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【台本作品】ヴェルファリード・レコード

作者: 理乃碧王

≪前編『剣に選ばれし夜』≫


【柱:夜 ドラゼウフ城近郊の森】

※ガルア:元脇役の戦士。アレイクに選ばれたことで物語を逸脱する。

※ラナン:赤い瞳の魔術師。魔族に属する少女。


〇 演出

SE:夜の森の風の音、葉のざわめき。


ナレーター:

これは、かつて『Ground Brave Quest』と呼ばれたRPG世界の裏側にあたる物語――。

魔王を討つ勇者が主役の王道ファンタジーとして設計されたゲーム世界だ。

だがそこには、予定されたシナリオから外れた者達がいた。


まずはこの物語の主人公、ガルア。

本来は脇役の戦士に過ぎなかった彼は物語の終盤―― ラストダンジョン『ドラゼウフ城』の奥で、『霜護の番竜』ゲレドッツォと出会った。

それは氷の魔力を操る竜人族の古強者(ふるつわもの)であり、 滅びた魔王ドラゼウフに忠誠を誓い、その遺体を氷の棺に封じて守り続けていた番竜である。

彼は、かつての戦いで幾人もの勇者を退けた伝説の存在でもあった。

ガルアは番竜との死闘の中、かつての冒険の中で手に入れた謎めいた一冊の灰色本から剣が現れる。


剣の名は――アレイク。

魂を喰らい、持ち主に強大な力を与える代わりに命を蝕む、 この世界の『ルール』を越えた呪われし刀剣であった。

アレイクに選ばれし時より、ガルアの物語は『正規の物語』から逸脱。

そして、(ふる)き時代の英雄イオと出会い、この世界は何者かに作られたものであることを告げられる。

全ては創りもの、自分もガルアも物語に配置された人形であると。

その秘密――記憶の断片はアレイクの中にあり、その手掛かりがドラゼウフ城近くの森の中にあるという。

ガルアは『選択』して歩む、彼自身の新たな旅が始まるのであった。


〇 演出

SE:歩く足音、葉を踏む音。

照明:ガルアとラナンに個別スポットライト。


ラナン「何かが眠ってるみたいに静かね」


〇 演出

SE:遠くで魔鳥の羽ばたき。

照明:舞台奥の明かりがわずかに明滅。


ナレーター:

ガルアの仲間、ラナン――赤い瞳を持つ魔術師の少女。

その正体は不明瞭なまま、魔族に属する者として世界の片隅に存在していた。

かつては、物語おける使い捨ての端役に過ぎなかった彼女。

ある時、イオに拾われ、ガルアの仲間として役目を与えられる。

彼女は知識と魔導に通じ、理知的でありながらも沈黙の奥に優しさを宿す。


ガルア「ああ……それにしても妙に冷えるな」

ラナン「この森はドラゼウフ城のすぐ近く……空気に魔力が混じっている影響かしら」

ガルア「それだけならいいが、アレイクの反応が消えたのが気になる」


〇 演出

SE:剣が鞘から抜かれる音/赤色LED点灯。


ナレーター:

ゲレドッツォとの死闘で、 深緋に染まったその刃は彼の魂を喰らい、アレイクはガルアを選んだ。

だが今、その刀身は灰色に沈黙している。

あの紅い輝きも、体を蝕む呪いの感触も、まるで夢のように消えていた。


ガルア「ゲレドッツォを斬ったときは、赤く燃えていたのに……まるで、息を潜めているようだ」

ラナン「……イオ様は、この森に『何か』があると言っていた。アレイクの記憶に触れる何かが」

ガルア「記憶か……剣に記憶があるのも妙な話だが信じてみよう。与えられた選択肢がそれだけならば……」


〇 演出

SE:遠くで風が唸るような音。

照明:舞台奥へと導く道を照らす演出。


ナレーター:

導かれるように二人は森の奥へ進む。

そして、辿り着いたのは古びた祠。

月光に照らされたその中央に、一つの石碑が立っていた。


ラナン「……文字が刻まれている。 “我、アレイクに選ばれし時、血に沈む自由を誓わん”……」

ガルア「選ばれし時? ……俺が選ばれたというのか、このアレイクに」


〇 演出

SE:剣が微かに共鳴する音/刀身が一瞬赤く光る。


ナレーター:

