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どうも。弥塚泉です。
前書きの終わり際にいつも書いてるの。あれ、コピペじゃないですからね。
感想、評価、助言、等々、切実にお待ちしております。
それからまた一週間ほど経った頃。レニエンスは剣の手入れ、フェリンは相変わらず壁を削っていた。
「ねえ」
フェリンはいつものように口火を切った。
「脱獄しよ!」
「空耳が聞こえたようだな」
レニエンスは動じず、剣を研ぐ手も止めずに返す。
「違うよ!」
いきり立ったフェリンが鉄格子を鳴らす。
「わたし、ずっと考えてたの。あなたとわたし、協力出来るんじゃないかって」
「最近やっと夜に眠るようになってきたと思ったら、随分くだらないことを考えていたんだな」
研ぐ作業は終わったようで、傍らの白い布を取って刃を拭き始める。彼は剣に関しては神経質なところがあって、必ず研いでから刃を拭う。使う布もまさか使い捨てにしているわけではないだろうがいつもまっさらだ。
「くだらなくなんかない。ここから出たいって目的は私たち同じでしょ」
「そんなことは一言も言っていない」
「外の世界を見たいんでしょ?」
「お前は外に出ることさえ出来ればそれでいいのかも知れないが、俺の目的には金がいる」
「大丈夫だって。実はわたしの家には宝の山が…」
「そんな絵空事に付き合うほど暇ではない」
「なんで嘘って決めつけんの!?」
「お前の家はとっくの昔に家探しされている。そんなものが見つかったという報告はなかった」
「じゃあ、なにか他のもの!お金じゃなくて、なにか欲しいものはないの?」
「………」
「………」
「分からん」
「ちょっと!」
剣の手入れを終えたレニエンスは剣を納めていつもの場所に立てかける。
「急には思いつかない。思いついたとしても獄中のお前が用意できる報酬など高が知れているだろう。諦めろ」
「分からないじゃない。いいからちゃんと考えてよ」
「………」
椅子に戻ったレニエンスは腕と脚を組み、考え始めた。しばらくの間、壁を削る音だけが響いていたが不意にフェリンが手を止める。すると、夜明け前の外の廊下を靴が叩く音が近づいてくる。ドアが開くと大男が立っていた。その男、縦にも大きいが横にも大きい。背中に背負った大振りの斧が正面からは完全に隠れていたくらいだ。その巨体に違わず、監獄一の怪力を持つこの男の名はドミニア・ハック。この監獄の看守長を務める実質的な支配者である。レニエンスの真横まで歩いてきたドミニアは彼を見下ろすが、レニエンスはぼんやりと窓の外のわずかに白みはじめた空を眺めたままだ。
「レニエンス・ビヘッド」
「はい」
名を呼ばれてようやく立ち上がってドミニアに向き合う。返事も気怠げだ。ドミニアは言葉以外の全てで不機嫌を発散させつつ宣言する。
「そいつの処刑は明日の夜明けだ。準備を整えておけ」
「…はい」
ドミニアは不機嫌の捌け口を探すように鉄格子に近づいてフェリンを見る。フェリンはドアが開いた瞬間に顔を背けて眠ったふりをしていた。 フェリンの努力が刻み込まれた壁もすでにベッドの裏に隠されている。
「ふん…食事を摂っていないわりに元気そうじゃないか。やはり怪物か」
顔を隠していて良かった、と思った。平常心を保つのに苦労して変な顔になってしまったかもしれない。食事を摂っていない割に?今そう言った?でもわたしは今日までちゃんと三食食事を摂っている。どういうこと?まだドミニアが自分を見てなにか話しているが聞こえなかった。そうだ。思い返してみれば、いつも食事を持ってドアまで来る看守は「飯だ」としか言わない。あれは無愛想なだけではなく、日常的な行為だからだったのだ。確かに毎日々々「お前の飯を持ってきてやったぞ」と言うことはない。じゃあ……。
そんなことを考えている間にドミニアはいなくなっていた。声をかけられる。
「起きているか」
「うん」
身を起こしながら答える。
「話を、聞いていたか?」
「ごめん、ちょっと、ぼーっとしてて」
「お前の処刑は明日の夜明けだ。覚悟をしておけ」
「あっ…!」
その言葉で現実に引き戻される。その後の事実が衝撃的すぎて頭から飛んでしまっていた。
「どどどどどーしよう!?わたし、わたしどーなっちゃうの!?あわわわわわ」
「落ち着け!」
「………」
レニエンスの声で少し落ち着く。
「そ、そうだね。とととととりあえず餅つかないと」
「取り乱すなという方が無理か」
「でっ、出来るよ!ふーっ…ふーっ…」
おどけてオーバーに深呼吸してみせるフェリン。
「…うん、もう…大丈夫。今から頑張るから」
「なにをだ?」
「これしかないじゃない!」
そう言ってスプーンを掲げる。
「………」
「さっ、急がないと!」
フェリンはレニエンスに背を向けて作業を始める。
レニエンスも椅子に戻り、ぼんやりし始める。その目はフェリンに向いていた。
空が朱色に染まり始めたとき、レニエンスが口を開いた。
「生きたく…ないのか」
フェリンは振り向かない。
「なぜそんな可能性の低い方法を選ぶ?」
「そんなことない」
振り向かないまま答える。
「頑張ったら、出られるよ」
レニエンスの答えはなく、石が削れる音だけが響いていた。
まだバトルしません。バトルバトル詐欺で訴えられそうですね。次はバトルします。
あとがき、短いな。描写の補足しときますか。
これ以降出番のないシャンブルス隊長は白髪のイメージです。眼は赤で、アルビノっぽい。レニエンスの眼も紅いんですよ。ここ、『紅』ってポイントですよね。黒髪紅瞳ってかっこよいでしょう。ラノベにありがち?そうですか。
では、次回。