乙女ゲームには女性の理想が詰まっている!
必ず、守ります。
例え何があっても、貴女を守ります。
死が二人を別れさせたとしても、ずっと貴女を守ります。
来世でも、その次の来世でも、必ず、貴女様のお傍で。
貴女だけを―――――ながら。
『お前が、好きだ。小さい頃からずっと…お前だけを見てきた』
『お前の隣にいたい。幼馴染としてじゃなくって、恋人として…。いいか?』
「もう、もちろんいいに決まってるじゃないですかぁっ!令一君ってばもう…」
女性向け恋愛シュミレーションゲーム。
世間一般でいう、乙女ゲームというやつだ。
プレイヤーはゲームの中の主人公となって、何人かの攻略相手のカッコイイ男の子の中から一人選び、攻略…つまり、恋愛しておとす。
ベッドの上の枕の周りには、昨日買ったばかりの乙女ゲーム『ドキドキ学園せーかつっ♪』という、なんだか微妙なタイトルだが評判の良いゲームの説明書があった。
当然、今やっているゲームがそれだ。
攻略サイトなどを見ずにやっていたら丸一日かかってしまったが、ようやく主人公の幼馴染である令一という名前の少年を攻略できた。
ドキドキしながらテキストを見ていると、キススチル…主人公と令一君がキスをしている絵が画面に映る。
その絵の綺麗さと、ようやく攻略したという達成感もあってか思わずうっとりとその絵に見入ってしまう。
このゲームは当たりだ。恋愛面が丁寧にえがかれているし、感情投入もちゃんとできる。
誤字とか変なバグとかもないし、文句のつけどころがない。
画面上にスタッフロールが流れ、令一ルートを無事に攻略できたことを知らせる。
次は誰を攻略しようか、と考えてながらニヤニヤしていると、コンコンと部屋のドアをノックされる。
「鈴香、そろそろご飯よ」
「分かった、すぐ行く」
そう返事をして、すぐにデータを保存する。
そしてゲーム機の電源を切り、部屋を出る。
攻略が完了したばかりだからか、とても良い気分だ。今なら何が起こっても許せる気がする。…いや、さすがにゲーム機を壊されたり、データを消されたりされれば怒るだろうが。
「鈴香、さっさと食べちゃいなさい」
「うん」
夕食は好物のハンバーグだった。ああ、なんだかますます幸せな気分になってきた…。
席につきいただきますと言い、ハンバーグに手をつける。
一口サイズに切り口に運び、真っ白なご飯も少し口にいれる。
うん、やっぱりハンバーグには白い米が合うな。ケチャップの味もあり、かなり美味しい。
しばらくするとお父さんも居間に来て、いただきますと言ってハンバーグに手を伸ばす。
「うん、中々のできだな。90点だ」
「あら、あとの10点は?」
「このハンバーグ、ピーマンをいれただろう。若干の苦味がある」
言われてみればたしかに…って、
「いいじゃんお父さん、ピーマンの成分もバッチリとれるし」
「ピーマンはな、食べれなくっても生きていけるさ」
「子供か…」
思わずつっこんでしまう。
お母さんは困り顔で「ばれないようにしたんだけどなぁ…」と言っていた。
別にこのくらいなんでもないと思うんだけど…お父さんのピーマン嫌いは筋金入りだなぁ…。
そう思っていると、お母さんがポロリととんでもないことを言った。
「そうそ、明日からお母さんたち今度世界一周の旅行してくるから、四、五ヶ月くらい留守にするわね」
「ふーん、そうなんだ…って、え?」
「だから、その間留守をよろしく頼むわね」
「いやいや、ちょっと待って、まだ一ヶ月くらいならギリギリ許せるけど、四、五ヶ月留守って何!?ほぼ半年じゃん!どんだけゆっくり世界一周するつもり!?っていうか、明日!?」
「すまんな鈴香。偶然当ててしまってな。もちろんちゃんと仕送りとかをするから安心しろ」
「いやいや、ちょっと待ってよ、仕送りとかそういう問題じゃなくって…」
「大丈夫、あなたももう高校一年生なんだから。それに、困ったことがあったら如月さんが助けてくれるって話だし」
「如月さんって…」
如月家とは、うちから徒歩三分以内に着く場所にある家に住んでいる一家のことだ。
うちと同じ三人家族で、お母さん同士仲が良くって、私と同い年の同じ高校の少年…一応、幼馴染といってもいい関係の人がいる。
「じゃあ、よろしく頼むわね。あ、送ったお金でゲーム買って財布の中がすっからかんとかはなんとしても避けなさいよ?」
天原 鈴香。
趣味、乙女ゲームをプレイすること。恋愛小説を読むこと。
ゲーム中だと、主人公の幼馴染ポジションにいる、小さい頃から主人公を想ってます的な子がタイプなのだが、現実では幼馴染とは赤の他人といってもいいほどの関係である、高校一年生。
明日から、一人暮らしとなります。