近づく心の距離
反省文を書き終わり提出したところで気がついた。私…お弁当食べてない…。
というか、お弁当をまず持ってきてたっけ…。
慌てて朝の行動を思い出す。
えっと、お弁当は作った。それはたしかだ。
ボーッとしてたら間違えてお母さんが気に入っていたブランド物バッグを火にかけてしまったのに気がついて、慌ててバッグを放置して卵焼きとかを作った記憶があるもん。
…別に朝きた電話で、お母さんの言葉にますます謎が深まってイラッときたわけじゃない。わざとバッグを焦がしたとか、そんなことは断じてない。うん。
で、問題はそこからだ。
私はたしかにお弁当を完成させた。そして、そのお弁当を袋につめた。そして、どうした?
その後の記憶に、お弁当は出てこない。つまりそれは、お弁当を袋に入れてテーブルの上に放置してきた、という訳で…はいやっちゃったぁ!
残念ながら本日財布を持ってきてないデーなので、購お昼なしか…午後の授業の時お腹鳴らないという…最近あんまり良いことないなぁ…」
昨日は変な犬に追いかけられるし、朝はお母さんからますます謎が深まるようなこと言われたし…。
唯一良いことといったら、昨日の『ドキドキ学園せーかつっ♪』の続編が出るという情報があったことくらいだ。あれは本当に嬉しかった。うん。やっぱり一ファンとしてああいう情報はものすごく嬉しい。
っと、思考が脱線した…。
ゲームも大事だけど、とりあえず今はお昼だよね…舞ちゃんからおかずを少しもらう、という手があるけど、このくらいの時間だときっともう食べ終わってるだろうし…うーん…我慢しかないかぁ…。
はあ、と思わず溜め息をついてそこら辺にあったベンチに座る。
財布持ってこなかったのは痛かったなぁ…明日からは毎日持ってこよう…というか、真面目にお腹へった…ダイエットだと言い聞かせて我慢しなきゃなぁ…。
「天原さん」
「…水無月君?」
ボーッとしていたら声をかけられた。
見ると、やっと見つけたと言わんばかりの顔の水無月君。
手にはいくつかのパンがある。
……………………………パン?
「よかったよかった、見つかって。お昼一緒に食べようと思ったんだけど、中々見つからなくってあせっ…」
「水無月君!!」
「う、うん?どうしたの??」
私は水無月君に詰めより、パンと手を合わせた。
「お願いします!!パン一個ください!!」
「助かったよ本当。すごく困ってたんだ」
「天原さんのためなら一個くらい構わないよ。お返しは…キスでお願いしようかな」
「アハハ。………返す」
「冗談だって」
一口かじったパンをグイと差し出すと、水無月君は慌てた様子で言った。
まあうちが一口食べたやつなんて欲しくないからだろうし。というか、欲しかったら引くよ。ドン引きするよ。
チラリと横を見ると、水無月君もパンにかぶりついていた。その横には、まだ山のようにあるパンがある。…どんだけ食べるんだこの人…。
「…ん?どうしたの?」
「え?あ、いや。すごい食べるなーって。やっぱり男子って胃袋すごいんだね」
「そう?」
水無月君は首を傾げながら、すぐそばに置いてあったお茶を飲む。
最後まで飲みきると、水無月君は悩むような素振りをみせながしゃべる。
「でも俺って、同性から見ても結構食べる方らいしよ」
「そうなの?」
「うん。だから今まで大食い大会斗かにも出たりしたんだ」
「お、大食い…だと!?」
っていうか、この華奢な体のどこにそんなたくさんの量の食べ物が手に入るんだ…!?
「…水無月君、体重と身長を教えてくれない?」
「? 身長は170センチで体重56きーー」
「死ねばいいのに」
「ええっ!!?」
その高身長にしてその体重って…!
意外に体重が軽いっていうね。なんでだろ。なんでそんなスリムなんだろ…。
このままこの会話をしているとますます落ち込むだろうと思われるので、話題を変えてみる。
「…そういえば、さっき図書室ですごい人見たよ」
「すごい人って、どんな人?」
会話がないのはさすがに気まずいので、なにかしゃべってみる。
話題は、さっき図書室で見た先輩らしき綺麗な人。
もしかしたらその人に関して情報が得られるかもしれない、という淡い期待もある。…まあ、転校生の水無月君に聞いても情報はあまりないと思うけど…。
「そうそ、すごい綺麗な人だったんだよね」
「…綺麗な人…?」
「うん。思わず凝視しちゃったよ。本当、綺麗な人だったからね」
「…そんなに美人な人なの?」
「うんとっても!先輩っぽかったんだけど、水無月君は誰か心当たりない?」
「いや、悪いけど知らないや。すごい美人な上級生…か。でも知ってどうするの?」
「えーと…ちょっとお近づきになりたいなあ…なーて…」
「………………それって…」
なぜか水無月君が微妙な顔をする。
「美人な先輩とお近づきになりたいって…まさか天原さんってそういう趣味…!?だから俺はフラれたのか…!?いやでも、もしかしたらまだ間に合うかもしれない…諦めるな泉!男が一番いいんだということを彼女に…」
「…あの、水無月さん?なにブツブツゴニョゴニョ言ってるんですか…?」
ちょっと怖いです。
私がそう言うと、水無月君はハッとした表情をして言葉を探すように視線を右往左往させ、口を開いた。
「あー…うん。天原さん、男ってガサツで粗暴だったりしてすぐふざけるような奴ばっかだけど、繊細な奴とかも結構いるし…」
「え?なに?急に」
いきなり男の魅力(?)を語り始めた。
とまうした水無月君。頭大丈夫か?もしかして昨日の犬に襲われた恐怖が今更でてきたとか?
語るといっても、五分もするとネタがつきたように話が止んだ。
話が止むと、水無月君は困ったように視線を地に落とした。
そうしながらもなんとか話を繋げようと、あーだのだからだのと色々と言っている。
「…水無月君、大丈夫?…色々と」
「う、うん…大丈夫。…だめだなぁ、異性に恋した方がいいということをさっぱりアピールできてない気がする…」
「? なにか言った?」
最初の方は聞き取れたけど、その後がさっぱりだったので聞き返すと、水無月君はなんでもないと言って首を振る。
そして、視線をこのベンチがある中庭へと向け、独り言のように呟いた。
「こういうとき、キースならなんとかできるんだろうけどなー…」
「っ!?」
今…キースって言った…?
聞き返そうとするけど、それよりも先に水無月君が口を開いてしまった。
「あ、そういえば天原さんって俺のこと名字呼びだよね」
「あ、うんそうだけど、それよりも…」
「じゃあ俺のこと泉って呼んでよ。俺も鈴香って呼ぶし。思えば、あいつが名前を…しかも呼び捨てなのに俺だけ名字ってのもムカつくし」
「や、だから水無月くーー」
「それじゃ、改めてこれからよろしく。鈴香」
「!」
不覚にもドキッとした。
だって、水無月く…泉が優しく私の名前を呼ぶんだもん。
って、ときめいている場合じゃなくって!
「あの、みな…いず」
キーコーカーンコーン
「み…」
「あ、やべ。まもうチャイム鳴ったよ。鈴香、早く教室行こう。たしか次は社会科だったよね」
そういって泉は私の手をつかんで走り出す。
と、いうか…。
チャイム空気読めええええーーっっ!!!
その日、私は泉の言ったキースのことを聞けませんでした。
理由?
それは、私達が名前呼びしてることに気づいた風斗に事情聴取されてたからです。はい。
男子という生き物も、案外恋愛話が好きなんだね。うん。
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