灰色だった刀身が、一瞬だけ赤く脈動する。

それは、誰かの記憶が呼び起こされる予兆――。


〇 演出

SE:空気が揺れるような音。光の粒子が舞う。

照明:全体紫銀にプロジェクターで記憶都市「ヴェルファリード」を投影。


ラナン「ガルア、これは……映像……?」

ガルア「違う……これは『記憶』だ……剣に刻まれた、過去の断片――」

ラナン「何故わかるの?」

ガルア「アレイクがそう教えてくれている」

ラナン「教えてくれる?」

ガルア「聞こえるんだ。アレイクの声が……」

ラナン「……ッ!」(戸惑うような声を)


〇 演出

SE:別世界の風音。僅かなざわめき。


ナレーター:

二人には見え、女の声が教えてくれた。

映し出されるビジョン、ここは紫銀に輝く街『ヴェルファリード』だと。

かつて存在した、人間と魔族が共に暮らした調和の街。

交易、学術、信仰の全てを共有した都市であり、 人間も魔族も対等な民として手を取り合っていた理想郷だった。

そこに立つ、黒髪の勇者と赤き瞳の魔族の姫だった。

二人は共に並び、空を仰ぎ、微笑んでいた。


ラナン(小声)「……あれ、あの女の人……私に……似ている……?」

ガルア「人間と魔族が共に笑っているだと? まさか、これがアレイクの『原点』……?」


〇 演出

SE:記憶がフェードアウトするような風の音。

照明:紫銀から森へと戻る。


ナレーター:

映像と音の記憶は風に溶け、夜の森へと帰っていく。

ただ残ったのは、再び脈動を始めた剣と二人の沈黙だった。


ガルア「……ラナン」

ラナン「なに?」

ガルア「お前は……この世界がもしも誰かに作られたものだとして……それでも、生きる意味はあると思うか?」

ラナン「……私はあると思う。 だって、あなたが私を仲間として選んでくれたから。この剣があなたを選んだように――」


〇 演出

SE:剣が低く共鳴する音。

照明:二人のスポットが柔らかく重なる。


ナレーター:

剣に選ばれし者――それは呪いか、祝福か。

だが、確かにその夜、彼らは『物語』を越えて歩み始めた。

これは世界の設定や物語の常識を破壊しようとする者達の記録である。


――「選ばれし者」とは何か。

――「運命に抗う」とは何か。


それらを問う旅がここから始まる。


〇 演出

SE:森の風、ゆっくりとフェードアウト。

照明:全体暗転。


ナレーター:

――中編『凍れる記憶、揺れる瞳』へ。


≪中編『凍れる記憶、揺れる瞳』≫


【柱:夜 森の奥の洞窟前】


ナレーター:

ガルア達は一つの石碑に辿り着いた。

それは剣アレイクの記憶の断片――かつて存在した理想郷「ヴェルファリード」の光景だった。

あの夜を越えた彼らは、旧き英雄イオの言葉に導かれ、さらなる真実を追って歩み続ける。


〇 演出

SE:歩く足音、土と岩を踏みしめる音。

照明:奥から舞台中央に向かって洞窟の入り口が照らされる。

SE:遠くで低いうなり声のような音が響く(洞窟の不穏な気配を暗示)。

照明:洞窟の入り口に薄い紫の霧のような光を投影(記憶の封印の雰囲気を強化)。


ナレーター:

森の奥、月光の届かぬ暗がりに、洞窟が口を開けていた。

苔むした石壁に、根が絡みつく。それはまるで、記憶の封印を守る扉のようだった。

だが、その奥からは微かな唸り声が響く。何かが、二人を待ち受けている――。


ラナン「ここが……その場所なのかしら」

ガルア:「ああ。アレイクの力の源……あるいは、過去そのものが眠る場所かもしれない」


〇 演出

SE:足音が石を踏みしめて洞窟へと入っていく。

照明:舞台全体が薄紫に、洞窟内演出へ移行。

SE:水滴の音に混じり、微かな石の軋む音(不安定な洞窟を表現)。


ナレーター:

こうして彼らは、剣の記憶が導く第二の扉――時の忘却に沈んだ洞窟へと足を踏み入れたのだった。


〇 演出

SE:しんとした静寂、かすかな水の滴る音。

SE:遠くで岩が崩れる小さな音(危機の予兆)。


ラナン「……空気が違う。冷たい、けど……澄んでいるわ」

ガルア「何かが……待っているというのか」

ラナン「かもしれないわね……ガルア、剣の様子は?」

ガルア「まだ静かだ。だが、この洞窟の奥に何かを感じる……アレイクがざわめいている」


〇 演出

SE:剣が微かに共鳴する淡い音。


ナレーター:

