その7 【ご主人様と朝の紅茶】
『酔ってないから大丈夫だって!もうちょっと飲むの!』
目の前にはベロベロに酔っぱらったロリババァが1匹。
首輪のおかげか、言ってることはちゃんと理解できている。
ハイハイ、分かったからもうそろそろ止めとこうね。
『ムーーーーーッ!』
ふくれっ面でこっちを睨む。顔、真っ赤じゃん。
その仕草と表情は破壊力高いんだから、オレの理性が吹っ飛んじゃうよ?少しは自重してくれ。
あ、頭の中がはてなマークでいっぱいだな?やはりその辺の知識はほとんど無いんだ。
無自覚なのが一番厄介なんだけどなぁ……。
ウトウトしやがって、眠くなってきたな?
『サーガ、サーーガ―――ー。』
「聞こえてるって、なんだよ。」
『寝る、あっち、連れてって。』
オレが連れていくのかよ。
『私がご主人様なんだぞ!言うこと聞きなさいよ!』
まったく…………ほれ、立てる……わけないか。
オレはしぶしぶ抱き上げてやる、お姫様抱っこというヤツだ。
肉付きは良いほうだと思うが、想像より軽く感じる。
しかしだ、第三者視点でよく考えてみろ?
不細工だと言われたメタボなおっさんが、酔いつぶれた美少女を抱えてるのは犯罪の匂いしかしないだろ!
『あっち、あっちの部屋。』
こいつ、酔うとずいぶん幼児化するな。
彼女が指さす部屋には、大きなベッドが置いてあった。
机の上は本らしきものが散乱しているが、整理整頓されたきれいな部屋だ。
女性らしい部屋かと言われると……そうでもないかな。
「ほれ、ちゃんと寝ろよ。」
彼女をベッドに降ろし、さっきの部屋へ帰ろうとした……
『ダメェーーーーーーッ!』
?!
『一緒に寝るの!』
「何言ってんだよオマエ。」
『いいじゃん!一緒に寝ろ!』
「はぁ?今日会ったばかりのおっさんと一緒に寝るとか何考えて……」
途中まで言いかけて彼女を見る。
その瞳はみるみる潤み、涙が零れた。
『一緒に寝るのぉ……。』
声を震わせながら、そうつぶやく。
「嫌だとか怖いとか思わないのか?」
『オスなんて劣等種、怖くないもん。』
はぁ……なるほど……ね。
「少しだけだぞ。」
隣で横になるとルーシェルはオレしがみつき、涙を浮かべたまま満面の笑みで小声でつぶやく。
『だって、ずっと1人だったんだもん。』
オレの服を握る小さな手に力が込もる。
…やれやれ。
このクソロリババァ、ほんとズルいな。
オレの手は、無意識に彼女の頭を撫でていた……。
……
意識がだんだん覚醒してくる。
昨日は変な夢を見た。
しかも、あんなに長くハッキリした夢は久しぶりだった。
あの娘、かわいかったな……大きくて柔らかくて気持ちい……
んっぐっ!なんだ?
顔面に何かを押し付けられてちょっと息苦しい!引きはがそうと触れてみる。程よい弾力が柔らかく心地よい。
目を開けながらそっと離れる。
……夢じゃないのかよ……
そこには、見るからに危うい格好のルーシェルが眠っていた。
半分くらい夢だと信じたかったが……これが現実か。
部屋をそっと後にし、和室と思われる部屋の縁側を目指す。
窓を開けると自然いっぱいの世界が広がっていた。
まさに大草原の小さな家といったところか。
遠くに聞こえる水が流れる音が心地よく、
目の前に広がる畑っぽい場所は、きれいに管理され見てて気持ちいい。
ソーラーパネルで埋め尽くされた平原なんてクソくらえ!って感じだ。
よく見ると、オートリクスと言われた機械たちがすでに作業しているようだ。
結構な数がいるな、普段は何処にいて何してるんだろ?
太陽と思われるものは昨日とほぼ同じ場所にあるが、月のように昨日とは違う形で欠けている。
地平線のように見える大地の左右が、ほんの少し上がって見えるのは目の錯覚だろう。
「まさにザ、田舎……。」
こういう場所って、時間がゆっくり流れてるよな。
見える範囲だけの話だが、
元の世界ではありえない小型の機械がたくさん何かしているのに、自然は壊されることなく広がっている。
不思議な場所だ……。
異常なくらい落ち着いていられるのは、きっと和風っぽいこの家の雰囲気のせいだろう。
少し喉が渇いた……けど、起こすのはちょっと気が引けるな、もうしばらく待ってみるか。
そうしていると、頭の中にノイズが走る。
『……-ガ!サ……ガッ!サ──……!』
なんだ??
『サ──…!サーガ!サーーガ――!』
やっとお目覚めか。
縁側から部屋へはいると、頭の中の声がはっきりしてくる。
ハイハイ……って、姿が見えなきゃこっちの声は届かないんだっけ?
走って来る音がする。
『サーガッ!』
「なんだよ。」
振り返り顔を見る……なんで涙目?
『居るなら居るって言ってよ。』
少しだけ声を震わせながら、小さな声で呟く。
昨夜の何気ない一言を思い出す。
首輪のおかげで、言ってることはハッキリ理解できちゃうんだよな。
オレは彼女の前で膝をつき抱き着きながら言う。
「おはよう、ご主人様。ちょっと喉が渇いたからなんかくれ。」
この状態で抱き着くと、二つの果実がちょうどいいポジションに来て気持ち良いのだ。
煩悩にあふれたおっさんを甘く見るなよ?
『もう、しょうがないんだから。』
ルーシェルが軽く抱き着いてくる。
顔を見上げると、少し涙目だが嬉しそうだ。
少し頬が赤いのは、泣きそうになったからだろう。
オレの中で、はじめてに近い謎の感情がこみあげてくる。
ヤバいな…これ……。




