8話 輪島での役割
「トーコ、グッイブニン」
「ユキ!?どうしてここに?」
会話を交わす燈子とユキに
「へえ、燈子さんはユキと知り合いだったのか」
と驚かれた。
「いつも午前中、家に来てくれたんです」
「いつも?」
「ええ」
「そうか・・・」
「?」
考えこむカイに燈子は首を傾げた。
「よし!燈子さんのこの家でユキの世話と話し相手だ」
「え?」
(それは家仕事になるのかしら?)
「と、思うでしょう」
「っは、はい」
カイにはすぐ燈子が考えている事が分かるようだ。
「この子は俺が小さい頃から家にいるヤツでね。その頃は俺も一緒に遊んだり構ってやれてたんだけど仕事をしだした頃からあまり構ってあげられなくてね。
日本に来る時、連れてきて使用人達が世話をしてくれたものの今はそれもいない。
まあ、エミリーがマメに世話をしてくれるけど、コイツは賑やかなのが好きらしい。
どうだい?燈子さんさえよければユキと友人になってほしいんだけど」
ユキとならとっくに友達だ。
「はい!ユキくんの友達できます。お世話も任せて下さい」
「頼もしいね」
すると突然、話を聞いていたユキが喋り出した。
「ユキクン チガウ! ユキ」
燈子にユキって呼び捨てにしてって言ったでしょうと言いたげにユキは物申す。
これにはたまらずカイが吹き出した。
「お前、本当に燈子さんと仲良いのな」
カイがそう言うとユキは当たり前でしょうと言いたげにエッヘンとカイの方を向きポーズを取る。
その姿に燈子も釣られて笑う。
「輪島様は本当にユキと仲良しなんですね」
ユキと砕けた口調で話すカイを見て燈子はそう感じ、つい思ったままを口に出してしまったのですぐさま燈子は口を覆った。
「すみません。私、当主様に向かって口出しをしてしまって」
必死に弁解しようとするが
「何言ってるの燈子さん。俺はさっき言っただろう?ちゃんと意見してねって」
(それは私の処遇についてじゃ)
燈子はそう思ったがカイは続ける。
「俺から言わせれば日本人は自分の意見を抑えすぎる。
あ、燈子さんを責めてるんじゃなくて。
何だろう。みんな日本人は自分の気持ちを察して下さいってところがあるだろう?」
「そうなんですか?」
普段から自分の気持ちを抑えこみがちな燈子だ。
さらに他の国と比べられても燈子にはピンと来ない。
「そうさ。自分の意見は口に出さなきゃ相手に伝わらない。例えば仕事の交渉。自分が下請けだったらできない事を無理矢理できますとは言ってはいけなし・・・あ、いやこれは例えになるのか?
エミリーだって俺を呼び捨てだし友好的だろ?」
「ええ。でもエミリーさんは乳母なんですよね?」
「そうだね。でも立場は関係ないよ。意見は言い合わなきゃいいアイディア・・・、考えは湧かない。
そうだ。それでも燈子さんが乗り気じゃないなら輪島の社長として。この館の主人として命令!
自分の意見は言う事!分かった?」
「!それなら・・・分かりました」
カイの言葉を燈子は素直に飲み込むと
「なんか燈子さんって俺が知ってるご令嬢達と違うよね」
ギクッ!
カイの言葉に燈子はつい驚く。
「そうですか?」
「そうだよ。まあ、いいけど。明日から燈子さんはユキの世話係兼話し相手ね」
「はいっ」
しかし、その言葉にはユキが半端した。
「ハナシアイテ チガウ トーコ トモダチ」
「うん、そうだ。燈子さんはユキの友達」
そう、ユキをなだめるカイに続き
「ユキ、私はユキの友達よ」
と声を掛けるとユキはよろしいと言いたげに頭をコクコク縦に振り頷く姿をカイと燈子は二人で見ながら笑いあった。
「実は燈子さんには聞きたい事があったんだ」
「はい?」
何かしら?燈子は首を傾げると
「高杉での仕事について色々聞きたい事があるんだ。
元康殿の仕事にはいつも驚かされていて、よかったら何か知っていたら話、聞いてもいい?」
(私に何か分かる事はあるかしら?)
「?やっぱり、同業者の話なんて聞き出すもんじゃないかな?」
「いえ。あまり私も父の仕事については分かりませんが私が話せる範囲でなら大丈夫です」
(と言っても買い付けは私が視るだけだから何か話できるかしら?)
自分の咄嗟に出た言葉に驚いたが自分に興味を持って受け入れてくれた人をないがしろにしたくない。
(こんな気分になったのは初めてだわ)
感慨深く感じていると
「二人とも、紅茶が入りましたよ」
エミリーがティーセットを持ってやって来た。
「さあ、みんなテラスへ行こう!」
カイにそう言われ燈子とエミリーは庭のテラスに出る。
初めて体験する英国式のティータイムに燈子は驚くいた。
カイやエミリーに習い真似し、初めて紅茶を飲んでみる。
「紅茶にお砂糖を入れても美味しいですよ」
「お茶に砂糖ですか?」
日本茶にはないお茶の飲み方に驚く。
「そうだよな。日本茶には砂糖は入れないよね。
味が甘くなるんだ」
「トーコ様も入れてみませんか?」
エミリーに言われ
「はい」と燈子は頷く。
砂糖入りの紅茶に口をつける。
それは数少ない燈子の好きなものが増えた瞬間だった。
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