とある日の高校・屋上にて。 前
「森谷いいいいいいい!!」
「黙れ笹沼あああああああ!!」
「もうほんとお前ら、俺の弁当からおかず取るのやめてくんない……?」
※昼食中に戦争をするのはご遠慮ください※
彼の学校の屋上には、こんな注意書きがある。教師たちがつけたものでもなく、生徒会がつけたわけでもない。ごくごく一般生徒がつけたものである。
彼と称されるにふさわしいほど、秀でていることもなければ、ましてや悪いことに通じているわけでもない、所詮モブキャラと呼ばれる男にある特徴といえば、巻き込まれ体質だということ。
※
男は飯島というのだが、彼の幼馴染には『一般小市民』と片付けられない少年少女がいる。そいつらは、昼休みになると飯島の弁当から、おかずだけを器用にかっさらっていく。だがしかし、飯島の家は別に貧乏ではないがお金持ちなわけでもないので、弁当一人分のなかに、おかずはひとつしかない。
少年少女は、持ち主を無視しておかずをめぐって戦争を起こすのだ。
「今日のから揚げは俺のモンだ!」
「残念でしたーおつむの弱い笹沼くんは生物の問題が解けなくて居残りだったんだもんねぇ」
「……てめぇこそ、古文のレポート提出来週だと思って提出期限すぎたから、先生に説教されてただろ!」
「でもあたしのほうが取るの早かったもの、ねぇ飯島?」
「……」
彼女は言い合いながらも、その手に持つ箸にはばっちり飯島家のから揚げが挟んである。少女は森谷。空手部女子主将で少々やんちゃな女の子である。……まあ、窓を割ったりしてしまうところは少々ではないが。
「ほらな! 飯島だってお前のものじゃねぇってよ!」
(そうだね、それは俺のだもんな)
「そのから揚げは俺のだ! つーか森谷お前、昨日エビフライ食っただろ」
(うん、笹沼。いいボケありがとうな、でもそのから揚げは何度も言うが俺のだ)
少年は笹沼。ボクシング部のエース。こちらもちょっぴりやんちゃな男の子だ。……お察しのとおり、こちらも二階から飛び降りて授業をエスケープしている時点でちょっぴりではない。
そんな幼馴染たちに、モブキャラ担当の飯島は心の中でツッこむことしかできない。口に出せない。そんなことをすれば、弁当の残りも確実に奴らの餌食になる。