クロ
特訓。
正直、どの様な事をするのか解らない。
だが、それを乗り越えれば死ぬ確率は格段に減る。
その事は確かだった。
しかし、今現在起きているのは俺だけで他の仲間には一切断わっていない状況で物事を勝手に決めるのはいかがなものだろうか?
うーむ・・・
よし。
「三日後までにリオ達と話し合って決める。だから、三日後にまたこい」
という結論で落ち着いた。
しかし、魔王の方は今すぐに決めて欲しいのかちょっと焦った様子で何かを言おう・・・
「おい、いますg」
・・・としたがその前に襟首引っ掴んで玄関へとしょっぴいた。お前仮にも俺様は魔王何だぞとか何とか喚いていたが華麗に無視。
そのまま青空に向かって放り投げた。
どうも相当空高く飛んで行ったようだ。南無。
まあ、仮にも魔王なんだし・・・平気だろう。たぶん。
*
一時間後。
やっとフィーが目を覚ました。
「みゃ・・・。あれ~?まおーさんは~?」
寝ぼけ眼で辺りを見回したフィーは、今更すぎる疑問を投げかけてきた。
だが、寝起きなせいか口調がゆるゆるである。
湧き上がるこの妙に可愛い生物を愛でたいという衝動を懸命に堪えつつ、俺は何とか返事をした。
「ああ。あいつなら魔王城に帰ったぞ」
無理矢理だけどな。
「へー・・・」
フィーは特に聞いた理由は無かったのか、それで納得した。
その後、近くで寝ているリオに近づいて
「リオ~。ボクお腹減ったにゃ~。ご飯欲しいにゃ~」
と言って、リオの顔をバシバシ猫パンチで叩き始めた。
しばらくすると、痛みに耐え兼ねたリオが起きた。
「・・・ん・・・。今起きるね・・・。だから痛いフィー痛い叩くの痛やめ痛い痛い痛い痛い」
だが、フィーは叩くのをやめようとしない。
遊んでいるようだ。
さすがにお遊びが過ぎるので、俺はフィーを抱き上げて強制終了した。
「フィー。やり過ぎだ。やめろ」
だがフィーはまだ遊び足りないのか、むーと言って膨れた。・・・カワええ。
取り敢えず捕獲したフィーのほっぺをぷにぷにして弄ぶ。
にゃーにゃー言って抗議するフィーをスルーして、リオに飯の用意を頼んだ。
「リオ。そろそろ良い時間だし、飯にしないか?フィーも限界みたいだし」
すると、瞬時にメイドモードにリオはなって、
「了解しました。今すぐ作ります」
と言って厨房に消えた。
なお、リオの顔に可愛らしい肉球の跡が付いていたのは本人には秘密だ。
*
飯(魚料理)を食べ始めてからしばらくして、俺は二人に魔王との話を簡単に説明した。
邪神討伐のためには六つのダンジョンを攻略して『緋色の欠片』なるものを破壊しなくてはならないこと。
そのダンジョンのボスが魔王よりも強いこと。
だから、全員強くなる必要性があること。
そのために魔王城で特訓をすること。
これらのことを説明したあと、俺は二人に特訓しに行くかどうかの意思確認をした。
結果、満場一致で特訓をすることに決定した。
*
次の次の日。
魔王城に出発するのが明日に迫っている時のことだった。
事件は起きた。
「お主ら、我もその特訓に連れていってくれんかのう?なにしろ生まれたてでな。まだまだ弱いのだ。我とて、主をむざむざと一人で死にに行かせることはしたく無いのじゃ」
クロが・・・喋ったのだ。
*
緊急家族会議発動。
全員をリビングに早急に集めた。
「ねえ・・・いきなりどうしたの?何でボク無理矢理叩き起こされたの?」
「そうですよ。何故急に私達を集めたんですか?」
いきなり呼び出されたフィーとリオは不満顔だ。
だが、この際そんな事はどうでもいい。
俺は手っ取り早く要件を伝えることにした。
「喋った」
「「は?」」
だが、喋ったというだけでは伝わらなかったようだ。
俺が詳しく説明しようとしたその時、クロが補足して説明をした。
「いやの?我が主は我がいきなり喋ったことに気が動転しているのじゃよ。すまんの。我が主の説明不足じゃ」
