間奏~遠き日の夢~
「鈴香ちゃん、今日は、なにして遊ぶ?」
「えっと…鬼役が包丁持って追いかける、まじこわ鬼ごっこ!」
「…ねえ、それごっこじゃすまないよね。というか、危ないよ」
「ちなみに逃げる人は三発たまが入った銃を持つことオッケイ」
「きゃっか!」
ああ、これは夢だ。
幼い頃の、まだ彼女を全然意識していない頃の夢。
彼は、彼女の家の子供部屋のすみっこの方から、第三者として幼き日の自分と彼女の会話を、見て、聞く。
「じゃあ、あーるぴーじーごっこは?」
「あーるぴーじーごっこ?」
幼い自分が首をかしげると、彼女はお父さんが教えてくれたんだけどね、とあーるぴーじーごっこというのを教えてくれる。
「まず、世界に魔王が復活するの」
「うん、なんかそうだいなものになる予感がするよ。それで?」
「そんで、私たちはその魔王を倒しに行くんだ」
「…つまり、魔王を倒すまでの過程をやるってこと?」
「そ。私は勇敢で勇ましい設定で」
そんで、と彼女は幼い自分を指さす。
「クールで無口な設定」
「わあ、なんかカッコイイねそれ!」
「でしょ?ちなみに、眼帯つけてんの」
「そうなの?」
「うん、それで時々眼帯つけてる目を押さえて『くっ…おさまれ…!』って言ってるの」
「なんかすごい過去背負ってそうな設定なんだけど!?というか、その役なんかイタよ!?」
「ある村に着いた時にボロボロになった家を見てこう言うの『あの頃は楽しかったな…』って!」
「なんか重い!!」
「それで魔王と戦うときに『両親の仇をとらせてもらう!』って」
「殺されてた!両親魔王に殺されてた!」
「しかし魔王の圧倒的な力を前に、二人は倒れる。そして彼は倒れた私をかばうかのように立ち『お前を…殺させはしないよ』と言って眼帯をはずして魔王を弱体化させる。その隙に私は魔王に止めをさし、彼のもとに駆け寄ると『実はこの力を使うと俺は死ぬんだ…だけどお前は…俺のことなんか気にせずに…生き、ろ、がくり』」
「死んだああぁぁぁ!!!!」
「そのご私は彼の立派なお墓をたて、彼を英雄として祭り、最後は天国の彼へと向けた手紙でしめる」
「なんか感動的だ!いいね、その話!」
「ちなみに手紙の内容は『私…君のことを絶対に忘れないよ。…君が死んでくれたおかげで、姫様は私と結婚してくれたのだからな…クックック」
「感動的なのが台無しだあぁっっ!!え?なにもしかして黒幕!?黒幕とかそういうのだったりするの!?というか男設定だったんだね!!」
全力でつっこんでいた幼き自分は、ぜえぜえと肩で息をしていた。
一方彼女は、楽しそうだった。
何度も頷きながら「これ本にしたら10億万部の売り上げも夢じゃないな。それで、ゆくゆくはゲーム化にアニメ化…」と呟き始める。
「っていうか、鈴香ちゃん、それじゃあごっこの意味ないよ。別のやつにしよう?騎士ごっことか」
「えー、でもそれじゃあまた私がお姫様の役でしょ?助けを待ってるだけじゃつまらない」
「じゃあ雑魚キャラの役もやっていいよ」
「それ妥協したつもりなの?」
「でも鈴香ちゃん、お姫様がいないと騎士はただの劍持ってる人だよ?」
「じゃあ、私が騎士の役する!それで、君がお姫様の役!」
「男が姫役やってどうするの。いいから鈴香ちゃんはお姫様の役やって!僕が必ず、必ず助けるから!」
彼女は若干不満げだったが、しばらく考えた末わかったと頷いた。
そしてその代わりと人差し指を幼い自分に向ける。
「絶対に助けに来てよね?中断はなしだよ」
「うん、分かってる!」
「じゃあ、始めよっか、風斗」
久々に名前を呼ばれた気がした。
もう数年もまともに会話してないせいか、たとえ夢のなかだとしても、名前を呼ばれるのを嬉しく思った。
そこで、如月風斗は、目を覚ました。
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