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EXECUTION!  作者: 弥塚泉
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どうも。弥塚泉です。

このシリーズでは北欧神話から名前を借りたり、キャラクターごと出したりしています。そういうものが苦手な方は作者の創作だということにして、物語をお楽しみください。

 雨の降りしきる森の中。ぼろぼろの女の子が倒れていた。彼女の着ているものはあちこちほつれて、左袖は肩から先が無く、服の色も地面と同じ色に染められているために、民族衣装のようなものとしか分からない。他に分かることと言えば、首から幾つかの勾玉を紐で繋げてネックレスにしたものを下げているということである。それだけは本来の翡翠色の輝きを放っていた。そんな少女を屈強な男二人が両脇を引き上げて無理やり立たせる。

「っ…!」

 怪我をしていることなどお構い無しに引き上げた痛さのためか少女が身じろぐのも周りを囲んでいる男たちは誰も気にしない。その中を一人の少年が進んでゆく。周りの男たちに比してひどく小さい印象を受けるが、彼は漆黒のコートを翻して、男たちが空けていくその進路を悠々と歩く。どうやらこの中では一番の権力者らしい少年が少女の前に立つ。

「離せ!!」

 途端、少女が叫ぶ。少年は表情を変えないまま答える。

「出来ん」

 その声には失望が滲んでいた。

「望むならば貴様自身で遂げるがいい。最強の狼、マーナガルムと呼ばれた貴様ならば容易いはずだ」

「私は…」

 言い返そうとする少女の言葉に被さる形で、周りの集団から男が一人飛び出しながら叫ぶ。

「シャンブルス隊長!この娘の母親は見つかりませんでした!この辺りにはもういないものかと思われます!」

「…」

 シャンブルスと呼ばれた少年は少しだけ力の戻ったような少女の顔をちらりと見て、部下たちに命令を下す。

「我々はこれで撤退する。目的は達成した。特別な力も持たないただの人間など放っておけばいい」

「隊長、その者は…」

「………」

 少年の目が少女に向けられる。が、思案していた様子の少年は急に笑みを浮かべる。その少年自身ですら気づかないほど小さく、悪戯を思いついたような無邪気な笑みを口の端に現して、少年は言う。

「ギロチンに送れ」

 そして、先ほどとはすっかり色の変わった少女の顔を見る。 「精々頑張ることだ。フェンリルの娘」




 少女は寝ぼけ眼のまま身を起こす。

「嫌な夢だったな…わたしが変な奴に捕まって、ギロチンに送られるなんて…」

「夢ではない」

「ひゃあっ!?」

 少女は文字通り飛び上がって驚いた。驚いた拍子に意識が覚醒する。堅い床。灰色の壁。自分の目の前の鉄格子。着ている服はいつの間にか横縞のつなぎになっている。逆につくりものではないかと思わせるほど『監獄』としか言いようのない環境の向こう側に人間がいた。あの夜、自分を取り囲んでいた男たちと同じ真っ黒な軍服のような服装をしていて、雰囲気も自分を監獄に送ったあの少年に似ているが、彼の場合は黒髪であることも手伝ってまるで影のような印象を受ける。しかし目の前の少年は椅子に座ったまま、こちらには目を向けずに身じろぎもしない。 この監獄とは別の意味でつくりもののような生気が感じられない少年だった。あまりにも我関せずなその態度に先ほどの声は幻聴で、もしやこれは人形ではないかと場違いな不安を抱きつつ声をかけてみる。

「あなたは誰?」

「看守だ」

 こちらに目を向けないまま少年は答える。どうやら生きている人間らしい。もっとも少女としては自己紹介的なものを期待していたのだが、現状はそれだけわかれば充分かと思い直して質問を変えることにした。

「ここはどこなの?」

「監獄だ」 

あまりにも見たままの返答に呆気にとられる。こちらが話しかけているというのに初めの状態から姿勢を全く変えないところを見ると、どうやら少年はよほど話をしたくないらしい。かなり具体的に質問をしなければ会話は成り立たなそうだ。とにかく少しでも周りの情報が欲しい少女は覚えている限り最新の記憶をたぐり寄せる。

「あの…」

「………」

「わたし、ギロチンに送られるって聞いたんだけど」

「………」

 はっきり疑問文で聞かなければいけないようだ、と少年との会話の新たなコツを掴みつつ話し続ける。

「見たところそれらしいものは見当たらないんだけど、それって何かの暗号なの?」

「俺だ」

「え?」

 思わず間の抜けた声しか出なかったが、少年もさすがに説明を足してくれる。

「俺はギロチンと呼ばれている」

「ギロチンって…断頭台のギロチン?」

「ああ」

「どうしてそんな風に呼ばれてるの?」

 少年は横目ながらようやくこちらを見る。

「俺の名はレニエンス・ビヘッド。貴様の処刑人だ。方法は斬首」

「………」

 今度は声も出ない。

「なんで?」

 しばらくしてやっと声が出る。

「わたし……殺されちゃうってこと…?」

「フェリン・ディスペル」

 名を呼ばれ、少女は無愛想な処刑人の顔に焦点を合わせる。

「罪状、記載なし。特記。外見はただの人間だが正体は伝説の怪物狼フェンリルの娘、ハティ・フローズヴィトニルソン。最強の狼、マーナガルムと呼ばれるほどの実力は成長過程ゆえにまだ完全には発現しておらず、早期の対策が望まれる」

