魔女と世界の核 後編
「魔制計画は一旦中断!?どうしてです?」
「私も今朝聞いたの。どうやら、大陸南西部で大規模な反乱があって、その影響で少しの間作業を中断して欲しいらしいの、、、」
「そう、、、私は作業しててもいいかな?」
「わかんないの、、、ちょっと聞いてみるの、、。」
アリカルはそういってどこかへ行ってしまった。
世界時計の建築には大量の人間が投下されている。
「何人だっけ?」
私は、軍に招集されていなかったフォルシアに話しかけた。
私とフォルシアは魔法が使えないので、戦いに参加できないため、魔法協会の本部に残っていたのだった。
「えっと、、確か二万人じゃなかったか?そのうち兵士の人が一万だな。」
「すごい人数だね、やっぱり。」
町中から人が消えて。
恐ろしい静かさにつぶされそうになって。
フォルシアがそんな景色に酔いながら鳴らす紅茶の氷がからりと響いて。
「ねぇ、フォルシア。私って魔女失格かな、、」
「どうした〜?人が居なくて寂しくなったらネガティブになるのか~?」
「そうじゃないけど、、、、、いや、そうなのかもね。」
フォルシアは少しだけびっくりしたような顔をしたが、何も話さずに私の頭を撫でた。
「なんですか?私への哀れみでも込めてるんですか?」
「いや?私もわからなくない時あるから、、、」
「この話やめましょ、ほら、久々に二人だし、、、料理とか、、、ね?」
少し慌てているのも、誤魔化そうとしているのもフォルシアに伝わってしまっただろうか?
「そうだね、何か作ろうか、、、」
戦いは思ったよりも長引いているようでまだ誰も帰ってこない。
私は作業してもいいという話だったが、正直フェリアがいないと私は作業ができない。
結界式魔法陣と通常の魔法陣を両方使いながら四重環魔法陣の生成なんて私には無理な話で、、、案の定することがなくなってしまった。
「レーミア、戦場の輩からお手紙だぞ~?」
「そう。いつ戻るって?」
「あと数日で片が付きそうだって。リージュは相変わらずの活躍らしいぞ?」
アリカル曰く、文字通り神だった、とのことで、、、
「そうだよね、、私もあれは数回しか見たことないけど、鮮明に映るよね、、、」
リージュの魔法の一つ、「光属性複合魔法術式 リージュ・マールド・ルミネイス」。
リージュの文字通り最高傑作だ。
この魔法は、五つの魔法のうち、2つを同時に発動することで発動できる。
どうやら、最低でも二つは魔法を発動していないと、魔力の制限が難しいらしい。
五つの魔法は、どうやら魔力の制御能力の向上の役目もあるらしい。
「フォルシア、リージュの魔法って結局なんなんだっけ、、、」
「覚えてない、、、、」
その後、手帳を見返していると、小さくメモ書きしてあることに気づいた。
「光属性魔法 イーフィア・ルミネイス」
「光属性魔法 ラング・ルミネイス」
「光属性魔法 ショード・ルミネイス」
「光属性魔法 シアス・ルミネイス」
「光属性魔法 ディストレイ・ルミネイス」
「そんな魔法あったっけ、、、フォルシア、覚えてる?」
私は一番下に書かれた魔法を指さして話しかけた。
フォルシアは少し思い出そうとしていたようだったが、結局思い出せなかった。
「あとでこんな魔法あったか聞いてみようか、、、」
「そうだね、リージュの魔法は複雑すぎて、、、」
確かに、リージュの魔法は無駄に凝ったものが多いような気はする。
「まぁでも、リージュの求める魔法っていうのは、そういうのなんじゃないかな?」
私もわからなくはない気がする。
綺麗で、華やかで、そんな魔法を見て、心を躍らせる。
それが私を魔女にしたし、それを求めていたのも事実だ。
「私にはそういうのが無理だったから、魔道具なんて作ってるわけで。」
「レーミアもああいうのに憧れあるタイプなんだね、、」
この口調から推測するに、フォルシアもそうなのだろう。
第二十四章 行方不明
大陸南西部で起きた反乱は、魔女や軍隊の活躍によって約二週間で大方片付いたようで、アリカルが寄越した手紙によると、明後日には戻れる、という話だった。
フェリアは戦いで少し負傷したため、自分たちより早くつく筈だ、とのことだった。
「だって、フォルシア。漸く作業再開できそうだね。」
「そうだね、私はいつでも作業できるように少しだけ頑張っておこうかな、、、」
「そうだね、みんなが戻ってきたら、すぐに作業が再開できるように準備しておこうか。」
アリカルの手紙通り、フェリアは手紙が届いた翌日に、その他の面子もその次の日には魔法協会本部に戻ってきていた。戦後処理とか、、色々あるのだろう。
私の工房の中には趣味で集めた沢山の物物、レーミアの姿を最近見ていないが、、、
「あいつも多分、忙しいんだろうな、、、、」
作業の再開時期に見込みがついたので、レーミアに知らせに行くようアリカルに仰せつかった。
レーミアの工房は何度か行った事があるが、殺風景というか、特に個性も感じない部屋だが、私はああ言う部屋がなんだかんだ好きで、自分の部屋のごちゃごちゃと真逆なその空間はどこか新鮮であると同時に、私に懐かしさを覚えさせる。
「島の工房は、本当に何もなかったからねぇ、、、」
レーミアの工房の遠びらを叩くと、その鍵が外れていることに気づいた。
「鍵開けたままって、、、不用心にも程が、、、」
工房の中は恐ろしいほどに静まり返っていて、人がいるような感じではない。
「レーミア〜?どこにいるんだ?」
工房の机の上に散乱した魔石、魔道具の材料。
何かがぶつかったのか、斜めにずれた机が2つ。
何かを乱暴に扱ったのか、壁についた傷が数箇所、、、
「アリカル、レーミアは工房にはいなかったぞ?」
「そう、、、珍しいこともあったものなのね、、、」
レーミアは基本的に工房に閉じこもっているものだと思っていたの、、、
「あとアリカル、、、レーミアは攫われたのかもしれないよ?」
「そんな事があるものなの?」
「あるものだよ、、レーミアの重要性はわかっているでしょう?」
大陸南西部での反乱、その兵士の到着前に攫われたレーミア、、、
「因果関係がないと思う方が難しいの、、、」
アリカルは少しだけ考えていたようだったが、緊急で会議を開くことを決めたらしく、私はその後暫く魔女を集めたり、会議の場所の準備をしたり、、、
確証があるわけではないが、レーミアが攫われたとしたら、、、
会議の内容は、レーミアが行方不明であること、暫くの間はレーミアの捜索を行うため魔制計画の魔法陣制作は中断になる、ということだった。
勿論、たった一人のために国家主導の大規模な計画を止めるのはどうなのかという話もあったが、魔制計画の情報が外部に流出すると、魔制計画の制御装置が悪用されかねないという理由をアリカルがつけたため、その後は特に反論もなく捜索に入る形となった。
「で、、アリカル、レーミアの居場所に見当はついているのか?」
「そうなの、、、スロードフォルか、、それか、、、」
私の見立てでは、レーミアは魔制計画の制御装置の関係で攫われたと考えているの。
そうなると、、、、
「案外世界時計の中とかかもしれないの。」
「そんなところにいるものなのか?まぁ、、、行くだけいってみるか、、、」
アリカルの勘というものは時々それは果たして勘なのだろうかというほどにあたるもので、こういう時ほどその精度は上がっている様な気がする。
私はその勘を別に信じていないが頼りにはしているのだ。
「で、、レーミアを攫ったのはあなた達なのか?」
「思ったよりも早かったですね、、そうですね、正確には私たちのマスターが、、、」
「そうか、返してもらいたいんだが、無理だろうか?」
「それは無理な話ですね、、、いや、、案外受け入れてもらえるかもしれません。」
制御装置の真ん中の、まだ建設中の魔法陣のその核の近く。
何か読み物を読み、弁々と頁を繰る人間が一人。
その者は少しだけ不思議な空気を纏っていた。
「マスターから返信ですね、、、あら、返すんですか、、、」
その者はそう言うとこちらを向き、こう話し始めた。
「マスターから魔女レーミアを返すように指示を頂きました。レーミアの場所を開示致します。」
そういうと、その人間は私に地図を渡した。
「待て、お前は誰なんだ?レーミアを攫った組織に関わりはあるんだろう?」
「マスターからは尻尾を掴まれるなと注意されているのです。」
「、、、そうか、、では吐いてもらおう、お前についてな、、、」
「貴方が戦闘に向かない魔女であることはすでに分かっています。」
「、、、せめて君たちの組織の名前だけでも教えてくれ、、、」
「そうですね、、マスターの名前を冠して、アイラとでも名乗りましょうか、、」
「そうか、、、」
私は組織アイラの構成員を名乗る人間の渡した地図を見た。
その隙をついてか、構成員は私の前から姿を消してしまった。
「まぁいいか、、、戦って勝てるわけじゃないし、、、」
その人間が渡した地図に書かれていた場所はドーダヴァルーハ北西の廃教会だった。
「レーミア、この辺にいるんだろ?」
やはり返事はなく、騙されたのかと思ったが、少しすると、かすかに呻き声の様なものが聞こえた。
そちらの方へ向かうと、もぞもぞと動く麻袋があった。
「レーミア、無事か?」
「、、、ありがとうね、、本当に死ぬかと思った、、、」
レーミアに話を聞いたが、寝て起きたら袋詰めにされていたと言う話だった。
「マスターとやらは誰か、、見当もつかないな、、、」
レーミアが見つかった事で魔法陣の制作は再開されたが、結局レーミアを攫った人間達が何なのかは全くわからなかった。
「アリカル、どうするんだ?その集団を。」
「とりあえず暫くは様子見なの、、、、」
制御装置の建設はその後は順調に進み、あとは魔法陣の展開のみとなった。
「フェリア、魔法陣はできた?」
「できました、、、魔力量に対抗できるかテストします?」
「そうだね、ちょっとずつ魔力を流して耐えられるか一応テストしようか、、、。」
第二十五幕 世界時計
レーミア様はいつもより少しだけ落ち着いたような、張り詰めたような表情をしていた。
中央の制御装置に魔力を送る装置から転送された魔力を受けとる魔法陣を中央の魔力を均等にし、周囲の装置に送る魔法陣に接続していく。
「魔法陣接続完了、魔力循環制限解除」
瞬間、魔法陣には徐々に魔力が流れ始める。
「魔法陣安定異常なし、循環魔力量異常なし」
レーミア様はそう言って魔法陣をチェックしていた。
「フェリア、アリカルの所に行って、魔力吸収、魔力供給に問題が無いか聞いて来て。」
「了解致しました。」
アリカル様は、確かドーダヴァルーハ中央に設置した装置のところにいたはずだ。
少しだけ駆け足でそちらへ向かうと、魔力の観測をしているアリカル様がいた。
「アリカル様、異常はなさそうでしょうか?」
「異常ないの。魔力も均等なの。これで、、、」
不可能と言われた魔制計画はこの瞬間に終了した。
この大規模な魔法陣は、世界中の魔力を均等に分配し、その内部にあった魔力情報を蓄積していくことだろう。
「レーミア様にお疲れ様って言わないとですね。」
「私も頑張ったの。」
「はい、アリカル様もお疲れ様です。」
その後、魔法陣の制作チームでもう一度集まることになった。
「本当にお疲れ様だったの、みんな。」
「本当に疲れたよ。久々の大仕事だったな。」
「そうなの。本当にお疲れ様なの。」
レーミアはいつも通り、自分は何もしていないと言うような表情をしている。
「レーミアもお疲れ様だな。」
「あぁ、リージュ。お疲れ様。リージュは頑張ってたみたいだね。」
「レーミアもだぞ。」
「私はそんなに、、、いや、そんなこともないか。」
レーミアは静かに笑っていた。
「なぁレーミア、知ってるか?中央制御装置の名称を決めるために貴族様達が争ってるんだと。」
「ふふ、、面白そうな話だね、、で、結局どうなりそうなの?」
「アリカルが仲裁に入ったらしいよ。」
「そうなんだ、、、って待て、、嫌な予感が、、、」
数日後、私たちはアリカルに再招集された。
「今日集まってもらったのは、中央制御装置の名称を決めるためなの。」
「、、、やっぱりこうなったぁぁぁぁ」
「レーミアの予想通りだったな。」
名称を決めるのは想像通り一悶着どころか幾万悶着はあった。
数日以上会議は続いたらしいが、私はそういうことに興味がないもので、魔法協会本部の所蔵庫にこもって、本を読み漁り、魔法の研究に勤しんでいた。
「レーーーミア、いる?」
「いますが?何か、、、ってリージュか。」
「中央制御装置の名称はレーミアが決めることになったよ。」
「、、、!?何があったか三行で説明しろ。」
「了解した。」
そういうと、リージュは厚紙を取り出して何かを書き始めた。
一名称が決まらず数悶着
二一番の功労者に名称を決めてもらおう
三You
「、、、まじかよ、、どうなってもいいのか?」
「そうだね。」
世界時計に何か特徴はあっただろうか、、、、
「そういえば正面に時計がついていたっけ、、、」
世界の中心となる時計、、、、
「世界時計 ティメラ・マーキラ・オーロヴァ、、、とか?」
「いいじゃん!みんなに伝えてくる。」
本当になんだったのやら、、、まぁ正直、それだけ悶着していたことなのだ、そう簡単に私の案なんて通るはずもないであろう。
「アリカル、急にお茶に誘うなんて珍しいね。」
「そうなの、、、、久々にお茶したくなったの。」
この街も少しずつ変わっているのだな、、こんなところに新しい看板ができて、、、!?
