あ さに
さわやかに目を覚ましたい。
そう思い続けて早三年。今もその願いは、叶っていない。
原因は分かり切ってる。
「けんちゃん。お、は、よー!」
こいつのせいだ。
「……」
「あれあれ、元気がないぞー?もう一回いってみよう!せーの!」
せーの!に合わせて、枕を思いっきり投げつけてやる。
「ぶひゃん!」
なんて不細工な声だ。これが十年来の幼馴染、それも女だとは信じたくない。
「うるさい。来るなって言ってるだろ」
「痛いよ。ひどいよ」
「お前が悪い。二度と起こしに来るな」
「!やだぷー!!」
「きもい」
そう。毎朝こんな感じで、一日が始まるのだ。たまったもんじゃない。
それにいくら幼馴染だからって、勝手に寝ている息子の部屋へ人をあげる、母の気がしれない。
「ほらほらー。学校行くよ。着替えてご飯食べて!」
「わかってるよ。うるさいな」
全く。俺は朝が弱いが、目覚まし時計があれば起きられる。
こんなことされなくたって、朝起きられるんだ。
もう我慢の限界だ。高校に入って学校が別になったと思ったら始まった、
この迷惑な行為を終わらせてやる。
「おい。まじでうざい。もう本当にやめてくんない?迷惑」
ちょっときついかな、とも思ったが優しく言って伝わらないのは困る。
ちらり、と顔を見る。
「お、お前、その顔」
すげー怖い!!!なんだ、今まで隠してたのか。そんな怖い顔。
親が怒る時の数倍怖いぞ!
「……わかった」
そう言って幼馴染は出ていった。
怖い顔の割に、手は出してこなかったなと、ホッとした。
夜、俺はいつになくうきうきしていた。
三年間待ち望んださわやかな朝が、ついに!実現するのだ。
「おやすみ」
電気を消して目を閉じる。そうしてすんなりと、眠りに落ちた。
ピ!ピ!ピ!ピ!ピピピ
「あー」
朝だ。目覚ましを止めて、伸びをする。平和だ。
これこそ俺が求めていた、さわやかな朝だ。
なのに、
「なんだよ。物足りないなんてさ」
悔しいことに、いや、何の気の迷いだか知らないが
三年間の日々は、俺を変えてしまったようだ。
「しかたねぇ」
俺は、着替えだけ済ませて階段を駆け降りる。
朝が苦手な俺にしてはなかなかの行動力だと思う。
「けんちゃぁん。朝ご飯はぁ?」
「食べる!すぐ戻るから!」
「はーい」
のんきな母親の返事をききながら玄関のドアを開ける。
俺の幼馴染はきっと驚くだろう。
三軒隣なのに、走ってきた俺の姿を見たら。
あと、十歩ほど。少し緊張しながら、足を進める。
この、物足りないくらいさわやかな朝に。