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恋愛日常!  作者: 雪鈴空斗
第二章 夢と今
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水青年の謎


 ヒントはもらったはいいけど、一体どこをどう考えれば答えにたどり着けるのだろう。先輩は想像力をひろげろとか言ってたけど、正直言ってちんぷんかんぷんだ。

 想像力は生憎あまり得意なほうではない。小説内でキュンとしたシーンの絵を思い浮かべたり、台詞を見て好きな声優さんの声でそういってもらうという面での想像はこれ以上にないほど得意だが…これって想像というより妄想に近いな。というか妄想だな。うん。


 お弁当を持って歩いて向かうのは、人が滅多に来ないといわれている裏庭。

 あそこなら一人でゆっくりと考え事ができると思ったからだ。でも、告白とかしてたら無理だな。人気がない=告白スポットだし。

 裏庭はほとんどの教室、廊下の窓からも見えない場所だ。唯一裏庭の場所が見れるといったら、数学準備室Ⅴだ。といっても、使用している先生はいない上普段は閉まってて、開かずの扉とか言われているほどの部屋らしいので、どこの教室からも見えないといっても嘘ではないのだ。


 私は裏庭へと続く角を曲がろうとして、足を止めた。


「…うぇ?」


 思わず目の前の光景が信じられなくても、ただ呆然と立ちすくんでしまう。

 目の前にあるのは、水の玉。

 丸くて、青くて、向こう側の風景がよく見えるものだった。

 まるで泡のように、その水球はフワフワと浮いている。触れたら弾け飛びそうだった。

 目の前にある玉がフワフワと動いて、裏庭全体がよく見えるようになると、私はますます驚いた。

 だって、今の水球が数え切れないくらいたくさんあるんだもん。

 数多の水球はフワフワと浮いていて、その光景は現実のものとは思えなかった。


「…!」


 その光景を呆然と見つめていると、あることに気がついた。

 裏庭の中心に、誰かいる。それもよく知った人物が。


 水無月泉。


 彼が、なぜか水球の光景の真ん中にいた。

 裏庭の真ん中になぜか昔からあるという古いベンチに腰掛けて、背もたれに体重をかけて気持ちよさそうに目を閉じていた。

 この光景に、馴染んでいる。

 見れば見るほど、この水球の中に泉がそこにいるのが当たり前のように見えて、そしてその泉を含めた光景が絵画のように美しく、驚きながらもそれに見惚れてしまう。


「…ん…」


 やがて、泉が目を開けた。

 それと同時に水球がパチンという音をたてて消えた。その拍子に、水滴が何滴が地面に落ちる。

 泉はフウと息を吐きながら大きく伸びをした。


「スッキリした…」


 小声だったけれどもハッキリと聞き取れた。

 本当にスッキリとしたのだろう。疲れがとれたような声だった。

 というか、今の光景はもしかして泉が作り出したものなのだろうか…。一瞬、前に犬に襲われた時に助けてくれた水を思い出した。


「…あれ?え?ちょ、鈴香!?」


 あ、ようやく気がついた。

 すごく慌てた様子で、泉がいつからそこに…!?とどこか怯えているような、恐る恐るといった様子で訊いてきた。


「えー…と…たった今。泉がスッキリしたとかなんとか言った時」

「あ、そうなんだ…よかった…」


 胸に手を当て、泉はホッとしたように胸に手をあて安堵の息を吐いた。

 …あれ、なんで私咄嗟に嘘ついちゃったんだろ…。

 自分で自分の行動に首をかしげていると、泉がここ座って!と自分の隣のを指指すので、私はそこに座った。


「あれ?お弁当?鈴香お昼まだなんだ!俺もまだなんだよね。ということで、一緒に食べよ?」

「う、うん…」


 ふと、泉の隣に大量のお弁当があるのが見えた。…まさかあれをすべて食べる気なんだろうか…。

 じっと見ていると、泉はどこか嬉しそうに、一番上に積んであったお弁当を一つ手にとると蓋をはずして食べ始める。そして、私の視線に気がつくと食べないの?と声をかけてきたので私は慌ててお弁当に手を伸ばす。


「いやあ、二日連続で鈴香と一緒にご飯を食べれるなんて、ついてるなあ最近。これで如月に一歩どころか二歩くらいリードしてるよな。うんうん」

「?なんで私と食べると風斗より一歩リードなの?」

「…今一瞬、敵ながら風斗に同情してしまったよ…」

「え?え?」


 泉の意味が分からなくって訊いてみるけど、泉は穏やかで、どこか哀れみをこめた優しい瞳を青空に向けながら何も答えなかった。

 なんなんだ…気になるじゃないかまったく。

 仕方がなしに、私はお弁当を箸でつつく。そこで、私は泉に訊きたいことがあるのを思い出した。危ない危ない…。


「ねえ泉、そういえばって早!?」

「ん?」


 見ると泉はもう二個目のお弁当、そーめんに突入。

 え?ちょ、さっき一個目のお弁当を食べようとしてたよね?一瞬目を離してただけなのに、なにこれ!


「ふぉしたのふぇふぇふ」

「ごめんなさい。何言っているのか分かりません」

「んぐ…どうしたの鈴香。急に驚いた声を出して」

「いや、そりゃ驚くよ。だってもうお弁当二個目って早すぎるよ…」

「普通じゃない?」

「絶対普通じゃない!」


 それが普通だったら世の中はおかしくなるよマジで!

 というか、そんなことしてる間に三個目に突入って…どんな食欲してるんだ…?


「というか、ちゃんと噛んでるの?三十回ってのはさすがにだけど、ちゃんと噛まなきゃ駄目だよ」

「大丈夫。三十回ちゃんと食べてるよ。…というか、お母さんみたいなんだけど…」


 そう言いながら泉は食べ物を口に運ぶ。そして三秒ほどで飲み込んだ。

 いやいやいや、おかしいから。これ明らかにおかしいから!どんだけ食べるの早いのよ…。


「?どうしたの?」

「…いや」


 もう何を言っても無駄だろう。恐らく、彼の胃の謎は永遠に解けないだろうと悟り私は首を横に振った。



 結局、彼の謎は何一つ解決しなかった。

 っていうか、それどころか深まった気がするぞ…。


 もやもやしたまま受けた午後の授業。の六時間目のところで、私は今日前々から狙っていた小説の発売日のことを思い出してダッシュですぐに帰れるように準備をして、とりあえずモヤモヤを忘れようとしたのだった。




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