表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾の間違った使い方~工具資材縛りの異世界ショッピングにてDIYで生き抜きます!ダンジョンボス部屋から始まるハードモード生活~  作者: KeyBow


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/32

第24話 素人の血抜きと歩く不審者

 俺の全体重と大盾の質量が、リザードマンの胸部を圧し潰した。

 ビクン、と痙攣した尻尾が、やがてだらりと力を失う。

 その瞬間、先ほどのスケルトンとは比べ物にならない、温かく、濃密な何かが身体に流れ込んでくるのを感じた。一体目も何かが流れ込むのを感じたが、「死んだな」と分かる程度で、それ以上はもう一体がいたから感じとる余裕がなかった。

 この手応え……やはり、あの骨野郎スケルトンと同格か、それ以上の相手だったらしい。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 大盾の下にあるリザードマンの上から身を起こし、俺は荒い息を整える。反省だ。多分経験値や魂か何かなのだろうが、二体目を吹き飛ばしたときになかったから、死んだかどうか分かったはずだ。

 胸当てを見ると、鉄板に斧の形をした傷が刻まれていた。深さはあるが、貫通はしていない。裏側のゴムマットがしっかりと衝撃を殺してくれたようだ。

 あれがなければ、俺の胸は今頃、真っ二つに裂けていただろう。

 俺は、自作の不格好な鎧に、心の底から感謝した。バリデーション(実戦検証)、合格だ。

 そして、床に転がる二体のリザードマンを見下ろす。

 太ももの筋肉、尻尾の付け根。どこを見ても肉付きが良い。

 今度こそ、正真正銘の「食える」獲物だ。

 さて、ここからがまた一仕事だ。

 目の前には、二体のリザードマンの死体。

 一体あたり50キロはあるだろうか。レベルアップした今の筋力なら引きずって歩ける重さだが、問題は両手が塞がっていることだ。

 俺は地面に転がっている三枚の円形盾ラウンドシールドを見下ろした。

 汗をぬぐうのに地面に置いた右手用の「斬撃盾」、左手用の「打撃盾」、そして今投げたばかりの「投擲用盾」だ。

 これをしまわなければ、死体の尻尾を掴めない。だが、リュックはパンパンだし、そんな大きさじゃない。考えていなかった。アホだ・・・俺。

「……着るか」

 俺はまず、右手用と左手用の盾を拾い上げ、それぞれの腕に通した。

 本来はグリップを握るスタイルだが、今は運搬のために腕に固定マウントする。これで両手はフリーになった。

 問題は残りの一枚、投擲用の盾だ。

 背中には大盾、両肩にはスパイクとL字、両腕にはラウンドシールド。もう装着する場所がない。

 いや、一箇所だけ空いている場所があった。

「……ここしかないな」

 俺は被っていた安全ヘルメットを脱ぎ、顎ひもを腰のベルトに通してぶら下げた。

 そして、空いた自分の頭に、投擲用の円形盾を乗せた。

 盾の裏側の革ベルトを顎にかけ、帽子のように被る。

 背中には大盾。両肩、両腕にも盾。そして頭にも盾。

 鏡を見なくても分かる。完全に不審者だ。あるいは歩く屑鉄屋か。

 だが、ヘルメットは買い直せても、この盾は亡くなった冒険者の使っていた物だ(一点物)。置いていくわけにはいかない。

 次に、獲物の処理だ。

 早く血を抜かないと、肉が臭くなる。ボアの二の舞はごめんだ。

 だが、ここで吊るす場所を探すのも手間だ。

「……歩きながら抜けばいいか」

 俺はナイフを取り出し、素人丸出しの判断で、倒れているリザードマンの首筋に深々と切り込みを入れた。

 ドクドクと血が溢れ出す。

 このまま引きずって歩けば、拠点に着く頃にはあらかた抜けているだろう。我ながら効率的なアイデアだと思った。

 俺は左右の手でそれぞれ一体ずつ、リザードマンの太い尻尾をガシッと掴んだ。

 そして歩き出す。

 ズルッ、ズルッ……。

 重い死体が石畳を擦り、その背後には、首から流れ出る鮮血が二本の赤い道を作っていく。

 それが、どれほど危険な行為か、気づきもしないまま。

 ゴン!

