ランク
彼はイラついていた。
最近、何もかもがうまくいかないのだ。
つい一昨日も依頼中に盗賊団に遭遇し、護衛対象の馬車が襲われて壊滅。
命からがら逃げ延びてもどってきた。
その上財布をすられてしまい、無一文に。
金貸しに金を借りたはいいが、返す当ても無い。
返す当ても無い金をどうやって返すか考えたがいい案は思いつかず、イライラは募るばかり。
だからだろう。
Fランク勇者とバカにされている奴に絡んだのは。
*
「おい。ちょっとそこの新人」
「はい?」
俺が依頼達成報告を終えてギルドを出ようとしたとき、後ろから誰かに呼び止められた。
「お前、金もってんだよなあ?」
下衆な笑みを浮かべながらオトコはいった。
「そうですが・・・何か?」
「新人にやるには惜しいから、寄越せよ」
やっぱりそうきたか。
新人いじめ。
Fランクだから、舐められてるのだろう。
「イヤです」
「何でだよ?」
「俺の金だからです」
「先輩の言う事が聞けないのか?」
不穏な空気を感じ取ったのか、何時の間にかまわりギャラリーが出来ていた。
「あんたみたいなのを先輩と呼んだら、この世の全ての先輩方に失礼です」
「な・・・!?」
そこに、突如としてあの受付嬢が割り込んてきた。
「はいはーい。弱い者イジメとかいう無様な真似はやめてもらえますかクソ野郎?」
どうも見かねて助けにはいったらしい。
「な!?て・・・てめえ・・・」
男はプルプル震え・・・
「うらああああああ!」
いきなり俺の首を斬ろうとして剣をふって来た。
「「きゃああっ!?」」
店にいた女性従業員達が凄惨な情景を思い描いて悲鳴をあげる。
そして、首を剣が容易く切り裂き、血が飛び散る。
だが。
「・・・何でだよ・・?」
男は震える声で呟いた。
「何で首斬ったのに死なないんだよ!?」
俺の首の上に依然として頭は存在していた。
オートヒールにより、切られたそばからくっついていくため、死ななかったのだ。
「どういうことだよ!?クソッ、クソッ、クソッ!」
男は取り乱し、何度も俺を斬りさく。
だが、死なない。
「・・・そろそろいいか?面倒くさいんだけど?」
俺はだるくなってそう言った。
「ひっ・・・!?」
男はいつまでも死なない俺に怯えて後ずさった。
「ダルい。失せろ」
そう一言いって、殴り飛ばした。
キラーン。
男は夜空の星になった。
さて、フィーがとってくれている宿に帰ろうかなと思って歩き出した。
俺が出た直後に大騒ぎになったことは言うまでもない。
*
次の日。
俺は宿でゴロゴロしていた。
当面の生活費はあるからな。働かずとも生きていける。
そう思いながら久しぶりにダラダラしていると、扉がコンコンとノックされた。
・・・めんどいなあ。
そう思った俺は居留守を使うことにした。
「フウトー。居ないのー?」
どうもフィーっぽい。
フィーならば話は別だ。
「あいよー。今開ける」
扉を開けると、フィーが膨れっ面で立っていた。
「え・・・?どうしたの?」
「話があるんだけど?」
「ああ・・・どうぞ」
俺はフィーを中に入れた。
「今日さ、何で仕事受けないの?」
フィーは座ると、いきなり尋ねてきた。
「いや・・・金あるし?」
「だめだよ。そんなのじゃ。行こう?」
えー・・・面倒くさいんだけど。
「面倒くさいんだけど?」
俺は断る方向で言った。
「行こう?」
今度は上目遣いでフィーが言ってくる。
くっ・・・!卑怯な・・・!
「だが断る!」
おれはなんとか跳ね除けた。
あやうく屈するところだった。
「むー・・・ちょっと待ってて」
そう言ってフィーは隣の部屋に戻って行った。
数分後。
「ただいまー」
と言うフィーの声を聞いて、扉を開けると・・・
いつぞやの盗賊退治につかった衣装を着たフィーがいた。
フィーはそのまま中に入り、上目遣いで言った。
「行かにゃいのかにゃ?」
「行きます」
即答してしまった。
*
俺たちがギルドに入ると一瞬でしん、とした。
その変化にフィーは戸惑い、
「な、何にゃ!?ボク何かしたかにゃ!?」
ひどく狼狽している。
そこへ、受付嬢がやってきた。
「こんにちは。チーム猫まんまさんですね。ギルド長がお呼びです。こちらへどうぞ」
ちょっとまて。
「チーム猫まんまって・・・」
「ごめんにゃさい」
フィーが謝った。どうも勝手にチーム登録していたようだ。
「いや、いいんだけど・・・名前・・・」
「他に思いつかにゃかったんだよお・・・」
フィーは涙目で訴える。可哀想なので許した。
「イチャイチャしてないでとっとと来てもらえませんか?」
受付嬢は笑顔だが、心なしか頬がピクピクしているようにも見える。
「「すみません」」
二人で謝り、受付嬢についていって二階へと行った。
*
「お連れしました」
受付嬢が一際おおきい扉の前でそういった。
「入れ」
中からしゃがれ声が聞こえる。
「「失礼します」」
俺とフィーは中にはいった。
中は結構豪華な作りで、まず目に入って来たのはデカイ長机だ。
その1番奥には、王座みたいなつくりの椅子があり、そこにすごいヒゲの老人が座っていた。
「かしこまらなくていい。私がギルド長のクラウンだ。宜しく」
「新人勇者のフウトだ」
「ボクはDランク勇者のフィーです」
軽く自己紹介を終えて、本題に入った。
「さて。フウトくん。まずは礼を言おう。あやつは依頼を失敗ばかりする困った勇者だったのだ。それを追い出してくれた君には感謝しなくてはならないだろう。だが、君は昨日の戦いにおいて、首を斬られたと聞いた。それなのに生きているという事も・・・な。どういう事なのか説明してくれたまえ」
要するに、何で生きてんのかってことか。
ふと、隣をみるとフィーが何か言いたげな顔をしている。
・・・後で聞いておくか。
「ユニークスキルの効果です。スキル『オートヒールLv10』。斬られた瞬間から回復してくっついて行くので、死なないのです」
「ほう・・・凄いスキルだな。あやつが吹っ飛んだのは?」
「ただの攻撃力です」
「いくつだ?」
「覚えていません。覚えていられないくらいの値でした」
たしか無量大数を超えていた。
「ほお・・・ではなぜランクFなのだ?」
「鳴らなかったからです」
「ほお・・・。じゃあ、こっちで試してみるか」
そう言って取り出したのは水晶玉だった。
「これに触ると、強さによって光の強さが強くなる。触れてみよ」
触ってみた。
すると、カッと光り、割れてしまった。
「・・・」
「・・・」
「おお。やっぱりフウトは強いね。ボク何て足元にも及ばないよ」
俺とギルド長は余りのことに茫然としていた。
「・・・おぬし、本当に人間か?」
「・・・称号は人間やめましたでした」
俺もここまでのものだと思わなかった。
「これは・・・ランクの変更をしなくてはな
るまい・・・もう下がってよいぞ」
ギルド長はそう言って俺たちを解放した。