↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

田中くんシリーズ

『3年1組の田中君、田中君。至急異世界まで来てください』

作者: 三來
掲載日:2025/10/26


『3年1組の田中君、田中君。至急異世界まで来てください』



 それは日本史のテスト中、唐突に流れた校内放送だった。


「ふぇ??」


 俺の口から思わず変な声が出る。


 頭が良く無い俺は日本史が大の苦手だ。

 だからこのテストも半分諦めながらも必死で解いていたんだ。


 集中しすぎたせいで、耳がお留守になっていたのは否めない。だから、聞き間違いだと思いたかった……が、教室の空気は凍っていた。


 どうやら俺以外にも聞こえていたらしいことから、聞き間違えでは無いようだ。


 一瞬の間の後、視線が俺に突き刺さる。


 待て。早まるな、クラスメイト諸君。このクラスには「田中」が二人いる。


 一人目は俺、田中ケンジ。良いように言えば、大人しいとか、物静かとか、そんな感じ。


 二人目は、俺の斜め前の席で変なポーズを取ってる暗黒田中。……間違えた、田中コウジ。

 悪いやつでは無いけど、拗らせていて、比べれば目立つ方の田中だ。


 だから頼むから俺を見るな。暗黒を見ろ。あいつは常日頃から「右手がうずく」とか言ってるんだ。異世界いじりも本望だろうが。


 俺が「あっち、あっち」と暗黒を指差すと、コウジの方に全員の視線が移動した。


「あ、そっか。あっちも田中か」

「暗黒でしか認識してなかったわ」


 なんてコソコソ話してる声が聞こえてくる。やめてやれ。


「コウジーよかったなー異世界だってよー」



 からかうように飛んできた声を聞いても、コウジは気にした様子もなく、それどころか右手を高くあげて「解き放て!!」と言い出した。


 何も出ないとは思うが、出たとしてもここで解き放たないで欲しい。


 そんな空気を戻すように、教師がひとつ咳払いをした。


「お前ら静かにしろー。田中は解き放つ前にテスト解け」


 とんでもない内容の放送に眉を顰めていた教師も、ただのイタズラだろうと切り替えることにしたらしい。


 先ほど廊下を早足で駆けていく別の教師も見えたし、このイタズラ放送の犯人もすぐに捕まるだろう。罰則は停学あたりだろうか。くだらないことをする奴もいるもんだな。南無南無。


 そうして、もう一度集中しなおそうと……した時だった。


『あー、重ねて連絡します。3年1組の地味な方の田中君。……あ、やべ。平均的な方の田中君。至急、異世界までお越しください。勇者召喚とかじゃないんで。時給でるんで』


 おい、今地味って言ったよな??あと、言い換えるなら大人しいにしろ。心に突き刺さるわ。

 あと時給が出る異世界って何だ。コンビニか。


 暗黒田中から、俺に視線を移した教師が口を開く。


「……田中、お前いじめられてたりするか……??」

「先生、地味で平均な田中って言われて真っ先に俺を見るの、ちょっと悲しいです」

「すまん」


 いや、まあ。仕方ないとは思うけど。だってもう一人の田中は地味では無いもんな。暗黒だもんな。


 しょうもない誰かのいじりだと思い、校内放送のことは気にしないようにしようと思った時だった。


 ガガガガガッ!!


 俺の横から、まばゆい光が溢れ出てきたのだ。


「うわ、何これ!!」

 

