第9話 二度あることは三度あるvs三度目の正直
数時間後。
吐き気が収まった俺は、なんとか体を起こして座ることが可能だった。
だが、休んでいる暇はない。腹は減り続けているし、カロリーの消費は止まらない。
えっ?蓄え(脂肪)あるから慌てんなって?確かにそうなんだけどね、同時に体力も削られるんよ。
ダイエットになるにしろ、わずかでも食べなきゃリバウンドするからな。
と言うことで俺は、性懲りもなく震える指で再びショッピング画面を開いた。
身体中の水分が抜け、ふらふらだ。
だが、ここで諦めたら「種芋」か「ドッグフード」生活だ。種芋はリスクが怖いし、ドッグフードだけは俺の人としての尊厳が・・・それだけは避けたい。
「まずは、道具だ・・・」
さっきのボヤ騒ぎで懲りた。
盾で煮込み料理やフランベをするのは自殺行為だ。
俺は「アウトドア用品」から、縁の深い鉄鍋を購入した。
『鋳鉄製スキレット(15cm)』:500 PT
そして、肝心のアルコールだ。
「メタノールは毒だ。だが、エタノールなら酒と同じだ。大丈夫だ」
俺は今度こそ指差し確認をして、慎重に B を購入した。
届いたボトル(瓶)を使い、再び肉を処理し、スキレットで焼く。
今度こそ完璧だ。
「……いただきます(二回目)」
俺は焼けた肉を食べた。
メタノールの時のような、即座に来る視界不良はない。
やはりエタノールなら安全だ。俺は安心して、残りの肉を食べ進めた。
だが。
俺は知らなかったのだ。
「無知」こそが、最大の毒であることを。
食後しばらくして、再びあの悪夢が蘇った。
「……ぐ、ぅ……?」
胃が焼けるように熱い。
メタノールの時とは違う、内臓がただれるような痛みと、強烈な化学的な不快感。
『警告:有毒物質(変性アルコール)の摂取を確認』
「な、んでだよ……ッ!?」
エタノールだぞ!? 酒だぞ!?
システムのアナウンスは無慈悲だ。
『スキル:毒耐性(微)が発動。緊急排出プロセスへ移行します』
「またかよぉぉぉぉッ!!!」
二度目の地獄。
俺は再び、さっき設置した簡易トイレへと駆け込んだ。
新しい袋をセットし、再び全てを絞り出す。
そしてまた、あの苦行が始まる。
激痛に耐えながら袋を縛り、這いつくばって壁際へ向かう。
「……くそ……なんで、俺は……」
涙が出てきた。
毒を食らい、腹を下し、瀕死の状態でうんこを捨てに行くおっさん。
惨めすぎる。
だが、これをやらなきゃ人間としての尊厳が終わる気がした。
「……廃棄ッ!!」
二度目の投棄。
脂汗を流しながら戻った俺は、震える手で二本目の瓶の裏面(成分表)を見た。
『名称:燃料用アルコール(エタノール)』
『成分:エタノール 85%、イソプロパノール 10%、メタノール 5%』
『用途:燃料用。※酒税法上の飲用不可処置(変性)済み』
「……嘘、だろ……」
俺は愕然とした。
燃料用アルコールは、酒税がかからないように、あえて「毒(イソプロパノール等)」を混ぜて、飲めないように処理されている。
そんな常識すら、俺は知らなかった。
「エタノール」=「酒」という単純な図式にすがって、現実から目を背けていただけだ。
「無知は……罪だな……」
品証部として、あるまじき思い込み。
そして、「肉を捨てたくない」という焦りが招いた判断ミス。
その代償は、あまりにも大きかった。
「じゃあ、何を……」
俺は激痛に耐えながら、必死に検索した。
飲めるアルコール。
酒だ。酒のコーナーだ。
だが、完成品の「酒」は売っていない。
あるとしたら「自家製果実酒づくり」のための材料コーナー。
あった。
『ホワイトリカー(甲類焼酎 35度)』
『成分:醸造アルコール、糖類』
これだ。梅酒とかを作るための、純粋な焼酎。
これなら飲める。消毒にも使えるし、フランベもできる。
「……正解はこれだったか……」
三度目の正直。
もう少し早く気がついていれはこれ程苦しまずに済んだが、後の祭りだ。
大事なのは繰り返さないこと。これを教訓にとしよう!うん、そうだ!それでいいんだ。トライ&エラーだ!生きている!それが答えだ。
俺はその後、丸二日間、二種類の毒による激しい頭痛と倦怠感、そして続く下痢に苦しみながら、養生布団の上で芋虫のように丸まって過ごすことになった。
……二日後。
毒が抜けきり、ようやく動けるようになった俺は、三度目の調理に挑んだ。
スキレットでホワイトリカーを使い、肉をフランベする。
立ち上る香りは、薬品臭さではなく、甘く香ばしいものだった。
恐る恐る口に運ぶ。
不味いのは不味い。だが、えぐ味も痛みもない。
食後30分経っても、警告ウィンドウは出なかった。
「……勝った……」
俺は安堵のため息をつき、吠えた。
「かっ、勝ったどおおおおおおお!」
長い戦いだった。
俺は壁の方角を見た。あそこには、俺の苦闘の証(処理袋)が吸い込まれていった闇がある。
異世界ショッピングは便利だ。だが、そこにあるのは「魔法の道具」じゃない。
使い道を誤れば牙を剥く、現実の「製品」なのだ。
俺は痛む腹をさすりながら、二度と成分確認を怠らないことを、神とトイレの神様に誓った。




