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盾の間違った使い方~工具資材縛りの異世界ショッピングにてDIYで生き抜きます!ダンジョンボス部屋から始まるハードモード生活~  作者: KeyBow


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第31話 炎の魔法と悲鳴


「……うぎゃあああああああああ!!!」

 洞窟内に響き渡った、情けない悲鳴の主は俺だ。

 このダンジョンに放り出されて丁度一ヶ月。あのゾンビ事件という「重大インシデント」から十日近くが経った日のことだ。

 俺は憑かれたように自分を追い込んできた。冷蔵庫、発電機、ポータブル電源。生活インフラを完璧に整え、日々の狩りでレベルは19に到達。体重は80キロから、おそらく50キロ台へと激減していた。かつてのメタボな体型は、異世界の過酷な労働と不眠不休のカイゼンによって、鋼のような細マッチョへと変貌を遂げている。

「順調だ。これならいける」

 身体が軽い。力も湧く。俺はこの一ヶ月で、この世界の強者に一歩近づいたのだと、そんな「全能感」を抱いていた。だが、いつものように探索へ出ようと「見えない壁」を越えた、その瞬間――俺の慢心は、粉々に砕け散った。

 ――目が、合った。

 鼻先が触れそうな距離に、やつがいた。牛ほどもある巨大な猪の化け物、ブルータルボア。

 レベルが上がり、動きが良くなったからこそ、逆に分かってしまった。こいつは、俺が正面から戦って勝てる相手じゃない。一ヶ月前に死を悟ったあの絶望が、鮮明なフラッシュバックとなって俺を襲う。

 俺は自分がただの「死に怯える中年男」であることを思い出し、全速力で拠点へと逃げ帰った。

 ・

 ・

 ・

(それから半日後……)

「……くそっ、いつまで居座ってやがる」

 大楯とコンクリートブロックで入り口をガチガチに固め、俺は拠点の隅で息を潜めていた。

 拠点という名の「かご」に閉じ込められて半日。保存食はある。だが、このままでは俺の「時間」という最大のリソースが、やつという不適合品のせいで浪費されていく。

「レベル19になったってのに、情けねぇ……。だが、まともにやって勝てる気がしねぇんだよ」

 俺にはかねてから頭の片隅で構想しつつも、実行に移したくなかった計画がある。本来なら、もっと余裕のある時に検証を繰り返してから導入するはずだった「未検証の危険工程」。

 俺は備蓄していたガラス瓶を三本取り出すと、発電機用のガソリンを注ぎ、そこに工業用の強力な中性洗剤を惜しみなく流し込んだ。

 ガソリンの爆発的な火力に、洗剤の粘り気を加える。芯にする布には点火しやすいアルコールを。

 「まさか、財布の肥やしになっていた乙4の知識が、こんなところで役に立つ時が来るとはな……」

 会社に言われて渋々取得した『危険物取扱者』の免状。その試験のために叩き込まれた「第4類・引火性液体」の性質が、今の俺の最強の武器だった。

「……焼却処分だ」

 ロングライターでアルコールの芯に火を灯す。俺は幻影の壁を抜けるなり、待ち構えていたブルータルボアめがけて、まずは一本目を全力で投げつけた。

 ガシャアンッ!!

 洗剤で粘度を増したガソリンがボアの剛毛に絡みつき、炎が立ち上がる。俺は間髪入れず、残る二本の火炎瓶を続けざまに叩き込んだ。

 ガシャアン! ガシャアンッ!!

 追加の燃料がボアの巨体を完全に包み込み、一瞬にして巨大な火だるまを作り出す。

『ブモオオオオ!!!』

 断末魔の絶叫。俺は盾を掴み、地面を蹴った。痩せて軽くなった身体は驚くほど速く、だが心臓は恐怖で張り裂けそうだ。

 跳躍。巨大な頭部を左右から盾で挟み込む「シールドバッシュ」で脳を揺らし、さらに大楯の鋭利な縁を、刃として首筋に全体重を乗せて叩き込んだ。

 ゴリゴリッ……ブチン!!!

 首が半ばまで切断され、ボアは完全に沈黙した。

『レベルが上がりました』

『レベル差10以上の魔物の初討伐により、特別スキルポイントを獲得しました』

「……っしゃあ!」

 勝利のガッツポーズ。だが、余韻に浸る間もなく死体を引きずり込み、血抜きと解体という「業務ルーチン」に戻る。

 俺はボアの後肢を縛り、スチールラックへと吊り上げた。だが、牛並みの巨体を逆さに吊るすと、どうしても前肢がベッタリと地面についてしまう。これでは効率的な血抜きができない。

 俺は研ぎに失敗して片刃の鉈のようになってしまった、スケルトンナイトの錆びた剣を手に取った。

「……邪魔なパーツは先に落とす」

 俺は迷いなく、地面についていた前肢をその片刃の剣で叩き切った。続けて、盾の一撃でちぎれかけていた巨大な頭部も、完全に切り落とす。

 

 ドサリ、ドサリと肉塊が地面に落ち、切断された首の断面からドクドクと鮮血が流れ出した。ようやく完全に宙に浮いたボアの巨体を横目に、俺は流れるような動作で腹を切り裂いた。内臓を掻き出し、熱を帯びた臓腑の奥から魔石を探り当てて引き抜く。

 血と脂にまみれ、ようやくいつもの安心感に包まれていた、その時だった。

「きゃあああああ……っ!!」

 微かな、しかし間違いなく人間の、若い女の悲鳴。

 音の方角は、セーフエリアのさらに奥。

 あの、巨大なドラゴンの遺骸と、無数の人骨が散らばる「死の広間」からだった。

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