「あれまじで世界時計って名前になったん!?」
「そうなの。意外と好評で、名付けを私達ってことにしたら、みんな黙って通したの。」
「そう、、、、」
まぁ、色々あったが、これで私もいつも通りの研究に戻れるだろう、、、
「あ、そうそう、魔法協会の所蔵庫って私出入りしていい?」
「構わないの。あとで協会内に伝達しておくの。」
「よかったのですか?レーミアを返してしまって。」
「いいじゃない、あの魔女がいないと制御装置は完成しないのでしょ?」
「そうですね、、、私たちの目的は制御装置ですし、、、」
「その通りだわ。でも、あの装置は今後も狙って行くわよ?」
幕間 用語解説
第二十五幕 漸く
世界時計が完成し、漸くのんびりと研究ができるだろうか。
フォルシアが呪詛の研究で島に戻ると言っていたため、私も戻ることにした。
フォルシアも私のように、皆と会って昔が恋しくなったのだろう。
島への引っ越しも大体終わり、漸く研究に手をつけようと、、、
「そう思ってたんだけど、、、、」
「レーミアも災難だったね、、、漸く研究できるって楽しそうにしてたのに。」
「本当にそうだよ、、、」
ドーダヴァルーハで行われる勲章授与式に参加しろと、、、
ドーダヴァルーハは一応帝国の一都、帝都である。
そこには王城があったり、宮殿があったり色々あるらしいが、私は魔法協会本部の周辺からあまり離れなかったし、魔法協会は街の郊外にあるので帝都らしい帝都も見ておらず、、、
そんなことを思っていると、招待文に気になるものがあった。
「五大魔女、、、?知ってる?フォルシア、、、」
「まぁ、噂に聞いた程度。世界時計の建造に立ち会った五人の魔女を総称して五大魔女と呼ぶことがある、、って。レーミアも私もそうだよね。」
「そうなんだ、、、私、世界時計完成してから殆どの時間、所蔵庫に篭ってたんだよね、、、」
「アリカルから聞いたよ?二日何も食べてないからってフェリア心配して、ご飯を運んでたって話じゃん。フェリアに迷惑かけちゃダメだよ〜?」
「それは、、、反省してる。」
どうやら授与式への参加は強制ではないらしいので、面倒事を避けるために授与式を蹴り飛ばしつつ、その“五大魔女”やらという肩書きも破壊しようと思ったのだが、フォルシアが一緒に来いと五月蝿いし、島で一人というのも少々寂しさを覚えたので、行ってみることにした。
第二十六幕 授与式、それは貴族の戦い
「って、、、来ちゃったわけだけど、、、」
さぞ当たり前なことで、帝国の王から評価されるような、そんな会が小規模なはずがなく、、、
世界全体に関わることならなおのことで、その会場は、豪華絢爛で、目に止まる料理、装飾の数々、そして何より、数え切れないほどの貴族やらなんやら、、、
「フォルシア、、、今からでも帰っていい?」
「ダメです、ここまで来たんだから。」
やっぱり帰ればよかったと、、、そう思っていたが、五人集まると、流石にそんなことも言い出せる雰囲気ではなくなり、授与式なんて滅多にないし、楽しもう的なノリに押しつぶされてしまった。
授与式には、魔制計画で見覚えのある人もちらほらといた。
「いっぱい人がいるもんだね、、、、フェリア戻ってきた、、、」
皆は料理をとりに行ってしまい、私と話していたフェリアもどこかへ行ったきり帰ってきて居なかったが、しばらく経って戻ってきたのだった。
「レーミア様?覚えていらっしゃいますかね、、、こちらレミスです。」
「は〜い、レミスだよ!」
フェリアはレミスを連れてきて、話し始めた。
「そうそう、五大魔女を決める時は色々ありましたから、、、」
「そう、最初はレーミアは五大魔女に選ばれてなかったんだよ?」
「あ、そうだったの、、、」
だったら選ばれないままでもいいじゃないか、、、と思いつつも、自分がやったことを鑑みれば、選ばれないとおかしいのかもしれない、、、と思ったり。
どうやら貴族の会議で誰を特別に表彰するかという話になった際、原案では私ではなくレミスが選ばれていたらしい。
その話はレミスも聞いたらしいが、レミスがそれに猛反発したらしく、、、
「いいじゃん、別に。表彰されるのは悪いことじゃないでしょ?」
「いや、、、そうじゃなくて、、、」
レミスはそう言って黙り込んでしまった。
それに変わるようにフェリアが話し始めた。
「レミス、こう見えてレーミア様のこととても褒めていたんですよ?」
「そう、、、レミスの魔法職としてのプライドが許さなかったってことね、、、」
実際は違うだろうが、レミスがそうだと言っていたので、そうなのだと言うことにするべきだろう。
そんな会話をしていると、授与式が始まったらしく、聴覚を刺すような音楽が会場に広がるとともに音楽が鳴り始め、皆が一斉に拍手を始める。
授与式について何も知らなくてもわかる。おそらく帝国の王が入場するのだろう。
帝国の王らしき人が前の少し立派な椅子に座り、そして側近のような人から紙を受け取り話し始める。まぁ、所謂始めの言葉である。
それが終わると、王は名前を呼び始める。
少し聞いていると、私も呼ばれ、前へ行くように指示があったので前へ向かうと、王が表彰のペンダントを手渡し、それで授与式は終わりとなった。
「意外とすんなりおわったね、、、」
「何言ってるんです?レーミア様、、、」
近くにいたフェリアに話しかけると、フェリアは少し不思議そうに言った。
「授与式は貴族の戦いの場、いかに優秀な魔法職を自分のものにできるか、、そういうものです。」
第二十七幕 逃亡
「フェリア、、、それってつまり、、、」
「そうですよ?ここからが本番です。」
フェリアはそう言い残し、アリカルのところへ行ってしまった。
「そうだよね、、、貴族の人たちは優秀な魔法職ほしいよね、、、」
会場の端の方で様子を見ていると、大きな人だかりができていることに気づいた。
「あれは、、、リージュか、、、」
リージュは確かに優秀な魔法職だし、あぁなるのも当然か、、、
幸いなことに私を狙っている貴族はそこまでいないらしく、存在感が元々薄いこともあってか、私の周囲にはまだそこまで人はいない。
「、、、よし、逃げるか。」
授与式の会場が王城であったこともあり、周囲は厳重な警戒体制が敷かれており、会場の外に出られるか怪しいと言ったところだろうか。
「会場内でゆっくりできそうな場所、、、、」
そういえば王城の案内に、中庭がどうこうと書かれていただろうか。
「中庭か、、、いいね、行ってみようか。」
授与式の会場は王城の2階、中庭のすぐ近くで、窓から見下ろせば綺麗な花々が敷き詰められていた。
「ここが中庭か、、、流石王城って感じかな、、、」
ここでしばらくの間はゆっくりして、会が終わりそうになったら会場に戻ることにした。
「ほう、先客がいると、、珍しいこともあったものだ。」
低く、響くような声で目が覚めた。
「起こしてしまったか、すまない。」
どうやら私は、中庭のベンチに腰掛けて眠っていたらしい。
話しかけた人間の顔はどこかで見たような、、、、
「あぁ、魔女レーミアであったか。」
「、、、王様、、ですか?」
「左様、名乗っていなかったな。帝国の王、レスト・オーロヴァ・ラップだ。」
「あぁ、えっと、魔女レーミアです。」
王は自らをレスト王と呼ぶよう言った。
「レスト王はどうしてこちらに?」
「あぁ、授与式が終わったからな。」
「えっとつまり、、、、」
「もうみんな帰ったぞ?」
「私ってこれどうなります?」
「本来は不法侵入などにあたるであろうが、今回は問題ないであろう、、、」
王はそういうと帰り道を私に教えてくれた。
「成る可く早く帰ることだな。」
「ありがとうございます。」
振り返って見た王城は帝国の首である故に壮大に作られ、只々綺麗と、そう思わせた。
「で、、、レーミアはめんどくさくてどっか行ってたと、、、」
「、、リージュの言う通りです、、、」
授与式の後、アリカルの工房に集まることになっていたので、私もそこへ向かうと、リージュはどうやら私が何をしていたのかわかっていたらしい。
「で、、、結局なんで集められたんだっけ、、、?」
「世界時計の正式なお披露目会がまだだったの。」
「あぁ、その祭典について話そうよ、、、と。」
アリカルの工房ではしばらくの間会議が続いていたが、そのうち皆やる気も無くなって昔話をしたり魔法の研究をし始めたりと様々だった。
「じゃあ私はそろそろ帰ろうかな、、」
「帰るって、、島に?早くない?」
フォルシアがそう言って私を引き留めた。フォルシアは世界時計のお披露目会に出てから帰るとのことだったので私もそれに合わせて帰ることにした。
第二十八幕 五大魔女 集結
お披露目会は授与式の五日後と言うこともあり、少し暇になってしまった。
その隙を埋めるために魔導書を読み漁ったり、帝都観光をしたりと色々だった。
「お披露目会は明日か、、、街もなんか盛り上がってるね、、、」
道の上を跨ぐように飾られた紙の飾り、街頭に括られたランタンの数々。
そして何より、極才色の花々の飾られた歩道脇。
「本当に国家規模のお祭りなんだな、、、」
リージュも感心していたようだった。
こんなお祭りはそう行われるものではないし、面倒ではあったが残ったのは正解だっただろう。
「そういえばリージュは最近あんまり会えてなかったよね、、何してたの?」
「あぁ、冒険者に憧れててギルドに行ってた。」
リージュらしいといえばリージュらしいか、、、
冒険者ギルドというのは最近できた組織らしく、冒険者の得た素材などを安く買い取らせてもらう代わりに依頼などの斡旋を行うものらしい。
「あ!今日夕方に来いって言われてたんだった!」
「ギルド?私もついていくよ。暇だし。」
「そう?レーミアはあんまり楽しくないと思うけど、、」
「いいの、暇つぶし。」
組織が新しいこともあってギルドの建物はとても新しいものだった。
「新築の建物って独特な香りするよね。」
「なんか分からなくもないな、、、っと私はじゃあ用事を済ませてくるから、レーミアは、、、どっかこの辺にでもいればいい。」
「わかったよ。」
冒険者、というだけあって少し荒々しい人も多いように感じる。
「へぇ、、レストランみたいになってるんだ、、、」
冒険者ギルドは冒険者の憩いの場所というところもあるらしく、軽い食事くらいなら取れるようになっている、、、と受付嬢に聞いた。
「そうなんですね、、」
「レーミアさんは冒険者ではないのですよね?」
「そうですね。魔法も使えないので本当に戦闘には向かないのですよ。」
「そうですか、、、、!?、、すみません、少し問題が発生したみたいで、、、」
そう言うと受付嬢は慌てた様子で連絡をしていた。
「どうかなさったのですか?」
「えぇ、、大陸南西部で大規模な魔物の群れが発生してるらしく、、、」
「、、、、ちょっと資料とかある?」
「ありますけど、、、あんまり外部の人には見せるなって、、、」
「、、、五大魔女の権力でなんとか、、」
「、、、わかりました、、、ただここだと人が多いので、、、とりあえず奥に、、」
受付嬢は、フィオルと名乗り、手招きをした。
フィオルと一緒に来たのはギルドマスターの部屋の前だった。
「この部屋にギルドのトップであるギルマスがいます、、、」
「そう、、、フィオルとギルドマスターさんの情報共有に混ぜてもらう感じ?」
「まぁ、、簡単に言って仕舞えばそうですね。」
フィオルがドアを開けると、その先にはギルドマスターらしき人とリージュがいた。
「レーミアか、結局来たんだな。」
「リージュも、、、なんでいるのか不思議だわ、、、」
「なんだお前ら?顔馴染みか?」
「まぁ、そうだな。だいぶ長い付き合いだな。」
私が気になっているのをリージュは察したのだろう。
「あぁ、ギルマスのアリオンさん。」
「あぁ、紹介がまだだったな、、セアン・アリオンだ。」
「レーミアです。冒険者ではないです。」
自己紹介もほどほどに、魔物の群れについての話が始まった。
「魔物の群れは大陸南西部から北東へ移動中の模様で、、」
「数日後にはここまで来そうだな、、、、」
数日後にドーダヴァルーハ、、、か。
「リージュ、あんたも気づいてるでしょ?」
「そうだな。他の奴らも連れてくるか。」
リージュはそういうとギルドの廊下の窓から飛び降りて、イーフィア・ルミネイスを展開して飛び立った。相変わらずの派手さというかなんというか、、、
「ごめんなさいね、うちのリージュが。」
「いえいえ、、、というか、他の奴ら、、、とは、、、?」
「多分五大魔女のみんなのことじゃない?」
「五大魔女、、、ってあのですか?」
「そうだね、、、リージュが五大魔女なのは知ってるでしょ?」
「はい、、存じておりますが、、、」
暫くすると、戞々と階段を登る音が聞こえ始めた。
「噂をすれば、、、だね。」
リージュが「頼もー」と言って扉を勢いよく開けると、そこには見慣れた四人がいた。
「やっぱり連れてきたんだね。」
「人数は多いほうが解決しやすいこともあるしね。」
アリオンさんはこの面子を前に少し緊張している様子だったが、フィオルさんはいつも通りという感じで、お茶をふるまって状況の説明をしていた。
「で、、、私が思ってるのが、この群れって人為的に作られてるんじゃないかなって。」
「、、、そう考えるのが妥当だよね、、、」
世界時計が完成して、世界中の魔力が均一になった中で、魔物が大規模に移動する理由が特に思いつかないのだ、、、。
「あとは、、世界時計の故障とか、、、ないですかね、、、」
「そうだね、、、それは一応探る。私が行ってみるよ。」
その後の会話には参加せず、私は世界時計に行くことにした。
「警備の人ごめんね、ちょっと用事があるの。」
「あぁ、レーミアさんじゃないですか、、本日はどのような?」
警備の人とは接点があり、名前は知らないが普通に会話している。
「あぁ、ちょっと問題発生して、世界時計が故障してないか調べたい。」
「了解しました。では内部に連絡いたします。」
世界時計の内部を調べてみたが、故障はなかった。
「おかしいなぁ、、、あ、警備の人、最近変わったこととかなかった?」
「変わったこと、、、とくには、、、、あ、、そうそう。」
警備の人が少しだけ楽しそうに話し始めた。
「最近、世界時計に初めて侵入者が入って、警備陣初仕事でしたよ。」
「そう、、、まぁ当然か。世界時計だし。」
「そうですね、世界の魔力の中枢なので、致し方ないことなのかと。」
ギルドに戻ると、フィオルさんは受付業務を再開していた。
「みんなはもう帰っちゃった?」
「いえ、ギルマスと話してますね。」
「わかった。状況に変化があったら伝えて欲しいかな。」
「わかりました。」
ギルマス室の扉を開けると、変わらず議論が行われていた。
「レーミア、戻ったのか。様子はどうだった?」
「異常はなし、、、ただ一つ気になることがあった。」
世界時計に侵入者が入ったという話だが、世界時計が完成したことはまだお披露目会が終わっていないことから分かる通り、知っているのは一部貴族と、王と、、くらいである。
「その状態で世界時計に侵入しようと思う人間ってそんないない気がするんだよね、、、」
「そうだな、、まぁ誰かの悪戯かもしれないけど、、、アリカルってそういう繋がりある?」
「一応騎士団とかと繋がりはあるから聞いてみるの。」
その後も議論は続いていたらしいが、私は少し疲れたので先に宿屋に帰ったのだった。
第二十九幕 予想通り
翌日、私を起こしたのはアリカルだった。
「アリカル、、、私の宿の場所なんで知ってるのさ、、、」
「まぁ、それは、、おいておいてなの、、、侵入した人について資料集めたの。」
「ありがと、、、で、アリカル、なんで私の宿の部屋に入ってきてるの?」
「の、、、、。」
アリカルの資料に書れていたことから分かったことは、侵入した人が身元不定であること、その人は誰かに奴隷にされていたこと、そして、、、、
「捕縛直前に自殺、、よって情報はほとんどなし、、、と。」
「そうなの、、、酷い話なの、、、」
奴隷を教育して能力を向上させている、、、大規模な集団だと見た方がいいかな、、、
「アリカル、王様に伝えて欲しいことがある。」
「お披露目会の時の警備体制なら厳重にしておいたの。」
「そう、、世界時計の方も?」
「世界時計も問題はないと思うの。少なくても百人はつく事になるの。」
「分かった。アリカルも一応気をつけてね。」
「狙われるならレーミアだと思うの。」
「、、、そうだね。気をつけるよ、、。あ、アリカル、これ持っておいて。」
「これは、、、通信魔法晶なの?」
「そう、何かあったときに連絡できるようにね。」
というように色々あったものの愈々お披露目会当日。
私は特に関係があるようなことはないので、のんびり宿で様子を見ながら、出店で売っていた物を机に並べ、椅子に腰掛けた。
「いいねぇ、、、フェリアもそう思わない?」
フェリアは私が差し出した椅子に座って、焼き鳥を食んだ。
「そうですね、、、でもお披露目会でなくてよかったんですか?」
「私はいいんだよね。フェリアは良かったの?」
「レーミア様を一人にするのは危ないからと、アリカル様に仰せつかっていますし。」
フェリアの表情は少し悲しさを含んでいるように見えた。
「行ってみる?お披露目会。リージュもなんか話すみたいだし。」
「、、、良いのですか?」
「フェリア、行きたそうな顔してるよ?」
フェリアは無言で席を立つと、ベッドの上に置いていた外套を手に取った。
「ごめんなさい、、、私のこと気遣って、、、」
「いいよ、行くかどうか悩んではいたし。」
まぁ、人混みが苦手で、行くつもりなんてさらさらなかったが、フェリアは私からすれば妹のようなもので、その望むようにしてあげたいと思うのは仕方のないことなのだろう。
「で、、フェリア、どこ行く?」
「大丈夫ですかレーミア様、、、顔色が、、、あの、無理はなさらないで、、、」
「大丈夫だよ。いつも顔色は悪いから。」
やはり人混み苦手は克服できていないようで、人と服が擦れる感覚や、人の熱気が直に伝わる感じがどうもなれないというか、苦手というか、、、
「レーミア様、その角を右にお願いできますか?」
「はい、曲ったよ、、、ってここは?」
フェリアの案内で来たのは小さな喫茶店であった。
「ここは、レミスの知り合いがやってる喫茶店です。」
どうやら、今日は人手が足りないらしい。
「喫茶店も大変だね、、、今日はその手伝いに来たかったってこと?」
「いえ、そうではないのです、、、」
フェリアはそう言いながら喫茶店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ〜、何名様ですか?」
「2名です。レミス、似合ってるね。」
「フェリア!?来ないでって言ったのに、、、」
