を消費して動く魔道具だ。ボタンを押すと術式が発動して水が流れるんだ。こっちじゃ一般的だが、それも魔神の高い魔力があればこその話しだからな」
俺は元の場所に戻ってすぐに魔王にあのトイレについて尋ねた。
結果がさっきの魔王のセリフだ。
そこから察するに、この世界においては電気の代わりのエネルギー源としても魔力は扱われているようだ。
そのため、王国よりも技術が進んでいるようだ。
そんなことを考えている間に、リオがトイレから帰ってきた。
「おー。全員揃ったな?じゃあ、まずは居住区の部屋の割り振りだな。居住区に移動するぞ。俺様についてこい」
そう言って歩き出す魔王に俺たちは急いで付いていった。
*
長い回廊を抜けると、そこはたくさんの部屋が並ぶ廊下だった。
「ここは居住区。部屋は001号室から300号室まである。お前らの部屋はスイートルームの299号室と300号室だ。男女で分けろ。風呂は共同で地下一階にある。食事は朝と夜でどちらも8時だ。遅れたら飯は無いと思った方がいい。今はだいたい二時だから、三時に魔王の間に集合。何か説明あるか?」
魔王の説明に特に不明な点は無かったので、黙っていた。
それに満足したように魔王は頷くと、
「じゃあ、俺様は部屋でダラダラしているからな!」
といって奥へと歩いていった。
*
俺は荷物とクロを部屋に運び込むと持ってきていたコンロでお湯を沸かし、お茶をいれた。
「ふう・・・。冷えた体に茶が染み込むなあ・・・」
「主よ。少々じじ臭いぞ?」
「だるかったんだよ。いいじゃねえか」
俺はもう一度茶をすすり、部屋を見回す。
フローリングの床に木製のテーブル、ふかふかのソファに柔らかいじゅうたん。そして暖かい暖炉。
まさにスイートルームと呼ぶのにふさわしい部屋だった。
しばらく寛いでいると、コンコンと部屋がノックされた。
誰だろうと思いつつ扉を開けると、そこにはメイド服を身につけたリオがいた。
「ご主人様。集合の時間になりました」
そう言われて時計を見てみると、既に集合時間まで残り数分だった。
「やべっ!気づかなかった!クロ、急ぐぞ!」
「わかったのじゃ」
そう言って俺たちは奥にある魔王の間にいそいだのでだった。
*
魔王の間に入ると、フィールドがすでに居た。
その奥の玉座に魔王は座って居た。
「おお、来たか。それじゃあ、特訓中を開始するぞ。まずは能力の把握だ。全員、この紙を持ってくれ」
魔王がそういうと、となりにいた従者が紙を持って来た。
「その紙は鑑定紙。胸に押し付けるとその者のステータスが浮かび上がる優れものだ」
俺はその言葉にビックリした。
だって、これがあれば寺(神殿)に行かなくてもいいじゃないか。何で使われていないんだ・・・?
そんなことを思ったが、次の日魔王の言葉で理由が判明した、
「ただし、めちゃくちゃ高いからその紙は絶対に無くさないように。魔界の植物でしか作れないから高いのだ」
ようするに、高いから使えなかったのだ。
納得した俺は、胸に鑑定紙をおしつけた。