その8 【朝ごはんとエルフの国の300才】
朝食はパンとコーヒーである。
今までとほぼ変わらない、なんの刺激も感動もない普通の朝である。
『おいしい?』
唯一の違いは、謎の美少女(約300歳)が隣にいるという事だろう。
昨日は動揺と緊張で心の余裕がなかったためか、何も食ってなかったワケだが……
「うまい、これは反則級にうまいぞ、外サク中ふわのやつ。かじった瞬間、バターの香りがふわってきて幸せじゃ。」
お世辞ではない、マジでうまい。これは体重増加不可避である。
『よかった。』
首輪の力で接触しなくても会話可能なのだが、やたらくっついてくるのは今朝の出来事が原因なのだろう。
正直邪魔!だが悪い気はしない。
誰かと一緒に朝めしを食うのは何十年ぶりだろう、触れ合うほど近く隣り合って食うのは小学生以来か?
一緒に食う朝飯って、こんなに静かで温かかったかな……あまり思い出せん。
隣を見ると、チラチラこちらを伺いながら、嬉しそうにパンを食べるルーシェルがいる。
何も言わずいなくなったりしないから安心しろ。
『昨日はごめんね、ちょっと記憶なくてさ……』
でしょうね!
「迷惑だとは思ってないから、気にするな。」
持論だが、時々発散してくれた方が、一気に爆発してしまうよりマシだと思っている。
食事も終わり、まったりしていると
『さぁ、昨日は入りそびれちゃったからお風呂はいるか。ちょと準備してこよっと。』
そういえば風呂も入ってなかったな。
まてよ。
いったい遭難してから何日たったんだ?今更だがここは何処なんだ?
夢でない事は分かったが、オレはどうなってるんだ?
滑落した時にできたのであろう傷は、跡形もなく治ってるし……。
『ふう、あとはお湯がたまったら入れるよ。』
当然のように隣に座り、手でどこかしらに触れてくる。
髪の間から除く尖った耳に異世界を感じる。
多分ここは、エルフの国だ。
「1つ聞いても良いか。」
『なに?』
「オレの荷物ってなかった?」
『荷物?何か持ってたの?』
「背中にリュックを背負ってたはずなんだけどな……」
『背中に?キノコなら生えてたよ。』
「キノコ???」
『うん。ずいぶん変な形でキノコが生えてたらか、なんだろう?って思って取り除いたらサーガが出てきたの。』
「……マジですか。」
『死んでるのかと思ってびっくりしたんだから。』
オレはどんな状況になってたんだ?
「ここから遠いのか?」
『うーん、遠くは無いんだけどね、サレンメラ・ソリンって言われるエリアで、同じ場所に行くのはちょっと難しいかも……。』
何かしら訳ありな地区って事か……。
「なんだってそんな所に行ってたんだ?」
『てへへ、ちょっと迷っちゃって……』
良く生きてたなぁ……オレ。
ピピッピピッピピッ
なんだ?
『あっ、お風呂入ったよ。』
…覗きに行くのは……ありだな。
コイツ、見た目はかなり良い部類だからその価値は充分ある。
風呂が何処にあるか分からんから、コッソリついて行くか、ムフフ。
『じゃあ行こっか。』
そう言ってオレの手を取る。
へッ…?なに?
『だから、一緒に入るって言ってるの。』
なん…だと…
『どうせ後から来る気なんでしょ?なら一緒で良いじゃん。』
クソっ!思考が勝手に漏れるのはどうにかならんのか!
「おまえ、恥ずかしいとか無いのか?」
『私だって、女の子同士だったら恥ずかしいわよ』
「相手が男なら尚更だろ!」
『たかがオスじゃん!なんで恥ずかしいのよ!』
どこにこんな力があるんじゃ!手が振りほどけん!
それにコイツの羞恥心はどこへお出かけしてんだ!家出でもしてんのかよ!
まかり間違ってオレのエクスカリバーが白い炎でも吐いてみろ!コッチが恥ずかしいわ!
『エクスカリバー?あのちっちゃい棒みたいなやつのこと?』
「てめぇふざけんな!入ってやろうじゃないか!目にもの見せてくれるわ!」
ちゃぽん……
グスン…こんなはずじゃなかったのに……
またひとつ理解できた事がある。
コイツにとって、オレは犬や猫と同等だって事が…
キノコが生えるほど汚かったって事で、体の隅々まで洗われるという羞恥プレイを受けた。
コイツには能力が有り、生物以外は操れるって事をすっかり忘れていたのである。
スポンジが宙を舞い、オレに襲いかかる。
それを果敢に交わすオレ!
だがしかし、ルーシェルもスポンジを手に取り、キラキラした目でオレを磨きにくる。
「うわぁっ!ちょ、恥ずかしいから!」
『エクスカリバーってこれ?昨日より小さくない?』
「緊張すると小さくなるだけだ!おい引っ張るな!」
『ちゃんと洗いましょうねー。』
「やめてー!」
オレは顔を両手で覆い涙した……
『サーガが暴れるから大変だったわ。』
「……」
『お風呂、嫌いだった?でも、ちゃんと入らなきゃダメよ?』
「………」
『もう…』
そう言うと、ルーシェルはオレの顔を胸に押し付けるように抱きつく。
『これで許して、ね?』
この小悪魔め。
どうせ思考はダダ漏れなんだ、本気で怒ってるわけじない事だってバレてんだろうよ。
別に甘えたかった訳じゃない……はずなんだけど、
自分の事もよく分からなくなってきたな…
だがそれはそれだ。
オレもルーシェルに軽く抱きつき、ふたつある先端のひとつに吸い付き、軽く噛みついてやる。
『きゃぁ!やん!なに?どうしたのサーガ!』
「今日はこのくらいで許してやる。」
『もーーーッ。』
フン、膨れっ面も似合ってるぞ。
その膨れっ面の彼女の目は、とても楽しそうだ。