どうやらレミスは、人手が足りないのをカバーするために、一日バイトとして雇われていたらしい。
「ザ・喫茶店って感じだね。制服も似合ってるよ?」
「レーミア様まで、、、小馬鹿にしてるんですか?」
「似合ってるよ?結構。」
レミスは照れたのか暫くの間俯いていた。
「まぁいいです、、、ご案内します。」
一番奥のテーブルに座ると、向かいのテーブルにリージュがいることに気づいた。
「リージュもいたんだ、、、講演は?」
「あぁ、終わった、、緊張した、、、」
リージュと一緒に喋りながら注文を決め、店員を呼ぶとレミスが来た。
「このお店、今何人いるのよ、、、」
「、、、私含め三人です、、二人は調理担当です。」
飲食業界は大変なのだな、と思いながらも、制服姿のレミスを揶揄うフェリアを見るのはなかなかに面白く、リージュと一緒に暫くの間眺めていると、フェリアがそれに気づいたらしく、何みてるんですか?と聞かれたので、誤魔化しておいたのだった。
「で、レーミア、昨日言っていたこと、、どこまで本気で考えてる?」
「そうだね、、、半々、、、かな。」
リージュは、そうか、、、と呟くと、先に頼んでいたであろう紅茶を飲み干し、私はこれで、と席を立った。
「冒険者ギルドに行くの?」
「そうだな、、、情報収集ならあそこが一番手っ取り早い」
「分かったけど、、、、気を付けてね。」
「お前だろ、、それは。フェリア、レーミアは頼んだぞ。」
リージュ様はそういって店を後になさりました。
その足取りはやや焦りというか、言語化しがたいものを纏っていたような、、、そんな気がして。レーミア様との会話も相まって、何かがおこるのではないか、、とそういう焦燥に心臓がつかまれて、離れることができないのです。
「フェリア、どうした?気分でも悪いの?」
「あぁ、大丈夫です、、、ちょっと考え事を、、、」
こういう時は何か作業をしていたほうがいいだろう、、何か作業は、、、
「、、、レーミアさん、この喫茶店の制服ってかわいいと思いません?」
「え?あ、うん。かわいいとおもうよ?」
「レミス、私たちも手伝います。」
「レーミアさんも手伝ってくれるの~?ありがと~。」
レミスとフェリアで店内はなんとかなるとのことだったので、私は裏手の井戸に水を組みに行くように支持を受けた。
「この桶に水を汲んできてほしいです!」
「わかった、、行ってくるよ。」
思いもしなかった。本当に数十秒間の外出のはずだった。
「黙って指示に従え。殺されたくないなら。」
喫茶店の屋根の上から飛び降りてきた男は私の首元にナイフを突きつけてそう言う。
やや震えてはいるが、それでいて強い声だ。
本当は人間なんて殺したくないが、命令には逆らえないのだろう。
私がゆっくりとうなずくと、男は少し安堵したような表情を見せた。
男は持っていた縄で私の両手を縛り、そして麻袋の中に入れてさらに箱のようなものに入れただろうか。
視覚情報もないような中で、聞こえてくるからからという馬車の車輪の回る音、大きな川のそばに出たのか轟轟と流れる水の音、知らないの人間の会話する声。
「本当に遠い場所に来ちゃったんだなぁ、、、」
相手の目的は私を殺すことではないだろう。
「とりあえず従うのが得策かなぁ、、、」
私は知らない場所の知らない牢獄に閉じ込められた。
周囲は石レンガ、ガッチリと鍵のかかった鉄監獄、そして半地下らしい小さな小窓。
小窓は鉄格子がかけられていて、幅は私の頭の半分、、、
「部屋の中には、、、私が入ってた麻袋、、か、、、」
部屋を見渡していたが、特に目ぼしいものはないだろうか。
「魔女レーミア、貴方の昼食です。」
「、、意外とちゃんとしたご飯なんですね、、、」
パンが二つに、野菜や魚の入ったスープ、魚のソテー、、、
パンは少し硬い物だったが、私はこのくらいの方が好きなのだ。
スープは薄味、魚もシンプルな味付けではあったが、獄中食と考えれば相当豪華な物だろう。
「えぇ、私たちの目的は世界時計なので。貴方に死なれると困るのです。」
「だから私の持ち物は何もないわけ、、、」
「えぇ、、、理解してください。これは定のようなものなのです。」
「わかったよ、、、でも、ある程度はこちらの要求ものんでほしい。」
「、、、私たちはマスターの指示に従う従者ですので。」
やはりこの世界の人間というのは発想力に乏しい。
もう少し頭を使わないと、、、、
「やっぱりこうしておくのは正解だったね。」
口の中に魔石があることを再確認し、檻の看守と暫く雑談したのち、その人は交代の時間だから、と席を外した。周囲に人がいないことを確認し、軽く情報をアリカルに伝え、そして檻にあったベッドに寝転んだ。
「ちょっと固いな、、、あと少し寒いかな。」
入れ替わりできた看守は感じがよく、私が寒そうにしているのを見てか、
「ここは地下だから寒いでしょう、毛布を用意させますね。」
と言って、暫くしたのちに毛布を手渡した。
「だいぶ扱いはいいんですね、私。」
「そうですね、マスターからは、レーミア様は絶対に殺してはならないと仰せつかっていますし、丁重に扱うようにも言われております。」
このマスターとやらが全ての元凶なのだろう。
第三十幕 巻き込まれやすい体質
「レミス、レーミア様ってみました?」
「みてないが?水組んで、、そろそろ戻ってきてないとおかしいな。」
流石に不審に思って店の裏口から出ると、そこには人間の姿はなかった。
「レーミア様、、何してるんでしょう、、、」
ふと視線を地面にやると、繊維の一部のようなものが落ちていることに気づいた。
「麻紐でしょうか、、、地面に足跡もあるような、、、」
靴の大きさは私よりも圧倒的に大きく、レーミア様のものではないことは確かであろうと、そう思いレミスに問い合わせたが、この店にいる人間の誰よりも大きな足跡にどこか違和を覚え、少々心の中に不穏な空気を感じた。
「、、、レミス、お店は任せました。」
「どこに行くの?アリカル様のところ?」
「そうですね。一応ですけど、、、」
アリカル様は、世界時計のお披露目会の間、来賓として会場にいるはずだ。
「、、、いたけど、、ちょっと遠いな、、、」
アリカル様が気づかないかと、やや背伸びをして手を振っていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返り見ると、そこにはリージュ様がいて、どうかしたのかと尋ねてきた。
「レーミア様が見当たらなくて、どこかにいないかなと、、あと、そのことをアリカル様に一応ご報告に、、とそんなところです。」
「そう、、、フェリア、ちょっとついてきて。」
フェリアの手を引いて群衆を掻き分け、来賓席の裏手に回ると、アリカルは私たちに気づいていたのか、こちらを向き話しかけてきた。
「リージュ、何かあったの?」
「詳しい報告はフェリアからで、レーミアが行方不明らしい。」
「そう、、、あの子、巻き込まれやすい体質なのよね、、、」
アリカル様はそれを聞いてか、主催者の方々に何か断って、リージュ様を連れてどこかへ行ってしまいました。その表情はいつもよりも少しだけ引き攣ったような感じで、私の心の中の不穏な空気も少しずつ増していき、レーミア様のことが一層心配になるのです。
アリカル様はその後、私に魔法協会本部に来るよう招集をかけました。
私は、あの喫茶店で暫く手伝いをしていましたが、その連絡を受けたことをレミスに伝えると、仕事は私がなんとかするから、行っておいで、と。珍しく優しい言葉をかけてくれました。
おそらく私が酷く心配していたことを察してのことだったのでしょう。
「というわけで、レーミアがさらわれたの。」
「で、どうするんだ?あいつが連れ去られた場所に見当なんてつかないが、、、」
「それを今から考えようって話なの、、、」
結局、皆どうすればいいかわからず、沈黙してしまった。
沈黙を破ったのはフェリアだった。
「世界時計って確か、魔力情報を蓄積する機能がありましたよね、、あの機能を使って、大体の位置くらいなら特定できませんかね、、、」
「、、、やってみるの。」
アリカル様は私の話を聞いてそう呟くと、どこかへ行ってしまいました。
「警備の人、少しいいの?」
「なんでしょう?」
「レーミアが攫われたの。世界時計の情報蓄積装置を用いて、どこにいるか調べたいの。」
「わかりました。ただ、私は生憎警備のためにここを離れられないので、ご案内ができません。魔力情報蓄積装置の場所はわかりますか?」
「そこは大丈夫なの。じゃあ行ってくるの。お勤めご苦労なの。」
「本当にご苦労ですよ。レーミア様のご無事をお祈りします。」
世界時計の構造は一応理解しているし、魔力情報蓄積装置は比較的わかりやすい場所にあるからそう苦労することも無く着くことができた。
「魔力情報開示」
流石に世界中となると規模が大きく、見つけるのは骨が折れる作業だろう、、、
「レーミアっぽい魔力反応は、、、」
アリカルを見送って、その後暫くはどこにいるのか議論をしていた。
「レーミアって、無事なのかな、、、」
「私の予想ですけど、無事だと思います。」
「そう、、?まぁならいいんだけど、、」
少しだけ続いた沈黙の間に、部屋の前の廊下を走る音がした。
そして、勢いよく扉が開いたと同時に、部屋の中にアリカルが駆け込んできた。
「アリカル、早かったな、、、で、レーミアの場所は分かったのか?」
「見当がついた程度なの、、、というか、あくまで予想なの、、、」
世界時計の魔力蓄積装置は、大陸全土にある魔力収集、放出装置の内部に入った魔力の情報を蓄積する物である。
「それで、、スロードフォル近郊の三箇所の装置が、破壊された可能性が高いの、、、」
「相手方はその周囲にいる、、、、と。」
「そう思ってるの。」
「破壊されたことの裏付けってあるんですか?」
「破壊された装置のすぐ近くに同じような魔力の特徴を持った三人の人間が来ているの。」
「、、、そうですか、、レーミア様は助けに行くんですよね?」
「それは当たり前なの、、、ただ方法が思いつかないの、、、」
話し合いはどうやら長い時間経っていたらしく、気づいた時には空が黒くなり始めていた。
「、、、!?連絡用の魔石に魔力反応が入ったの、、」
連絡用の魔石は、確かレーミアが前に製作していたもので、魔力を転送する技術を応用して魔力情報を共有するものだったはずなの、、、
「、、とりあえずレーミアが攫われたことは確定なの。」
少し頭の中に疑問が湧いた。
果たしてスロードフォルに数時間ばかりでつくものだろうか、、、
確か、前にリージュがスロードフォルに行った時は、数日かかった、と言っていた覚えがある。
「、、、少し聞いてほしいの、、、」
「どうしたんですか?アリカル様。」
「今から五大魔女を二手に分ける。」
「、、、というと?レーミア様はスロードフォルにいるんですよね?」
「レーミアの捜索隊と、スロードフォルの捜索隊で二手に分けるの。」
リージュ様やフォルシア様も少し疑問に思っているようだった。
「アリカル、レーミアはスロードフォルにいるんじゃないのか?」
「いや、、、そうだと思うんだけど、、、一応なの。」
アリカルはそういうと、リージュとフェリアでスロードフォルに行って、都市の捜索と装置の修理、敵対勢力の調査を指示した。
「戦闘は流石にまずいと思うの、、、だからできるだけ隠密にお願いするの。」
「分かったよ。フェリアは共同作業あんまりしてないかも、、よろしくね。」
「よろしくお願いいたします、リージュ様。」
「様付け却下で。リージュって呼んで?」
「、、、わかりました、、、リージュ、、?」
フェリアとリージュはアリカルと少し話した後、スロードフォルに向かった。
「で、、、アリカル、レーミアがスロードフォルにいないと思う理由を教えてくれない?」
「、、、そういえば伝えていなかったの。」
飛翔魔法を用いて数日、その距離をほんの数時間で移動できるものなのか。
その疑問はフォルシアも理解したらしく、確かに違和感はあるな、、、と呟いていた。
「で、アリカルはレーミアが、別の場所にいるんじゃないか、、、、と。」
「そうなの、、、でも場所に見当がつかないの、、、」
「前回はどうだったっけな、、、」
前にもレーミアが攫われたことがあった。
その時は、“アイラ”という組織の構成員から、レーミアの居場所を教えてもらった。
「今回も、、、あいつらなのかな、、、」
やや丁寧な口調、不思議な雰囲気、そして何より、、、、
「マスターという人間を中心に、奴隷で構成される組織、、、」
「フォルシア、どうかしたの?」
「あぁ、、、レーミアが前に攫われたことがあっただろう?そのことを少し思い出していてな、、、みんなに伝えるのは忘れていたんだが、その時、“アイラ”という組織が裏で関わっていたんだ。」
「“アイラ”、、、、聞いたことない組織なの、、、どんな組織かどの程度わかっているの?」
大体話すと、アリカルは首を傾げていた。
「奴隷契約ってそもそもそんなにできるものなの、、、?」
「私の専門外だからなんともだけど、、、確かに聞かないよね、、、」
アリカルの伝で奴隷契約に詳しい魔女に話を聞いたが、やはり奴隷契約は一人に対して十人が限界との話だった。
「十人、、、そんな規模の組織だと思う?」
「思わないの、、、最低でも五十人、、、下手したら千人なの、、、」
「そうだよねぇ、、、」
レーミアの居場所が掴めないまま数日、フェリアの現地に到着したという一報が入った。
「フェリアに、レーミアがいたら保護するように伝えたの、、、」
「そう、、レーミアは居そうなの?」
「リージュの魔力探知にかからないらしいの、、、やっぱり、、、」
レーミアの居場所は完全に手がかりが無くなった。
「フォルシア、、、どうしたらいいかわからなくなっちゃったの、、、」
「そうだなぁ、、、なぁ、アリカル、あんたなら、レーミアをどこに隠す?」
「、、、私だったら、、どこなの、、、?わからないの、、、」
「ふふっ、、少し難しい質問をしちゃったね、、私なら、、、そうだね、、、、」
「この指で作った穴の中にレーミアを隠すかな。」
フォルシアはそういって右の手の親指と人差し指をくっつけた。
「、、、何を言っているかわからないの、、、」
「じゃあ、私の右手の上に手を乗せてごらん?」
フォルシアがそういって、指で作った輪が机に着くよう、机に手をのせた。
「、、、わかったの、、、」
そういって手を押し当てた。押し当てた手は、フォルシアの指に押し当たり、机に着けることができた面積は微々なものであった。
「じゃあ、ここに例えば、、、私の杖でいいや、、これを噛ませるとしたら?」
フォルシアは、私の手と机の間に杖を挟み込んだ。
「、、、フォルシア、、、そんな回りくどい言い方しなくてもいいの、、、」
「理屈をわかりやすく説明しようとしたらこうなっちゃった、、、」
「フォルシアは該当する箇所を全て洗って、、、私はフェリアに連絡を入れる。」
「わかったよ、、、ただ数が多いのよね、、」
「、、、わかったの、私も手伝うの。」
第三十一幕 黒塗り都市
スロードフォルへの道のりは、最近見たこともあり、新鮮さは覚えない。
「私もう飽きちゃった、、普段はこんなことないんだけどね、、、」
「私は普段来ない場所なので目新しいものばかりですね、、、」
急ぎということもあって、リージュ様の魔法で一気に移動してしまうことにした。
「リージュの魔法はすごいですね、、、私の魔法よりもずっと綺麗です。」
「そういえば私、フェリアが魔法使ってるところ見たことないかも、、、。フェリアの魔法はどんな感じなの?やっぱりかわいい系?」
「いえ、、、そんなんじゃないです、、、。」
漸くといったところだろうか。
「ほら、フェリア、正面。あれがスロードフォル。」
「あれですか、、、大分森の中ですね、、、」
街について最初に思ったのは、大分印象が変わったことだろうか。
「前来たときは、人通りも多くて、活気がある感じだったんだけど、、、」
来てみると、人通りはほとんどなく、店も明かりがついていないものがほとんど、、、
「とても寂しい街ですね、、、」
「そうだね、、、って、そうじゃないや、、魔力探知魔力探知、、」
周囲に魔力の反応はあるものの、レーミアらしい反応はない、、、
「異和を感じる魔力反応は沢山って感じかな、、、」
町中を不穏が空気になって這っているような、そんな感じだ。
「なんか、魔力反応があるんですけど、、多分これ、、、」
「そうだね、、、アリカルに報告しようか。」
アリカルには、レーミアがスロードフォル近郊にいないこと、スロードフォルでは不穏な魔力反応が複数観測されたことを報告しておいた。
「リージュ、アリカル様から返信はありました?」
「あぁ、、っとね、、戦闘は避けつつ調査を続行するの、、レーミアはこっちに任せとけなの、、だって。じゃあ、その通りに行こうか。」
「了解です、、、ではリージュは情報収集を、私は開いている宿屋を探します。」
「そうだね、じゃあ、宿屋は任せたよ。」
リージュと別れて、少しが経ちました。
やはり街の中は沈黙で包まれていて、まるで活気もなく、本当に人が暮らしているのか、、と疑ってしまうほどでした。ただ、耳を澄ますと聞こえてくる、包丁で野菜を切る音、誰かが階段を降りている音、扉の開けたり閉めたりする音。
そう言ったものが、この街にまだ人がいることを教えてくれているような気がします。
「人がいないというより、、、外に出ないようにしているという感じでしょうか、、、?」
この街にもある程度の施設はあるようで、街の地図に冒険者ギルドを見つけました。
「、、、最近できた組織でしたっけ、、確か宿の斡旋もしてますよね、、」
私はそこへ行くことを決めて、先まで人のいない長い直線を一人静かに歩いて行きました。
冒険者ギルドの前にもやはり人はいませんでしたが、中から光が差しているのをみて、どこか安堵のようなものを覚えました。
扉を開けると、中には受付が一人、眠っているのか私が入ってきたことに気づいていない様でした。
「あの、、すみません、、、」
「、、、ひゃい!?、、すみません、、えっと、、、」
おそらくここに人が来ることも珍しくなってしまったのでしょう。
受付嬢は、マニュアルのようなものを机の引き出しから取り出して、私の方を見ました。
「えっと、、、ご用件はなんでしょうか、、、」
「今空いている宿を教えてほしいのと、、、あと尋ねたいことがいくつか、、、」
「わかりました。宿は、、、今は空いていないんですよね、、ギルドに簡易宿泊施設があるので、そこをお貸しすることはできますが、、、それで問題ないでしょうか?」
「えぇ、助かります。で、、後、この街なんか、、、活気がないというか、、、」
