その19 【スーパー電磁なヴェルタレン】
てれってってれーてってっ!
てれってってれーてってっ!
トゥルルトゥルー トゥルルトゥルー
たとえ嵐が吹こうと──!
『うるさいわねぇぇ!!』
気持ちよく歌っていたら、運転席にルーシェルが怒鳴りこんできた。耳が尖ってるくせに、怒鳴り声はさらに尖ってる。
「なんだよ、暇なんだからいいだろ?」
『アンタの意味不明ボイスが大音量で響いてくんのよ! テレパス無効化されて意味が分からないから余計イラつくの!』
そう、オレのスピーカー音声はなぜか翻訳されず、意味不明の言語ノイズとして処理される。
いやマジで、なんでだよ。
「ロマンなんだよ! レッツコンバインってやつ。あれ? ブイブイブイッ、だっけ?」
『いいから大人しくしてて!』
ほんと、この世界の住人は“男のロマン”を理解してくれない。
オレはいま、ヴェルタレンとかいう高さ5メートル超えの巨大収穫機に半ば強制的に乗せられている。
本来は、ターゲットをセンターに入れてスイッチ押すだけで勝手に仕事してくれる賢いヤツだ。
……のはずだったんだけど。
「ブーッブーッブーッブーッ!!」
突然アラームが鳴り、ヴェルタレンは急停止した。
「なんで止まるんだよ!」
コンソールの警告ランプが赤く点滅している。
『どうした?』
「なんか光ってる。」
『あ〜……やっぱり詰まっちゃったか。サーガ、その横のレバー引っ張って。』
「これか?」
ガタン、という鈍い音が外でした。
運転席から降りると、ヴェルタレンの側面カバーが大きく開いており、リィナが中を覗き込んでいた。
何かがぐっちゃりと絡まっている。
「なにこれ……」
『ストプキングという植物ですわ。』
「スト……ストッキング?」
『ストプキングです。よく絡まり、よく詰まり、よく作業を止める最悪の植物ですの。
ジカタ・ビィと似ていますが別物ですわ。』
名前のセンスどうかしてる。
『詰まったら、こうやって手で引き抜いて。』
「えっ、これ全部手作業なのか?」
『当たり前でしょう?』
当たり前じゃねぇよ。
結局、オレはストプキングを両手でズルズル引き抜き、カバーを閉め、運転席に戻り……
再始動。
ヴェルタレンは7メートルほど進み──
「ブーッブーッブーッブーッ!!」
「またかよぉぉ!!」
そこからは地獄の往復運動だった。
降りる。
カバー開けるの忘れて登り直す。
降りる。
草を引き抜く。
登る。
7メートル進む。
止まる。
二時間。延々と。
「ヒィ……ヒィ……フゥッ……なん、何往復だよ……」
視界がかすみ、星がチカチカしている。
ここはジカタ・ビィ砂漠のど真ん中。ルーシェルもリィナも、はるか遠くに小さく見えるだけだ。
「ヘルプミィ……誰か……」
スピーカー越しに叫んでみたが、ただ体力を削られただけだった。
オレはこの世界で、ストプキングとともに朽ち果てるのかもしれない……。
最後の力でストプキングを剥がし、運転席まで這うように戻る。
コンソールの手動レバーを、震える手で握った。
(……クソッタレが……)
オレの中で何かがぷつんと切れた。
「て、めぇ……ヴェルタレン……
さっきからチンタラしてんじゃねぇぞ……!」
怒号とともに、オレはレバーを押し込む。
「ぶっ壊れてもいい!! 全部刈り取れぇぇぇ!!」
脳内で謎の合体音が炸裂した。
テレッテレッテーテッテー!
テケテケテンテッテー!
ブイブイブイ! ビクトリー! コンバイ──!!
ヴェルタレンが跳ねるように加速した。
巨大な影が砂煙をあげ、地面が揺れた。
『ル、ルーシェル……あれ、今まで見たことのない速度ですわ。』
『なにあれ速っ!? は? え? ちょっと!?』
『旦那様……暴走してますね。』
『さっきなんか叫んでたわよね!?』
遠方にいたはずの二人が、急速に近づいてくる。
ヴェルタレンが一直線に突っ込んでいくからだ。
「見つけたぞコノヤロー!!
ターゲット確認!! センターに入れてスイッチじゃボケェ!!」
『え、ちょ、ちょっと待って待って待って!!
こっち来ないでってばぁぁぁ!!』
「ヌハァ! ヌハハハハハ!!
お前もヴェルタレン様が刈り取ってくれるわぁぁ!!」
『こっちくんなぁぁぁ!!』
『……活動限界ですわ。3、2、1──停止』
ヴェルタレンは地面を削りながら急停止した。
側面から白煙がモクモクと上がる。
オレは衝撃で運転席から前方に投げ出され、砂の地面に転がった。
「……レッツ……コンバイン……」
手にストプキングとジカタ・ビィを握りしめたまま、オレの意識は途切れた。
『……アンタねぇ……!』
『旦那様、ご無事でなによりですわ。』
白煙の向こうで、地平線がゆらゆら揺れている。