 なんか知らんが魔法陣が浮き出てるし、しかもやけに薄い

 インク切れの油性マジックで描いたみたいに線がカスカスだ。


「うおっ!」

「た、田中! 足元!」

「ケンジ! ついにお前も『目覚める』のか!?」


 クラスメイトが騒ぎ、暗黒田中が目を輝かせる。違う、俺は目覚めたくない。W暗黒田中は嫌だ。


 カスカスな魔法陣が、チカチカと蛍光灯みたいに点滅した後、そっからゆっくりと何かがせり上がってきた。


 それは、金髪碧眼の女神……なんて姿ではなく。


 ヨレヨレのスーツを着て、目の下に真っ黒のクマを貼り付けた、冴えないオッサンだった。


 手には「異世界転送管理局」と書かれた、シミだらけのバインダーを持っている。


「……あー、どうも。担当の者です。田中ケンジさんで、お間違いないですね?」


「は、はあ……」


 オッサンは、俺の顔を見るなりホッとしたように息をついた。


「いやー、よかった。座標ズレてなくて。この魔法陣、先代が経費削減で導入した廉価版なもんで、たまに変なとこと繋がっちゃうんですよ」


 おい。そんなガバガバな転送で人さらいしようとしてんのかコイツ。


 現実からかけ離れすぎた光景に、一周回って冷静になってしまう。


「で、お呼び出ししたのに何故来ていただけないんです?? お迎えに来る羽目になったじゃないですか」


「ちょ、ちょっと待ってください。そもそも転移とか俺、無理ですし! ! ていうか何なんですか!」


「え?? 左手に封印されし力をお持ちでしたよね??」


「お持ちでないです。あと多分それ俺じゃ無いです。あっちの田中です」


「……あー。まあ、どちらでもいいか。とにかく来ていただけますか」


 適当に返事をしてきたオッサンは、バインダーをめくり一枚の書類を俺に突きつけた。


【異世界短期アルバイト】


職種:魔王城・備品の棚卸し

資格:うるさく無い者

時給:700G

備考:魔王のもてなしあり



「こんなに嬉しく無いもてなしあります?」

「そう言わずに。向こうではそこそこ良い暮らしができます。あと賄いも出ますよ。昨日は『スライムの和え物』でした」


「絶対食いたくねえ」


 賄いの内容にドン引きしていると、教師が恐る恐るオッサンに話しかけた。


「あ、あの……うちの生徒なんですが……授業中ですし、親御さんもご心配されるでしょうし……」


「ああ、ご心配なく」


 オッサンはニヤリと笑った。


「いわゆる『ウラシマ方式』です。まあ、逆ですけど。向こうで三日働いても、こちらでは三分も進みませんから!! 三分だけ彼をお貸しいただけましたら大丈夫です」


「それ、俺だけ三日分の疲労抱えてテストの続きやれってことじゃん」


「若さでカバーしてください」


 無茶苦茶だ。絶対に行きたくない。


「さて、同意書にサインを。あ、三文判でいいですよ。なければ拇印で」


「押すわけないでしょ!!」


 俺が抵抗すると、オッサンはチッと舌打ちした。


「困りますねぇ。こっちも人手不足なんですよ。勇者一行が思ったより早く進軍してて、来週には魔王城に来てしまいそうなんです。その前に棚卸し終わらせないと、天界にどやされちゃいます」


 なんだその生々しいファンタジーは。

 そもそも棚卸しいるか?? なんだ、天界が補填でもしてんのか??


 俺が固まっていると、斜め前から怨嗟の声が飛んできた。


「……なぜだ……なぜ俺ではない……! 俺の右手に宿りし『黒龍』の力が、奴ごときに劣ると言うのか……!」


 暗黒田中が本気で悔しがっている。

 いくらでも代わってやりたい。いや、むしろ代わってくださいと土下座したい。


「えーと、あなたが左手の力がある田中さん??」


 オッサンがバインダーを確認した。


「あー……なるほど。うるさそうだからダメですね。不採用です」

「不採用!?」


 暗黒田中が膝から崩れ落ちた。異世界からお断りされるとか、あいつ立ち直れるのか。


「さあ、ケンジさん! 行きましょう! 時給発生してますよ!」


「いや、だから行かないって!! 先生、助けて!!」


「田中……日本史落としたら留年リーチだが……特別に追試を認めてやるからな」

「いや、止めろよ!!」


 先生の諦めた顔と、オッサンの「ほらほら」という手招き。


 クラスメイトは「行け行け!」の大合唱。もう誰もテストに集中していない。


 …くそ。味方が誰もいない。



「……分かりました。行きます。行きますけど!!」


 俺はオッサンを睨みつけた。


「全額、日本円で支給してください!! あと賄い、スライム以外でお願いします!!」


「交渉成立です!!」


 オッサンは俺の手を掴むと、カスカスの魔法陣に引きずり込んだ。


「代わりにコカトリスの丸焼きにしてもらいましょう!!」

「うわあああ!! 絶対食いたくねええええ!!」



 俺の悲痛な叫びは、チカチカ点滅する光の中に虚しく消えていった。



 ……留年、しませんように。

 あと、コカトリスはせめてタレじゃなくて塩でありますように。


お読みいただきありがとうございました。


続きになるお話も公開中です!


「暗黒田中「解き放て!!」教師「うわぁぁ!!なんか出たぁ!!」」

https://ncode.syosetu.com/n2285lj/


連載ではこんなお話しを書いてます↓


興信所の者ですが!!〜異世界でもお仕事してたら、獣人副隊長に執着されてしまいました

https://ncode.syosetu.com/n7955lf/


長編では異世界恋愛謎解きものを書いています。よろしければこちらもどうぞ!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こちらの三分があちらの三日なら、このオッサンが迎えに来て数分間話していた分オッサンの仕事が数日分も滞っている事になるね。 たかが棚卸しのアルバイトを確保するのに正社員が数日間も不在になってたら割に合わ…
この場合ウラシマと言うより逆ウラシマな気がする
いや暗黒田中、さっきから左って言っとるやろ(笑) なんにしても、生きて帰れるといいですねぇ田中くん(笑) そんで……下手したら死ぬかもしれん異世界に三分間分送るとか先生も問題ですぇ(;゜Д゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。