漫画みたいな展開ってだれもが夢見るよね
「好きだ!付き合ってくれ!」
人生初。
私、告白されました。
クラスメイトたちの前で。
「羞恥プレイ!?」
だから、思わずこんな言葉を叫んでしまっても仕方がないよね。
「っていうか、あれ…冗談…だよね?」
「本気だよ。俺は本気で、君が好きだ。例え世界が終わっても、君を愛する自信がある!」
「随分重い告白だねっ!?」
「俺と付き合ってくれたら飴あげるよ?」
「それで私がオチるとでも!?」
「え…!?」
「なにその驚いた顔!まさか本当にそれでオチると思ってたの!?私そんな軽い女じゃないよ!?」
「仕方がないな。じゃあチョコレートもあげるよ」
「そういう問題じゃないけど!!それ以前の問題だけど!?」
「安心して、愛はちゃんとあるから」
「君だけね!君だけ愛あるから!一方通行だからその愛!!」
私はぜえぜえと息を切らす。
そうしながら、今目の前にいる、たった今告白してきた男を睨み付けるように見る。
水無月泉。
スラリとした華奢な体型の上、ハーフらしいサラサラかつ少し長い金色の髪。中性的な顔でもあるため、少女みたいな、青年だ。
そもそも、何故こんな公衆の面前で告白されるようなことになったのだろうか。
私は、今朝の出来事を思いだし始めるまる。
今日はお弁当を作っていたためか、いつもより少し遅めの登校となってしまった。とはいえども、ゆっくりと歩いても間に合うほどの時間はちゃんとある。
そして、いつも通りのペースで登校し、教室に入ると、
「すーずかぁーっ!!」
舞ちゃんが抱きついてきた。
「どうしたの、朝っぱらから暑苦しい」
「うんサラリとひどいこと言うのやめようか。それより聞いてよ!昨日やったゲームの攻略相手の一人のバッドエンドに間違えていっちゃってさぁ」
バッドエンドとはいわゆるゲームオーバーといったやつだ。
大抵の乙女ゲームのバッドエンドというのは、その名の通り主人公が死んじゃったりとか、まあそういったていで普通のゲームのバッドエンドとそう変わらない。
ただし、悲恋エンドというのはバッドエンドとは微妙に違かったりする。とはいっても、微妙、であるからバッドエンドではあるんだけど…。
まあそこらへんは、ゲームごとに違うからね。色々あるんだようん。
「それで、そのバッドエンドがどうしたの?」
「なんと、攻略相手がヤンデレ化したのだよワトソン君」
「私ワトソンじゃないけど!?」
「しかもその相手、今までずっと優しい好青年ってかんじだったから、怖さも相当なもので…」
ブルル、と舞ちゃんが体を震わせる。
普段温和な人が怒るとものすごいみたいな、そんなかんじで怖くなったのだろうな。それにしてもヤンデレ化って…。
「しかも最後主人公むごい死に方しちゃうし…」
「むごい死に方?」
「ピーーーってなってピーーーってなって死ぬの」
「ぐろっ!!?え、なにそれ!なんか今一瞬バイ○ハザードを思い出したよ!?っていうかテレビとかだったら規制されるようなレベルじゃないそれ!?」
「しかもその後夢に出てきたし。殺されてたし…。…鈴香ちゃんが」
「私っ!!?私が殺されてたの!?」
「ごめん、実はそのゲームの主人公の名前、鈴香ちゃんの名前にしてたんだ」
「やめてくれないかな?人の名前勝手に使うの!!」
なんか、私まで夢に見そうな気がしてきたんだけど…。
うわー…と朝からテンションが下がっていると、舞ちゃんが「そういえば」と唐突に話し出した。
「知ってる?今日転校生が来るんだって」
「…転校生?」
「うん。なんかみんなそれで今朝から噂しててさ。なんでもその転校生、七歳まで無人島でひとり暮らししてて、三回留年してて女装趣味の男性で冬の富士山に素っ裸で登って無事生還して、さらには幼馴染やら姉妹クラスメイトの委員長や生徒会長、さらには義理の(夫を亡くした)母親までもを入れたハーレムを作ることに成功したんだって!本当かな」
「嘘でしょそれ!!絶対嘘でしょ!!本当だとしたらどんだけすごい人生なのよ!小説とかにできそうだよそれ!!」
なんか噂にすごい尾ひれついてる!
っていうか、そんなに尾ひれつくってすごいね、つきすぎにもほどがあるでしょ。
「あ、でもでも、カッコイイことはたしからしいよ!」
「ってことは、男なのか。…それにしてもカッコイイかあ」
カッコイイ幼馴染(ほとんど接点ないが)がいるせいか、あるいは二次元男子ばかり見てきたせいか。
カッコイイ悪いがよく分からなくなってきたんだよなぁ。
そんな私でも分かるほどのかっこよさなのだろうか、その人は。
まあいいや。とにかく、新しいゲーム探しでもしてよ。ネットで。
そんなわけで、あっという間に朝のホームルームの時間。
「んじゃまあ、早速だが転校生を紹介するぞ、水無月、自己紹介しろ」は
担任の女教師の花園先生(三十路前らしいが美人なため二十代前半に見える彼氏募集中の独身)が、隣にいる男子に紹介を促す。
「えっと…父の転勤でこちらに引っ越してきました水無月泉です。どうぞよろしく」
ふむ、たしかにカッコいいな。いや、どちらかというと可愛い系かな。
華奢な体つきといい中世的な顔立ちといい、金色の髪といい、女装したらそこら辺の女の子よりも可愛いんじゃないか…って、金色の、髪?
染めたようには見えなかった。それにしては綺麗すぎた。
周りのクラスメイトたちも彼の綺麗な金髪に気づいたのか「外国人?」「でも名前は思いっきり日本人だよな」と囁きあっている。
そんなクラスメイトたちの疑問に答えるように、彼水無月君は笑顔で説明した。
「母親がイギリス人で父親が日本人のハーフなんで、この髪は地毛です。染めたわけではないんで」
なるほど、ハーフか。
周りも納得いったようで、「ああ…」「ハーフかぁ」「かっこい~」「Mっぽい顔ね…フフ」ということなどを言っている。…誰だ今水無月君に対してSっぽい発言した奴。女子か?女子なのか?
「じゃあ水無月、お前は窓の方の席の…あそこだ」
「はい」
水無月君は軽く頷いて、先生が指差した席へと向かう。
その途中。
「…あ」
「…?」
水無月君と目が合い、彼の動きが止まった。
首を傾げていると、水無月君は驚いた表情でしばらく私を見つめ、
「どうした水無月」
「…あ、いえ…なんでも」
戸惑いがちにそう答え、席に座った。
一体なんなんだろうか。水無月君の行動に疑問を持ちながら、その日の授業は終わった。
そして、帰りに事件が起こったのだった。
さようならと礼をして、さっさと教室を出る者や友達にさよならを言う者と、様々な教室。
私は教科書類を入れた鞄を肩にかけ、さっさと帰ろうとする。
今日も何事もなく平和だった。
転校生が来たからといって、漫画みたいなキラキラの展開も何もなかった。いつもどおり舞ちゃんとゲーム話で盛り上がったよ。
…あ、そういえば舞ちゃんどうしたんだろ。もう先に帰っちゃったかな。
「天原、さん」
「あ、水無月君」
のんびりとしていると、水無月君が何かを決心したような、やたらとシリアスな表情でそこにいた。
どうしたんだろうか、と思っていると彼は真っ直ぐ私を見つめながら言った。
「好きだ!付き合ってくれ!」
かくして、物語は冒頭へと戻るのであった。
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