私がそういうと、「えぇ、、色々ありましたから、、、」と言って、受付嬢は、何か記事のようなものを私に見せてくれたのでした。
「、、、、呪病、、、?これは病気の名前ですか?」
「正式名称ではないそうなのですが、、、最近、急に耳が聞こえなくなる方が増えていて、、、」
「、、、そうですか、、で、その病気が蔓延しないように、、、と。」
「そうですね、病気の蔓延を避けるため、家の外には極力出ないようにと、、、」
街の実態も知れて、且つ泊まれる場所も確保できたのだ。
これで仕事としては十分すぎるほどだろう。
「しばらくここで休ませていただいても?」
「えぇ、ゆっくりしていってください、、、紅茶とかお出しします?」
「、、、ではお願いします。」
しばらくゆっくりしていると、情報収集をしていたリージュは予想通りここへきた。
「ごめんくださーい、、ってフェリアもいたのか。」
「そうだね。とりあえず宿はここの簡易宿泊施設を使えることになったよ。」
「そうか。とりあえず宿は問題なさそうだな、、、で、、、この街についてなのだが、、、」
リージュの調べた内容は私の知っているものがほとんどであった。
「で、、、近くにあった世界時計の装置を調べたんだが、、、」
リージュの話によると、装置はことごとく破壊され、もう原型も留めていないほどだったとのことだった。ただ、魔法陣自体はそこまで損傷は激しくなく、リージュが再稼働したらしい。
「まぁ、、正規品と違って乱雑な作りになってるから、、後で修理は必要だな、、、」
「そうですね、、アリカル様に一度報告しましょうか、、、。」
報告のために連絡用魔石を取り出した時に、リージュは、何かを思い出したようだった。
「どうしました?」
「そうそう、、、地図を見つけてね、、?」
その地図は大陸全体の地図のようだった。様々な書き込みがしてある。
「、、、これって、、、魔物の進んでるルートが書かれてますよ、、?」
「あぁ、それも相当正確にな、、、」
他に何か変わったところは、、と思っていると、地図に黒く塗られた場所があることに気づいた。
「ここってどこでしょう、、、黒く塗られてますけど、、」
「、、、、これって、、、スロードフォルじゃないか?」
よく見ると、ドーダヴァルーハにはバツ印もついてる。
「、、、他に情報は、、、」
私が地図を眺めていると、フェリアがそれを取り上げ、光に照らしていた。
「何をしてるんだ?」
「こうすることで、書かれていたものが見えるかも知れません、、、」
印はペンのようなもので書かれていたから、、、もしかすると、、、
「リージュ様、見えますか?」
「ん?どうした?、、、あぁ、確かに何か書かれた跡がある、、、」
ドーダヴァルーハの北西のあたりに、檻のようなものが描かれた形跡があった。
「、、、これも報告しておきますか。」
「そうだね。フェリアは先に宿泊所の方を見てみたら?」
「、、そうですね、そうすることにします。」
アリカル様への連絡はリージュに任せて、私は宿泊所を見に行くことにした。
第三十二幕 慣れちゃダメなこと
「リージュから連絡なの、、、レーミアがいる可能性のある場所があるらしいの、、、」
「お手柄じゃん、、じゃあ私たちはそっちに向かおうか。」
「アリカル様への報告は終わりました?」
「終わったよ。どうしたのさフェリア、なんか言いたげだね?」
「あぁ、、いや、、別に、、」
フェリアは言うか言わないか迷っていたようだったが、少し浅く息を吸って話し始めた。
「あの、、、レーミア様は色々巻き込まれやすいって言ってましたけど、、、」
「そうだね、すぐに巻き込まれるし、攫われるね。」
「でも、、それって慣れちゃダメなことじゃないですか?」
「、、、そうだね。それはごもっともだよ。」
最初にレーミアが攫われたのは、島に住んでいた頃。
魔石の採掘に行ったレーミアが帰ってこないからと心配していたら、盗賊に攫われていたらしく、私が魔法で盗賊の集団を蹴散らして、取り返したんだっけ、、、。
「慣れちゃった、、、人の死とかも、、慣れちゃったんだよね、、、」
「それはわからないこともないですけど、、、」
よく考えれば、慣れちゃダメなことにばかり慣れてしまった気がする。
「そうだねぇ、、、人の死に慣れて、仲間の危機にも慣れて、、、それなのに慣れるべき仕事はろくに慣れれなくて、、、だからこうやって魔女ずっとやってるんだよ、、、」
「なんか、、すみません、、」
魔女というのは稼ぎにならないもので、生活ギリギリのお金は稼げても、余裕があるとは言い難く、研究に使うお金を利益から差し引いて、残る額は本当に微々。
「でも、、魔女っていう職業は好きなんだよね。」
「そうですね、、私も同じですね、、、」
そのあとは、軽く食事をして、疲れてしまって、すぐに寝てしまった。
「アリカル、レーミアがいそうな場所を大体特定してきたぞ?」
「そう、ありがとうなの。で、該当する場所は何か所くらいあったの?」
「えっと、、17か所だな、、ただ、ここじゃないかっていう確信がある場所はある。」
「、、、どこなの、、?」
「アリカル、水上教会って聞いたことあるか?」
「、、、、そういうことなの、、、じゃあ、行ってみるの。」
「今、夜だぞ?暗いぞ?」
「暗いほうが相手に見つからないものなの。」
アリカルはそういって何かを誤魔化そうとしていたが、荷物を繕う為、外方を向いたその顔は、どこか焦りというか、急がなければならないという義務感のようなものを感じる。
「、、、焦るなよ?」
「、、焦ってないの、、、、。嘘なの、、、」
私は魔法協会の長だから、こういう時こそしっかりしないといけないのだろう。
でも、私は昔から変わらない。
そんな私を、叱るどころか甘やかすのだ、フォルシアという魔女は本当に恐ろしい。
「計画通り魔女フォルシアと魔女アリカルはドーダヴァルーハを離れました。」
「そう、、、なら問題ないわ、、、?何を不思議そうな顔をしているの?」
「あぁ、、いえ、、、魔女レーミアの場所を教えてよかったのですか?」
「問題ないわ。あそこには、、01がいるからね。」
「あともう一つ、スロードフォルでの活動には限界があるかと、、、これ以上行うと、魔女リージュと魔女フェリアに情報を渡すことになるかと、、、」
「そうねぇ、、、確かに意図しない情報漏洩が出てくるかもしれないわね、、、、」
「 」
「そんな命令、、、大丈夫でしょうか、、、」
「私の命令は”絶対”よ。それに、魔女リージュは04と相性が悪いはず、、、04と07、それに19がいれば勝機はあると思うわ。」
「了解しました。そう伝達します。マスター」
ギルドの簡易宿泊所のベッドはやや硬かったが、寝るには十分だった。
リージュ様もすでに寝てしまって、とても静かな部屋の中、、、
「雨、、でしょうか、、、?」
屋根からこつこつと、何かが落ちてきているような音がする。
「雨、、いや、、、足音、、、?」
瞬間、部屋の窓の外に人影が一つ、その人間の練った魔力が部屋の中を突き抜ける。
「リージュさん、、起きてください、、、お客様です。」
「お客様なんて、、、しゃれた言い方するねぇ、、、」
「04、19、準備して。」
「07、人数は?」
「二人、ただ侮らないほうがいい。」
どこか機械的な口調で話した人間たちは、大きな外套に面をしていた。
「、、、、私たちを殺すつもり?」
「左様に。私たちへの命令は魔女リージュ、魔女フェリアの抹殺。」
「一切の情け容赦なく、肉片の一つも残さない。」
「そう、、、、ですか、、、リージュ様、下がっててください。」
「いや、、私だって戦うんだけど!?」
「、、、、、私は、、私の魔法が、、、嫌いです、、、」
第三十三幕 大嫌い
自分の魔法が嫌いだ、とそういったフェリアの雰囲気はいつもと違う。
普段の穏やかで、どこかスマートで、それでいて接しやすい感じから、、、
「フェリア、、大丈夫、、、?」
「えぇ、大丈夫です、、、」
そういったフェリアは両手に魔力を込め始めた。
「無属性複合魔法術式 ナン・ラヴィン・フェリアル」
魔法の詠唱が終わっても特に何も起きない。
強化魔法の類だったのかと思ったが、その考えは瞬時に覆ることとなった。
「なんで、、あいつらが争ってるんだ、、、、?」
先ほどまで仲間のようにしていた彼女たちが、急に争いを始めた。
それも、可愛い子供のようなものではない、あの目は、本当に殺そうとしている目だ。
みたところ、07と19が04と戦っているようだった。
「あれが、、、フェリアの魔法、、、?」
「私は、、私の魔法が嫌いです、、」
フェリアはそう言って俯きながら続けた。
「私の魔法は、相手の仲間のうち誰か一人が嫌われ、殺されるように仕向けるものです。」
「そう、、、。」
魔法というよりは呪詛のような、そんな気がしたが、フェリアの説明曰く
「ある種の幻覚魔法のようなもので、対象を悪魔か何かのように見せることで、強制的に嫌悪感、敵対を齎す魔法って感じです、、、この魔法嫌いなんですよね、、リージュみたいなのがよかった。」
とのことだった。
また、フェリアがいうに、使用するごとに効果が落ちるらしく、まともに効果があるのは一回めだけらしい。二回目以降は、誰が味方かわからなくなる程度の錯乱にしかならない、、、と。
「いいんじゃない?立派な魔法だよ。」
「そうでしょうか、、、、私はもっと、真っ当な魔法使いになりたかったです。」
そんな話をしていると、何かが押しつぶされるような音が聞こえた。
「、、、終わったみたいですね、、、。」
そこには、07、19を名乗っていた人間の首を両手に持った04がいた。
「、、、、私の仲間に、、何をした、、、、」
「あなた自身に細工が施されていると思っていただいた方が良いかと。」
「、、、そうか、、お前の仕業なんだな、、、」
04という者は、その外套と仮面を外した。
「声から想像はしていたけど、、、やっぱりそうだったんだ、、、」
04の声は、まだ幼い子供のようだった。実際にそうで、そこには齢七ばかりの少年がいた。
「私はマスターの従順な配下、マスターの望むままに全てを叶える。」
「、、従順とかって言っちゃうんだ、、、」
その幼い見た目からは想像できないほどの威圧感と、何よりもどこか知性の溢れた言葉の端々。
「本当に少年なのか、、、怪しいですよね。」
「そうだな、、、見た目が幼いだけで、実際はそうでもないのかも、、、」
04は酷く怒っていた。そして酷く悲しんでいた。
それは当たり前のことで、自らの手で仲間を殺した事実に苛まれることだろう。
そして、キャンバスを黒く染め上げる様な感情の矛先が今、フェリアという魔女に向いているのだ。
「私の魔法の嫌いなところですよ、、これも、、」
この、止むを得ず人を殺した人間の表情、怒り、憎しみ、感情を表す言葉で表せないような感情を、これでもかというほどに表したその表情。
「、、、リージュ、、あの子、強いよ。」
「知っている。あれで正気を保つどころか、、、」
感情の渦で崩壊寸前の表情は、彼自身の理性、知能、その類のもので崩壊を免れている。
それどころか、その崩壊の力を以てさらに自らの力を増しているようにも思える。
「私の仲間への手向に魔女二人、、、丁度いいでしょう、、、?」
少年はそう発した直後に短剣の様なものを引き抜いた。
「、、、お前は確実に、、、」
怒りに満ちた人間というものは、とても強い力を持つと同時に、視野が極端に狭くなる。
故に気付けない。
その身を貫く斬撃がすでに放たれていることに。
「、、、急所は外したぞ?まぁ、それにどう感じるかはわからないがな、、、」
光属性魔法 ショード・ルミネイス
魔法詠唱を極限まで簡略化し、相手を貫くことだけに特化した魔法。
そして、その斬撃は
「人間を貫くにはあまりに十分すぎるんだよね、、、」
舐められたものだ、こんなにも華奢な刺客を送り込んでくるとは、、、
「、、、マスター、、私はあなたの望む様な人間になれなかった、、、」
04を名乗る少年は、もう一度短剣を引き抜き、それを高く掲げた。
まだ戦うつもりなのかとも思ったが、その肉体からは夥しい量の体液が流れ出ていた。
直後、その肉体は活動を停止し、これを以て刺客が全滅した。
「で、、ここが水上教会なの?」
「そう、水上教会、、、正式名称はレーフィオル教会かな、、」
レーフィオル教会、湖に半島状に突き出した場所に建てられている教会。
この教会は数百年ほど教会としては使われていない。
ただ、その建築の雄大さ故に壊されることなく今に至る。
建物自体は崩壊の一途を辿っており、最近主塔が崩れたと聞いた覚えも、、、、
「建物すごい綺麗なの、、、とても整備が行き届いているの、、、」
「、、、予想通りだね、彼らの拠点はここだ。」
水上教会の構造は、過去の資料を遡って調べることができた。
「多分だけど、レーミアは教会の奥側、、、昔、聖女たちが宿泊に使っていた場所に閉じ込められていると思う。半地下で、周囲から見つかりにくいし、、、ほぼ監獄だし、、、」
教会での聖女は、日々が鍛錬のどうこうという話で、暮らす場所はほとんど監獄の様なものだ。
最近はそう言った待遇も変わりつつあるが、、、昔の教会なら、、、
教会の裏手に回ると、そこには建物の基礎に埋まるように鉄格子が7つ。
アリカルと一緒に全てを見回ると、レーミアの姿を見つけた。
「、、、ちゃんと看守がいるんだね、、、」
「そうなの、、それに、この鉄格子、、幅が結構狭いの、、」
レーミアの半分ほどしか幅がないのだ、ここから出るのは無理があるだろう、、、
「、、、?レーミアからか、、、?」
鉄格子のところに小さな紙切れが置かれ、石で重しがされてあった。
「夜の八時ごろに来るように言ってるの、、、」
「そう、、夜八時、、、三時間後かな、、」
夜八時に教会へ行くと、レーミアの監獄の前に麻袋が一つあった。
「、、、まじかよ、、」
「じゃあ、連れて帰るの、、、」
麻袋の中には相変わらずぐちゃぐちゃになった肉塊が一つ。
「、、、っと、、これで大丈夫だろ、、」
フォルシアの手によって肉塊は人間の形となり、見慣れた姿になった。
「にしても、、よく出て来れたな、、、」
「そうだね、、結界魔法を使って傾斜を作って、麻袋の中に私が入って、でその状態で上位の風属性魔法を使って崩壊して、傾斜を使ってそのまま転がって出てきた感じ?」
「本当に無茶苦茶なの、、、」
「というか、あんたたちこそ、、なんで私の場所がわかったのさ?」
「あぁ、フォルシアが気づいたの、、、」
魔制計画では、水中への装置の設置の困難性から、湖の周辺は一部、高架範囲の広い術式でカバーしている箇所がある。それ自体に問題はないのだが、それによって、魔力の情報がだいぶなくなってしまうのだ。
「今回の水上教会の場所が、、ここ、で装置は、、、ここだね。」
丁度湖の対岸、、本当に効果範囲ギリギリのところであった。
「魔力情報がわからないようにしつつ、敵戦力を一手に引き受けることのないようにスロードフォルを囮として活用、、、なかなかに頭が切れるの、、、」
「となると、スロードフォルにも敵兵が?」
「そう考えるのが自然だろうな、、、さて、、リージュ達は無事かな?」
そんな話をしていると、一報が入る。
「、、、刺客を撃破したらしいの、、スロードフォルからは一旦撤退するそうなの。」
「そう、、道中に気をつけるように言っておいて。」
「了解なの。フォルシアは何か伝えることあるの?」
「そうだな、、、では、スロードフォルからは直接こちらへくるように伝えておいてくれ。」
「、、、?わかったの、、直接って、、どういうことなの?」
「リージュならわかるはずだな。」
第三十四幕 予測不能
「リージュ、アリカル様から連絡が入りました。」
刺客を追い払ってようやくひと段落したところだった。
「そう、、なんて?」
「えっと、、道中気をつけるようにってのと、、あと、、直接こい、、、?」
「あぁ、、、そういうことか、、じゃあそうするか。」
「どういう意味です?」
「、、あぁまぁ、きっとわかるよ。」
リージュはこの街に滞在する意味ももう特にないだろうし、戻ることにしたそうだ。
まだ情報収集はできるかと思ったが、これからどのような刺客が送り込まれるかわからないというリージュの意見は確かに真っ当だったから、私はそれに従うことにした。
野宿というものは流石に体にくる。
寝袋があったとしても眠っているのは固い地面の上で、朝起きれば全身が痛い。
かといって、眠らずに生きていけるかと言われると、私はそんなに丈夫な人間ではない。
「リージュはどうしてるの?野宿の時、、寝たら体痛くなりません?」
「あぁ、、それね、、私の魔法の中に、イーフィア・ルミネイスってあるのわかる?」
「詳しくはないですが、、、確か、自動で魔法制御をしながら飛翔する魔法ですよね?」
「そう。だから、自分で魔法制御しなくても、普通に飛べるわけ。」
故に寝ながらでも飛翔できる、、、と、、、
「私もそれ使いたいです。」
「無理な話だろうね、、私が数十年かけて作った魔法だし。」
私がそういうと、やや妬ましそうにこちらを向くフェリアがいた。
「、、、、この寝袋、、サイズが私よりもだいぶ大きいし、、、二人位なら入れるかもな〜?」
「、、、お願いします。」
「まぁいいや、、、その代わり明日の朝ごはん作って?」
「了解しました。」
「ご報告したいことがございます。」
「、、、何?」
「手短に申し上げます。魔女レーミアが行方を眩ませました。また、スロードフォルにて、04、07、19と連絡が取れなくなりました。」
「そう、、、じゃあ縦断街道沿いの宿屋に刺客を放っておいて。」
「了解しました、、誰をいかせましょう、、、」
「そうね、、、では、最低でもアイラ・クワテッドを行かせるの、、、」
「了解いたしました、そのように伝達いたします。」
「あ、あと00、あなたは私と行動しなさい?」
「了解いたしました。」
「リージュ、結局街道には合流しないのですか?」
歩き始めて早数日、森の中を獣道のようなところを歩いていくものだからやはり疲れてしまう。
「そうだね。旧街道の方を使っていくよ。」
旧街道は、この街道が通るずっと前にこのあたりに敷かれていた街道のことだ。
「、、、よかった、まだ残ってたね。」
「これは、、、隧道?すごく綺麗ですね、、、」
森の中に急雨に現れた人工物は、やや自然と調和し、その煉瓦の表面には苔がむしているのでした。
隧道の中は真っ暗闇、出口であろう場所から漏れ出ている光は遥か、小さく見えるばかりでした。
「これが、、、旧街道?」
「そうだね、、フォルシアが、直接こいって言ってのは、多分街道沿いだとシアとか放たれるリスクが高いからと見たんだろうね。」