「それ……」

「俺が受けた貴様についての報告だ。近いうちに俺を使うだろうという連絡と一緒によこした」

「わたしが化けものだからってこと?」

「そうだろうな」

「わたし…わたし、死にたくない!」

「死にたくて死ぬ奴などいない」

「………」

 その日のうちにはもうどちらも口を開かなかった。




 フェリンが監獄に連れてこられてから一週間、フェリンは自分がどうすれば生き延びることが出来るかだけを考えていた。しかし、そう簡単に上手い考えなど思いつくはずもない。とりあえず何もしないよりは、と思いほとんどの時間を食事についてくるスプーンで壁を削ることに費やしていた。

 その日も昼食を済ませてからは黙々と壁を削っていたが、他にやることもないのでレニエンスに話しかけてみることにした。

「ねえ」

「………」

 まず呼びかけて会話をしたいという意志を伝えるというのはその後発見した彼との会話のコツだったが、呼びかけてから質問を考えていなかったことに気づく。けれど、レニエンスの姿を見ると口が勝手に動いた。

「あなたはずっとなにを考えてるの?」

 レニエンスはいつもなにかを思案している。鉄格子の前の椅子にじっと座っているが、フェリンのことを監視するでもなく(というかフェリンの方を見てすらいない)、事務仕事をするでもなく(というかフェリンが知る限りこの一週間の間に仕事らしきものは一切していない)、ただ椅子に座ってぼんやり何か考えているようなのだ。フェリンがスプーンで壁を削るという明らかな脱走の意志を見せたときも何の反応もなかったし、思えば初対面のときからずっとそうだったから無意識のうちに少し気になっていたのかもしれない。なにか壮大なことを考えているのかと思いきや、彼の答えは簡単だった。

「世界のことだ」

 だが簡単すぎて分からない。問いを重ねることにした。

「この監獄のこと?それとも外の広い世界のこと?」

「外の世界のことだ」

「…ここから出たことないの?」

「この町のことなら知っている。俺が見たいのは俺が見たこともないものだ」

 これまでこんなに会話が続いたことはなかったので、フェリンもつい口が軽くなる。

「だったら旅にでも出ればいいのに」

「旅には金がいる。俺には金になるような特技はない」

「なにかあるでしょう」

「………」

 レニエンスは黙り込んでしまった。急に黙ったのは気になったが、フェリンも特に意図があって話しかけたわけでもなかったので壁削りを再開した。



「飯だ」

 鉄格子の向こうのドアが開く。そこからいつものようにレニエンスが別の看守から受け取った昼食を運んでくる。が、食事の乗ったプレートを置いてもその場から離れない。フェリンが尋ねる前にレニエンスが口を開く。

「それの」

 と言って、プレートの上のバナナを指さす。

「適当な部分に印を付けろ」

「どうして?」

「俺の特技を見せる」

 先ほどの話だと気づくのに少しかかった。フェリンはそのときまですっかり忘れていたが、レニエンスは覚えていたらしい。無愛想な態度に似合わない律儀さに少し親しみを覚えながらバナナの皮のちょうど半分あたりに爪で線を刻んで、レニエンスに渡す。

「いいや。そのまま持っていろ。ただし」 しかしレニエンスはそれを受け取らず、フェリンが鉄格子越しに縦にして掴んでいるバナナを見ながら言う。

「絶対に動かすな」

 え?と思う間もなくバナナの上半分が滑り落ちた。なにが起こったのか分からないフェリンの前にレニエンスはバナナの上半分をぶら下げる。 その切れ目は彼女が爪で付けた印を綺麗になぞっていた。

「これが俺の特技だ。狙った場所に正確に斬撃を刻むことが出来る。『精密斬撃プリサイズ・カット』などと呼ぶ奴もいるが」

「でも、これは何かに役立ちそうな気がするけど」

「これを使うには一つ、条件がある」 レニエンスは剣を壁に立てかけて再び椅子に座る。そういえばいつの間に剣を手にしていたのだろう。

「対象が動かないことだ」

「だからだめなの?」

「動くものでも斬れるならばガードマンの職があるだろう。だが、相手が動くのでは正確な斬撃にはならない。そして俺にはこの技のほかに誇れるものもない。果たしてこの技だけで旅の資金を稼げるかと言えば…NOだ」

「………」

 今度はフェリンが黙り込む番だった。レニエンスも椅子に座って思索に戻る。二人が出会った日とは、どこか違った沈黙がおりていた。

登場人物の名前の話します。

別シリーズ『華麗なる日々』は短編集なので主人公変わるたびにやってます。

私はこの話題がないとあとがき書けないのでしょうか。


ともかく。


この『EXECUTION!』に限らず、私の作品に出てくる外国風の名前はみんな、英語の辞典で見つけた単語をくっつけただけなんですよね。

なぜなら名前をどうやって考えたらいいか分からないから。

適当にカタカナを並べるのも怖いですし単語を使ってるんです。

外国風の名前の考え方を誰か教えていただきたいです。ご存知の方は是非ともお願いします。弥塚の作品が英単語帳になる前に。

まあ単語の意味とキャラは割と近いんでこれもアリかな、とは思いますが。



予想外に長くなってしまいました。

『EXECUTION!』をよろしくお願いします。

では、次回。

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