第28話 リカバリーと燻製工場
怒りの炎は、浄化の炎と共に燃え尽きた。
残ったのは、焦げ臭い匂いと空っぽの胃袋。そして、やらなければならないことの山だ。
気を取り直すというより、生き抜くために、俺は再び動き始めた。
床にぶちまけられた豆は、もう食えない。俺は無言でそれらを片付けると、ショッピングで再び『種芋』と『乾燥大豆』を購入し、ポリ袋に入れてアルコール漬けの工程を最初からやり直した。
二度と、無駄にはしない。
そして、目の前の獲物だ。
なんとか修復したスチールラックに吊るされているのは、一体のリザードマンと、ホーンラビット。
ゾンビ化したもう一体は廃棄したため、手元に残った食料はこれだけだ。
俺はまず、手頃なホーンラビットから解体に取り掛かった。
前回の大失敗を反省し、今度は新しく買った『皮剥ぎ用スキナーナイフ(1,500 PT)』を使う。解体専用のナイフだ。
すると、どうだ。
驚くほどスムーズに刃が入っていく。やはり道具の差は歴然だ。皮と肉の間にナイフを滑らせると、面白いように剥がれていく。もちろんプロのようにはいかないが、前回のように皮が破れ、肉に毛がこびりつくような無様な結果にはならなかった。
皮は皮、肉は肉として、きちんと分離できた。
俺は切り分けた肉を、手早くアルコール(食用ホワイトリカー)に漬け込んだ。
その間に、大物……リザードマンに取り掛かる。
これも、まずは皮剥ぎからだ。鱗が硬く、兎のようにはいかないが、頑丈な『ブッシュクラフトナイフ』を併用し、なんとか肉から皮を剥がすことができた。この頑丈な皮は、何かに使えるかもしれない。
だが、作業をしているうちに、腹の限界が来た。
胃が、悲鳴を上げている。
俺は解体を中断し、アルコールに漬けてからまだ数分しか経っていないホーンラビットの肉を数切れ取り出した。それを純水で念入りに洗い、クッカーのフライパンで一気に焼き上げる。
ジュウウウウ……。
香ばしい匂い。
もう、我慢できなかった。焼きあがった肉に塩を振り、熱々のまま口に放り込む。
「……うまいなぁ」
柔らかい。臭みもない。
ただただ、純粋な肉の味が、空腹の身体に染み渡っていく。
休む暇はない。
兎の肉で腹の虫を黙らせると、俺はすぐにリザードマンの肉の処理に戻った。
洗浄を終えたリザードマンの腿肉を、試しに一切れ焼いてみる。もちろん一度アルコールに通してから。
一口、咀嚼する。
「ん?」
これは、兎とも鶏肉とも少し違う味だ。
パサパサしているが、旨味が濃い。鶏肉というよりは……そう、マグロの血合いに近いステーキを食っているような感覚だ。
決して不味くはない。いや、むしろ美味い。ボア肉とは雲泥の差だ。
だが、問題は量だ。
身長160センチ以上の人型モンスター一体分の肉。ざっと見積もっても、精肉だけで30キロはあるだろう。
今の俺一人では、到底数日では食いきれない。このままでは、また腐らせてしまう。
「保存食にするしかない」
俺はショッピング画面を開き、一つの商品を検索した。
『家庭用コンパクトスモーカーセット(サクラのチップ付き)』:1,500 PT
これだ。
届いたばかりの段ボールを開け、簡易的な燻製器を組み立てる。
そこから先は、まさに時間との戦いだった。
リザードマンの肉を薄くスライスし、塩をすり込み、風に晒して水分を飛ばす。
チップに火をつけ、煙の量を調整しながら、肉を燻していく。
一度に作れる量は少ない。何度も、何度も繰り返す必要がある。
カマドでは豆を茹で直し、フライパンでは芋を焼く。
解体、洗浄、調理、そして保存食作り。
拠点は、さながら食品加工工場の様相を呈していた。
夜も昼もないこの洞窟で、俺はただひたすらに、リザードマンの肉と格闘し続けた。
眠気と疲労が襲ってくる。
だが、手を止めるわけにはいかない。
この肉は、俺が生きるための、未来への投資なのだから。




