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EXECUTION!  作者: 弥塚泉
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 トールやオーディンたちと協力することになったその夜、二人は長家の一つを割り当てられ、布団を並べて敷いて寝ることになった。

「ごめんね」

 消灯し、もう後は寝るだけという段になって、フェリンは似つかわしくない声でそんなことを言った。

「謝る必要はない。夜崎に騙されたのは俺の責任だ」

「わたしのせいだよ」

「……責任のありかを議論しても仕方ない。お前はできることを確実にやることだけ考えていろ」

「でも…」

 レニエンスは困ったように言葉をつまらせたが、暗闇であることが彼を勇敢にさせた。

「どうしても気になると言うならはっきり言ってやる」

 はっきり言ってやると言ったわりになかなか口を開かない。が、勢いをつけるように一気に言った。

「俺とお前、二人の責任だ。だから二人でなんとかすればいい。一人で抱え込むから辛いんだろう。お前が持つその反対側は俺が抱えている。だから………元気を、出せ」

 レニエンスの言葉は震えていた。普段冷静な彼が気恥ずかしさに声を震わせながら自分を励ましてくれた、そのことがフェリンに温もりを与えて町の惨状を見て以降凍てついていた心を溶かし、悲嘆は涙となって頬を伝った。




 ミズガルズのはずれ。そそり立つ岩壁の上から荒れ狂う波を見下ろす二人。

「うっわー…超荒れてるよー」

 怖がっているのか面白がっているのか分からない台詞を言うのはすっかり元の調子を取り戻したフェリン・ディスペル。翡翠色の長い髪は風に飛ばされないようにいつもよりきつく縛ったバンダナをものともせずに暴れている。

「現実逃避はよせ。今回の戦いで一番の苦労役はお前だぞ」

 傍らで髪の代わりにコートを翻させているのはレニエンス・ビヘッド。紅い瞳は波の向こうを睨みつけている。

「うえー。やだなあ…レンくん代わってよ」

「お前…」

「準備できたぜ!」

 レニエンスの言葉をトールの威勢のいい言葉が遮る。

「いよいよだな」

「………」

「なんだ、さっきまでの元気はどうした」

「だ、だってぇ…」

 フェリンの固く握った拳は微かに震えていた。

「手を出せ」

 言いながらレニエンスは自分も手を差し出す。

「…?」

 恐る恐るといった感じのフェリンの手をがしっと掴む。

「俺にはまったく恐れがない。もしこれが勇気と呼ばれるものなら、お前にやろう」

 フェリンはしばらくポカンとして、くすっと笑った。

「レンくんってたまーに優しいよね」

 レニエンスは鼻を鳴らしながら赤い顔を逸らす。

「お前はすぐに調子に乗るからな」

「いつも一言多いんだから」

「で、いけそうか」

「うん」

 二人は黒い海に垂れた一筋の糸を睨みつけた。その先に括り付けられた牛の頭はしばらく荒波に揉まれていたが唐突に視界から消える。

「トール!!!!!」

 レニエンスの鋭い声が飛んだ。

「任せろ!ぅおおぁぁああああああ!!!!!!!」

 レニエンスたちのはるか後ろの滑車が激しい音を立てて回る。ヨルムンガンドを釣り上げるにあたって、てこの原理を利用したのである。トールの声がいくらか後方にいった時、ついにヨルムンガンドが現れた。無理やり釣り上げられたために激しく暴れるヨルムンガンドに向かってフェリンは目を閉じ、いつかのようにすぐに目を開けた。幻月であればヨルムンガンドの後ろにフェリンが現れるはずだったが、今回は違った。フェリンの後ろにヨルムンガンドが現れたのである。もちろん幻だから体の半分ほどが崖側に現れ、地面に埋まっている。しかしヨルムンガンドは正常な判断力を失っていたために、または単純に驚いたために動きを止めた。そこに走り込んだのはレニエンス・ビヘッド。彼は躊躇なく崖から身を投げ、ヨルムンガンドの腹に深々と剣を突き刺した。瞬間、ヨルムンガンドは力が抜けたように倒れていく。彼の一撃は必殺だった。



 ヨルムンガンドに与える決定打を考えた際、レニエンスは腹に一撃食らったという夜崎の発言を覚えていて、ミョルニルを渡した際に目撃したその古傷を利用することを思いついた。レニエンスには狙ったところを正確に斬る『精密斬撃』がある。しかし相手は人体とは比べものにならない巨大な蛇。その一太刀をさらに効果的なものとするためにミョルニルの精巧な模型をオーディンに作ってもらい、トールにそれを使って岩壁に打ちつけさせた後、その傷を分析して一番傷の深いところを検証した。そうすることで一番ミョルニルのダメージが残っているところを推測したのだ。

 そして使う武器はレニエンスの愛剣よりもオーディンの持っていた剣を借りて、少しでも破壊力を上げた。

 レニエンスの考えた作戦は辛うじて上手くいったらしい。大きな助けとなったのは誤算がなかったことだろう。トールがヨルムンガンドを釣り上げられなかったり、フェリンの逆幻月にヨルムンガンドが反応しなかったり、レニエンスが必殺の箇所に剣を突き立てられなかったり、どれか一つでも失敗していたらヨルムンガンドを倒すことはできなかっただろう。そう、誤算はなかった。






レニエンスがフェリンに黙って逝ってしまったこと以外には。

どうも。弥塚泉です。

前書きに続いて、ついにあとがきにも書くことがなくなってしまいました。

最終回まであとがきはお休みします。



あと2回、おつきあいください。

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