隧道を抜けた先は小高い丘になっていて、眼下にはドーダヴァルーハの街並みが見えました。
リージュもようやく着いたか、、と溜息を漏らすほどには長い隧道で、魔法であかりを出せていなければ、あの真っ暗闇を足元に怯えながら進むのか、、と思うとやはり恐怖を覚えました。
「到着したよ。ドーダヴァルーハ。」
「はい、、、とても長い道のりでしたね、、、」
街中を抜けて魔法協会へ向かうと、アリカルが出迎えに出ていた。
「リージュ、フェリア、おかえりなの。」
「本当に疲れたな。というか、フェリアの魔法だいぶやばいな、、、」
「そうなの、、でも、使いようによってはリージュよりも強くなれると思うの。」
少しの間おしゃべりをしていると、魔法協会の中からフォルシアとレーミアが出てきた。
「レーミア、無事だったのか!?にしても帰ってくるのがだいぶ早かったな、、、」
「そうだね。なんだかんだあったけど、無事に帰ってきたよ。」
これにて一連の騒動は幕を閉じたかと、、、そう思われた。
「そう、、、街道沿いには来なかった、、と。」
「左様です。ただ、世界時計の占領には成功いたしました。未だ気づかれてはいない模様です。」
「そう。では手筈通り、私たちもそちらへ移動しましょう。」
幕間
ようやく全てが片付いて、島に戻ってゆっくり研究ができると思った。
連れ去られたり、色々不穏なことがあったりと、色々あったが、終わって仕舞えば笑い話だ。
フォルシアもそろそろ帰ると言っていたし、島で寂しくなることはないだろう。
「じゃあ、私たちはこれで。アリカルも、リージュも、フェリアも、レミスも、元気で。」
「お前らー、島でも頑張れよ〜」
フォルシアが、ここでやり残したことはないか、と聞いてきたので、
「最後に世界時計だけ見に行こうかな、、、」
と呟くと、彼女もどうやらその気だったらしく、世界時計に寄り道してから帰ることとなった。
第三十五幕 何故いつもこうなのか
「やっぱり世界時計って遠くからでもわかるものなんだね、、、」
「建物自体が大きいからねぇ、、、って、なんか結界はられてる?」
「結界?私には分からないのだけど、、レーミアには何か見えるの?」
「そうね、、、なんか、、、壁というか、世界が違うというか、、そういう感じの、、」
お披露目会もあったし、警備隊性を厳重にしているのか、、最初はそう思った。
「世界時計はこの先だけど、、、ここからは進めないね、、、」
「そうだね、、じゃあ戻ろうか、フォルシア。」
「そうだね、、、ってレーミア、どうしたの?」
「あぁ、いや、、、戻るよ、アリカルのところに。」
フォルシアは不思議そうな顔をしていた。
今から帰ろうと、そう言って手を振ってすぐに戻るのだ、無理もない。
「レーミアどうしたの?忘れ物?」
「いや、、、ちょっと嫌な予感がしてね?」
少し足早に戻ると、アリカルたちはお見送りを終えてまだ外で駄弁っているところだった。
「って、、レーミア!?フォルシアも、、戻ってきたの!?」
「あぁ、アリカル。そうだね、、、ちょっと調べて欲しいことがあってね、、、」
世界時計は確かにとても重要な施設だ、厳重な結界を張っていてもおかしくはない。
ただ、世界時計の警備にあれだけの厳重な結界を張ることはまずない。
なぜなら、結界が魔法の効果を阻害するからである。
「世界時計の魔力転送装置は、結界による影響を少なからず受ける。だから、警備には強力な結界を使わないこと。結界も使用を控えること、、と警備の人に伝えたはずなんだよね、、、」
「確かにそれなら不自然なの、、、リージュ、その結界とやらは観測できたの?」
「、、、結界ではないんだけど、、、確かに隔離されている感じがあるよね、、、」
リージュはしばらくの間魔力探知をしていた。
「なあ、アリカル、結界って本来、その内部の魔力を観測することは不可能だよね?」
「そうなの。結界は魔力の働きを妨害する効果があるの。」
「でも、、観測できるんだよな、、、内部、、、」
リージュの情報曰く、内部にいる人数は百二十人らしい。
「そんなにいるの、、、、明らかにおかしいの、、、」
「アリカルは、上の人に報告した方がいいんじゃない?」
「そうなの、行ってくるの。ついでにリージュはギルドに協力を依頼できるように準備するの。」
「協力ってなんのだ?」
「世界時計の奪還なの、、、若しくは破壊かもしれないの、、、」
アリカルは少し険しい顔をすると、「行ってくるの」と言って部屋を出て行った。
「世界時計が何者かによって占拠されている、、、」
皆一様に考え込んでいたようだったが、フェリアが何か思いついたように話し始めた。
「あの、、、世界時計を占拠しているのって、アイラっていう、、レーミア様を攫った組織なんじゃないでしょうか?」
「、、、どういうこと?」
「世界時計を占拠することで得られるものは非常に大きいですよね、、、」
「そうだね、、魔力情報だけじゃなくて、それを引き換えに何かを得ることも可能だね、、、」
「ってなった時に、、、」
フェリアの説明でなんとなく言わんとすることがわかった気がする。
そして、それが比較的真実に近いかもしれないとも思ったのである。
「つまりフェリアは、アイラが五大魔女という勢力を世界時計から引き離すために色々な場所に罠を設置して、離れた隙に世界時計を奪ったのではないか、、、と。」
「そうですね。レーミア様の言っていることで間違い無いです。」
その話を聞いていたリージュが、フェリアの淹れた紅茶を啜りながら呟いた。
「だとしたら、最初にレーミアがさらわれたのも納得がいくな、、、」
「最初、、、世界時計の建築中のことですか、、、」
「世界時計が完成していなくて、レーミアがいないと世界時計が作れないってことがわかれば、向こう側は完成させるためにレーミアを解放せざるを得ない、、故に特に抵抗なくレーミアの場所をフォルシアに教えた、、、」
状況が複雑になってきてそろそろ頭が追いつかなくなりそうだ、、、
「とりあえず私たちがすべきことを考えようよ、、、」
「それもそうですね、、、わかっていないことを適当な考察で進めると、勘違いを生んだりして、やはり脆弱になる物ですし、、、とりあえず一番狙われているのはレーミア様ですよね?」
「そうなるかな、、、事実すでに狙われたし、、、」
「では、、レーミア様は単独行動を避けるように行動してもらいますか、、、いや、、全員で行動しましょう、、、。」
「全員!?流石に無理がない?」
「相手がどんな強さかわかっていないので、、できるだけ人が集まってた方が良いかな、、と。」
「、、、それもそうだね、、、、じゃあ、それについてはアリカルが戻ってきたら話そうか。」
その後も色々話したが、結局話がまとまるようなことはなく、アリカルの帰りを待ちながら各々部屋の中で好きなようにすることにした。
「フェリア〜、紅茶入れてくれな〜い?」
リージュはソファに寝っ転がりながら魔導書を読み漁っていた。
「こらリージュ、フェリアをパシらないの、、、」
フォルシアは少し呆れたようにそんなリージュの方を向いた。
「いえ、構いませんよ。皆さんは先輩ですし。」
フェリアは構わないと言っていたが、フォルシアは構わない訳にいかないのだろう。
「フェリアも、、リージュを甘やかしすぎないでね?」
「わかってますよ、、、リージュ、紅茶ですよ。」
フェリアは慣れた手つきで紅茶を入れて、リージュに渡した。
「ありがと〜、、!?、、、っ」
リージュが紅茶を口に運んだ途端俯いてしまったので、フォルシアが少し心配そうにしていたが、フェリアの少々悪そうな顔を見て、少しだけ微笑みをこぼしていた。
「いつも入れている紅茶の温度よりだいぶ高くしてみました。どうです?」
「、、、おいひぃ、、、です、、、」
リージュはそういえば熱いものがダメだった、、、俗にいう猫舌である。
「フェリア、揶揄ったな!?」
「少しお仕置きです。ちょっとは自分で頑張ってください、、、」
「うっ、、うぅぅ、、、」
そんな他愛もない会話をしているとアリカルが帰ってきた。
「報告ご苦労様、、、どうだった?」
「えっと、、いくつか伝えないとだね、、」
アリカルはそういうと、持っていた少し綺麗な紙を机に広げた。
「まず、国が動くことが決まったの、、、で、私たち五大魔女はじめとする魔女には、魔法時計にかかっている謎の魔法の解明が取り敢えずの課題として課せられたの、、、」
「そう、、、で、私たちはどうすればいいの?」
「五大魔女と、その他主要な魔女は解明に勤しんで欲しいって話だったの、、、で、私は、魔女を招集して、グループ分けをして、考えられる可能性を全部追っていきたいの、、、」
「そう、、、じゃあリージュはギルドに行って?」
「冒険者ギルドとの連携か、、わかった。行ってくる。」
「フェリアは魔女の召集を頼める?」
「わかりました、、レーミア様たちは、、、」
「私たちで考えられる可能性は出来にある程度絞っておこうかな、、って思ってる。」
「了解しました、、、、無理はダメですよ?」
「、、わかってるよ、、」
と、フェリアに釘を刺された直後で悪いのだが、、、
「来ちゃった、、、世界時計、、、」
「正直ここまでは予想してたの、、、で、これからどうするの?」
「詳しいことはフォルシアに聞いて、私は早速調べてるから、、、」
私がそういうと、アリカルは少し呆れたような顔をしたが、いつも通りか、というように諦めたような表情をして、フォルシアの方に向かっていた。
「で、、レーミアはこれから何をしようとしているの?」
「あぁ、、、あいつはそもそも、この障壁が魔法なのかどうなのかから調べようとしてるんだ。」
魔法というのは種類ごとに見た目も効果も色々である。
ただ、それらに共通することとして、魔力を用いて何かを行なっているというところがある。
「要するに、、、あの障壁に魔力が関係しているかを調べているの?」
「そういうことだね。あぁ、調べ方は詳しく聞いていないんだけれど、、、」
フォルシアは少し気になったのか、レーミアの方を向いていた。
「レーミアのところに行ってみるの?」
「そうだね、、」
レーミアは大半の調査を終えたらしく、道具を鞄にしまっているところだった。
「何がわかったの?」
「そうだね、、、これが魔法に関係している何かだということはわかったんだけど、どうも魔法って感じがしないっていうか、、魔力を応用した何かだけど魔法と言えるか怪しいんだよね、、」
「魔法ではない魔力応用術式、、、、」
「どしたのさアリカル?語尾が体言止めになっちゃってますよ〜?」
「の、、魔力応用術式に少し心当たりがあっただけなの、、、」
「何々〜?お姉ちゃん気になっちゃうなぁ?」
アリカルは「ここで話すのもなんだし、魔法協会に一度戻るの。」と言っていた。
そろそろ魔女のみんなも集まっている頃だろう。
第三十六幕 魔力応用術式
魔法協会に戻ると、フェリアがそのエントランスで私たちを待っていたようで、「魔女の皆さんは集めておきました。」と私たちに告げた。
私たちはそのまま、会議の会場となる中央会議室に向かった。
「臨時の会議を始めるの、、、皆忙しいのに集まってくれてありがとうなの。」
アリカルはそういうと、「本日の議題は、、、」と言って一息開けた。
「世界時計の奪還についてなの。」
瞬間、会場内はざわめきで満ちた。まぁ、当たり前だろう。
「みんなちょっと慌てすぎじゃないか?」
「そんなこともないと思うよ?リージュ。世界時計が何者かによって占拠された、これだけでも十分に大事件だよ、、、。」
「そういうもんか、、、、」
会議では、魔女達には世界時計の周囲に張られている障壁の解明が言い渡された。
「あと、、レーミアに先行して軽く調査をしてもらったの、、、」
「あ、、これ私が発表する流れ?」
「そうなの。ってことでよろしくなの。」
発表しろと言っても、そんなにわかっていることもないのだが、、、
「えっと、、取り敢えず現時点であの障壁に関してわかっていることをお伝えいたします。」
取り敢えず、あの障壁には魔力が関係していることは伝えた。
その上で、魔法でない可能性がある事も。
もちろん一部の魔女からは、なぜ魔法ではないと思ったのかと聞かれる訳だが、、、
「魔法であるなら、魔力の貫通は難しいかな、、と、、」
リージュが、障壁の内側の魔力も観測できると言っていた。
確かに私も、内部の魔力を観測できた。
おそらくこれは、世界時計の機能を考えてのものなのだろう。
しかし、この障壁は魔法を阻み、侵入も阻んでいた。
「という訳です、、、」
大体納得してもらえただろうか。
その後はアリカルがいろいろ話したり、少し議論を交わしたりで会議は終わったのだった。
「で、アリカル、話してもらおうか、、その“魔力応用術式”について、、」
フォルシアは興味がないらしく、工房で研究してるね、と言っていた。
「そうだったの、、じゃあ、所蔵庫にくるの。確か資料があるの。」
アリカルはそういうと所蔵この方へと足早に向かっていった。
「ちょっとアリカル、早すぎやしない?」
アリカルの早足に少しだけ遅れをとって、私たちが所蔵庫に入った時にはアリカルはすでにその資料とやらを見つけて机のそばでスタンバイしていた。
「これがその資料なの。」
「大陸南西部ウィラメイ島での遺跡調査の結果?」
「そうなの。この資料の確か百七十三頁から百八十九頁までがその遺跡についてなの。」
アリカルはそう言ってページを捲った。
「ウィラメイ島、、、私たちが住んでる島じゃん、、、というか、魔眼遺跡メイシアス?聞いた事もない遺跡、、、というかこの本、、古代語か、、、」
古代語とは、帝国が大陸を滑る前の時代に使われていた言語で現在はほとんど使われていない。
「、、、つまり、、闇の者によって魔法を封じられた、、術式となんの関係があるんだ?」
「まぁ、聞くの。この遺跡から、その“闇の者”が使ったとされている武器が出土しているの。」
「、、、確かに、、、魔法ではないね、、、」
魔道具であるのなら、魔法陣を用いたりしなければならないはずだ。
しかし、この魔道具にはその“魔法陣を刻む部分”が存在しない。
というか、構造上存在できないのだ。
「だから、魔法ではない、魔力を用いる何かがあるんだと、、、思うの。」
この魔道具の効果が断定できない以上、これにそもそも効果があったのかというところはあるが、魔法を防いだり、魔法を発動できなくする可能性がある、、、と、、、
「これ、私が預かっていい?あと、同年代の資料もたくさん欲しい。」
「わかったの、探しておくの。」
この謎の物体がこの事態を打破する鍵になる、、、そんな気がしてしまう。
理由なんてない。でも、この不思議なものを前にすると、そう思えてしまうのだ。
第三十七幕 世界時計を抑える意味
「レーミア、生きてるの?」
「あぁ生きてる。そういえば最近顔出してなかったね。」
結局あの魔道具がなんなのかはいまだに分からない。
「で、、どこまでわかったの、、、?」
「えっと、、、取り敢えずあの魔道具の効果まではわかったよ?」
取り敢えず魔道具に魔力を流してみると、反応はあったが効果が発揮されている感じがしなかった。
故に、壊れているのではないか、とそう思い、よく眺めてみると、一部欠損が見られた。
表面に回路の様なものはなかったが、罅割れた場所を見ると、内側に何か材質の違うものが見えた。
「で、、その金属みたいなものを解析したら、それが魔力系の鋼であることがわかったの。」
「そう、、、でその鋼がなんなのかはわかったの?」
「わかったよ、、、レ・ハイメ・サースとレ・セアン・ネイヅ・ラウスの混合鋼かな。」
「ふふっ、、わかったの。用意してみるの。」
「、、、?何がおかしいの?」
「今は鉱石の名前に古代語を使わないの。今は、赤褐鉱と紫藍鉱って名前なの。」
「そういえばそうだったね、、、久々に古代語なんて読んだからかな。」
アリカルが用意するといった鉱石たちは数日ほどで届いた。
その間にも事態はいろいろ変化した。
魔女たちの功績によって、障壁が魔法に由来するものではないことが証明されたり、世界時計内部にいる組織が、どうやらアイラで間違いないことも分かった。
「で、、これをこうすると、、、欠損部をいい感じに満たすので、、、?」
漸く回路がつながった感じがする。内部の魔力循環も少しだけ活発になった。
「じゃあ、、魔力を流してみるか、、、」
その魔道具は私が込めた魔力に呼応するように淡い藍色の光を放った。
そしてその光は徐々に空間全体を満たして、そのうち工房のある魔法協会の一角を完全に収めてしまった。
「すごいね、、、これにどんな効果があるのか、、、」
調べるよりも先に、私の工房の扉が叩かれる音がした。
「はい、、どうかなさいましたか?」
「いや、、、急に魔法が使えなくなって、その青い空気の出所がここだったので、、、、」
「あ、、、すみません、、、」
私はその言葉に驚き、魔力を練ろうとしたが、練ることができない。
「えっと、、なんの実験をなさっているのですか?」
「いまは、、、出土品の修理です、、、効果が思ってたのとちょっと違ったんですけど。」
ただ、これで魔法を防いだ、というのも説明がつくだろう。
「あとは、、、、取り敢えず魔力を注ぐのはやめたので、しばらくすれば魔法は使えると思います、、、これが魔法由来の物かってわかりません?」
「私も魔女の端くれですけど、、、ちょっとわかりかねますね、、、少し待っていてください。みんなを呼んできます。」
魔女の端くれを名乗った魔女は少しした後に何人かを引き連れて工房の戸をたたいた。
「仲間って、、、レミスだったんだ、、、」
「レーミアさん、おはようです。レーミアさんも世界時計の障壁についてですか?」
「そうだね、、レミス達もそう?」
「そうですね、私と、このファリーと、あとグラインと一緒にやってます。」
私に最初に話しかけていたのは、ファリーという魔女らしい。
「レミス、この青い空気が、魔法によるものかどうかってわかる?」
「私は呪詛が専門なので、、、グライン、わかる?」
「、、、、魔法によるものではないですね。魔法に関係するものなら、魔石との輪唱反応で割り出すことができるのでね、、、」
「この手法は貴方が考えたの?」
「そうですね、、一応私が考えましたね。」
これが大陸一の魔法解析家といわれる魔女か、、、と。
魔女グライン、名前を時々聞く。
魔法かどうかを調べるとか、どんな魔法か調べる、という調査の時は大体名前を聞き、且つ大きな功績をあげるという。
「そうなんだ、、すごいね、、、やっぱ魔女ってそういうものだよね、、、」
魔女レーミア、、、五大魔女という高位の魔女であるにもかかわらずやや謙遜気味というか、、、魔法に対してなにか特殊な感情を持っている、、、、?
