アフタースクール
無事に、本日の授業は終了。
本日も、平凡かつ平和に終わったなぁ。
「天原さん、家ってどこ?」
やっはり平和が一番だよなぁ。青春するとか大事件に巻き込まれるのとかは、ゲームの中だけでいいからなぁ。
「あのさ、よかったら一緒に帰らない?もしよかったら送っていくし…」
だから、げんじつはなにもなくっていいんだ。間違っても、イケメン男子にもうアタックされるなんて、二次元の世界でいいんだ。
だから…
「水無月君、私一人で帰れるから別に送らなくっていいよ…」
朝からずっと話しかけられている。
多分、アタックされているのだと思う。もちろん恋愛の意味でだ。
私がそう断ると、水無月君は露骨にがっかりした顔をした。…なんか、罪悪感が沸いてきたんだけど…。
「天原さんと帰れないんだったら…俺…」
水無月君は思い詰めた声でそう言って、何かを迷うような瞳で、窓の方を見た。
ちなみにこの教室は五階で、窓から落ちたら間違いなく、とある川を渡るであろう、高さだ。
一瞬、嫌な考えが浮かぶ。
嫌、でもな…そんな、たかが帰りを断られたくらいで…。でも人間ってすごいこと時々考えるからな…ありえるな!
「分かった!一緒に帰ろう!だから早まらないで!」
「え、早まるって…って、いいの?一緒に帰って」
さっきまでの落ち込んだ顔はどこへやら、水無月君パアッと顔を明るくして、私に詰め寄る。
…というか、近い…。
「うん、目の前で逝かれちゃうよりはましだし…」
「いかれちゃ…?…もしかして、天原さんってツンデレで、本当は俺と一緒に帰りたかったけど、素直になれなかった、とかだったのか…?」
「? どうしたの水無月君」
「え、ああいや、なんでも。ただ、俺はツンデレも好きだよ?」
「いや、なんの話?」
彼はどうしたんだろうか。まだあまり話していないせいか、あるいは彼があえてそうしているのか、思考回路がさっはり読めない。
まあ、いずれ分かっていけるのかな。私は鞄を肩にかけ、教室を出た。
「…で」
水無月君が非常に不機嫌そうな声を出す。
「なんで、如月も一緒なるの…」
視線は、私を挟んで隣にいる如月風斗に向けられている。
睨んでるといっても過言じゃない視線を受けていながらも、風斗はなんとも涼しげな顔だ。そのまま、どうでもよさげな口調でしゃべる。
「家がこっちなんだから、一緒に帰ったって問題ないだろう」
「……」
水無月君の顔がますます不機嫌そうになっていく。
たまたま下駄箱で会ったので、成り行きで一緒に帰ることとなったのだ。
そのことが、水無月君にとって非常に気に入らないことらしい。頬をふくらませながら歩く姿は、ただの拗ねた子供だ。
正直にいうと、ちょっと可愛い。
同学年なのに、水無月君が弟みたいに思える。不思議だなぁ。
しかもなんだかほのぼのするわぁ。なんかこう、元気に遊ぶ孫を見つめるおばあちゃんの気分になってきた…。
「…ね、天原さんに如月。君たちって、どういう関係?もしかして幼馴染み、とかだったりする…?」
「うんそうだよ孫よ」
「孫!?」
あ、しまった。おばあちゃんの気分になってたら、本当に水無月君が孫にしか見えなくなってきた…!
「え、ええと、違うんだよこれはね…ええと…宇宙人に言わされて…」
「宇宙人!?ちょ、天原さん大丈夫なの!?宇宙人て、なんか変なことに巻き込まれてたりする!?」
「鈴香、病院行くか…?」
しまった!つい朝風斗が言ってた言い訳が頭によぎって…!
ああっ!なんか可哀想な子見るかのような目で見られてる…!
「ごめん、今の言葉は忘れてくれ…。で、なんの話だっけ?」
慌ててそう言うと、水無月君はクエスチョンマークを浮かべながらだけど、頷いてくれた。
風斗の方は、無表情だから、なに考えてるのか分からないけど…。
「うん、えっと、二人ってどんな関係だった?っていう話なんだけど…」
「あ、そんな話。うん幼稚園くらいの頃からずっと一緒だね」
「まあ、簡単にいうと幼馴染みというやつだな」
風斗が、そう言いながらなぜか勝ち誇ったような顔をする。どうだ、羨ましいだろとでも言ってるかのような、そんな顔だ。…いや、なぜそこで勝ち誇った顔をする?
