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五十の音  作者: 麻野 繊維
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あ さに

さわやかに目を覚ましたい。

そう思い続けて早三年。今もその願いは、叶っていない。

原因は分かり切ってる。

「けんちゃん。お、は、よー!」

こいつのせいだ。

「……」

「あれあれ、元気がないぞー?もう一回いってみよう!せーの!」

せーの!に合わせて、枕を思いっきり投げつけてやる。

「ぶひゃん!」

なんて不細工な声だ。これが十年来の幼馴染、それも女だとは信じたくない。

「うるさい。来るなって言ってるだろ」

「痛いよ。ひどいよ」

「お前が悪い。二度と起こしに来るな」

「!やだぷー!!」

「きもい」


そう。毎朝こんな感じで、一日が始まるのだ。たまったもんじゃない。

それにいくら幼馴染だからって、勝手に寝ている息子の部屋へ人をあげる、母の気がしれない。

「ほらほらー。学校行くよ。着替えてご飯食べて!」

「わかってるよ。うるさいな」

全く。俺は朝が弱いが、目覚まし時計があれば起きられる。

こんなことされなくたって、朝起きられるんだ。

もう我慢の限界だ。高校に入って学校が別になったと思ったら始まった、

この迷惑な行為を終わらせてやる。

「おい。まじでうざい。もう本当にやめてくんない?迷惑」

ちょっときついかな、とも思ったが優しく言って伝わらないのは困る。

ちらり、と顔を見る。

「お、お前、その顔」

すげー怖い!!!なんだ、今まで隠してたのか。そんな怖い顔。

親が怒る時の数倍怖いぞ!

「……わかった」

そう言って幼馴染は出ていった。

怖い顔の割に、手は出してこなかったなと、ホッとした。


夜、俺はいつになくうきうきしていた。

三年間待ち望んださわやかな朝が、ついに!実現するのだ。

「おやすみ」

電気を消して目を閉じる。そうしてすんなりと、眠りに落ちた。





ピ!ピ!ピ!ピ!ピピピ

「あー」

朝だ。目覚ましを止めて、伸びをする。平和だ。

これこそ俺が求めていた、さわやかな朝だ。

なのに、

「なんだよ。物足りないなんてさ」

悔しいことに、いや、何の気の迷いだか知らないが

三年間の日々は、俺を変えてしまったようだ。

「しかたねぇ」

俺は、着替えだけ済ませて階段を駆け降りる。

朝が苦手な俺にしてはなかなかの行動力だと思う。

「けんちゃぁん。朝ご飯はぁ?」

「食べる!すぐ戻るから!」

「はーい」

のんきな母親の返事をききながら玄関のドアを開ける。

俺の幼馴染はきっと驚くだろう。

三軒隣なのに、走ってきた俺の姿を見たら。

あと、十歩ほど。少し緊張しながら、足を進める。



この、物足りないくらいさわやかな朝に。


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