そういえば魔女レーミアの周囲だけ魔力の流れ方がおかしいというか、、、
「、、、もしかすると、、、いえ、、そんなことはないですね、、」
「どうしたの?」
「いえ、なんでも、、、」
その後、彼女たちとは少し話をして、彼女たちが研究に戻ると帰ったので、私も調査を再開することにした。
「で、、、この魔道具は魔道具といえるのかってところか、、、、」
魔力を用いて魔法でない何かを発生させる、、、
「今は魔力応用術具でいいいか、、、」
取り敢えず効果がわかったのだ、、、アリカルに報告しに行こう。
「レミス、少しいいかしら?」
「なに?構わないけど、、、」
「レーミアさんって、、、もしかして、、、」
「アリカル、ちょっといい?」
アリカルは大体、魔法協会の本部長室にいる。
今日は、道具の効果報告にアリカルを尋ねたのだった。
「レーミアなの、、、効果はわかったの?」
「一応ね、、、周囲での魔法の使用の無効化って感じかな、、、」
「、、、それは魔法ではないものなの?」
「そうだね、、、、、、!?」
少しだけ閃いてしまった。これはやってみないとわからない。
「アリカル、ちょっといい?あの、、あったでしょう?神力結晶。」
「あれがどうしたの?確かにとってあるの、、」
私がアリカルに私が神力の結晶が確か残っていたはずだ、、、
「あれってちょっと使わせてくれない?」
「構わないの、、、ただ、大々的にはやらないでほしいの、、、」
「わかったよ、、、これを、、こうして、、、」
その術具に神力結晶を近づけると、予想通り結晶は術具に吸い込まれた。
「アリカル、私の呪詛紋章を見ておいてほしい。」
「わかったの、、、」
そういって首元を覗き込んだアリカルが、やや驚いたような声を発した。
何事かと思うと、アリカルは本当に驚いたような表情で顔を上げた。
「すごいの、、、レーミアの呪詛が一瞬だけ弱まっていたの、、、」
「やっぱり、、、これは何かを無効化する力を持った何かなんだろうね、、」
「世界時計も、、同じように、、、」
「そうなのかもしれないね、、まぁ、わからないけれど、、」
ただ、やはり気になってしまうのである。
これだけ私たちが調べても何かが掴めていないような、そんなものを使ってまで、何故に世界時計の機能を止めたくないのだろうか。
世界時計が重要な機関であり、それを代償に何かを得ようとするのなら、その機能は別に必要ないはずである。それでも、魔力を貫通する結界なんていうものを使って、、、、
「アリカル、、これはあくまで私の仮説なんだけど、、、、」
「どうしたの?レーミア。」
「アイラの目的は、大陸の奪還なんじゃないかな、、、」
「、、、どういうことなの、、、?」
大陸は帝国の手によって一気に支配された。
元々そこで暮らしていた人々の生活を破壊したのだから、多くの人間に反感を買っても良さそうなものなのに、帝国ではそれがあまり見られない、、、
「だから、帝国によって滅ぼされた国のTOP達が集まってアイラを結成したんじゃないかなって。」
「、、、確かにそれなら、あれだけの人数が、、、、」
「“あれだけ”じゃないと思うよ。多分、大陸全土に、1万以上はいると思う。」
「そう、、、誰が敵かも分からない、、というわけなの、、」
アリカル曰く、実現可能そうな説が一つできたらしく、私に「よくやったの。」と。
正直なにをしたのか、、、という感じだったが、アリカルがしばらくの間その道具を貸してくれるらしく、自由に研究していいとのことだった。
「ありがとうね、、、。あと、世界時計に突入する時、、、、 」
「確かにそうかもしれないの、、、やってみるかもしれないの。」
私はそのまま本部長室を後に工房へ戻った。
第三十八幕 折角だから
アリカルが私に渡しておけば何か得られるかもしれないと踏んだのか、単にご褒美なのかは知らないが、道具をしばらく借りられることになった。
「、、、折角だから、、、あの道具を作れるようになりたいかな、、、」
本当に好奇心だが、作ることができれば魔法界は大きく変わるかもしれない。
「それに、あの障壁の再現をして、魔力応用術式による障壁なのかも調べたいしね、、、」
とりあえずの目標を魔力応用術式での障壁の再現、を建前として、あの不思議な道具を作ること、とすることにした。
「、、、回路の方はできてるんだけど、、、効果がどうやって決まるのか、、、」
私は今、あの不思議な道具の回路の部分を作ることができる。
ただ、その効果を決める部分は作ることができないのだ。
「一旦分解するか、、、、」
効果を決める部分であろう部分は、表層を取るとすぐに現れた。
「、、、紋章か、、、よくわかんないな、、、」
呪詛や魔法陣と同様に効果を決める部分には紋章が刻まれていた。
「、、、魔法陣よりは呪詛紋章に近いか、、、、」
魔法陣よりも紋章が簡単であることを鑑みるに、効果はそこまでの数はないのだろう。
「あとは、、解読なんだけど、、、」
アリカルの送ってくれた資料を読み漁っていると、少しだけ気になるものをみつけた。
「当時の魔法陣の表し方か、、、」
現代では魔法陣を表すときは、魔法の名称を用いることが一般的だが、当時は魔法陣の形状を文言で記していたらしい。
「となると、、、この紋章もどこかに、、、」
と、資料を一通り漁ったが、それらしきものは特になし、、、
「そううまくいくわけがないよね、、、」
行ってみるほうが早いだろう、というか、元々帰る予定だったのだ。
「フォルシアには伝えておくか、、、」
「フォルシア~いるか?」
「レーミア、どうしたのさ、私の工房まで来るなんて、、、」
まぁ、私が何の連絡もよこさずにフォルシアの工房に行くのは珍しい。
「私、島に戻るよ。」
私がそういったときのフォルシアの顔は、どこか怒っているような、驚いているような、そんな顔で、何か言いだそうと、そうしているような顔だった。
「、、、!?、、、いや、、、まだ世界時計が、、」
「そうだね、世界時計の障壁の破壊に使えそうなものを見つけたから、それの研究。」
「前に話してた魔力応用術式?正直あれが使えるとは、、、」
フォルシアにとってはがらくたのような物かもしれない。でも、、、
「魔法、呪詛の無効化。」
「、、、できたの?」
「そうだね、私の呪詛も、消すことはできなかったけれど、効果を薄めることはできた。」
「、、、そう、、、あんたが不老不死じゃなくなったら、、、」
「それはないかな、、、私はこの呪詛を解かないことに決めた。」
「、、、なんでさ、、、あんたは呪詛の所為で魔法が使えない、それで苦しんだんでしょ、、、なら、、、、」
「私はね、フォルシア、、、君に呪いをかけられた。」
「そうだね、、私だけじゃない、皆があんたを呪った。」
私はそれを聞き、フォルシアに微笑み、フォルシアの工房を後にした。
「アリカル、ってことで私は島に行ってみることにするよ。」
魔法協会の玄関前で日向ぼっこをしていたアリカルに私はそう告げた。
「、、遺跡の遺構はないの、、島に行ったって、、、、、!?」
「そうだね、アリカルもわかるはずだ。あれだけの高度な魔法技術を持った遺跡が、自身の集落に何らかの仕掛けを施しておかない筈はない。」
「、、、確かに集落の遺跡には、一切の欠片も見つけられなかったって書かれてたの、、」
「そう、完全な破壊はさすがに不可能だよ、、だから、私はあると思ってる。その遺跡。」
アリカルは少しだけあきれたような表情をしたようにも見えたが、少し待つように私に言って、魔法協会の建物の中に入っていってしまった。
「これ、、ウィラメイ島の地図なの。魔眼遺跡メイシアスがここなの。」
「ありがとう、アリカル。事態が急変したら教えて。私も向かう。」
「そうなの、、、そうしたらリージュを向かわせるの。」
「わかったよ。じゃあ、、」
『行ってくるよ。』
第三十九幕 魔眼遺跡メイシアス
島までの道のりはもう見慣れたもので、特にいうこともない。
フォルシアがいないから、矢張り寂しいというのと。
大陸中にアイラの人間がいると思うと、少し恐ろしいというのと。
でも、旅というのは、それだけでやや心が躍るものがあって。
慣れた馬車移動、顔なじみになった馭者の青年、目新しいものはないが、どこか新しいことが始まるようで、普段なら心が躍るのだが、、、
「どうしたのさ、魔女のお嬢さん。」
「あぁ、馭者の人、、いえ、、、少し急げますか?」
「、、、何かあったのさ?」
「えぇ、、まぁ、港まで、、」
「はいはい、いつも通りセアフォルシス港でしょ?」
馭者は鞭を撓らせ、途端馬車はきしきしと音を立てながら加速する。
揺れる場所の中で齧る麺麭の味はいつも通りで、やや急がなければという気持ちを含んだ心を、いつも通りへと戻してくれるようだ。
港へは馭者のお陰で4日ばかりで着き、島へと向かう連絡船を港で待つこととなった。
島への連絡船は、1週間に2往復あるのだが、運航が海の状況と相談してなので、具体的に日時が決まっているわけではないのだ。
港に行けばある程度出る日もわかるようだが、それも当てにならないらしい。
これに関してはいくら焦ってもダメだろう。
おそらく数日はこの街に滞在するから、と宿をとって今日はゆっくりすることにした。
「宿を、、一人で、、一日分だけ。」
おそらく恰好などからこれから島に向かうことがばれてしまったのだろう。
「連絡船がでるまでですか?」
「、、それでお願いします。」
「承知いたしました。連絡船が出る日はご連絡いたします。」
「ありがとうございます。」
その日は宿をとり、一日ゆっくりした。
島への連絡船はセアフォルシスに到着した2日後にでることとなった。
私はその船に乗って海を渡り、ウィラメイ島に到着した。
「ウィラメイの最大都市、メイシアの近く、、、」
ウィラメイ島にはメイシアという魔女の街がある。
現在、魔女の多くは魔法協会のあるドーダヴァルーハ近郊に工房を構えているが、帝国や魔法協会に関係なく研究をする魔女たちの多くはここにいる。
ただ、魔法協会と交流がないわけではなく、相互に依頼や素材調達などをしている。
「で、、メイシアの魔法協会で事情を説明しないと、、」
その日は、島についてからのことを考えながら、船に揺られることとなったのだった。
ウィラメイ島の玄関口、メイシア港。
その姿が見えたのは、船に乗り込んで2日後。
それも水平線に、それらしき影が見えた程度だ。
それでも、甲板に上がって到着をいまかと待ちわびる旅人の数々。
「いいね、、、島に戻ってきた感じだ。」
島はいつも賑やかで、人が温かい場所だ。
「到着したよ、、、やっぱり船は酔うね、、、」
島に着いて、魔法協会は、、、
「あれだね、、やっぱり目立つね。」
島には高い建物がそこまでない故、魔法協会の高い建物は目につきやすいのだろう。
「じゃあ、、事情を説明しますか、、、」
幸いなことに、アリカルから連絡を入れてくれるということだった。
「なんとかなるといいんだけど、、、」
魔法協会の目の前まで行くと、その建物の高さがやや威圧に思えて、少し足がすくむような思いだったが、ここを何とかしないとどうにもならないことを頭で理解している以上、ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。
「あの、、、レーミアっていうんですけど、、、」
「あぁ、アリカル様の。少々お待ちください、、」
受付嬢に声をかけると、アリカルが連絡を回してくれたお陰で、すぐに遺跡の調査の許可が出たのだった。私はそのまま遺跡に向かう予定だったのだが、受付嬢に呼び止められた。
「実は、ここの長が会いたいと仰っていて、、、」
まぁ、別に会いたくない理由は特にないのだ。
「構いませんよ?」
私がそう答えると、受付嬢は少しだけ申し訳なさそうな顔をして、私を協会長室へ案内した。
「えっと、、これ、、一応連絡用の魔石です。」
「、、、?協会長に会うだけじゃないの?」
「えっと、、、本当に一応ですが、、、命の危機を感じたら押してください。」
「、、、、!?」
受付嬢は私に魔石を渡すとそそくさと帰っていってしまった。
私は、恐る恐る協会長の部屋の扉を開けたのだった。
第四十幕 成程、シスコンか。
「、、、あの、、レーミアですが、、、」
「!、お待ちしていました!ささ、座って座って?」
淡い水色の髪の毛、少し気品のある立ち振る舞い。
「どこかで見覚えが、、、」
その者は私に座るよう勧めると、戸棚から茶葉を取り出し、紅茶を沸かした。
「私は魔女フェリアルと言います。ラヴィンがいつもお世話になっております。」
「、、、ラヴィン、、、?」
いつもお世話になっているということは、おそらく私の近くにこの人の家族がいるのだろう、、という、そこまではわかるのだが、、、ラヴィン、、、聞き馴染みのない名前だ。
「しかし、、、こんな感じの人間をどこかで、、、、」
水色の髪、やや大人びた性格、、、、
「フェリアのお姉さん、、、ですか?」
「フェリア、、?あの子、そんな名前を使っているのかしら、、、私の知らないラヴィンが、、?」
「フェリアルさんに見た目が似ていて、五大魔女の一人です。」
「確かに私の妹とそっくりね、、、他にその人の特徴とかわかるかしら?」
「、、、アリカルに聞いた話だけど、右肩と左肩の鎖骨に黒子があるって、、、」
「そうね、あの子の体には全部で七つの黒子があって、左右の鎖骨にも一つずつあるわね、、、」
「妹さんにお詳しいのですね、、」
「そうね、、あの子のことは、、全部知りたいわ、、、全部。」
この瞬間、魔女レーミアは確信した。
「成程、、、こいつはシスコンか。」
その後しばらく話すと、ラヴィンとフェリアが同一人物であることがわかった。
「名前なんて変える必要あるのでしょうか、、、?」
「あぁ、、でも、なんで変えたかはわかる気がするわ?」
フェリアルは話すかどうか悩んでいたようだった。
「あれは、あの子がまだ魔女として未熟だった頃なんだけれど、、、」
ラヴィンは元々、奴隷に関する魔法について研究していたらしい。
しかし、その研究をしていたことへの罪悪感から、魔法というものへの嫌悪感が拭いきれず、それでいて、奴隷の研究をするような自分が魔女を名乗っていいのか、悩んでいた時期があったらしい。
「で、、、その時に私が、大陸に行ってみたら?って言ったの。」
「お姉さまも、大変なんですね、、」
「そうね、、、ラヴィンと一緒にいられないと思うだけで、、、胸が、、、、あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”」
まぁでも、話の輪郭は掴むことができた。
奴隷の魔法の研究から手を引き、大陸で真っ当な魔女となるため、名前も改めたということだろう。
「にしても、、ラヴィンが私に似た名前を名乗ってくれるなんて、お姉ちゃん興奮してきた、、」
まぁ、大体いうことも言ったし帰るか、とその旨を伝えると、フェリアルさんは、もう帰るのね、と寂しそうな顔をした。そして、こう続けた。
「ラヴィンは、悪い子じゃないわ。素直で、純粋で、可愛くて、良い子なの。その分、傷つきやすいし、すぐに困っちゃうと思うから、、、支えてあげて。私が行くと、鬱陶しがられちゃうから。」
「、、わかりました。まぁ、フェリアは、、、いや、ラヴィンはこっちで、うまくやってますよ。」
思ったよりも話し込んでしまい、魔法協会の外はすでに暗くなっていた。
「、、、今日は宿を取るか、、、流石に今から遺跡に行くには遅すぎる、、、」
遺跡の調査を一人でやるのは流石に無理があるから、誰かしらきてくれるとありがたいのだが、そんなことを頼むような人脈も勇気もありやしないので、しばらくの間は一人で調査することにした。
「とりあえず遺跡の場所を割らないと、、、お話にならないな、、、」
遺跡の大まかな場所はわかっているものの、前回、と言っても大昔の発掘場所では何も出なかったのだ。発掘場所が少々ずれていたのだろう。
発掘場所を中心に、周囲を歩き回ってみたり、魔法を使ったりと色々やってみたものの、初日は遺跡が見つからず、、、やはりそう簡単に見つかるものではないのだろう。
その後数日間探し回ってみたものの、結局遺跡は見つからなかった。
ただ、何も得られなかったわけではない。
この島の遺跡からの発掘品を集積している資料館にお邪魔し、資料を読み漁っていたところ、それらしい記述があったのだった。
「円形、、、波状、、、あった、、確かに無効になってるね、、、」
資料は遺跡から発掘された石板で、元々学校だった遺跡から発掘されたものらしい。
しばらく古代語を読み解いていると、結界の文字があった。
「、、、これはメモしておくか、、、」
現時点でわかる術式を全てメモにとった。未だ七つほどだ。
その七つも、効果と術式が完全にわかるものが無効化の一つ、それ以外は、そういう効果があるとか、その程度しかわからないのだ。
「でも、障壁が作れることがわかったのは快挙かな、、、」
にしても、こんな資料があったら前に研究している人もいそうなものだが、、、
長居し過ぎたようで、資料館の館長らしき人に、「そろそろ閉館時間なんじゃが、、」と声をかけられ、私は少々申し訳なさを覚えて慌てて資料を元の場所に戻した。
「にしても珍しいのう、、お嬢ちゃんみたいなのはここにはあまり来ないからの、、」
「そうなのですか?島の遺跡って研究とかされるんじゃ、、、?」
「そんなわけなかろうて、、若い者は皆んな、魔法だとか言ってるよ。」
館長は老父で、その表情は説くに難いものだったが、少々悲しみのようなものを含んだ声色だった。
「やはり遺跡は研究してもらいたいのです?」
「そうじゃな。この島の遺跡は、きっと何か、、、すごいものを秘めている、、そう思うんじゃ。」
老父は私を資料館の前まで送り届けると、「儂の理想なんじゃが、、いつかこの島の遺跡で前のように皆んなが研究してくれれば、、、と。」と溢し、私に手を振ったのだった。
第四十一幕 本当に、、、
「あの、、フェリアル様、、、アリカルに連絡を出したいんですけれど、、、図表付きで」
「あぁ、わかったわ。準備するわね。ただ一つだけ条件。」
