その16 【オレは今日も、風呂で泣かされる】
「もういいだろ?放せよ!」
オレは今、ルーシェルのチカラで操作されたタオル陣に手足を拘束されている。
『これですか?ルーシェルの言ってたエクスカ・リバーソンさんは。』
『面白いもの持ってるでしょ?小さくなったり大きくなったりするのよ。今日は少し大きいかな?』
3人だと狭いから後でいいと言ったが、オレの意見は秒で却下された。
「コラ!引っ張るな! 皮が持ってかれる!」
『エクスカ・リバーソンさんは、軟弱なのですね。』
『強そうなのは名前だけなのよ。』
湯気が二人の笑い声を包み込む。
『ところで、何をするためのモノなのでしょうか?』
『まだまだ大きくなるとか、白い炎を吐くとか言ってたのよ。』
『だからお風呂で確認するのですね。』
「お願いだからやめてくれぇぇぇぇっ!」
グスン……まさかこの年で小娘2人(推定300才と製造後194年)に泣かされる未来が来るとは思っていなかった。
『ご主人様、不細工に磨きがかかっていますわよ。』
『さっき洗ってあげたのに、もう顔がぐちゃぐちゃじゃない。』
「うっさいわ!」
オレは犬や猫じゃないんだぞ!立派な、いや立派になりすぎたおっさんなんだぞ!
『3人で入るのもいいでしょ。』
『狭いですが、たまにでしたら、楽しくてよいですね。』
『でしょ?また一緒に入ろうね。』
「………。」
もしかして、元の世界の犬猫たちも同じ気持ちなのか?
『どうされました?ご主人様。』
「なぁ、そのご主人様って何とかならんのか?」
『お気に召しませんか?』
「………オマエが言うと、小バカにされた感じがしてヤダ。」
『あら、ワタクシの心をお読みになれるのですね!』
『リィナ、前から言ってるけど少しは本音、隠しなさいよ。』
ぐぬぬぬぬぬ!このポンコロイドめ!
『そうですね、サーガ様では《逆さま》みたいで言いにくいですし…』
「逆さま………」
『普通に旦那様でいいんじゃないの?』
『かしこまりました。それでは、逆さまの事は旦那様と呼ばせていただきます。』
コイツ、絶対バカにしてやがる。
ヴェラ・ミロンがいれば、家事が楽になるといった理由が分かった。
驚くほど効率よく、テキパキとこなしていく。
『ルーシェル、魚類も適度に採取なさい。甘味は少し控えたほうがよろしくてよ。』
『また始まった………。少しくらい大丈夫よ。』
『昔ほど体を動かしてはいませんよね?そのままではすぐに、逆さまに…旦那様に追いついてしまいますわよ。』
『あれはオスの中でも超絶異常なだけよ、きっと。』
小娘、ちゃんと叱ってくれる相手は大事だぞ。
『遅くなりました。』
そう言いながら、出来上がったものをリィナが持ってくる。
皿を置いた瞬間から、香りが暴力的に旨そうだ。
こちらの食材を全く理解していないので何が何だか分からんが、ヴェルミロン・リサーナと言われるものらしい。
『やったぁ!久しぶりだ!』
「なんだこれ?」
『イモとバターを使った一般的なものです。』
オレはこの世界の言葉をテレパスという謎能力で理解している。
脳内で勝手に理解できる言葉に変換される、とてもありがーたいものだ。
たまに意味不明な言葉になるのは、変換し難いからなのだろう。
『だからサーガの言ってる意味が、時々分かんないんだ。』
逆もそうなるのか。
『ちょっとかわいそうな人ってスルーしてたけど、違ったのか。』
『ルーシェルこそ、少し本音は隠した方がよろしくてよ。』
「オレは今、自分が凄くかわいそうだと思っている。」
そう言いながら、ひとくち頬張る。
これもあれだ、オレの体重を増加させるヤバいものだ。
『お口に合いましたでしょうか?』
「クッソ旨いのが腹立つ。」
後片付けもテキパキ行う。
ルーシェルも…手伝ってるんだよな?あれ。
オレはソファに寝転がり物思いにふける。
離れた状態であの2人が視界にいなければ、オレの思考が奴らに飛ぶことはない。
しかし、ヴェラ・ミロンって凄いな、取り扱いは注意だがめっちゃ便利だ。
なのに、なんで人が減ってるんだ?便利すぎるのは逆にダメなのか?
それは元の世界にも言える事かもな。
それにしても腹いっぱいだ、このまま寝ると牛になるとか言われるが…少し寝るか………。
んん――っぷは、はぁ……っ、
むにっ、この感触は……ルーシェルの柔らかロケットか。
抱き付いてくるのも、この感触も嬉しいが、窒息しては意味がない。
ソファで寝てたけどベッドに運ばれてきたのか。
そっとベッドを抜け出し、いつもの縁側へ向かう。
……ん? 部屋の奥がぼんやり明るい。
そっと覗くと、部屋の隅に四角い板があり、その上の椅子にリィナが目を閉じて座っていた。
あれは、充電でもしてるのか?オレの行き先は、リィナがいる場所の少し向こう側なんだよな。
なるべく音をたてないように進んでいくが……
『旦那さま?』
「すまん、起こしたか?」
『問題ありません。が、旦那様の視線がとても嬉しく思います。』
「なんで裸なんだよ。」
リィナの重量は150キロ弱、普段は自身の反重力装置?を使い50キロくらいになるよう常に制御しているらしい。
充電中は制御が効かないため、補強板の上で座って充電する必要があるそうだ。
『フル充電で約1日半動けます。』
「なんか微妙だな。」
『予備のバッテリーを持っておりますので、問題はありませんのよ。』
「予備のバッテリー?」
『こちらです、4本1セットとなっております。』
「……おまえは単3電池4本で動いてるのかよ。」




