第29話 時間を買う投資(安物買いの銭失い)わ
燻製作りのための火と煙を絶やさぬよう、俺はほとんど不眠不休で作業を続けた。
気がつけば、作業開始から丸一昼夜と言うか、24時間以上過ぎていた。
時間感覚が麻痺するほどの重労働の末、ようやく拠点の一角には壮観な光景が広がっていた。既存のスチールラックとは別にもう一つ、端材で小さな棚を組み、その二つの棚の間に複数のロープを渡した。そこに、赤黒く色づいたリザードマンのジャーキーが、まるで暖簾のようにずらりと吊るされている。
これで、当面の保存食は確保できた。
だが、代償は大きかった。身体は疲労困憊。目は煙で痛いし、意識が朦朧とする。
俺は、まだアルコールに漬かったままの、最後のリザードマンの生肉(残り半分)を見つめる。
このままでは、あと数日でこれもダメになる。また、あの「丸一日間の燻製地獄」を繰り返すのか?
無理だ。身体が持たない。
(……いや、違う。もっと、効率のいい方法があるはずだ)
このサバイバルで最も貴重な資源は、食料でも、ポイントでもない。「時間」だ。
肉の加工だけに追われている間、俺は探索も、訓練も、次の計画を立てることさえもできない。それは、現状維持という名の「緩やかな死」を意味する。
それに、先日のゾンビ化の一件。
あれは俺のミスではない。「魔石を抜かずに放置するとゾンビ化する」なんてルール、知らなくて当然のイレギュラーだった。だが、一度知ってしまった以上、二度目はない。同じトラブルを繰り返すのは、プロとして無能の証明だ。
肉を常温で放置すれば、腐るか、ゾンビ化のリスクがある。
ならば、即座に処理し、カチコチに凍らせてしまえばいい。物理的にも生物的にも活動停止させてしまうのが、最強の安全策だ。
俺は現在の所持ポイントを確認した。
【所持ポイント: 89,270 PT】
懐は温かい。「ブルータルボア(Bランク)」の魔石が50,000ポイント。さらにスケルトンナイト20体以上の魔石代も積み上がっている。そしてリザードマンは12000ポイントと美味しかった。
金はある。今、俺に必要なのは「戦闘力」じゃない。「生活基盤」だ。
俺はショッピング画面を開き、ホームセンターの資材館に置いてあるような、性能重視の「プロ用」を選んだ。
『業務用 冷凍ストッカー(上開き・100L)』:22,000 PT
『現場用 小型冷蔵庫(45L)』:8,000 PT
問題は「電源」だ。
国内メーカー製の超低騒音型インバーター発電機は、55,000ポイント。……高すぎる。
俺は安物順にソートした。あった。
『オープン型 ガソリン発電機(海外製)』:15,000 PT
工事現場でよく見る、パイプフレーム剥き出しの無骨なタイプ。
レビューには「音は大きめですがパワーは十分」「コスパ最高」とある。
ここは洞窟だ。隣人もいないし、多少うるさくても、4万ポイントも節約できるなら我慢できるだろう――。
その甘い見通しが、数分後、俺を地獄に突き落とした。
ドサリ、と届いた荷物。
ガソリンを入れ、期待を込めてスターターの紐を力一杯引いた。
ズバババババババババッ!!!
「うわぁぁぁっ!?」
飛び上がった。
うるさいなんてもんじゃない。爆撃だ。
密閉された洞窟内で音が反響し、鼓膜が破れそうな轟音の塊が襲いかかる。
「音は大きめ」? 嘘をつけ! 現場なら即座に作業停止レベルの騒音だ。
俺は慌ててスイッチを切った。
シーン……と静寂が戻るが、耳の奥でキーンという耳鳴りが止まらない。
「ダメだ、このままだと使えない」
こんなものを24時間回し続けたら、一発でノイローゼになる。
それにこの音だ。間違いなくダンジョン中の魔物を引き寄せる。「ここにおいしい餌(俺)がいますよ」と拡声器で叫び続けているようなものだ。
安物買いの銭失い。
冷蔵庫はある。発電機もある。だが、うるさすぎて繋ぐことができない。
目の前には、動かぬ箱と、ただの重い鉄の塊。
さてこれをどうする?