魔法協会というところには、たいてい通信用魔石回路が置かれている。
連絡用の魔石と違い、図表を載せることが可能になったりとできることの幅が広い。
「あれですか?フェリアの話をしろ、、と。」
「そうそう、話がわかって助かるわ。」
翌日、フェリアルに呼ばれ、魔法協会で返信を受けた。
「、、、援軍が来ると、、、」
「そうなのですね、、フェリアも来るかしら?」
「来ないそうです。来るのはレミスとグライン、ファリーです。」
「そう、、あまり聞き馴染みがないわね、、」
リージュがつれてくると言っていたので、おそらく明後日には着くだろう。
「それまで遺跡を調査するのかしら?」
「そうですね、、遺跡の場所くらい特定しておきたいので、、、」
「、、じゃあ私もそれについて行くよ、、、私も一応魔女なのよ?」
断るのも面倒だ、人が増えるのだしなんの問題もないだろう。
「この辺りが遺跡のあるであろう場所ですね、、、」
「本当に何もないのね、、、魔法の反応もないわ、、、」
何故に遺跡が地表から見つからないのか、、理由を様々考えたが、今は地中に埋まってしまっているのだろうと考えて、それに基づいて調査をしている。
「今は洞窟などから地中に潜って地中の魔力反応を探しています。」
「そうね、、、じゃあ私の力、、、見せてあげようかしら、、、」
『風属性魔法応用術式 フェリアル・アイラ」
魔法の詠唱と同時に周囲の空気が少し変わったような、そんな感じがした。
「空気中に魔力を流してる感じですか?」
「簡単に言って仕舞えばそんなものかな、、、」
どうやらフェリアルは空気中への魔力放出を専門にしているらしい。
「広範囲は難しいけど、周囲1kmくらいなら私の魔力で包めるよ。」
「すごいですね、、、」
魔力を流して、魔法を遠距離で使ったり、魔力情報を回収したり、、できるらしい。
「私の魔法はすごいんだから。」
そう言ってしばらくの間魔力を使っていたフェリアルだったが、反応があったらしく、私を手招きして歩みを進めた。
「、、、この洞窟だね、、、って、、連絡!?ちょっと待っててね。」
「了解しました。」
彼女の持っていた連絡魔石に反応があったらしく、少し離れた場所で何か話していた。
「じゃあ行こうか。」
洞窟の中は険しく、フェリアルさんは降りるのに手間取っていたが、私はこういう場所にはなんだかんだで慣れているのでフェリアルの手を取って、徐々に洞窟を下っていった。
「大分深くなったね、、、」
「魔力の反応は、、、見つけました、この先ですね、、、」
魔力の反応の先には、障壁のようなものがあり、その先には石積みのようなものが見えた。
「、、、この先には進めないけれど、、、遺跡はこの先みたいね、、、」
「じゃあ、、突破します、、、多分これでできるはず、、、」
魔力応用術式は魔力と、赤褐鉱、紫藍鉱の混合鋼を動力にしているため、その二つを無効化することで、障壁を破壊することができる。
「、、、これで、、、」
障壁は徐々に薄くなっていき、終いにはその姿を消したのだった。
「、、、あなた、すごいわね、、、、本当に敵に回したくないわ、、、、」
「、、誰が敵で誰が味方かなんて、私は知りませんよ。」
遺跡の内部の探索は取り敢えず後に回して、周囲の状態を調査することにした。
「フェリアル、何か反応はある?」
「えぇ、、魔物がいるにはいるわね、、、レーミアさん戦闘は?」
「からっきしです、、、申し訳ない、、、」
「私もね、、では一度戻ることにしましょう。援軍も来るのでしょう?」
「そうですね、、」
リージュたちは予想よりも早く進めているようで、今夜にも島に着くといっていた。
「というわけで今日はお世話になりました。」
「明日からは人もいる様だし、私はいなくても大丈夫そうね、遺跡の調査頑張って頂戴?」
「はい、がんばります。」
翌朝、私を起こしたのはレミスだった。
「レーミアさん、おはようございます!」
「あぁ、レミス、おはよう。ほかのみんなは?」
「リージュさんは先に遺跡に向かってます。グラインとファリーは下で待ってます。」
「了解、支度したら行くって伝えて。」
「了解しました。」
レミスはそういって部屋から出ていった。
身包みと見てくれを多少整えて、朝食を軽く流し込んだ。
「皆ごめんね、待たせた?」
「なんだかんだ喋ってたので問題ないです!早くいきますよ~」
リージュは先に遺跡に行って、遺跡周りの魔物を討伐してくれているらしい。
「じゃあ、行こうか。遺跡の方に。」
第四十二幕 再来 島
「リージュ、先に色々やっててもらったらしく、、、ありがとうね。」
「なんてこともないぞ?で、ここで何を探せばいいんだ?なんかそれっぽいのは片っ端から探しておいたが、、、」
リージュが集めたそれっぽいものは、どれも古代文字の石板のようだった。
「これは、、、違う、、これも、、、違う、、、」
一つ一つを確認していると、グラインが何かを見つけたらしい。
「リージュさん、これなんでしょう、、、なんか、魔法とも違うというか、、、」
「紋章、、、呪詛なのかな、、わかんない、、でも魔法じゃないよね?」
私がその会話に割り込んで紋章に関する文面を見て、、そして確信した。
「これだね。全形状を写しておくか、、、」
結局、紋章の数は全部で七つだったらしく、そのすべての紋章がわかってしまった。
「、、、え、これもしかして調査終了?」
「、、、そうなるね、、、」
私たちがそんなことを話していると、リージュが咳払いをした。
「で、レーミア、世界時計への突入が、一週間後に迫っているわけだ。」
「、、、そうなの!?、、、でも私たちも間に合いそうだね。」
遺跡での用事は済ましたのだ、私たちも戻ることとしよう。
港からの連絡船は、どうやら故障か何かで使えなくなってしまっていたが、リージュの魔法でなんとか海峡を越えることができたのだった。
「あの、、レーミア様、少し宜しいですか?」
「グライン、どうしたの?」
「貴方、魔法使えないんじゃないですか?」
「、、、そうだね、魔力の負荷で体が崩壊しちゃうから、、、」
「それなんですけど、、、貴方の呪詛って、、、、」
何だかんだで、数日後にはドーダヴァルーハに到着したのだった。
「あ、レーミア様方、お疲れ様でした。成果はありましたか?」
魔法協会の前で、石畳を掃いていたフェリアに声をかけられた。
「まぁ、色々ね。そうそう、フェリアのお姉さんにあったよ?」
「、、、!?私、、一人っ子なんですけど、、、」
「え?でも、全身の黒子が七個あることとか、ラヴィンって名前で魔女してたとか、、、、結構、、色々知ってたよ?」
「、、、確かに私の元の名前はラヴィンです。確かに私の黒子の数は七個です、、、でも、私に姉はいないはずなのです、、、」
そんなことを話していると、アリカルが魔法協会から出てきた。
「フェリア、掃き掃除お疲れ様なの。レーミアも、調査ご苦労なの。」
「本当に疲れたよ、、、って、そうだ。ウィラメイ島の魔法協会の協会長って、、、」
「あぁ、パトタ爺さんでしょう?悪い人じゃないんだよ?」
「、、、、えっ、、、、」
私が話した人間、、、あのフェリアルという人間は、、、一体、、、、
「、、、フェリアル、、、アイラ、、、、、」
「アリカル、私、島に戻るよ。」
「、、、!?さっき戻ってきたばかりなの、、それに、世界時計に、、、」
「組織アイラの長は、、、、ウィラメイにいる、、、」
「、、、確かに隠れる場所としては、世界時計の範囲外だし、、、大陸の目も及びにくいの、、、、でも、大陸外にいたら指揮なんて取れるはずが、、、」
「通信用魔石回路。」
アリカルは、何を言おうとしたのかわかったらしい。
「確証はあるの?」
「ないよ。でも、流石にこれだけ条件が当てはまる人もそうそういないかな。」
アリカルは微笑し、私たちにこう告げる。
「レーミア、リージュ、フォルシア、グライン、ファリー。この5名でウィラメイ島へ向かうの。」
「戦闘要員少なくない?」
「、、見ておくの。フォルシアは、下手するとリージュよりも強くなるの。」
アリカルが何か楽しそうな顔をしていた。
「アリカルは何を教えたのか、、、まぁいいや、、、」
とりあえずあの魔女の化けの皮を剥ぐところからだ。
「、、、また大変なことになっちゃったな、、、」
連絡船はまだ壊れているらしいので、リージュの魔法で島に向かうこととなったのだった。
「ねぇリージュ、島の様子がっていうか、、、」
前に来た時、島の港は人で溢れかえっていた。
今は、誰一人も港にはいない。
「何かおかしいよな、、、って、、、フォルシア?どうした?」
「いや、、、大量の呪詛が使われた形跡があるなって、、、」
魔法を使った後に魔力が残るように、呪詛を使った後にも何か残るのだろう。
「呪詛が使われたとか、、わかるものなのか?」
「いや、、、血液と術水の香りがしたから。」
そんなことを話していると、グラインが周囲に結界を張った。
「どうしたの、、?」
「襲撃です。1km先からこちらを狙ってますね、、、」
そんなに遠い場所から狙えるものなのか、、と思ったが、結界が張られた直後、周囲は炎に包まれる。結界を挟んで尚、恐ろしさを感じてしまうあたり、私は戦闘には向かないのだろう。
「まぁ、この島に私たちに敵対する人間がいることは分かったな。」
「そうだね、、、じゃあ一人ずつ、、、相手してあげないと、、、」
ファリーは疲労故にフォルシアに寄りかかって眠っていたが、グラインがそれを起こした。
「ファリー、お客様だ。」
「そうねぇ、、お客様かぁ、、、、」
お客様、という言い方から鑑みるに、ファリーは戦闘を楽しめるタイプなのだろう。
「羨ましい限りだよ、、私は戦闘が苦手だから、、、」
「私は戦えるぞ?フォルシアも、、、なんか大丈夫そうらしいしな。」
まぁ、私が活躍することはないだろう、精々相手の使う魔法の分析くらいはすることとしよう。
「レーミア、使用者の場所は特定できる?」
「ん?できるよ。というか、グラインが多分分かってる。」
「そうですね、一応分かってますけど、、、」
私はそれよりも、、、、
「じゃあ、あの魔法を使った者を、グラインとファリーにお願いしてもいい?」
「、、、わかりましたけど、、リージュさんたちは何をするんです?」
「主を、、倒しに行こうかな、、、リージュ、フェリアルの魔力反応は?」
「、、、いるな、、、魔法協会の中だ。」
「了解、、、じゃ、私達でそっちを叩くから。」
魔法協会は相変わらず私たちを威圧するように佇んでいた。
私たちが勢いよく建物の中に入ると、受付の人も、作業をする人の姿もなく、ただただ伽藍堂、階段を登り、上へ、上へと進むと、ある部屋の扉が開いていることに気づいた。
「、、、やはり貴方たちなのね、、、」
「フェリアル、貴方がアイラの長、そうだな?」
「、、、それに答えるとでも?」
フェリアルは劣勢と判断したのか、部屋の窓から飛び降りると、その儘飛翔し、山の方へ向かった。
「合流するのか、、、面倒だね、、、」
「じゃあ、追いかけるよ。私が二人を連れて行く。」
「いや、リージュだけでも先に行って。」
「了解、二人は、、、まぁなるはやで、、」
リージュはそう答え、窓から勢いよく飛び降りた。
「フォルシア、捕まってて?」
私はフォルシアを抱えて、窓から飛び降りる。
確かに飛翔なんていうことはできないけれど、私だって魔法が使えないわけじゃないんだ。
「、、、っと、風属性魔法ってやっぱり便利ね。」
初級中の初級の魔法だから私でも容易に使える上、私たちの落下衝撃を吸収する力を持つのだ。
「レーミアは一応魔法は使えるもんね、、、」
私たちもリージュと合流すべく、山道を走ることとなったのだった。
「、、、!?、、、」
息の荒いままリージュ達のところへ向かうと、そこにはフェリアルの姿はなく、グラインとファリーもいないのだった。
「、、、!?何があったの?」
「説明は後で。捕まって。」
リージュは私たちをやや乱雑に掴むと、そのまま飛翔するのだった。
「で、、、説明をしてくださいます?」
「とりあえず二人に逃げられた。ファリーとグラインで応戦してる。」
「で、、島の外に行ったと、、、どこに行ったと思う?」
「ドーダヴァルーハだろうな。」
「そんなに遠くまで!?流石に無理があるんじゃ、、、」
「まぁ、移動しながらの戦闘になることは間違いない、、、」
「ねぇ、ファリー、リージュさんの方は大丈夫かな、、、」
「大丈夫でしょう?私たちは目の前のことに集中!結界張って?」
「またやるの、、!?あれちょっと怖いんだけど、、、」
「いいからいいから!じゃあ、いっくよー!」
直後、周囲を覆った結界のすぐ後ろで大規模な爆発が起き、結界の運動速度は徐々に加速、そして標的までの距離も縮み、すぐ横まで来ることができたのだった。
「待って、加速しすぎて追い抜いちゃう、、」
「グライン、大丈夫。掃射すればいいでしょう?」
そう言って笑ったファリーは右手に魔力を込め、詠唱を始めたのだった。
「炎属性応用術式 ファリー・フォルアイラ」
そして、その右手から繰り出される、粘性を持った炎の恐ろしさを、私は知っているのだ。
「着弾を確認、標準そのまま、連射しま〜す。」
ファリーの魔法は、火力が高いわけでも、弾速が速いわけでもない。
ただ、一度当たると効果が長引くのだ、まるで甘い蜜に触れたように。
「というか、グラインも応戦すればよかったのに、、」
「手札はあまり見せない主義でね。まぁファリーの攻撃でだいぶ向こうも消耗したっぽいし、この戦いは持久戦になるだろうから、、、、」
そもそも私の魔法は攻撃にはあまり向かないのだ、、、
「グライン、みてみて、リージュさん達!」
ファリーがそう言って指を差した方向にはうっすらと人影が見えたのだった。
その人影は徐々に速度を増し、遂にこちらに追いついたのだった。
第四十三幕 呪詛
「グライン、ファリー、ちょっと遅れた。」
「いや、だいぶ早いですよ、、相手は魔法を使ってきません。やはり戦闘型なのではないのでは?」
「いや、それはないな。フェリアルがどうかは知らないが、、もう一人の方は確実に戦闘特化だ。あれだけの魔法を使うんだから、相当なもんだよ。」
にしても、相手が高速で移動する物だから、埒が開かない。
「、、リージュ、私をフェリアルの近くまで連れて行ける?」
「できなくもないが、、、レーミア、飛翔板持ってるか?」
「持ってるよ。自分で飛ぶ?」
「お願いできるか?」
そういうと、リージュは私に掛かっていた手を離し、さらに勢いを増すのだった。
「で、、、フォルシア、何か作戦でも?」
「一応、、まぁ、詳しいことは後、」
フォルシアが何を考えているのかはわからないが、アリカルが何かを教え込んだのは間違いない。
「それが何か、、見当もつかないな、、、」
とりあえず指示通りフェリアル達のところへ向かうと、フォルシアが胸元から何かを取り出した。
「それは?」
「アリカルに作ってもらったの。まぁ、弓矢みたいなものなの。」
そういうと、小さな木の円柱を取り出し、弓矢に装填、其の儘打ち込んだ。
「で、、、こうすれば、、、、」
木の円柱は、フェリアルじゃない方の頬にあたった。
「なんだあれ、、赤い液体が、、、」
そしてフォルシアが何か念でも送る様にすると、相手方は急に操舵が安定しなくなり、蛇行を繰り返すのだった。そして、フォルシアは作戦通りとでもいうようにニヤッと笑うのだった。
「何をしたんだ?」
「呪詛をかけたんだよ、盲目のね。」
アリカルはなかなかな物を教え込んだようだ。
これなら確かに、私をも凌ぐ戦闘力となり得るかもしれない。
「相手が解呪できない場合、相当な強さになるもんな、、、」
操舵が不安定となった相手方は不時着でもするように地面へと降りていった。
「追います?」
「そうだね、、リージュ達は追って?私はグライン達と先に行く。」
「、、、追い込めと?まぁ分かったよ。」
フェリアルが飛ばす物だから、リージュも本気で飛翔していたらしく、ドーダヴァルーハまで残りわずかとなってしまった。
「、、、で、私たちはどうすればいいんです?」
「あぁ、、このまま先に向かって?」
私は、少し先に見える山の向こうへ向かうように二人に指示を出した。
「、、、隧道、、こんなところにあるんですね、、」
「もともと街道だったんだよ。ここも。」
その隧道に入ってしばらくすると、正面から風が吹いてきた。
「お出ましだね、、、魔法の準備をしておいて?」
グラインが隧道を塞ぐように結界を張った直後、その結界に何かが勢いよくぶつかる様な音がした。
「作戦通りだね。後は任せたよ、、、」
「ファリー、私がやる、、、あんたの魔法はここだと私たちを巻き込みかねない、、、」
グラインはそう言って両手を掲げた。
「土属性闇属性応用術式 ハドヴィン・グライン」
魔法を撃った瞬間は何も起きない、掲げた両手でフェリアル達に触れて、、、
「、、、何が起きるんだ、この魔法、、、」
「あぁ、、グラインの魔法は、ある種の呪詛みたいな物なんです。」
「、、、そうなんだ、、」
リージュ達も合流し、フェリアル達を挟み込むような形になった瞬間、周囲を閃光が包んだ。
「、、、!?」
直後、隧道ががらがらと崩れ始める音がした。
そして、山の上まで貫く大穴が開いていた。
「、、逃げられたか、、、リージュ達は無事?」
「あぁ、一応な、、、」
全員の無事を確認し、私たちはフェリアル達を再度追いかけたのだった。
「、、、完全に見失いましたね、、、」
ドーダヴァルーハにはたくさんの建物があり、遮蔽物が多すぎる。
その上、魔力の反応も多いため、探すのは困難を極めた。
「、、、でも世界時計の中にいるのでは?」
「そういえば、世界時計に突入する話があったね、、、どうなってるんだろ、、」
一度魔法協会に戻ると、アリカルはすごく忙しそうにしていた。
「みんな帰ってたの、、悪いけど世界時計の奪還に参加して欲しいの、、」
「何があったんです?」
「現場から今連絡が入って、結構な人数が加勢したらしくて、、、」
「まぁわかったよ、、こっちで目星をつけてた奴も、今あの中だし。」
世界時計の周りにはたくさんの兵士、飛び交う魔法。
障壁は崩しては再度張られの繰り返し。言ってしまえば混沌。