「「・・・はい?」」
予想どうり、二人の目が点になった。
当たり前だ。まだ生まれて四日目なのだ。
それなのに・・・何なんだ?この口の達者さは。
驚いて当たり前である。
「・・・という訳でクロが喋った。しかも、特訓に連れていって欲しいらしい。どうする?」
俺の言葉で二人は我に帰り、それぞれの反応を返した。
「ああ・・・まあ、竜族だしね。こんな事も・・・あるのかな?まあ、良いんじゃ無いかな?黒竜なら確実に強く育つし」
「そうですね。黒竜なら確実に強くなりますしね。戦力としては上々でしょう」
・・・こうして、電撃的にクロの同行が決定した。
*
次の日。
俺たちが出かける用意をして庭で待っていると、魔王が転移してきた。
「おお・・・。揃ったか」
魔王は全員を一瞥し・・・
「・・・」
・・・クロを見てフリーズした。
呆然としているようだ。
「魔王どうした?」
取り敢えず魔王に話しかける。
「・・・」
だが、反応はない。
・・・仕方ないな。
「・・・リオ」
「はい」
「やれ」
「はい」
次の瞬間。
魔王の脳天に漬物石が炸裂した。
「うおっ!?ななな何だ!?」
魔王はビックリして意識を取り返したようだ。
ひとしきり首をひねった後、魔王はキッとクロを睨んで、
「で。何で黒竜の・・・それも希少種がいるんだ?」
と言った。
って・・・え?・・・希少種・・・?
俺は希少種と言われて脳裏にリオレ○アを思い浮かべた。
いや、違うだろ。
黒竜なら黒いのは当たり前だしね。
だが、リオとフィーはさして驚いた様子も無い。
うーむ・・・。恥を忍んで聞いてみるか。
「なあ。希少種って何だ?」
俺がそう発言した瞬間。
ピシッと空気が凍りついた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
三人による圧倒的な『無』の大攻勢。
え?なに?何かおかしな事言った?
何か地雷踏んだ?
っていうかフィー、そんな蔑むような目で見ないでくれ!
新しい性癖に目覚めたらどうするんだ!
「・・・まあ、異世界から来たんだし仕方ないんじゃないかな?」
長い長い永遠とも思われた沈黙を破ったのはフィーだった。
ありがとう!助かった!
「・・・まあ、それもそうですかね」
「そういやまだ来てから日が浅いんだっけな。じゃあ、仕方ないか」
・・・既に二ヶ月くらいたってるけどな。
来たのが八月の頭で今は十月の頭だから・・・うん。あってる。
そんなしょーもないことを考えていると、クロがため息混じりにいった。
「主よ・・・。我が喋ったことに驚かなかったのかの?普通魔物は喋れんぞ?」
「え」
衝撃の事実。魔物は喋れなかった。
・・・あれ?こいつ喋ってるよな・・・?
ってことは・・・
「ドラゴンって魔物じゃ無いのか!?」
衝撃の事実その2。ドラゴンは魔物じゃ無かった。
だが、それは深くため息をついたクロに否定された。
「いや、大多数のドラゴンは魔物じゃよ。じゃが、邪神から生み出されたのではなく、この世界にもとからいるドラゴンは精霊に近いのじゃ。だから、我は喋れるのだ」
さらに衝撃の事実その3。ドラゴンは大まかに分けて二種類いた。
驚きの連続に俺は打ちのめされた。
ドラゴンって二種類いるんだ・・・。
「ま、わかりゃいいよ。戦力としては相当高いしな。どうやって手に入れたか気になるところだが・・・まあ、どうせ偶然だろ。それよりも、そろそろ転移したいんだが?」
魔王はいつまでもダラダラとしゃべり続けてしまう現状にしびれを切らしたようだ。
脚をパタパタしている。
「そうだな。行くか」
俺は気楽にそういった。
後で思えば、余りにも軽率だったといえる。
だが、俺はそう言ってしまっていたのだ。
「わかった。始めるぞ。『転送』!」
地獄の三十秒が始まった。