間奏~水と青年と影の動き
ジリリリリ
うるさい音が聞こえ、布団の中から手だけを出して目覚まし時計を止め、布団から体を出す。
青年は、明らかに寝ぼけているであろう顔つきで、目をこする。
そうしながら、青年は部屋を出てリビングへと足を運んだ。独り暮らしなのか、青年以外の人の気配はなく、家の中で青年の足音だけが響く。
青年はリビングからキッチンへと移動し、食器棚からコップを取り出すと、そのまま流し台の前まで来る。
そして、ボーッとした様子で一言。
「…水」
途端に、
ザバアッ
大量の水が青年の頭上に突如現れ、青年は頭からぐっしょりと濡れた。青年はコップを手にしたままの格好で顔をしかめた。
どうやら今ので眠気が覚めたらしく、青年は間違えた…と溜め息をついた。
朝は寝ぼていると、力のコントロールを忘れてしまうので、よく間違えて力を使ってしまい、自分がずぶ濡れになることはよくあった。
こっちに越してからはまだ一度もやっていなかったが、とうとうやってしまったか…。
青年はふたたび溜め息をつき、コップを置いてタオルを取りに行く。
「制服に着替えなくって正解だったなぁ…本当」
もし制服だったら、ものすごく面倒くさくなっていただろう。絶対。中学時代に一回制服を濡らした時など、制服は中々乾かないし遅刻をして先生は怒るしで最悪だった思い出があるので、分かっていた。
タオルで頭を拭き、パジャマを洗濯カゴにいれて自分の部屋に行き制服に着替える。
「…よし。どこにも変なところはないっと」
制服を着終え、鏡の前でチェックする。
学校に行けば、愛しい人に会えるのだ。変な格好で会いたくはない。
ふと、青年は彼女を思い出す。
まさか自分が、一目惚れなんてするとは思わなかった。内面重視のタイプなはずなのに、まさか容姿で惚れるとは思わなかった。
なぜか、彼女と目が合った瞬間"誰にもとられずに、自分だけのものにしたい"と思ったのだ。
そして、思わず感情のまま行動をしてしまい、結果告白してフラれた。
それでもめげなかったのは、それほど自分は彼女に惚れていたのだろう。
ただ、彼女に幼馴染みがいたのは驚きだった。しかも、その幼馴染みは自分と同じく彼女に惚れているようだった。
自分がよく見ている夢のせいか、どうにも幼馴染みという関係の人物は好きになれない。
青年は再び溜め息をついた。
「…そういえば、天原さん大丈夫かなぁ…」
ふと、昨日のことを思い出した。
殺意を持った犬に襲われる、というのはかなり怖かったはずだ。もしかしたら、家から出にくくなっているかもしれない。
そう考えていくと、彼女が心配になってきた。彼女の家にでも寄ろうかと思ったが、よく考えたら自分は彼女の家を知らない。
それに…。
「……」
青年は自分の掌を見つめた。
それに、もしかしたら自分の力に気づいて…。
青年は、そこで考えるのをやめて…、昨日のうちに教科書等を準備していた鞄を持ち、家を出た。
朝だというのに、その部屋はカーテンを開けていなかった。そのため、部屋は薄暗かった。
しかし、その部屋にいる二人の男女はそんなことは全くもって気にしていないらしい。
「…この部屋は辛気くさいな…相変わらず」
二人の内男の方がのんびりとした口調で言う。
それに対して、もう一人の女の方が中性的な口調で答えた。
「どうでもいいだろうそんなこと。それより、結果を教えろ」
「はいはい。りょーかい」
男は肩をすくめてみせながら、ソファアに腰をかけた。その向かい側にあるもう一つのソファアに、女が座った。
「まあ、結果だけ言えば、失敗しました」
「…何故だ。敗因を聞かせろ」
抑揚のない声で、女は問う。
「予想はついてると思いますがぁ、一緒にいた騎士が力をある程度こなせるようになっていた、というところですかねー」
「なるほど。覚醒はしていないが、力は使えていたのか…完全に油断していたな。どうやら騎士の中でも力が使えるものと使えないものがいるようだな」
「そのようです。…で、次の手はどうしますか?あの犬をまた使いますか?」
男の言葉に女は少し考えて、首を横に振り答えた。
「いや、あの犬は使わない。別のを使おう」
「承知しましたー!…ところで、雫様」
「なんだ」
どうやら女は雫という名前らしい。
男は、雫を真っ直ぐと見つめながらしゃべる。
「あの高校、まだ騎士がいるらしいですよ。とりあえず、一人以上はいます」
「…そう、か」
雫は面食らったような表情を一瞬するが、すぐに無表情となり指示を出す。
「詳しく調査しろ。あとあの高校内に他に騎士がいないかチェックしろ」
「はいはーい。承知しました。それじゃあ雫様、いってきます」
男は陽気にそう言い、部屋を出ていく。
一人残った雫は、ぼんやりと窓の外を眺めた。
窓の向こうには、綺麗な青空がある。きっと今日も良い天気だろう。
雫は青空を眺めながら、ぼんやりと呟いた。
「…シフォン、様…」
瞳は青空を見ているようで、なにか違うものを見ているように思えた。
、