「今からここに行くんですか、、、」
「そうだね、、、覚悟はできてる?」
静かに頷く者、勿論だよと少し楽しそうにいう者、表情に不安が溢れる者。
各々様々だが、心強いの一言に尽きる。
「じゃあ、行こうか。」
囚われの世界時計を、今奪還する時なのだ、と、鼓動は徐々に速度を増すのだった。
第四十四幕 突撃 世界時計
世界時計の周囲にかけられた障壁は、無効化しては再度つけられてを繰り返しているようだった。
アリカルに聞いたところによると、現段階では、範囲的に無効化ができないらしく、内部でもう一度つけ直すことで、再展開できるらしい。
「、、、じゃあ、起動します。」
私が持っている魔力応用術式は、範囲的に効果が広がるため、おそらく内部にも効果はあるだろう。
「じゃあ、リージュ、フォルシア、私は突撃するから、、手伝って?」
「了解、、、ってレーミアがいくのか?危険すぎないか?」
「いや、私が行ったほうがいいでしょうよ、相手が他に応用術式持ってたらどうするのさ。」
「、、、それはそうだな、、、」
世界時計の内部は損傷が少なく、やはり本来の機能を保った状態で占領する必要があったのだろう、、と再度予想の靄を払っていると、ややこわばった表情のリージュが右の腕を私の前に出し、茫と歩く私の歩みを止めた。
「あたりまえだけど、中にも人はいるよね、、、」
リージュの魔法で一気に突入したとは言え、後ろからもおそらく私たちは追われている。
世界時計内部の通路で挟み撃ちなんて事になれば、流石にまずい。
「、、、フォルシアは正面の軍勢に呪詛をかけられる?」
「盲目なら、、、一応?」
「グラインは後方に結界を。」
「わかりました、、、その後はどうするんですか?」
「いや、、、少しだけ考えがあってね、、、」
世界時計の内部の廊下には、そこから延びる隠し通路のようなものがある。
これは、建築中に物資をより効率的に搬入搬出するためのものだ。
「壁と同化しているけど、実際比較的簡単に外れる、、、」
通路の入り口は、板材を溝にはめ込むようにして留めているので、それをずらすことで、、
「よっと、、外れた、、」
全員で搬入用の通路に入ったことを確認し、持っていた魔石に術式を付与しておいておき、そのまま板を元のように戻しておいた。
「レーミアさん、、あの魔石はなんなんです?」
「ん~?あぁ、あれはね、、もともと覚えておいた、ナンラヴィンの魔法陣だよ。」
「、、、リージュがそれに気づいたらおこるかもな、、」
「リージュ、課程は結果が伴わないと意味ないんだよ。」
私がそういうと、リージュは過程だって言い訳のためには大切なんだよ、、と呆れながら、搬入用の通路の先にあった板を蹴り破った。
「世界時計の中枢に出たね、、、敵方はこの辺にいると思うんだけど、、、。」
密閉された空間は伽藍堂、人影はなく予想は裏切られることとなった。
「、、、じゃあどこにいるんだろう、、、」
中枢にいない、入り口付近にもいなかった、、、、
「情報を見る場所にいるとか、、、ですかね?」
ファリーがそう呟いた。どうなんだろうか、、あそこは袋小路、、、
「案外いるのかもね、、、いや、、、じゃあ、ファリーはここに残って。」
「、、、?まぁ、わかりましたけど、、、」
どこかへ行くような素振りを見せて、レーミアはくるっと反転した。
「リージュ、防御魔法を。ついでに攻撃魔法の準備を。」
「了解、、、誰に付与すればいい?」
「ファリーだよ。」
何故か、、、と疑問符を浮かべるリージュが魔法をかけると、その結界に反応があったらしく、リージュはどこか焦ったような表情を一瞬見せた後、私に判断を仰いだ。
「全員引き返すよ。ついでに攻撃の準備も。」
世界時計の中枢に戻ると、ファリーと黒い外套を着た数人が戦っていた。
「ファリー、無事?」
「えぇ、別に苦戦するような相手でもないですよ。」
ファリーは、そう言いながら飛びかかってきた人間を吹き飛ばしていた。
「一通り片付いたね。」
「そうですね、、、というかレーミアさん、私を囮にしました!?」
「、、、そうなる、、、申し訳ない、、、ってどうしたの?」
「いや、、、興奮してきました。」
ファリーはやっぱり、なんか、、、
「まぁいいや、、、で、ここに数人しかいないってことは、やっぱり占領されたくない場所は他にあるんだろうね、、、。」
「やはり魔力情報を見られる場所でしょうか?」
「そうなるかな、、、いや、、、、」
みんなには私を置いて先に行くように告げた。
「そろそろ兵士さんたちが突破してくる頃合い、、、」
先ほど倒した黒い外套を羽織った人々に対して魔法を撃つように構えた状態でしばらく待っていると、部屋の中に兵士の方々が入ってきた。
「、、、!?、、、魔女、、、何者だ?」
「魔女レーミアといいます。あなた方の見方であるが故、ご安心いただけると、、、。先行している隊が今、敵方の本陣であろう場所に突撃しているところです。」
「そうか、、了解した。誤撃を避けるため同行願えますか?」
「そうだね、私はそうなるようにここに残ったわけだ。」
「、、、相当慣れてますね、、」
「頭が回るっていいな、、、まぁいいよ。ついてきな。」
兵士というものは、小隊を組んで行動することが多い。
通常小隊は七〜八人で構成されるが、この小隊には兵士が四人しかいない。
「外では激戦なのか?」
「そうですね、、、敵方の人数は少ないとはいえ、魔法が使えるとなると話が変わってきますし、、、私たちは突入を目的とした部隊なので、強行突破でしたけど、、、」
小隊の長であろう兵士はそう言って苦笑いをした。
「で、、、皆さんはどうして中に?」
「あぁ、優秀な魔法使いがいてね。」
そうこう話していると、正面から膨大な魔力を感じた。
「もう始まってるみたいだね、、急ごうか。」
私達が其処に着くと、予想通りすでに戦闘は始まっていて、後ろでそれを眺めていたフォルシアが心配していた旨を伝えて来た故、身勝手な行動は慎もう、と思った次第だ。
「で、、、戦闘のほうは問題なさそうなの?」
「そうでもないよ、、?なんか相手の使ってる魔法が厄介らしくてねぇ、、、珍しくリージュが苛々してるんだよね~、、、」
リージュが苛立つ、、と、、、そんな相手と戦っているのか、、と少々関心を持ちつつ、本当に苛立っているのだろうか、という疑いを以てその表情を見ようと思い、やや回り込むようにしてみたものの、矢張り戦っているリージュの速さというのは言う迄も非ず、私が目で追えるようなものではなく、その表情を確かめることはできなかった。
ただ、いつもよりも屋や冷静さを欠いた、好戦的な対応や、雑な魔力錬成から、いつもとずいぶん違うことを想像するのは容易なことだった。
「相当強い相手なんだろうね、、、具体的にどんな?」
「魔法が使えなくなるんだよね、、、リージュがギリギリ使えるレベル、、、」
「魔力の応用術式じゃないの?」
「ちがうっぽいんだよね、、、普通に魔法?」
確かによく見ると、リージュの周囲の魔力がやや鈍いような、、、
「、、、!?なんでこれに気づかねえんだよ、、、」
「、、!?どうしたのレーミア、、」
「ご、、ごめん、、、、リージュに伝えて、私も行く。」
「、、、正気!?なんかすごい戦ってるけど、、、」
「いや、、私が行くよ。だって、リージュだけじゃ勝てないし。」
フォルシアはやや懐疑的で、そしてどこか不思議そうな目で私のほうを見るのだ。
「レーミアがそういうこと言うのって、珍しいよね。」
「リージュは確かに強いけど、魔法が存分に使えないリージュは脆いから、、、」
といっても呑気に理由を話すだのなんだのする時間はないのだ。
「リージュ、私も加勢する。」
「、、、まぁ、それが妥当だな。グラインから話は聞いてるな?魔法の制御は任せた。」
「わかったよ、、、」
魔女フォルシアは不思議そうな顔をして、リージュが魔力を込めると同時に結界を展開した。それも無理はないことだろう。彼女は知っている、私が魔法を碌に使えないことを。
「、、、!?魔法が発射、、されない!?」
通常魔法というのは魔法陣の展開から発射までに3秒もかからない。というより、魔法陣を展開した魔法はすぐに発射しなければ魔力の負荷が大きくなり、身体に影響を及ぼすからだ。平たく言ってしまえば、崩壊してしまうのだ。
まぁ、そうではないものもあるが、攻撃魔法は基本的に魔法陣による魔力の負荷が大きく、崩壊までに時間もそうかからない。
「、、、グラインもすごいよね、、、にしても、、、」
結界魔法も魔法の一種で、崩壊を防ぐため結界も長い間は展開できないのだ。
「特に、フェリアルが使ってるその結界、確かにすごく強いけれど、そんな劇薬、長い間展開してたらその体がもたないでしょう?」
私は崩壊しすぎてどうやら崩壊に強いらしく、相当魔法の負荷に耐性があるらしい。
身体の崩壊を避けてであろう、結界を解除した彼女の顔に標準を合わせた。
「魔法発撃 光属性魔法 ショード・ルミネイス」
その魔法は、かの者の脳天を貫いた、、、かのように見えた。
「、、、そうだよね、、、魔法の使用を阻害できるんだもんね、、、」
本当に当たり前の事だった。それでも、ないものだと思ってしまった。
「、、、魔法を完全に無効化、、、本当に魔女殺しだな。」
穿った魔法はその瞬に光の泡のようにぽっと消え、フェリアルには届かなかった様だった。
「魔女殺しだろうと、愚者だろうと、なんとでも罵ってくれて構わないわ。」
「そう、、、本当に魔女殺しだ。最早賞賛だよ。」
魔法が使えないとなると話にならないのは確かで、それだけ強力な魔法ならば永久に使い続けるのは無理であろうと、魔法の使用タイミングに合わせて展開すれば、魔法を封じられるのだから、文字通り魔女殺しと言うに値するだろう。
「さて、、、リージュ、どうする?」
「どうするって、、どうしようもないだろう?」
正直どうしようもない、というのは確かにそうだろう。
相手の魔法が何なのか、効果範囲はどこまでなのか、私たちの体内の魔力は影響を受けるのか、、、
今、一瞬だけ、怖いと、そう思った気がする。
私達は戦線を離脱して、フォルシアと交代してもらった。
呪詛ならまだ効果が残っているだろう、そう考えたからだ。
実際十分に時間は稼げそうであると戦況を見て分かった。
「レーミア、今さっき、見たことない顔してたな、、、」
「そう?いつも通りだよ、、、いや、、。いつも通りだよ。」
私に今、何ができるのだろうか。
魔法を使っての戦闘以外はあまり見てこなかった私に何ができるのだろうか。
相手は魔法を使わせない文字通り魔女殺し。
そんな相手に、私は何ができるんだろうか。
そもそも、、私は戦闘中の味方が何を求めるのかわからない、、、
援護で射撃していいものなのか、、何か考えを持って動いているのか、、
リージュに聞いても人それぞれ、、、と。
「、、せめて魔法の解読くらいは、、、」
私は体内の魔力を指先に集中させた。
魔法というのは魔力の化身のようなものである故、魔力の操作に何らかの形で干渉しているものだ、と仮定して、体内の魔力が影響を受けるのか知りたかったからである。
「、、、別に何ともない、、、体外は、、」
そのまま体外に魔力を押し出そうとすると、その魔力は離散してしまった。
「体の外に出した瞬間に、、、、まるで弾けるように、、、」
不思議だ、吸収でも消滅でもなく、離散するのだから。
「魔力の主導権、、、もしかして、、、」
そうだとするなら、この状況は相当私にとって都合がいい。
第四十五幕 堕魔女
私はリージュに、防御をしてくれるように頼んで、フォルシアと入れ替わった。
「で?いつまでひよっている訳?碌な攻撃もせず防御に全振り、まるで弱者じゃない。」
「、、、っ。。。レーミア、なんか言ってやれよ!」
「いや、そうだね。弱者だ。私も、、、、君も。」
私の行動が防御だけに見えているとは、本当に鈍感というか、知識不足というか。
「君は私が何をしていると思っているの?」
「何って、、、、普通に私の攻撃を耐え忍んでいるんでしょう?」
「、、半分正解だ。でも、、、」
半分不正解だよ。魔女フォルシア。
君の魔法はすでに解読し終えた。まぁ、使うつもりは到底ない。何故か?簡単な話だ。
魔女フォルシアの魔法は、体外に自分の魔力を放出し、その制御権のみを持った状態にすることで、他者が自分の魔力を使用して魔法を撃つ瞬間に自分の魔力を制御し直し、魔法を崩壊させているのだろう。本当にふざけた魔法だが、魔法を阻害するには効率的だ。
ただ、それは制御権が他者にある魔力を提供することとなる。
「、、、さて、、力比べだ。私の呪詛と君の魔法。どっちが強いかな、、、?」
普段ならこんなに高威力の魔法、使うことはないだろう。
自分の身体の崩壊が怖いから、というのが主な理由だ。
でも、今はその恐怖も薄らいだように思う。おそらく好奇心か何かによる感情が、私の恐怖をかき消して、今の状況でもっと色々試したいと、そう感じているのだろう。
「無属性魔法 フォーン・メルト・レー 魔力過剰 術式変革 レーミア・メルト・レー」
詠唱の直後、周囲の魔力はレーミアの展開した魔法陣に吸い寄せられる。
魔力の過剰使用によって、魔法陣は崩壊と再構築を繰り返し、全く別の魔法へと成る。
「フェリアル、魔女殺しの君では、私のようななり損ないの魔女を殺せないんだよ。」
「、、、魔女殺しが、、、呪ってやる、、、もう二度と、、、」
何かを言いかけたようにも聞こえたが、魔法の着弾と共にフェリアルの姿は無くなった。
そして、私も魔力の負荷により崩壊したのだった、、、。
第四十六幕 終演
私が目を覚ますと、そこはリージュの太腿の上だった。
「、、、リージュどうしたのさ?」
「いや、、本当に今回ばかりは、、、」
まぁ、あれだけ強い魔法を使えば、体絵の負荷は今までの比ではなく、おそらく今までにないほどの崩壊の仕方をしたのだろう、と容易に想像できる。
「、、私、すごいことになってた?」
「今までの比にならないくらい、、、本当に形もなくて、、、真っ二つどころか七等分みたいになってて、、、本当に、、、、、」
リージュは大分こわばった顔をしたかと思うと、急に私のことを叩き始めた。
「本当に心配したんだから!もう無理しないでよね!」
「、、、ごめんよ。でも無理はするだろうね、、、」
世界時計はその後、突入した兵士によって制圧され、帝都は平穏を取り戻した。
私たちも暫くの間世界時計の修理や、故障個所がないかを調べていたが、それも大概終わり、ひと段落着いた。
「で、、?私たちは難で呼び出されたのさ、、、」
代替することは終わったのだ、追加で仕事なんてないだろうし、、、
久々にアリカルに魔法協会に呼び出されたのだ。
なにか重要なことでもあるのだろう。
「レーミア、これからどうするの?」
「そうだね、、、確かに仕事がだいぶ少なくなってるし、、、そろそろ他の働き口探さないとかな、、、でも、魔法以外あんまりやってこなかったし、、、、」
「、、、しばらくの間は魔法協会で雇ってあげるから、、、二十年以内には独立しなさいよ?」
「わかった、、、二十年か、、、何かしてたらあっという間に過ぎちゃいそうだね。」
将来のことも考えなければ、と思うものの、どうも自分のことのように思えない。
まぁ、興味がないのだろう。ないものは仕方ないと割り切って、今日は実験に戻ることにした。
帝都ドーダヴァルーハは今日も変わらず、人々が営み続けるのだった。
次演 後日談
あれから10年ほどは経っただろうか、、、、
「レーミア、大分板についてきたな。」
「いえ、、メイド長のご指導のおかげですよ。」
魔女と世界の核 完
終録 魔女の魔導手記
魔女というものは手記を愛する性質があるのか、皆一様に手記を持つ。
仕事の関係上、すぐに研究の内容を共有できた方がいい、というのと、後一つ。
魔法に関する単語は、魔女でも全てを覚えられないほどに多いのである。
今回は、そんな魔法に関する単語の中でも、これだけ覚えておけば最低限やっていける単語達を紹介して締めさせていただく。
【核】
魔法陣の中心にある魔法陣や魔法に流れる魔力を制御する部分。
この部分の性質を変化させ、魔力が効率よく魔法になるようにしたり、魔法の威力を上げたりすることができる。
【環】
魔法陣の核の周囲に存在する、魔法の効果、範囲を設定する部分。
環一つで文章のようなものを構成している。
効果、範囲、発動条件を一つの環の内部に書き込むことで、魔法陣として発動することができる。
【重環魔法陣】
環が螺旋状になり、二周したもの。
環の内部にかける内容が増えるため、効果や範囲、発動条件をより増やすことが可能になる。
複雑性が増すため制作が難しくなったり、崩壊しやすくなったりする。
【魔絲】
核と環、若しくは環と環を繋げるもの。
魔力を細い糸状にし、接続箇所と接続箇所を繋げる。
この部分に情報を入れることも可能だが、相当複雑な操作が必要になる。
【結界】
魔力を薄く展開し、相手の魔法の行動を阻害することで魔法を無効化する物。
相手の魔法の強さによっては、結界によって完全に阻害できず結界を魔法が貫通することがある。
【結界魔法陣】
結界式魔法陣ともいう。
通常の魔法陣では魔石内部に魔法陣を刻みつけるが、結界魔法陣では、結界上に魔法陣を刻む。
通常の魔法陣よりも魔力伝導率が高く、大規模な魔法陣組むことが可能になったが、魔力操作の精密性が求められるため、操れるものはそう多くない。
【呪詛】
魔術とは別の力を持つ物。
呪詛紋章と呼ばれる特殊な紋章に、神力と呼ばれる特殊な力を込めることで発動可能だというが、人類にはそれを操ることも観測することも不可能なので、大陸南西部の都市スロードフォルで取れるレリージュ・ルミネイスと呼ばれる特殊な石の内部に含まれるとされる神力を用いて呪詛をかける方法が一般的である。
【呪詛紋章】
魔法でいう魔法陣のような物である。
幾何か違う点も存在するが、魔女界では呪詛版魔法陣として定着している。
【魔石】
空気中の魔力の結晶である。
空気中を浮遊していた魔力が、魔力を帯びたものの周囲に集中し、それらが固形化することで発生する。魔法陣などに広く使われ、魔法界では重要な素材の一つである。