夢の中
あり。
気がついたら、変なところにいた。
色とりどりの花が咲いている、庭園だ。美しい、という言葉がピッタリなくらい、綺麗なところだ。
っていうか、あれ。
なんで私、こんなところにいるんだ?私たしかにベッドに入って寝たよね。明日誰を攻略しようと考えながら…。
あ、そうか、これは夢なのか。
なるほどなるほど、納得だ。
それにしても本当に綺麗なところだなぁ。こんなところが夢にでるなんて、良い夢だなぁ…。
ぼんやりとそう思ってると、足音が聞こえた。なんだか、急いでるみたいだ…。
音の方を向くと、どこかで見たことのある顔だ…。
優しげな顔立ちに、翡翠色の瞳の、中性のヨーロッパ風の服…って、
『ああっ!私が前に転んだときの青年!って、あれ…』
今私、声だしたはずなのに、出なかった。そろどころか、
「どうしたの、そんなに急いで」
別の言葉が私の口から出た。
なにこれ…私の声のはずなのに、私の声じゃないみたいな…。
戸惑う私をよそに、目の前の青年は少し怒ったような様子で口を開く。
「どうしたの、じゃありません!貴女様を探しに来たのですよ!」
「そうなの?なにかあったのレイン」
青年は名前はどうやらレインというらしい。
レイン…はのんびりとした私の言葉を聞くと、毒気を抜かれたように、ハアと大きくため息をついた。
「あのですね、貴女様はいつも騎士をつれていないと駄目な身分なんですよ?刺客がいつ現れるとは限りませんからねっ。分かっているのですか!?」
「あぁ…そのこと。大丈夫よ、私だって戦えないわけないし」
「………」
私がそう答えると、レインは苦い顔をした。
というか、今刺客とかいうすごい物騒な言葉が聞こえた気がするんだけど…。
「あのですね…そういう問題ではないんですよ…」
「えー、でもさすがにお風呂とかまで一緒にいるのはなぁ…」
「おふっ…」
一気に顔を赤くしたレイン。まるでトマトのようだ。…ちょっと可愛いかも…。
ぼんやりとそう思っていると、レインはあのですね、と明らかに怒りを圧し殺しているであろう声音でしゃべる。
「貴女様は本当に…」
そこで言葉を切り、再びため息をつく。
そして、次に声をだした時には疲れはてたようなものに変わっていた。
「まったく…本当に貴女様という人は…」
「あ、でもどうしてもというんだったら、レインについていてもらいたいな」
「……え?」
「お風呂とか、そういうの!」
…私は意味分かって言っているのだろうか…?
「…」
ああっ、ほら変なこと言うから彼固まっているじゃないか!
しかし、私であり私じゃない誰かはクスリと笑った。なぜか、悪戯が成功した子供のような、そんな気分だ。
「なーんて、ね。冗談よレイン」
クスクスと、私の口から笑い声が漏れる。
レインの顔は、みるみると真っ赤になっていく。そして、
「し、シセリア様あぁぁっっーーー!!」
レインの絶叫が響いた。
そこで、夢は終わった。
目を開くと、見慣れた自分の部屋の天井。
時計を見ると、いつも起きている時間帯だった。
「リアルな夢だったなぁ…」
思わずぼんやりと呟いてしまう。
本当にリアルな夢だ。最後は私、シセリア様とか呼ばれていたし。
…変な夢だったな。本当に起こっているのを体験しているような、そんな夢だったな。
……。
「あ、時間…!」
やばい、ボーッとしてたら結構時間経ってた…!
私は慌てて準備をして家を出た。
残念ながら、朝食を食べている時間はない。パンを食べながらいきたいところだが、昔それをやった父がパンにつけたジャムでスーツを汚してしまい、大事な会議にみっともない姿ででてしまい上の人から怒られた、という体験談を聞いていたので、実行することに抵抗がある。
家を出ると、いつも家を出る時間よりも遅くなってしまった。
「間に合うかな…」
「走ればギリギリ間に合うだろう」
「そっか、なら大丈夫かな…って、え!?」
独り言に返事が返ってきたことに驚き、声の方向を見ると、意外な人物がいた。
「風斗!?」
名前を呼ぶと、彼はぶっきらぼうに、おはようと言った。
「あ、おはよう、じゃなくて、どうしたのこんな時間に出るなんて。いつももっと別の時間に出てなかった?」
いつも私が出る時間に会うから、てっきりもう行ってたと思ったんだけど…。
風斗は誤魔化すように目をそらし、少し何かを考える間をおき、それからポツリと言う。(もちろん走りながらだ)
「…宇宙人に連れ去られていた」
「宇宙人!?」
なんかすごいことに巻き込まれてた!?
「それで…ちょっと宇宙救ってて…」
「なんで宇宙人に連れ去られて宇宙救う流れになった!?」
「ええと…『YOUちょっと宇宙救ってくれYO!』って言われて…」
「軽いっ!ノリがすごく軽いっ!」
「それで、ちょっと魔王倒してきました」
「なんかRPGっぽくなりましたが!?」
「で、そっから宇宙船を奪って帰ってきました」
「うん、すごい壮大なことやったきたんだね君!」
なんか幼なじみがすごすぎて怖いです。
とかなんとかやっているうちに、学校に着く。辺りには生徒もまだいて、チャイムがなった様子はまだなさそうだった。
そこで、風斗が視線を私からそらしながら、そして申し訳なさそうに呟く。
「まあ、嘘だけど…」
「まあ分かっていたけどね…」
本当だったら怖いわ。
「…っていうのも、嘘」
「…へ?」
「ちなみに、今のも嘘。というのも、嘘」
「え、ちょ…」
混乱して訳が分からなくなってきた…!
風斗は、そんな私を見てクスリと笑い、
「早く行くぞ、遅刻する」
「…うん」
なんだか、すごく懐かしい気がした。
昔はよくこんな会話してたなぁ…。
その時々で、からかう側とからかわれる側が違っていたけど…。
その時、ふと頭に今朝の夢が浮かぶ。
シセリアと呼ばれていた私と、レインという青年。
なんだか、二人の会話って今の私たちの会話と似ていたような、そんな気がした。
、
ここで一応第一章は終了です。
次回から、物語は急展開!!するかどうかは分かりませんが、引き続き恋愛日常!を読んでいただければ嬉しいかぎりです。
誤字や脱字などを発見しましたら、ご報告していただけると助かります。大助かりです。
それでは、恋愛日常!を引き続きよろしくお願いいたします!
雪村空斗