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メリサンド戦記

作者:柄臼田廬翁
最終エピソード掲載日:2026/02/13
夜の海で、十字軍のガレー船とアイユーブ朝の軍船が刃を交える。
傭兵として乗り込んでいたメリサンドは、合図も号令も待たず、ただ最短の動きで敵船へ移る。
振るわれる刃を避け、音を立てずに敵を無力化し、ついには最も手練れの戦士を一騎打ちで下す。
戦いは彼女にとって激情でも誇りでもなく、ただの「作業」だった。

戦闘の果て、指揮官は捕縛され、船は制圧される。
周囲が歓声を上げる中、メリサンドだけが波音に耳を澄ませている。
その異様な戦い方――最小限の動き、躊躇のない判断――は、周囲から「異常」と評される。

だが彼女自身は知っている。
それが才能でも信念でもなく、生き延びるために削ぎ落とされ続けた癖であることを。

物語は、彼女の記憶へと遡る。
アッコンで生まれ育ち、港と城壁に囲まれた戦争の日常の中で過ごした幼少期。
破城槌の音を子守歌に、血と腐臭を空気として吸い込み、遊びも未来も知らずに育った日々。
十二歳で初めて人を殺し、何も感じなかった理由。

この第一話は、
一人の傭兵が「異常な戦士」として完成した姿を描くと同時に、
その異常がどこから始まったのかを静かに示す序章である。

それは英雄の誕生ではない。
戦争という仕組みの中で、
一人の人間が「戦場に最適化されてしまった」物語の始まりだ。
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