真実の敵
魔王。
それは、魔物を統べる悪の象徴。
それが今、俺の目の前にいる。
だが、全く持って実感が湧かなかった。
「ん?どうした?阿呆みたいに呆けてないで何か言ったらどうだ?魔物の群れを退治した勇者さまがたよ?」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら挑発する魔王。
なかなかにいい性格をしているようだ。
「・・・何でこんなところに?」
こいつが本物の魔王だとして、こんなところにいる意味がわからない。
何で魔王城に居ねえんだよ。
・・・まあ、良いんだけどな(テキトー)
「それはな?お前らに真実を教えようとおもってな・・・あと、俺を超える強さの奴に興味が湧いた」
「成る程。下劣な好奇心ですか」
・・・リオの言い方に物凄い量の棘がふくまれている気がするのは俺だけだろうか?
「まあ、否定はしねえ。だが、それ以上にそんな強い奴に誤解で殺られるのは嫌だったからな。誰でも死にたく無いだろう?」
最もな言葉である。だが・・・
「じゃあ、何で今まで言わなかったんですか!そのせいで一体私の同胞達が何人死んだことか・・・!」
そのせいで仲間達が死んだリオにしてみれば、たまったもんじゃない。
リオは勇者歴が長いようだし、受け入れることは難しいだろう。
だが、魔王はここで思わぬ言葉を発した。
「知るかボケ」
「んなっ!?」
リオはあまりの言葉に目を剥いた。
「取り敢えず話しを聞け。謝罪なら後でいくらでもする。何だったら、俺様のクビを落として持って行ってもいい。だが、もしもここで話しを聞かなければ、貴様の同胞達の悲願が達成されんのだ」
・・・凄い覚悟だ。
死ぬのは嫌だとか言いながらも、話しを聞かせるためならば自分の首をやってもいいという。
「何言ってるのよ!あいつらの悲願は魔王討伐!そのために命をかけて魔王城まで行ったのよ!」
「違うな」
瞬時に魔王が反論する。
言葉を失うリオに魔王は畳み掛けるように言った。
「奴らの目標は魔物被害の撲滅による世界平和だろ?」
「同じじゃないの!」
「阿呆か。違うから言っているんだろうが」
魔王はとんでもないことを言った。
「そんな訳がない!あんたは「ただいまー」・・・」
リオが何か言おうとしたちょうどその時。
フィーがクーラーボックスと釣竿を持って帰ってきた。
帰ってきたフィーは、クーラーボックスと釣竿を玄関に置くと、ボクお腹減ったニャーとか言いながらトコトコとリビングまで歩いてきて・・・
そこで魔王に気づいた。
「・・・あ!いらっしゃい!ごゆっくり~」
と言ってそのまま冷蔵庫に直行。
顔を冷蔵庫につっこんで漁り始めた。
「あーっと・・・フィー?」
「ん?何だい?」
フィーは答えながらも、冷蔵庫から顔を上げようとしない。
俺はしばし迷った後、事実を突きつけることにした。
「・・・この人、魔王何だけど?」
ピタッとフィーの動きが止まった。
そして、ゆっくりと振り返っていった。
「・・・リオは魔王とお見合いしてるのかにゃ?」
「何でそうなるのよ!」
リオは涙目だった。
*
帰ってきたフィーにお見合いでは無いことを説明し、帰ってきたフィーを交えて話し合いが再開された。
「とにかく、俺様は魔物とは全く関係ない。魔物は扇動できる生き物じゃねえんだ」
「じゃあ、どうしろっていうのよ!」
リオは悲痛な声で叫んだ。
そりゃそうだ。もしこれが本当ならば、魔物の被害を無くす手段は無くなる。
「そこで、俺様の話しが出て来るわけ何だが・・・聞くか?」
・・・おそらく、リオは魔王が何を言っても信じないだろう。仲間を散々殺しておいて何を今更、という気持ちもあるだろう。
だから、俺が判断する。
フィーは・・・信じられるか?わからないな。取り敢えず保留。
というわけで・・・
「聞くだけ聞いてみよう」
「「フウト!?」」
俺の申し出にビックリする二人。
だが、構わない。
「聞くだけなら、何の不利益も無い」
だから、聞くだけ聞いてみる。
だが、リオはやはり噛み付いてきた。
「なんで!?フウトはこんな奴を信じるの!?」
「それは、聞いてから判断する」
「でもっ・・・!」
・・・やはり、満足しないか。
「リオ。そもそも、だ。魔王が扇動しているっていう話しは誰に聞いた?」
「・・・え?そ、それは・・・」
「少なくとも、魔王本人じゃ無いよな?だが、今俺たちの目の前にいるのは正真正銘の魔王本人だ。本人の話しっていうのは、合ってても間違っていてもどっちでも良いんだよ。間違っていたときはそいつが嘘つきだったっていうだけだからな」
間違っていたら、嘘だったら。
その時は魔王を殺せばいい。
ただそれだけの話である。
「・・・わかった」
「よかった。フィーは?」
「取り敢えず、フウトにまかせるにゃ」
「というわけだ。話せ」
俺は魔王に命令した。
すると魔王は一つ頷き、口をゆっくりとひらいた。
「わかった。まず、魔王を殺せば魔物の動きが止まるというデマの出どころと理由だが・・・ずっと昔の政府が反乱を抑えるためにながした偽情報だ。今や唯の伝承となってはいるが」
なるほど。そういうことか。
俺は理解した。
これはまず間違いなく正しい情報だろう。
だが、理解出来なかったのが約一名いるようだった。
「何で反乱を抑えるのにそんなことを言ったのか・・・ボクにはわからないんだけど?」
もちろん、フィーだ。
耳とクビを傾げてさらに尻尾を「?」に近い形にしていた。
「フィー。逆に質問だ。仲があまり良くないもの同士が協力できるのはどんなときだ?」
「・・・お腹いっぱいで幸せな時?」
「それはフィーだけだ。正解は、外部に共通の敵がいるときだ。だから、昔の政府は魔王を共通の敵にしたてあげたんだ」
「なるほど。大体わかったよ」
フィーが理解したので、次に進む。
「で、倒すべき敵なんだけど・・・」
魔王は一度言葉を切り、いった。
「邪神が魔物を生み出し続けているんだ」