第27話 自主規制と換金不可のゴミ
ゾンビと化したリザードマンの首を断ち切った俺は、床に立てた大楯にしがみつくようにして肩で息をする。
目の前には、首と胴体が泣き別れになったゾンビの死骸。
そして、ぶちまけられた大豆と、黒い体液に汚染された俺の城。
プツン、と何かが切れた。
「くそっ、くそっ、くそがあああああ!!」
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(只今ストレス発散中・・・)
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「はぁ……はぁ……」
ひとしきり暴れて、少しだけ頭が冷えた。
だが、怒りは収まらない。
俺はナイフを握り直し、足元に転がる首のない胴体に跨った。
こいつが動いた原因――それをはっきりさせなければ、気味が悪くて作業なんてできない。
俺は胸を切り裂き、肋骨の隙間から元凶である魔石を探り当て、引きずり出した。
「……ッ!?」
出てきた石を見て、俺は顔をしかめた。
一体目から採れたような、透き通った緑色の石ではない。
どす黒い。
まるで凝固した血のように、禍々しく変色している。
「……なんだよ、これ」
一体目の魔石と比べれば、違いは一目瞭然だ。
魔石を抜かずに放置したことで、中の魔力が変質(腐敗)し、それが死体を動かす動力源になったのか。
そうか、こいつが悪さをしていたのか。
「……ふざけんな」
俺はこの黒い石を握りしめ、ステータス画面を開いた。
せめてポイントに変えて、掃除用具代の足しにしてやる。慰謝料だ。
『ポイント変換エラー:対象物は汚染されており、価値が認められません』
「……は?」
無機質なエラーメッセージ。
つまり、0ポイント。ただの産業廃棄物だ。
「ゴミかよ……!」
俺の聖域を壊滅させておいて、テメェ自身の価値はゼロかよ!
俺は怒りに任せて、肉塊となった死骸と、切断された頭部を掴み、幻影の壁の外――通路へと引きずり出した。
ドサリ、と死体を捨てる。
だが、これだけじゃ安心できない。
俺は手の中にある「黒い魔石」を見つめた。もし万が一、こいつがまた近くの死体に反応したら?
「……念のためだ」
俺は大きく振りかぶると、通路の闇の奥深くへ向かって、全力で魔石をブン投げた。
カキン、コーン……と、遠くで乾いた音が響く。
これだけ離せば、もう悪さはできまい。
「二度と来るな!」
元凶を排除し、俺は振り返った。
そこには、戦いの爪痕が残る無残な拠点の姿があった。
俺は、ぐにゃりとひしゃげたスチールラックを見上げた。
自慢の逸品だったのに。見る影もない。
その下には、黒い体液と大豆の成れの果てが混ざり合った、地獄絵図。
「……はぁ」
深いため息が出た。
怒りの後には、重い疲労と虚しさがやってくる。
だが、立ち尽くしていても、誰も片付けてはくれない。
俺は重い足取りでラックに近づき、ぐらつく支柱を安全靴で蹴り直した。曲がった棚板を力任せに引っ張り、なんとか自立できる状態に戻す。
そして、床に転がっていた「まだ血抜きが終わっていない一体目のリザードマン」と「ホーンラビット」を拾い上げ、ラックに吊るし直した。
こいつらは無事だ。それだけが救いだ。
さて、床だ。
この生理的な嫌悪感を催す黒いシミを、徹底的に消し去らなければならない。
「……やるぞ」
俺はショッピング画面を開き、清掃用具を次々と購入する。
『デッキブラシ』と『バケツ』。
水を汲んでぶちまけ、ゴシゴシと力任せに擦り洗いする。だが、黒いシミは完全には消えない。気味が悪い。菌が残っている気がする。
俺は、最終手段に出ることにした。
『燃料用アルコール(メタノール)』を購入し、黒いシミの上に惜しげもなくぶちまける。
そして、『草焼きバーナー』を手に取った。
ゴオオオオオオオオオッ!!!
轟音と共に噴出する1,300度の青白い炎を、床に向ける。
一瞬で引火し、床一面が火の海になった。
熱気が顔を焼く。だが、俺はトリガーを引く手を緩めない。
燃えろ。燃えろ。
穢れも、未練も、何もかも焼き尽くせ。
その炎を見つめながら、俺は再び叫んだ。
「死んだらおとなしく死んでろっつーの!!」
こうして、俺の怒りの大掃除は、拠点の床を焦がすほどの勢いで幕を閉じた。




