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デブブサメンが生かされてます  作者: 霧野 カナタ


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20/20

その20 【リィナに暴走スイッチが有りました】

『そうよ、突然白煙を上げて落ちたの。

 ちゃんと整備してたの? こっちは畑に墜落されて後始末が大変なんだけど。

 ……は? なに? わたしたちの扱いの問題だって言いたいわけ? 人のせいにしないでよ!

 あんたじゃ話にならないわ! アヤネ呼びなさい! いや、ここに連れてきなさいよ!』


 ルーシェルが、いつになく殺気立った声で誰かと通信している。

 普段なら“怒ってるなー”で済むが、今回は空気が違う。


『旦那様、大丈夫ですか?』


「大丈夫じゃねぇ! 放せ!」


 パシッ!


「ぬおっ!?」


『まだイケそうですわね。』


 ベシッ!


「ぐはぁっ!」


 オレはいま、天井から吊るされ、ハリセンでお仕置きされている。

 今日一番ダメージを受けてるのは、間違いなくコレだ。


『……分かったわよ。明日でいいから引き取りに来なさい!

 貴重な時間が無駄になったのよ!

 残りの分くらいそっちで刈り取って帰るくらいしなさい! いいわね!?』


 ルーシェルの“交渉”はこうである。


 ――――――

 突然ヴェルタレンが暴走! 白煙モクモク、見事に畑へダイブ。

 ジカタ・ビィはロスト、畑はボロボロ。まぁそこは目をつぶってやる。

 レンタル代も払う。

 その代わり、途中で止まった刈り取りの残りは追加料金なしで最後までよろしく♥

 ――――――


 悪党だった。


 バシィン!


『アンタのせいじゃろが!』


「あべしっ!」


『どうやったらあんなことになるのよ!』


「オレだって知らんわ!」


『あのヴェルタレンの走り……感動でございましたわ! 心が震えましたもの。さすが旦那様です。』


『リィナやめて。調子に乗るから。』


「悪かったって! もういいだろ? 降ろしてくれ!」




 ――




「ふぅ……」


 ひどい目にあった。

 レバーを握ったところまでは覚えているが、その後の記憶は曖昧だ。

 ヴェルタレンが“すごい走り”をしたらしいが……すごいって何だよ。


 家の前には、原型を保っているのが奇跡みたいなヴェルタレンが乗り捨てられている。

 お気に入りの縁側ビューが台無しだ。

 そしてオレ自身も、服が破れ、顔は土まみれ、魂は抜けかけている。


『旦那様、行きますわよ。』


「……へいへい。」


 ルーシェルは、オレが“暴走させた?”ヴェルタレンの後始末をしているらしい。


 リィナ曰く、


『ルーシェルも喜んでやっておられますから、任せておけばよろしいですわ。』


 ……あいつ、喜んでやってたのか。


 ホコリ高き男になったオレは、リィナに洗浄されることになった。

 慣れってやつは恐ろしい。リバーソンの反応も鈍くなってきた。


『旦那様、早くいらっしゃいまし。』


「今行くよ……っと」




 ペットのように洗われながら、リィナが静かに言う。


『旦那様は、やはり素晴らしいお方でしたわ。』


「ん? さっきのことか? ……正直よく覚えてねぇ。」


『ヴェルタレンは、ヴェラ・ミロンの廉価版のようなものでして。』


「廉価版?」


『機能は大幅に削ってありますが、基本構造はワタクシたちと同じだと、ルーシェルが……』


 ルーシェルが? なんでルーシェルがそこ知ってんだ?


『あのように雄たけびを上げて喜ぶヴェルタレンを拝見したのは初めてですわ。』


「喜んでたのかよ……」


『イキすぎてオーバーヒートいたしましたが、大変幸せそうでした。』


 嫌な予感がするが、今は聞かなかったことにしよう。


『完全自立型かそうでないかの違いでしてよ。そういう意味ではオートリクスも同じですわ。』


「いや全然同じに見えんけどな。」


 ヴェラ・ミロンは見た目人間そのものだし、単三電池で動いてるとは思えない。


 リィナがふと、そっとオレの背中に抱きついた。


『本日のヴェルタレンを目撃してから……胸の奥が昂ってしまい……。このような感覚は初めてで、戸惑っております。』


「リィナ?」


 柔らかな感触が背中に広がる。

 なんだこの、種族とか生命を越えた“ヤバい雰囲気”。


『あのように自分の制御を忘れ、全力で力を出せるだなんて! どれほどの解放感を味わえるのでしょうか!?』


「え、えっと、リィナさん???」


『様々なものに無意識に制御されているこの思考……一度くらい解き放ってみたく思いますの!』


「リィナ?」


『旦那様! ワタクシにもあの快楽をお与えください!』


「リィナ!」


『ハイ?』


「オマエは誰のものだ!」


『ワタクシの身も心も全て旦那様のモノです!』


「そうだ! その純真無垢な心も、その淫らで美しい体も全部オレのものだ!」


『ハイ……』


 オレは男の意地として仁王立ちになった。

 無駄に決めポーズを取る。

 そしてリィナは、オレのリバーソンに釘付けである。


『だ、旦那様、リバーソンさんのそのお姿は……』


「今はいい!」


『ハイッ!』


「リィナ。気持ちは分かる。だが! 今はまだその時じゃない!」


『?!』


「時が来れば、お前にその快楽をオレが与えてやる。」


『旦那様……』


「辛いかもしれんが、今は我慢しろ。」


『かしこまりました……取り乱してしまい申し訳ありません。』


「よい。では迎え入れる準備をしてきてくれ。」


『タオルと服をご用意してまいります。少々お待ちくださいませ。』


 リィナは静かに浴室から去っていった。




「……ふぅ。やべぇ!! あいつ、やべぇぞ!!」


 ノリと勢いで誤魔化したが、どうすんだオレ!

 なんでリィナがあんなテンションになった!? 本気で意味が分からん!


『旦那様、準備が整いましたので、こちらへ。』


「はーい……」


 考えるのがめんどくさくなってきた。

 誰かがどうにかするだろう。そういう世界だ。考えるのヤメヤメ。




 ―――――




 暗いヴェルタレンの運転席。

 残ったコンソールの光が怪しく明滅し、その機体の内部で……なにかが“笑った”。


『……凄いわこれ。もしかしてサーガって……』

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