3話 実家の高柳
でもなんでも視えてしまう燈子にまともな仕事は最初からできない。
布越しなら視えないと気付いたのは事はそれからしばらくしてからだった。
それから燈子は見よう見まねで手袋を自分で塗ってこしらえた。
すると仕事での視える事で起きた間違いや癇癪がピタリと起きない。
これに燈子は心の中で小躍りをした。
その変化に父は一番に気付いてある時こんな事を聞いて来た。
「燈子、今日の買い付けは私と同行するように」
朝食を済ませ父が何を言ったのか燈子には理解できなかったが側にいたカヲリは
「あなた、何を言っているの!?」
正気なの?と必死に止めた。
燈子は「お父様の買い付けに一緒にいけるなんて・・・。もしかしてお父様は私の事を見直してくれたのかしら」と期待を膨らませた。
頬を紅色に染める燈子を横目に父は
「まあ、私にも考えがある」
と小声で言って聞かせるとカヲリは仕方なしに買い付けの同行に許可を出した。
ある呉服屋に入るとそこには美しい着物が並んでいた。
「これは高柳様、お久しぶりです。おやこちらは?」
掠りを来た燈子は店主の返事に戸惑うと父は
「この子は女中になります。どうも私の仕事を見たいと言う事で」
と嘘を付く父の姿に燈子は久しぶりに胸を痛めた。
これには呉服屋も不思議そうだった。
高柳の愛娘ならまだしも女中の子のワガママを聞き入れるなんてと不思議に思っていたのだろう。
それから店主が来季の新作を父に見せ、父がそれを相槌を打ちながら聞く。
父は二つの着物どちらを買い付けるかで悩んでいると店の者に
「うーん、どちらもいい物で実に迷いますなあ。申し訳ないが一人にしてもらっても?」
と願い出て燈子を呼ぶ。
(私は何をすればいいのかしら?)
お父様は褒めてくれるかしら?
そう期待する燈子に父はこう聞いて来た。
「燈子、手袋を外しなさい」
「え?」
(手袋を外しなさいって言ったの?でもそんな事したら視えちゃうわ)
「でも、外したら私視えてしまって・・・」
「外しなさい」
声は優しいが目は笑っていない。
(お父様は私が手袋をしてると視えないって気付いているのね?何をする・・・、させるつもりなの?)
恐る恐る従う。
すると今度は小声で
「触ってどちらが売れるかその手で視るんだ」
と言われ、燈子は驚く。
(え?それってしていい事なの?)
幼い燈子には判断ができない。
「どうした、燈子?視なさい」
「・・・分かりましたっ・・・」
(大丈夫。視るのはどちらが売れるかだけ!)
そう自分に言って聞かせ気を集中させ片方ずつに手を置く。
「こちらの赤い着物は手に取ったお客様が笑っているお顔が見えます」
「燈子・・・、どちらが売れるのかと聞いているんだ」
質問にちゃんと答えなさいと言い聞かせるように話しかけるがその姿は燈子から見たらなにか悪いものが父に取り憑いたかのように思え恐ろしく見えた。
「・・・っ!こちらの藍色・・・」
の方ですと最後の方は小声になりかけながら父の質問に答える。
「よし。それでいい」
父はそう言うと店の店主を呼び藍色の着物を買い付けた。
帰り際、父の顔は安らかに見え、安堵してるように思えた。
(私、良い事をしたのよね?)
今日の父は激昂はされなかったけどいつもと違う不穏な感じがした。
無言の馬車の中「燈子・・・よくやった」
懐かしい優しい頃の声色で言われ燈子は父に対する恐怖の疑念が消えた。
(私、前みたいなお父様とお母様達と一緒に暮らせるのだわっ)
そう期待していたが、それからの日常は変わらない。
相変わらず女中として暮らし、前より不注意による間違いをして父に怒られ、母は真莉と比べ小声を言う。
(どうして?お父様は私の事を認めてくれたんじゃないの?お母様にもその事を話してくれたんじゃないの?)
燈子の戸惑いは続いた。
しかし、数ヶ月後燈子はカヲルの前で褒められた。
「あの時お前が視た着物、実に高値で売れたぞ!」
燈子を抱き抱えはしなかったもののあんなに上機嫌な父は高柳の店が傾いて久しぶりに見せた顔だった。
父の笑顔に戸惑う燈子。
そんな燈子を面白くないといった感じで鼻で笑う母。
そうして日々変わらない生活の中、父は毎回燈子を買い付けの時だけ連れていき、燈子が大きくなるにつれ、店に出向かず新作は高柳の店に持ち込んでもらい広間で燈子が視る形式に変わっていった。
初めて藍色の着物が売れて父に褒められたが一向に生活は変わらない。
(私も高柳の長女なのにどうして・・・?)
父は確かに数ヶ月店に新作が出て売れる時は褒めてくれる。
しかし、基本的に怒られているし母は明らかに真莉を差別するかの如く可愛がる。
(・・・となるとどうしようもない悟りの力のせいなのかしら?)
結局のところ今の燈子の考えは堂々巡りだった。
しかし、その疑問が晴れたのは真莉の一言だった。
「あんたは拾いっこなのよ。お母様が言っていたから本当よ。門の前に置いているところを拾ったって言っていたわ」
真莉はとっくに大きくなり五つ、六つくらいにもなるとお喋りは燈子も一緒に扱われていた頃より達者だ。
その頃にはすっかり母カヲリに毒された真莉。
無邪気に私、秘密を知ってるのよと悪気がない彼女に真実を告げられ最初は信じきれなかった燈子は母の違和感があった言葉を思い出す。
「本当にこんな子と分かっていたらなんで家に・・・」
という言葉を。
時が経ち、母カヲリは開き直るかの如く
「あなたは拾いっこだから」と言う小言で燈子と真莉を差別化した。
そうしてようやく燈子が自分が養子だという事実を自然と受け入れた。
今となっては昔話だが時折り、燈子は思う。
ーだったら最初から優しいでー。
日々女中とし年に何回か視る事さえすれば、とりあえずは食べれる食事は質素だがあるし、立派な高柳の家の部屋の物置みたいな部屋では寝れる。
割り切ってしまえばなんて事はない。
でも、そうして歳は十八。
この年になれば令嬢であってもなくてもとっくに結婚していてもおかしくはない。
しかし、そんな事は今日の今日まで自分には他人事でいつもの様に「視る」だけで今年もただ過ぎてゆくー、だけだと思っていた。
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