第19話 収支
ポケットから取り出したのは、スケルトンナイトから得たピンポン玉ほどの魔石二つと、ホーンラビットのビー玉ほどの魔石一つ。こちらはビー玉サイズだ。
スケルトンの石は曇りガラスのように光が鈍い。ボアのあの、燃えるような紅蓮の石とは大違いだ。
「とりあえず変換してみるか」
俺はステータス画面を開き、ポイントへの変換を念じた。
『Cランクモンスター:スケルトンナイトの魔石(中)を2個、ポイントに変換します… +4,000 PT』
『Fランクモンスター:ホーンラビットの魔石(極小)を1個、ポイントに変換します… +10 PT』
「……4,000?」
俺は思わず声を上げた。
一体につき2,000ポイント。100ポイントなどという端金ではなかった。
だが、同時に、新たな、そして巨大な疑問が湧き上がってくる。
俺はノートを開き、ペンを走らせた。
Bランク:ブルータルボア(大)= 50,000 PT
Cランク:スケルトンナイト(中)= 2,000 PT
Fランク:ホーンラビット(極小)= 10 PT
「……差が、おかしい」
FからCへの上昇率に比べ、CからBへの跳ね上がり方が異常だ。ランクが一つ違うだけで、価値が25倍にもなっている。
これは、単にランクが指数関数的に強くなるというだけでは説明がつかない。
何か、別の法則があるはずだ。
俺は、それぞれの魔石の感触を思い出す。
ボアの石は、熱と光を帯びていた。スケルトンの石は冷たく、光も弱々しい。
「……そうか。質、か?」
仮説: ポイントの価値は、①モンスターのランク だけでなく、②魔石そのものの「質」や「大きさ」にも大きく左右されるのではないか?
あのブルータルボアは、Bランクの中でも特に強力な個体で、最高品質の「大」サイズの魔石を持っていた。だからこその50,000ポイント。
対して、スケルトンはCランクではあるが、アンデッドであるがゆえに魔石の質が低く、大きさも「中」程度。だから2,000ポイント。
「……なるほどな。これなら、辻褄が合う」
つまり、「骨折り損」という俺の直感は、あながち間違っていなかったわけだ。
同じ労力をかけるなら、質の高い魔石を持つ、生きている(食える)モンスターを狙うべきだ。
俺はノートに新たな発見を書き込み、現在の所持ポイントを計算する。
テントや調理器具で散財したが、今回の収入で十分補填できた。
【現在所持ポイント: 約 45,000 PT】
俺はワークライトのスイッチに手を伸ばした。
だが、眠る前にもう一つ、決めておかなければならないことがある。
「防具」だ。
足は守れるようになった。だが、胴体はガラ空きのままだ。もし今日のウサギがもっと高く跳んで、俺の心臓を狙っていたら?
想像するだけで背筋が凍る。
かといって、キャッチャー用防具は役に立たない。
ならば、作るしかない。
どこを守る? 全身か?
「……いや、背中は捨てよう」
俺の背中には、常に巨大な壁――大盾がある。
あれは最強の甲羅だ。亀が甲羅の上にさらに鎧を着ないのと同じで、背中の防御は盾に任せればいい。
守るべきは、「胸」と「脇」だ。
心臓という急所がある胸。そして、盾を振ったり構えたりした時にどうしても隙ができる脇腹。ここを重点的に守る。
最小限のコストと重量で、最大の防御効果を得る。
効率化だ。
「……イメージはできた」
明日の朝一番のタスクは、仕込んでおいた「種芋」と「大豆」の確認で、鎧作りはその後だ。
今すぐ確かめたいのは山々だが、それはできない。
アルコールと水による毒抜きは、浸透圧を利用して薬剤を溶け出させる工程だ。こればかりは「時間」というリソースを投入しなければ、完了しない。
焦って中途半端な状態で口にすれば、またあの地獄の腹痛が待っているだけだ。
果報は寝て待て。
品質保証の基本は、定められた工程を遵守することだ。
うまくいけば、明日の朝食は待望の炭水化物祭りだ。
そう考えると、自然と頬が緩んだ。
俺は祈るような、そして遠足前の子供のようなワクワクした気持ちで、ワークライトのスイッチを切った。
視界が闇に包まれると同時に、心地よい疲労感が押し寄せてくる。
おやすみ、俺のマイホーム。
俺は泥のように、深い眠りへと落ちていった。




