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五十の音  作者: 麻野 繊維
2/2

い こい



私は、疲れたのだ。

日本語の通じないクレーマーへの対応に、

全く役に立たない責任転嫁が得意な上司と、

同じく役に立たない頭でっかちの部下。

全くうんざりする。

それからこの「私」であることにも。



私の取り柄は、真面目であること。

外見は地味、性格も明るくはない。

仕事はしっかりこなすが、会社では仲のいい奴なんて一人もいない。

黒い髪をひっつめて、毎日毎日仕事。

「もううんざりよ」

口に出して言うと、さらにうんざりしてくる。

じんわり目頭まで熱くなってきた。視界が滲む。

泣いたら負けな気がして、ぐっとこらえて深呼吸をする。

「はぁ……」

少し落ち着いたところで、今日の新聞に挟まれていた広告を見る。

スーパーの安売りやパチンコ屋の宣伝の広告に交じって、

手書きの小さな広告を見つけた。

「なにこれ?」


”毎日の生活に疲れたあなたに!

最高の癒しを提供いたします!!

癒しをお求めの方は下記の番号までお電話を”


「怪しすぎるわね」

住所や会社の名前は一切書いていない。

書かれているのは宣伝文句と電話番号のみ。

「まずサービスの内容がなんなのかもわからないし」

私は次の広告を手にとって、ぼんやりと眺める。

本当に、疲れた。

こんな地味な私でいたって、なにも面白くない。

あんな会社で働くのも、疲れた。

こんなに疲れているのだ。

怪しかろうが、なんだろうが、試してみたって

これ以上悪くはならないだろう。

非常に馬鹿馬鹿しい考えが頭に浮かぶ。

一度テーブルに置いた広告を、もう一度手に取る。

携帯電話で、書いてある番号にかける。


プルルルルル

プルルルルル

プッ

「お電話ありがとうございます。

あなたに癒しを提供いたします」


出た……


「あの、広告を見てお電話したのですが、」

「はい。分かっております。それではこれより

癒しの世界へとご案内いたします」

「え!?ちょっとまって!……!」

ツー、ツー、ツー……

「切れた……」

しかし何も起こらなかった。

「ふ、あはははは」

笑ってしまう。

何を真剣になっていたのか。

こんなのいたずらに決まっている。

「でもなんか、ちょっと気が軽くなったわ」

久しぶりに自然に笑った気がする。

「癒しかは分かんないけど、かけてよかったかも」

今日はいい夢が見られそうだ。





そうして、久しぶりに健やかな眠りに就いた私が目を覚ますと、

全く知らないお花畑で目覚めるのは、もう少し後のお話。


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