19話 秋色のリボンと夫人雑誌
それからパーティーが終わり数日後アレックスはあっさり英国に「イギリスの恋人が帰って来いって心配させてるから」と帰っていってしまった。
来るのは突然。去るのも突然で実に忙しないが楽しいひと夏だった。
今の季節は夏、真っ盛り。
輪島は相変わらず繁盛してる。
手を動かせども動かせどもリボン作りは終わらないので先週から輪島では新たに募集し屋敷の近くから通えるお針子を募集した。
それとは並行して秋の新作のリボンを作成するにあたり、燈子は悩んでいた。
勉強道具を入れる風呂敷はどちらかというと秋より春が人気だし、扇子は夏には売れるが秋からはまた違った物が売れるだろう。
いつもの燈子と千代以外にも人数が増え賑やかになったランチタイム。
燈子は簡単に昼食をすませリビングで千代が新しく買ってきた婦人誌を見ながら何を作ろうか考えていが、載っている物の多くは洋服の作り方やヘアアレンジ法で参考にはできなさそうだ。
「燈子ちゃん、何か作りたい物は見つかった?」
お針子達との庭のテラスでの談話タイムから千代は一人抜け声を掛けた。
「うーん、なかなか思い付かなくて」
と言うと千代は少し考えて
「例えばなんだけど、秋とか寒い季節はお家の小物にこだわる方が多いと思うからクッションカバーや鏡台がある方は鏡が汚れないようにカバーを付けるらしいから大判の小物はそういったものを作るのはどうかしら?」
それには燈子も盲点だった。
「すごい!素敵だわ。千代ちゃん天才」
もう、燈子ちゃん持ち上げすぎよと千代は言うがその顔は高揚してる。まんざらでもなさそうだ。
「リボンが春物と違いをつけたいのだけれど」
今まではアレックスが昨年やその前の年の春や夏の売れ残りのドレスを送ってくれたから材料には困らない。
今回もらったドレスも秋や冬に使えそうな柄はあるが鮮やかさは春や夏物だ。
「確かに華やかさには欠けるわよね」
「そうなのよ。十分に可愛らしいのだけれど」
今までが鮮やかな生地やレースにこだわった分、顧客が離れていかないか怖いのだ。
「でも、秋って渋い、なんて言うんだっけ?確かシックな物が人気よ。だから地味ならレースの方を鮮やかにしたらどうかしら?」
おしゃれに憧れと研究心が高い千代がアドバイスをする。
「例えば黒い生地に小さい柄が入った生地にを少し赤い刺繍を入れたリボンは大人っぽくない?」
千代に言われてイメージする。
鏡台でそのリボンを結ぶ女性を。
「すっごく素敵だわ」
「小さい赤い刺繍」という千代のセンスが素晴らしい。
千代はザラに夫人誌を読んでいない。
「よかった、言ってみて。私、今すごく楽しいの。
お金はお家に入れたりしてるのはあるけど、余ったのをお小遣いにして雑誌や小物が買えるもの。
これを言っちゃどうかしらと思うけどここで作った試作や失敗作を手直しして貰えるじゃない?」
確かに。
綺麗な生地をゴミにはしたくない。
その為、試作や失敗作は千代が言っていたように貰いたい人がいれば渡すのが仕事中の共通ルールになっていた。
「それにね、雑誌だけでもなくて道ゆく人を観察してるの。あの人色使いが素敵、とかね」
成る程。
(だから千代ちゃんはお洒落なのね)
輪島に通い、元から地味ではあるが清潔感のある絣を着ていた彼女は最近は可愛らしい柄を着ている事が増えた。
この間の納涼祭の時も浴衣に合わせた巾着やリボンでまとめていて密かに感心していたのだ。
秋物のデザインの方針が決まり、燈子は試作品は千代に任せる事をした。
そうして他の女性人達が休憩してるテラスに行ってみる事にした。
「あ、二人ともお帰りなさい」
「エミリーさんがレモネードを作ってくれたんです」
二人も飲まれてと女子達は燈子達にグラスに注いだレモネードを渡す。
「美味しい。話しこんでいたから何か飲みたかったの」
ゴクっとレモネードを飲んだ千代が溢すと女子達は
「何話してたの?」
と雑談を始める。
「秋物、何にするか話していたのよね」
「ええ」
千代に振られ燈子は頷く。
「ええ!早く試作品が見たいわ」
「まだよ。明日にはできるから。それよりみんなは何話してたの?」
燈子達が帰ってくる際、何やら外は彼女らの笑い声が咲いていて楽しそうだったので気にはなっていたのだ。
「それはね」
「大した事じゃないわよ」
「?」
ふふっと何か隠したい事があったのだろうか。
彼女達からは端切れの良い回答は得られなかった。
その日の多くの納品物が完成し、夕方に差し掛かり燈子達はお開きになった。
千代の帰り間際、試作品に使う端切れや刺繍糸を渡すと思いもよらない事を言われた。
「輪島様素敵よねー!だって」
さっきの彼女らが話していた事だろう。
ユキのおやつをあげる為に一旦抜けた燈子に変わり千代が聞き出したらしい。
「いいの?社長モテてるわよ」
「カイ様はモテるわ」
日本人とは違う掘りの深い顔、敏腕で快活で気が効くとなればきっと世界中の女性は一度は目を奪われるはずだ。
「もう、燈子ちゃんがそんなんだったら誰かに取られちゃうわよ」
「!」
千代の指摘に当てられて燈子はカアッと頬を赤らめる。
「ごめん」
言いすぎたわと千代は燈子の肩に手を置き慰めた。
千代の言う通りだ。
「大丈夫よ」
千代は燈子の顔を伺ったがお決まりの「大丈夫」の言葉に何度目かでやっと納得し玄関で別れた。
彼女を見送り、さっきまで針仕事をしていた部屋を片付ける。
すると
「あ」
と燈子の片付けの手が止まった。
千代の夫人誌がソファに置かれたままだ。
「千代ちゃん、荷物が多くて忘れていっちゃったのね」
持ち主に悪いと思いながらパラパラとページをめくる。
すると燈子の目に入ってきたのはタイムリーな情報だった。
見出しは
『キス(接吻)の場所別の意味』だ。
大胆な見出しにドキッと驚いてしまったが
(場所によって意味が違うのね!)
と興味をそそられる。
(カイ様は髪にしてくれた)
文字とイラストを追って髪の意味をしらべる。
「相手を愛おしく思っている!?」
直球な意味につい、雑誌を顔から遠ざける。
しばらく燈子はエミリーに夕飯と呼ばれるまでページを見ては頭を悩ませを繰り返していた。
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