 右の太ももに、鈍い、しかし強烈な衝撃。

「うおっ!?」

 思わず体勢が崩れる。見ると、地面に白くて丸い塊が転がり、ぴょこんと起き上がった。額に角を生やした、あの兎だ。

 どうやら、俺が撒き散らした濃厚な血の匂いに興奮し、死角から突っ込んできたらしい。

 狙いは俺の太もも――だが、そこには今回導入した『切創防止 太ももガード』があった。

 前回はあれで大怪我を負った。

 だが今回は、プラスチックのガードに白い傷がついているだけで、俺の足は無傷だ。痛くも痒くもない。

 装備のアップデートが、生存率を劇的に変えている。

 地面に転がったホーンラビットが起き上がり、こちらを睨む。

 距離、およそ3メートル。

 頭に盾を被り、両手に血まみれの死体を引きずる奇妙なおっさんを見ても、兎は怯む様子がない。血の匂いに酔っているようだ。

 俺は、もはや何の感慨もなく、心の中で静かに挨拶した。

(……こんにちは)

「シャアアアア!」

 兎が身を沈めた。

 後ろ足に力が溜まり、筋肉が収縮するのが見える。

 ――来る。跳ぶぞ。

 両手は塞がっている。盾は構えられない。

 だが、今の俺には「余裕」があった。

 俺の脳裏に、先日試してみた「あの動き」が閃いた。

 それは、俺が若かった頃――世界中が熱狂したスーパースターに憧れて、必死に練習した無駄な特技。

 レベルアップした身体で試したら、全盛期以上に完璧に再現できた、あのステップだ。

 兎が地面を蹴る、そのコンマ数秒前。

 俺は右足に体重を乗せず、つま先を軸にして、氷の上を滑るように「斜め後ろ」へとスライドさせた。

 予備動作ゼロ。重心移動すら伴わない、人間離れした不自然な後退。

 ――ムーンウォーク。

 あまりに滑らかで、生物としての「逃げる気配」を感じさせないその動きに、兎は反応できなかった。

 奴は俺がそこに「居る」と誤認したまま、全力で地面を蹴った。

 ヒュッ!

 風を切る音。

 白い弾丸と化した兎が、俺の右足がさっきまであった空間を虚しく通過していく。

 狙いを外した兎は、空中で無防備な腹を晒している。

 対して俺は、ムーンウォークで右足を大きく後ろに引いたことで、左足を軸にした完璧な「溜め」が完了していた。

「お返しだ」

 俺は軸足(左足)で地面を噛み締め、後ろに引いた右足を振り子のように弾き出した。

 両手は塞がっているが、下半身はフリーだ。

 鉄芯入りの安全靴による、渾身のカウンター・インステップキック。

 ドゴォッ!

 鈍い音が響き、兎の体がボールのように吹き飛んだ。

 ダンジョンの石壁に激突し、ベチャリという嫌な音と共に、赤いシミができる。

 哀れなF級モンスターは、ピクリとも動かなくなった。

「……ふぅ」

 俺は冷や汗を拭った。

 まさか、青春時代に「モテたくて必死に覚えたダンス」が、異世界のサバイバルで役立つとは。人生、何が役に立ち、無駄になるか分からないものだ。

「……」

 俺は無言で、壁から剥がれ落ちた兎の足も掴んだ。

 これで獲物は三体だ。右手が少し重くなったが、大した差ではない。

 拠点へと引き返しながら、俺の頭はすでに、今夜の晩餐のことでいっぱいだった。

 背後に続く血の道が、他の魔物を呼ばないことを祈りつつ、俺は足を速めた。

(二日ぶりの、まともな肉だあああ!)

 腐って捨てたボア肉でも、毒と格闘した兎肉でもない。

 ちゃんとした、美味いと噂の爬虫類の肉(妄想)。

 俺の足取りは、頭と両手の重量にもかかわらず、ムーンウォークの余韻でスキップしそうになるほど軽やかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