その4 【クソガキと呼ばれた四十五歳】
想像以上の加速力!
……と言いたいところだが……
普通だな。
どういう原理で浮かび上がり走っているのか分からんが、
最先端の車やバイクと比べればウサギと亀くらいの違いがある。
構造の問題か、風の音は大きい。
電動キックボードの方が速くないか?
そういえば行き先を聞いてなかったな。
「Siron… viera-len… talen-ri?」
『家に帰るんだよ?』
なるほど、オレは家へ連れて行かれてるわけか。
「Méra… siron-len.」
『そういう事。』
風の音で彼女の声はかき消されてるが、頭の中の声はちゃんと聞こえる、これはかなり便利。
「Siron… thal-ri… nira-lu… véra-sen… melun-ri?」
『じゃあ大きな声出さなくても聞こえる?』
直接触れてる状態で、口に出して喋ってくれればわかるはず。
「――以下省略――」
『なるほど!それは便利ね』
ところで、今日中には着くのか?
『日が消えるまでには着くよ。』
日が消える?
目を細め太陽?を見ると、月のように2/3程欠けている。
少し冷静に周りを見渡すと、生まれ育ったド田舎の田園風景によく似ている。
あれは田んぼ…いや畑?何か作ってるのか?
『そうだよ、薬や食べる物の原料を作ってるの。この辺りの管理者が私たち。』
「私…たち?お前たちが作ってるのか?」
『ルーシェル』
ん!?
『私の名前はルーシェル、お前なんて言わない!』
なるほど、このドエロフシスターはルーシェルって名前なのか。
『それにしても、アナタ面白いわね。オスがこんなに意思疎通ができて会話が成立する生き物だって知らなかったからさ、ちょっとビックリしちゃった。』
オスと呼ばれてることも気にはなるが、同じ人間なんだから意思疎通なんてある程度できて普通じゃないのか?
この娘の中で男ってどんなイメージなんだよ。
『遺伝子を運ぶための、ただの受け皿よ。』
受け皿?!
『そう、しつけ次第である程度言うことは聞くようになるけど会話なんてほぼ出来ない。
私たちが生き残っていくためには必要だから生かされてるって感じかな。
産まれてくる確率も低いしね。』
少ないって事は、男のオレは希少価値が高いのか?
でも産まれてくるって事は、それなりの行為は行われてるんだろ?
『行為って言うのはよく分からないけど、ここからいちばん近い場所だとファルカっていう大きな街があるの。
そこの施設でアタリのオス達は飼育・管理されてるわ。
他にもいくつか施設はあるけど、この辺りで製造され産まれてくる場所はそこよ。』
飼育?製造?それも気になるが、お前もそこで生まれたのか?
『私は第1世代だから、お母様から産まれてきたのよ。』
なんだか頭が痛くなるような設定だな。
だからこんな事をしても反応が鈍いのか。
『こら!くすぐったいから変な触り方しない!』
「しかし広くてデカイ畑?だなぁ、ちゃんと管理できてんのか?」
『作業自体はオートリクス達がやってるわ。私はその管理とメンテナンスをしてるってわけ。』
よく見れば形の違うロボットのようなもの達が何やら作業してるっぽい。
メンテだけで済むならこんなハレンチなシスターでも出来るって事か。
『そうでもないんだよ。
最近はデウス様達も来なくなっちゃってるからさ、直せなくなったオートリクスが増えて困ってるの。
そこでハズレのオスを安く買い叩いて使うか考えてたんだけど、基礎能力低くてコミュニケーションも上手く取れず、躾に時間かかるって聞くから悩んでるのよ。』
「まあ常識や会話が成立しなけりゃ難しいわな。」
デウスが何なのか分からんが、そいつでなきゃ直せないロボットが増えて困ってるって事で合ってるよな?
でも待てよ?さっき物を浮かせたりこのバイクみたいな物を動かしたりする能力がこの娘たちにはあるんだろ?
それなら農作業もコイツらがやれば早いんじゃないか?
『無理無理!生きてる物にはこの力は効かないもん、そんなの常識でしょ?それにコイツじゃなくルーシェル!そこから厳しく躾なきゃダメ?』
ヤべッ!オレの思考って触れてるとダダ漏れなんだっけ?!
大変申し訳ございませんでした!
果実を弄びながら思考してみる。
『わかった!わかったってば!くすぐったいからやめて!』
口先だけで生き延びてきたおっさんを舐めてもらっちゃ困る。
あれ?なんでだろう…すごく切なくて涙か溢れてきた……
『やっぱり面白いわねアナタ。そんな感じのオスって他にもいるの?』
ここは少し話を合わせた方が無難だろう。
この世界のオスがどんなものかオレも見た事が無いから分からん。
それにオレもアナタじゃなく佐川勝って名前がある。
『アハハ!生意気ぃ!ちゃんと名前あるんだ。じゃあ今日からアナタの事はサーガって呼ぶことにするわ。』
変な訳し方だが今はそれでいい。いずれご主人様と呼ぶんだぞ。
『私がご主人様なんだからそれは無理!』
そのうち足腰立たなくしてやるからな。
『フフッ、楽しみにしてるわ。』
くそぅ、軽くあしらわれてしまった。
だがな、伊達に四十五年も生きてじゃいない。
ふっふっふっ、もっと年上に見えたか?
『見た目は……うん、不細工ではあるけど——』
「けど?」
『クソガキじゃん!』
「はぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁっ?!?!?!?!?!」




