幼馴染みと夢
家を出て玄関に鍵をかける。
前まで、時々鍵をかけるのを忘れてしまったりしたけど、もうすっかり鍵をかけるのが習慣になった。人間慣れだね慣れ。
「よし」
面倒くさいけど、学校に行くか!そうだ、舞ちゃんからこの間買ったという乙女ゲームの感想を聞かなきゃ。
「あ、風斗?」
数歩も歩かないうちに、ここ数日でほとんど仲が昔に戻った風斗がいた。誰かを待つかのように、人の家の塀に寄りかかっている。
私が名前を呼ぶと、風斗はハッとした顔をして私に向き合う。
「お、おはよう。ききき、今日もか、かかかかわいいい」
「え?ちょ、どうした?」
いきなり挙動不審だ。一体なにがしたいのかさっぱりだ。
私がビックリしていると、風斗は露骨にがっかりした顔をして、うつむいて大きな溜め息をついた。まるで、自分だめだなあとでも言ってるかのように思える溜め息だ。
そして、なぜか苦笑気味に挨拶をする。
「はよ、鈴香」
「うん…おはよう…?」
さっきの態度はなんだったんだろうと思ったんだけど、そこまで気にするものじゃないかなと思い直して訊かないことにした。
代わりに、違うことを訊いてみることにした。
「なんでここにいるの?誰か、待ってんの?」
「い、いや。ちょっとボーッとしてただけなんだ!別にお前を待ってたわけでもなんでもないからな!?」
「へ?あ、うん…」
なんか全力で否定してる…。
その全力に首を傾げながら、私はあることを思いついて口に出してみる。
「誰も待っていないんいんだったら、一緒に学校行かない?」
「!!」
誘ったとたんに、風斗がものすごく驚いた顔をした。
え?なに私が誘ったのになんでそんな驚くの?もしかしてすごい嫌だった?
と思っていると、風斗はくるりと後ろ向いてなぜかガッツポーズ。…頭、大丈夫だろうか。病院に連れてった方がいいだろうか。
「あのー、風斗?だいじょ」
「行こう!一緒に行こう!二人で!!」
「うおっ」
言葉の途中で風斗はくるりとこちらを向いてものすごく爽やかな笑みを浮かべながら言った。
なんか今、心なしか二人でっていう言葉を強調されたような…まあいいか。
承諾を得られたので私は学校に向けて歩き出す。数秒後、慌てて歩き出した風斗が小走りで私の横に並び、私のペースに合わせて歩きだす。
………。
「なんかこれってさ…」
「あ、うんそうだよね、なんかこうして並ぶと恋人どうーーー」
「小さい頃に戻ったみたいだよね」
「だよなー…」
あれ、なんか風斗のテンションが一気に下がったよ。なんかどんよりした雰囲気が彼を包んでるよ。
だけどそれも一瞬のことで、すぐに風斗は復活して優しげな淡い笑みを浮かべる。
「でもたしかに、小さい頃はこんな風に幼稚園とかに行ってたよな」
「うんうん!あ、そういえば覚えてる?昔道歩いてたら犬に吠えられて私が泣きそうになったこと」
「…ああ、あれな」
風斗は懐かしむように目を細めた。
あれは本当に小さい頃、まだ幼稚園生くらいの頃。
突然犬に吠えられてビックリした私は泣いてしまったのだ。そんな私を、風斗は手を引っ張って早く私を犬から離させようとしたのだ。
そんな風斗が、実は泣きそうなのを我慢しているような表情だったのを知っているのは私だけだ。
しばらく二人で思い出話に花を咲かせていると、急に風斗が思い出したように話しはじめた。
「そういえば、今日変な夢見たんだ」
「夢?」
「ああ」
「そ、それって、どんな夢!?」
思わず風斗に詰めよってしまいそうになるが、慌てて自重する。
もしかして、風斗も…。そんな予感を抱きながら、私は平静を保っているように気をつけながら風斗の言葉に耳を傾ける。
「どんな夢…って聞かれると、濃い夢だったなくらいしかないな」
学校近くの道にはいり、学校でカッコイイことで有名な風斗と一緒に歩いている私に視線が集まってるのを感じながら、私は風斗に詳しい説明を促す。
「うーん…まあ、ハッキリ言っちゃえばけーきを買う内容だったんだけど、そのケーキを買うための列が長いわトラブルに巻き込まれて何回も並び直しになるわで…」
『レインにはケーキを買いに行って…』
すぐに思い出したのはシセリアの言葉。もしかして、と思う。
私は思わず風斗を凝視してしまう。まさか、風斗が見てた夢って…!
「ねえ、風ーー」
「お、如月じゃん!」
「藤岡か、おはよう」
「はよー!なになに?天原さんと一緒?まさか二人って…」
「ち、違うぞ!?まだ違うからな!?」
「え?まだって如月…お前」
「ま、間違えた!今の取り消しだ!」
だ、
誰だお前ーーっっ!!
え?なにこれ!急に変な奴がわって入ってきたよ!?しかもなんかよく分からない会話してるし…!っていうか、これって漫画や小説とかによく出てくる、肝心な部分を訊こうとするけどタイミングが悪くって訊けないパターンじゃん…うわあ…。
私の予想を裏切らず、風斗とその知らない人(なんかうちのクラスで見たことある人)は私を置いて行ってしまう。
もしかして私忘れられてる…?と思ったけれど、風斗がこちらを気遣うようにとチラチラ見ているので、忘れられてはいないやうだ。よかった。
私はとりあえず、大丈夫だよという意味をこめて微笑んでみせる。というか、そうするのとしかできない。
とりあえず、風斗にこのことを問い詰めるのはまた今度。あとはみな…泉にキース等のその他もろもろ、あと図書室の先輩に会ってシセリアのことを知ってるかと訊かなければ。…うん、なんかやることいっぱいだ。とりあえず、頑張ろう!
私は握りこぶしを作り気合いをいれ、早速教室にいるであろう泉にこのことを問いつめようと教室に向かうのだった。
結局、女の子に囲まれてた泉に話しかけるのは至難の技で、さらに男子に囲まれていた(なんでか顔を赤くして、周りの男子からなにか訊かれてた)に話しかけるのも至難の技で、私は昼休みに例の先輩を探そうとチャイムが鳴るのと同時に図書室に向かったのだ。(舞とゃんは風邪でおやすみらしく、図書室の先輩についてはなにも訊けなかった)
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