その10 【異世界でオーダーメイド】
ギィィィィィィィィッ………
古めかしい木製の扉が軋みながら開く。
まさにお化け屋敷の入り口だ。
扉を開くと、薄暗い部屋の中に人影が一つ。
完成した服がいくつか飾られているが、素材や生地の方が圧倒的に多い。
雰囲気は、少し高級なオーダーメイドショップといったところである。
『ミレイ、居る?』
「Ah… Lú-shel… tal-en-lu」
そこには、シルバーの髪色のクール系のお姉さんがいた。
女性らしい、しなやかな曲線が際立つタイトなワンピースに身を包み、高めのヒールを履いている。
そのためか、ルーシェルより背が高く胸部装甲は慎ましやかだ。
「Lu… nira-thal? Viera-sor… nira-valen-ri.」
オレを舐めるように見てほほ笑む。
お嬢さん、オレに惚れるなよ?
『………不細工だって言われてるのよ。』
なんてこった!ルーシェルの言葉は理解できるが、他はダメなのか!
『彼女はミレイ、私と同じ第一世代よ。
この服も彼女が作ってくれたの。
それと、この不細工なのは………うちで飼うことになったオスのサーガ。』
「Siron… viera-lu?」
『すごいでしょ?』
「Viera-nor… thal-en… siron-lu… nira-os… méra-lu.」
なんていってるんだよ!
オレはルーシェルの手を掴みながら訪ねる。
『えっとね………』
「Viera-os… siron-lu… nira-thal… viera-sir-en.」
『オスだからかしら、不思議な言葉を使うのね。』
!?
『そう、この子よく喋るの。』
『でも、ちゃんと意味のある言葉を話してるのかしら。』
「この風貌でブツブツ独り言ばかり言ってたらヤバイヤツ確定だろ。」
『フフッ。』
『あら、何か言ってるわよ?』
『えっ?あっ、うん、そうね…』
オレの言葉は理解できていない?
てか、お前は聞こえとるだろが!
オレは腕を組み考える…
「Hú-hu… talen-véra… siron-lu… méra-thal.」
『ね、かわいいでしょ?』
また分からなくなったな。
老化しつつある脳みそをフルに使って考える。
さっきと何が違う?
もしかして!
オレは慌ててルーシェルの手を掴む。
『じゃあこの不細工なオスに服を作る気なの?やめた方がよくない?』
聞こえないほうが幸せなのかも………
なるほどね、細かいことはよく分らんままだが、ルーシェルに触れていると、彼女と会話してる人の言葉も理解できるっぽい。
ただし、オレの言葉の意味はルーシェルにしか分からないようだ。
ってことは、あのミレイって子に触れれば、首輪の力も加わって、みんなで話すことができるって事じゃん。
そう考え、ルーシェルのを放そうとした…
『やだ。』
えっ?
『いやだ。』
力強くルーシェルがオレの手を掴む。
オレを見るその目は怒っている感じこそ無いが、顔は真剣そのもの。
と同時に、オレの防衛本能が音のない警笛を鳴らす。
わかった、お前の手を掴むのはいいのか?
『うん。』
『どうかした?』
『あ、この子がね、何か悪さしそうだったから…』
『そんなこともわかるの?すごいわね。』
………
『どう頑張っても市販のものは無理ね』
『やっぱりダメかぁ、高くなるけど作ってもらうしかないね』
『ただのオスでしょ、別にそれでいいんじゃない?』
オレは頭を大きく左右に振り回す!
『あら、少しは言葉が理解できてるのかしら。』
『ちょっとワガママなんだよね、この子。』
言葉は分からないふりをしろなんて言われたが、黙ってたら何されるか分からんじゃないか!
この格好でいいだと?冗談は………オレの顔だけにしろ!
『ククッ…』
『どうかした?』
『ご、ごめん!何でもない。』
銃のようなもので謎の光を浴びせられ、採寸をされた。
特に腹回りが標準的なオスよりデカいので、市販のものは多少改造しても無理らしい。
メートル級のウェストだ、当たり前だろ。
となればオーダーするしかないが、手の込んだものは値段も時間もかかってしまうので却下。
『やっぱりこれかな…』
『値段は手ごろだけど、ちょっと時間が必要よ。』
『そっかぁ、他になんかない?』
『めんどくさい客ね。』
机の上に映し出された3Dのホログラム、キーボードやマウスのようなものは見当たらないが、眼鏡をかけたミレイが空中で指を動かし、何やら操作している。
『これなんてどう?値段も手ごろで、時間もそこまでかからないわよ。』
『悪くないけど、なにこれ?』
『アリスの時代よりもっと古い世界で流行ってた服みたいね。』
『アリス時代って、この服よりもっともっと古い時代じゃない!』
『手に持っているものはオプションになるわよ。』
『んーーーー。そのオプションは却下で!』
オレの服なのに、オレの意見は全く無視かよ!
『色はどうするの?。』
『これと同じでいいや。2着だとどのくらいでできる?』
『そうね、生地はあるから3、いや4日かな。』
『じゃあ4日後に取りに来るからこれにして。』
しかもこれって………服と言えば服だけど…
『先払いだからね。』
『わかってますぅ!』
ホログラムには、毛皮っぽい生地のワンショルダー、いわゆる原始人服が映し出されている。
オプションのこん棒も付けやがれコノヤロー!