アレイクが再び脈動を始める。

灰色の刀身に、淡く赤い光が灯り、奥へと進めと語るように震えていた。


〇 演出

SE:突然、岩が崩れる大きな音。低い唸り声が近づく(魔物の気配)。

照明:舞台奥から赤黒い光が瞬く(魔物の襲撃を暗示)。


ラナン「ガルア、気をつけて! 何かが来る!」

ガルア「この洞窟はただの墓じゃない……アレイク、準備しろ」


〇 演出

SE:剣を抜く音、魔物の咆哮、魔法の炸裂音(ラナンの魔術)。

照明:ガルアに赤いスポット、ラナンに青いスポットが点灯。舞台奥で赤黒い光が揺れる。


ナレーター:

突如、洞窟の闇から魔物が襲いかかる。

それは、ヴェルファリードの記憶を守る亡魂――かつての戦士の怨念が形となったもの。

ガルアの剣が閃き、ラナンの魔術が闇を裂く。


ガルア「ラナン、援護を頼む!」

ラナン「任せて! ……炎よ、道を照らせ!」


〇 演出

SE:剣戟の音、魔物の断末魔、岩が砕ける音。

照明:赤と青の光が交錯し、魔物の光が消滅。舞台が再び薄紫に戻る。


ナレーター:

二人の連携で、亡魂は闇に還った。

だが、その戦いはヴェルファリードの記憶がまだ生きていることを告げていた。


〇 演出

照明:奥へと導く通路に沿って光が灯る演出。


ラナン「この先にあるのは、剣が見せたい記憶……?」

ガルア「それとも……俺達に見せたい『答え』かもしれないな」


〇 演出

SE:風が逆巻くような音、空気が揺れる。

照明:記憶の再生演出。洞窟の壁にプロジェクターで映像を重ねる。

照明:紫銀の光が柔らかく広がり、祭壇の暖かな光を投影(ヴェルファリードの調和を強調)。


ナレーター:

そして、彼らはその『記憶』と出会う。

それはヴェルファリードの更なる一面。

かつてこの街にあった、ある祭壇――儀式の光景であろう。

そこには人間の黒髪の勇者と、赤き瞳の魔族の姫が互いに手を取り合い祈りを捧げていた。

互いの言語で通じ合うこと。それが平和を保つための術だった。


ラナン「……この街、本当に……あったのね」

ラナン(小声、震える声で)「あの人の顔と瞳の色……私と、どこか似ている……?」

ガルア「だが……この記憶に終わりがあることも感じる」


〇 演出

SE:ラナンの言葉に呼応するように、剣が低く共鳴。

照明:ラナンに薄い赤いスポットが一瞬重なり、姫のイメージを重ねる。


ラナン「ガルア……あの記憶に映っていた彼女。もし私が、あの人の記憶の一部……誰かの過去をなぞるだけの存在だったとしたら……私は結局、物語の脇役でしかないの?」

ガルア「違う、お前は誰の記憶の模写なんかじゃない。お前が俺の仲間になると選んだように、俺もお前を選んだ。それが全ての答えだ」

ラナン「……ありがとう、ガルア。私、もう誰かの意志に流されない。これは私が選んだ道――私だけの覚悟として、歩いていく」


〇 演出

SE:雷鳴。ざわめき。崩れる建物の音。

照明:暖色が一気に冷たい青白へ。都市が崩壊する演出。

SE:悲鳴に混じり、遠くで剣戟の音(抵抗の名残を暗示)。


ナレーター:

突如として燃え上がる建物。

瓦礫が降り、人々の悲鳴が洞窟に木霊する。

記憶の中で、ヴェルファリードは崩れてゆく。


ラナン「……何よこれ……一体誰が……?」

ラナン(怒りと悲しみを込めて)「こんなことが許されるの!?」

ガルア「見ろ。空に軍旗……あれは……どこかの国の紋章……?」


ナレーター:

人間が魔族の街を……焼きつくしていた。

美しい街は荒れ果て、人間や魔族の亡骸が横たわっている。

理想は終わった。平和は潰えたのだ。

それはアレイクの記憶が刻んだ『終焉』の記録だった。


〇 演出

SE:風が止まり、記憶がフェードアウトするような音。

照明:ゆっくりと記憶から洞窟の演出に戻る。

照明:二人のスポットライトが重なり、柔らかい紫光が残響する(記憶の余韻)。


ガルア「……ラナン」

ラナン「……うん」

ガルア「この記憶は、ただの過去じゃない。俺達が何を選ぶか……それが、ヴェルファリードの続きだ」

ラナン「ええ……あなたが選ぶ道を私も一緒に歩むわ。この悲劇を繰り返さないために」


〇 演出

SE:剣が静かに脈動する音。

照明:二人を照らす淡い光。静かに暗転。


ナレーター:

凍れる記憶は語った。

かつて、理想は存在したと。

だがそれは、誰かの正義により打ち砕かれた。

ならば今こそ、問い直す時なのだ。

この剣、アレイクが告げた真実を胸に――ガルアとラナンは新たな一歩を踏み出す。

次回、後編『灰と焔の選択』へ。


ナレーター:

――後編『灰と焔の選択』へ。


≪後編『灰と焔の選択』≫


【柱:荒野 崩れた石碑の前(夜明け前)】


〇演出

SE:風の音。舞台暗転。

照明:中央より赤と灰色の淡い灯りが上昇してゆく。


ナレーター:

――これは世界のルールを越えた者達の物語。

呪われた剣アレイクが示した記憶は、かつて存在した理想郷の終焉。

ラナンは、自らの作られた一部をそこに見出し、ガルアはその記憶の重みと向き合おうとしていた。


〇演出

SE:風が強く吹く音。落ち葉が舞う音。

照明:舞台全体に荒野の風景。遠くに崩れた石碑と燃え尽きた瓦礫が配置されている。


ラナン「……何も、残っていないわね」

ガルア「……だけど、何もなかったとは思わない。ここに、確かに『生きていた者達』がいたのは確かだ」


ナレーター:

彼らはかつて、この場所に希望を灯した。

人間と魔族が共に生き、語り合い、願いを交わした都市――ヴェルファリード。

だがその火は、正義という名の『無寛容の炎』によって全てを焼かれた。


〇演出

SE:微かに、剣が脈動する音。

照明:アレイクが赤く一閃、剣先が祠の方向を示す。


ガルア「アレイクが……呼んでいる」

ラナン「この先に……何があるの?」

ガルア「それを確かめるのが、俺達の『選ばれた』意味だろう」


〇演出

SE:重い石扉が開く音。

照明:地下へ続く階段が奥から浮かび上がる。舞台は地下の遺構へと切り替わる。


ナレーター:

二人が辿り着いたのは、ヴェルファリードの地下に眠る神殿跡。

そこにはもう、祈りも声もなかった。

ただ、最後に生きた者達の『記録』だけが刻まれていた。


〇演出

SE:滴る水音。遠くで鐘のような残響。

照明:神殿の柱、砕けた祭壇。中心には封じられた灰の核。


ラナン「これは……?」

ガルア「記憶の結晶……アレイクの源。全ての始まりだ」

ラナン「それもアレイクが教えてくれるの?」

ガルア「ああ、俺に教えてくれている」

ラナン「アレイク……不思議な剣ね」


〇演出

SE:剣が共鳴。風が逆巻くような音と共に記憶が開かれる。

照明:灰の核より光の粒子が立ち上がり、舞台に記憶が投影される。


ナレーター:

記憶は語る――。

人間の勇者と魔族の姫が、この剣に誓いを捧げた夜と言葉。

それは――「争いのためではなく、護るために使え」というもの。

だが、その祈りは人間達の『正しさ』によって踏みにじられたことを。


〇演出

SE:断罪の鐘。剣戟の音。

照明:記憶の中のガルアに酷似した勇者が、姫を庇いながら剣を振るう。


ラナン(小声)「……あの人、やっぱり……あなたに……」

ガルア「いや、違う。……だけど、きっと俺達は、あの人達の『続き』なんだ」


ナレーター:

剣はその姿を変えずとも、持つ者によって意味を変える。

アレイクは彼らの祈りを受け継ぎ、時を越えて――今、ガルアに選ばれた。


〇演出

SE:急な雷鳴、記憶が裂けるような音。

照明:投影が一度に崩れ落ち、舞台全体が闇に包まれる。


ラナン「……!? なに、今の……」

ガルア「アレイクが言っている……『抗う力』だ。誰かが、記憶に干渉している……」


ナレーター:

この世界の時を護る存在がいる。

逸脱を赦さぬ調停者、物語の管理者――その意志が今干渉を始めた。


〇演出

SE:糸が軋む音、空間に歪みが走る。封印が破れ、無数の記憶の囁きが交錯する。

照明:舞台奥に淡い紫光。糸で吊られた中性的な人形の影が浮かび上がる。

その姿は白磁のように滑らかで、仮面の下からは赤い光が漏れている。背中からは記憶の糸が幾重にも伸び、空間に揺れている。


ナレーター:

姿を現したのは、このゲームの記憶の管理者――メモリーディア。

それは、かつて語り部として記憶を記し続けてきた存在。

だが、今や自らの記憶に囚われ、糸で吊られた傀儡と化した哀しき魔物。

他者の記憶を語ることでしか存在できず、物語の逸脱者を排除する調停者である。


メモリーディア「……選ばれし者よ、君達は定められた物語のルートから外れてしまった。この世界に戻ることはできない」

ガルア「戻る気なんてない、俺達は進んでいく――例え、それが物語の終焉でも!」

メモリーディア「愚かな、ならば見せよう――運命の最後を! 君達を削除する!」


〇演出

SE:雷鳴、金属の軋む音、地響き。

照明:舞台中央が激しく揺れ、メモリーディアとガルア達の間に赤黒い亀裂が走る。


ナレーター:

記憶を護る存在『メモリーディア』が、空間ごとこの場を制圧する。

その手に握られるのは、物語の原典――全ての出来事を記録し、未来すら定める黒の書。

その一撃は、定められた運命そのものだった。


メモリーディア「――観念せよ。『定められた結末』に抗う者達よ」


〇演出

SE:メモリーディアの呪詠、黒雷のような魔法が放たれる音。

照明:舞台奥から漆黒の雷撃がガルアを狙って走る。


ガルア「ラナン、下がれッ!!」


〇演出

SE:剣を振るう音、雷を断ち切る衝撃音。

照明:アレイクが紅に輝き、黒雷を打ち払う斬撃の軌跡。


ナレーター:

アレイクが応える。定めを切り裂く刃として、ガルアの手で咆哮を放つ。

だが、メモリーディアは動じない。次なる呪文をその口に乗せる。


メモリーディア「――『記録せよ、滅びの未来』――!」


〇演出

SE:地鳴り、崩れる大地。

照明:舞台に揺れと裂け目のプロジェクション。空からは灰が降り注ぐ。


ラナン「ガルア! この空間全体が――記憶そのものが壊れていく!」

ガルア「くそっ……アレイク、力を貸してくれ! 今だけは……全てを超えろッ!!」


〇演出

SE:剣が悲鳴のように高く共鳴。風が逆巻き、炎と光が爆ぜる。

照明:赤白の強烈な光が舞台全体を照らし、ガルアの一撃が発動。


ナレーター:

禁じられた記憶の力が、アレイクに宿る。

祝福でも呪いでもない――己の意志で振るう、ただの一太刀。

それがメモリーディアの胸を穿った。


〇演出

SE:断ち切られる音、黒の書が裂けるような破砕音。

照明:メモリーディアが沈み、記録が塵と化す演出。


メモリーディア「……運命を……越える、か……」(メモリーディア、光に溶けるように退場)


ナレーター:

剣が火を裂き、呪いが呪いを打ち砕く。

それは記憶の中の戦いであり、今の彼らが選んだ『選択』の証でもあった。


ガルア「アレイク……! 全ての記憶を、俺の手に!!」


〇演出

SE:剣が閃光を放つ。

照明:舞台全体を赤と白の光が包み、戦いが止まる。

SE:静寂。風の音。

照明:灰色の石碑の前、二人だけが残される。


ラナン「終わったの……?」

ガルア「いや。ようやく始まるんだ。俺達自身の物語が――」


ナレーター:

運命の選択は終わった。

だがそれは、終わりではなく――誰の記憶にも依らない、新しい始まりだった。


ガルア「ラナン。この剣が示した全てを、俺は背負って生きていこうと思う――ついて来るか?」

ラナン「ええ……私も一緒に歩むわ。記憶を、痛みを、そして未来を――あなたと共に」


〇演出

SE:剣が最後に穏やかに共鳴。

照明:灰と焔の残光の中、ふたりに柔らかい光が差す。


ナレーター:

アレイクは静かに光を収める。

この剣に込められた全ての過去は、今この瞬間を生きるためにあったのだ。


――物語に選ばれし者達ではなく。

――物語に抗い、選び直した者達の記録。


ナレーター:

こうして、剣の記憶は終わりを迎えた。

そして世界は……物語の外側で、確かに動き始める。


【柱:夜明け 森の中 エピローグ】


〇演出

SE:森の風。静かに雪が舞う音。

照明:ゆっくりと夜明けの光が舞台全体に差し込む。


ナレーター:

――終幕『ヴェルファリード・レコード』。

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