その17 【異常報告:顔が溶ける悪臭】
日付が変わったくらいの静かな夜。
縁側に腰を下ろし、灯り一つない景色を眺めている。
『何かお悩みでも御座いますか?』
「有り過ぎて困ってるんだよ。」
『贅沢ですわね。』
「お前たちのせいだからな。」
気になる事は山ほどあるが………
「ルーシェルって、昔からあんな感じなのか?」
『フフフ、そうですわね、今日のようにはしゃいでいる姿は久しぶりに見ましたわ。』
「嬉しそうだな、あれはお前を売り飛ばした張本人だろ?」
『完璧とは言えませんが、おおむねワタクシたちの計画通りですの。』
「はぁ????」
『ふふふっ。』
さらっとヤバイ話をしやがる、計画通りってなんだ………
『借金のカタにワタクシが取られる前に手放した、コレが真実。
ワタクシのメモリーがリセットできず、売り物にならない状態にしたのもルーシェルの仕業ですのよ。』
「アイツそんなことできるの?」
『ルーシェルの得意分野ですわ。』
思わず小さく笑ってしまった、なんでお前がドヤ顔なんだよ。
『少し時間がかかり、所有権が旦那様に移りはしましたが、ここに帰ってこれてワタクシも嬉しいのです。』
「そんなことオレに話してよかったのか?」
『旦那様はオスなので。』
オス=無能がちゃんと定着してるぞ、デウスとかいうクソ野郎。
でも、今聞いた事は黙ってた方がよさそうだな。
『旦那様は一方的なテレパス持ちですから、ワタクシたちの間に秘め事を作るのは不可能と思われますわ。』
ですよね~!
「さっきはなんで裸だった?ちゃんと服を着ろ。」
『充電で体がほてっていましたので却下ですわ、それに旦那様を釘付けにできますので。』
…リバーソンさんの全開モードを見せたら、またおもちゃにされるだろ。
それだけはゴメンだ。
外が明るくなってきたので解散となり、オレは再びこそこそとベッドへと潜り込む。
『う~ん………もう、こっち!…』
「ぐふっ!」
柔らかロケットに包まれ、オレはまた眠りに落ちてゆく。
――翌朝――
『エリア51のオートリクスより異常が検出されました。
ということで、今日は緊急でお出かけです。』
単眼鏡を装着したルーシェルがニコニコで言う。
「朝っぱらからなんだ?」
『この時期の異常って、もしかしてアレですの?』
『帰ってきてすぐなんてラッキーよ。』
『アンラッキーですわ。』
表情の薄いリィナがとても暗い顔をする。
「なぁ、異常ってなんなんだよ。」
『虫退治よ、これ付けてね。』
手渡されたのは――
「これってテニスラケット…と、ガスマスク?」
「裏側がすっげぇ気持ち悪い!」
『下手に刺激されますと危険でしてよ。』
『あはは!大量だぁ!』
そこには見覚えのある虫がいた。
Gで無いのが救いだがこれは強敵!
しかも大きく、大人の掌ほどはある…
そう、巨大なカメムシである。
「これこそオートリクスで何とかしろよ!」
『そんなことしたら腐食しちゃうわよ。』
「あのデカい機械が腐るのかよ!」
『ワタクシもあまり得意とは言えませんわ。』
オレたちは畑の中を素早く、そして暗殺者のごとく静かに駆け抜ける。
ラケットの網の部分に粘着性があり、そこで虫を捕らえる。
捕らえたら「虫かご」と呼ばれる箱にラケットを突っ込み手元のボタンを押すと、かごの中で虫が放たれる仕組みらしい。
ターゲットを発見したらフルスイング!
ターゲットを発見したらフルスイング!!
ターゲットを発見したらフルスイング!!!
幸いにも奴らの動きは遅い。が、捕らえた瞬間、例の悪臭を放ちやがる!
「マスクしてても臭せぇ!」
『旦那様は素人ですから、仕方ありませんわね。』
「プロにもなりたくないわ!」
奴から攻撃を仕掛けてくることは無いが、たまに飛んでくるのが厄介だ。
オレは華麗なステップでそれをかわし、確実に仕留める!
カメムシの位置は、ゴーグルに図解入りで表示される。
『数がさらに増えてきてますわね。』
「表示される図解も気持ち悪りぃ…」
『あっちにもたくさんいるよ!』
ガスマスクをした原始人コスのおっさんが、テニスラケットを振り回しカメムシと戦う。
今日も世界は平和だ。
「はぁっ、はっ、はぁっ――やっと…やっと終わりか?………」
『おりゃぁ!』
『ルーシェルので最後ですわね。』
「つ、疲れた………」
オレはその場にドサッと倒れ込み、かすれた声でぼやく。
「もう、動けん…痩せてしまう……」
『仕方ありませんわね、よいしょ。』
0.1トン近くあるオレを、リィナが軽々しく肩に担ぎ上げる。
荷物のような扱いは、止めて頂けませんでしょうか。
『見て見て見て~っ、間違って触ったら手袋が黄色く………あっ。』
ぴとっ
「くっせぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
『ごめん、顔に付いちゃった?』
強烈な臭いにオレは悶絶する。
「おまえ!これはあのオートリクスが腐るヤツだろ!
……熱い、顔が熱い! くっせぇ、なんか臭いし熱いぞ!
オレの顔が!顔が溶けてしまうっ!!」
『即効性はありませんので、まだ大丈夫ですわ。』
『専用洗剤あるから、帰ったら洗ってあげるって。』
「リィナ降ろせ!あいつはここで――ここでオレが始末してやる!!」