一方、水無月君は思いっきり顔をしかめながら、風斗を睨んでいた。
「へえ、そう。幼馴染み、ね」
バラよりもトゲがあるんしゃないか、と思うほどのトゲたっぷりの声で、水無月君がそう言う。
え、何?なんで水無月君こんな機嫌悪くなってるの?なにか気にさわった…?ハッ!幼馴染みか!?幼馴染みになにか不満が…?
「あの、水無月君?幼馴染みって言葉に、何か問題でもありますか…?」
後半が若干敬語になってしまった…!
だ、だって怖いんだもん!あ、笑った!すごく良い笑顔!でもなんか怖い!
「ううん、別に問題はないよ。ただ…」
そこで一旦言葉を止める水無月君。
ただ…なんだ?なんかすごく気になる…なにかあるのか?幼馴染みという言葉に。
水無月君は私と風斗の二人を視界に入れながら、ニコリと笑った。
「ただ、幼馴染みという関係の人が殺したいほど憎いだけだよ?」
「「問題大アリだぁーーっっ!!」」
超いい笑顔で何言ってるのこの子!?思わず風斗とダブルツッコミしちゃったよ!?
「ちょ、どうしたの!?何があったの!?君の人生!?」
「うん、まあちょっとね…。あ、安心して。天原さんの上履きの中には画ビョウ入れないから」
「なあ、それって遠回しに俺の上履きの中には画ビョウ入れるって言ってるか?というか、なんだそのいじめ。…まさか、今までのやつにもそうしてきたってのはない…よな?」
「………」
「おい、なんでそこで黙る?」
沈黙がこんなに怖いものだとは思わなかったわ…。
というか、真面目に過去に何があったの…。
呆然としてしまうが、なんだかこれ以上の話を聞くのは怖い…。
仕方がなしに、私は話題を変えてみる。
「え、えと、今日も数学の先生のハゲ具合、丁度いいかんじだったよね!」
「なあ鈴香、ハゲに丁度いいもなにもないと思うのだが」
「それにしても、今日も社会の先生は、帰ったら膝かかえて飴なめながらヌイグルミに話しかけるのかな」
「くらっ!え、社会の先生そんなことしてるの!?たしかに根暗っぽそうだったけど!というかなぜ知ってるのそんなこと!?」
「そうそう、英語の先生って最近吸うと幸せになって気持ちよくなる薬作ってるらしいよ?今度もらおっかな」
「やめろっ!それ間違いなく地合いにならない!間違いなく不幸せになるぞ!」
「あー、あとね、最近理科の先生、新しいペット探してるらしいよ」
「ここにきて超どうでも良い情報ありがとっ!!というか天原さんっ!そういう情報どっから手に入れてくるの!?」
うん、とりあえず話題な方向性は変えられたな。うんうん。
若干浅めにいったけど、帰り道だけだし、浅くてよかったかな。うん。
「鈴香、なんか達成感に溢れた顔をしているが、さっきの話はどこで聞いたのか教えてくれないか?というか、そらはガセか?ガセなのか??」
「あ、ワンちゃんだっ!かわい~」
「人の話をきけええっっ!!」
風斗がなにか言っているが、無視だ無視。
そんなことより、あの道端にいる犬可愛いなぁ。
真っ黒な毛並みに、赤い瞳。体はスラッとしていて、なんだかすばしっこそうだ。
首輪がついてないけど、野良犬なのかな…。
私が近づくのに気がつくと、犬はワン、と軽く吠えた。
近づくなとか、そんなかんじではなくもっと好意的にだ。なんだか、嬉しそう…?可愛いなぁ。
ほのぼのとした瞬間、
ゾワッ
「!?」
背筋がゾワッとした。
犬からは、さっきの嬉しそうな様子もなく、なんだか怖いものが感じられた。
犬が牙を見せながら、飛びかかってくる。
「鈴香っ!」
後ろに引っ張られ、バランスを崩すが誰かに抱き止められる。
私がいた所に立った犬は、グルルルと唸りながらこっちを睨む。
殺気。
犬から、そんな言葉が当てはまるようなものを感じた。
本能的に悟る。
この犬は、危険だ。
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